死の指先。
*
『…そうか、やっと分かった…こいつの、正体が…』
「デス…僕も何となく、察しがついた気がする…。さっき君は聞いたね?シャドウとペルソナは同一のものだと。それは確かにその通り、シャドウとペルソナは表裏一体、己の暗い心に対し戦う強い意志がペルソナ、逆に呑まれ精神の魔物として具象化し、本人の身体を抜け出せばたちまち闇の存在と化す、それがシャドウ…。
それなら、もしペルソナ使いの心が闇に囚われて、死を思う程に深い絶望に支配されたなら、そのペルソナは…」
榎本の問いに、デスは小さく頷く。
『間違いなく、シャドウに変じるだろうね…』
榎本は『愚者』の核を為すシャドウたちの「生前の姿」を思い、あまりの悲惨な現実に肩を落とす。
「…そうか。じゃあ、やっぱりそうなんだ…やっと分かった、なんで僕が、今、この場にいなければならなかったのか…」
自然と、目から涙がこぼれ落ちる。
かつて、自分が行った行為が、今こうして最悪の現実となって姿を現している。
しかも、自分にとって一番辛い結果として。
その事実が、榎本には何よりも辛かった。
「…かつて、僕は双葉君の記憶を改ざんし、そのほとんどを消去した。その際に…彼の身に宿っていた、いや、移植されていたペルソナを、成瀬さんの力を借りて取り出し、島内で全て消去した。記憶を消すのと同様に、タロットカードの状態になるまでに魔力を封じて消去し続けた。
本当は、植え付けられた素養も取り払いたかったけど、それをしようとすれば精神を完全に崩壊させて、赤ん坊以下の状態にしなければならなくて…」
腕の中で横たわる、苦しげな双葉の顔を眺めながら、榎本は涙を堪えきれなくなっていた。
短い嗚咽が、喉を締め上げ、頬を紅潮させる。
胸を覆う罪悪感が、容赦なく榎本の脆い善心を震わせた。
『…知ってる。でも、正直僕は感謝してるんだよ。僕らに必要の無かったもの、全部取り出してくれたんだから』
「…でも…本当は、本当はもっといい方法…あったのかも、知れない…堂島さんに頼めば、もっと楽に、出来たかも…しれなかった…だけど…それはできなくて…。
それにまさか、まさか、心の海に帰したはずの、ペルソナが、融合して、こんなシャドウになるなんて…思いも、しなくって…。
でも、なんでこんなにペルソナが融合して、巨大シャドウと化したんだ…?」
『僕も、正直そう思うよ。シャドウと違ってペルソナは決意の力だ。一旦決心が消えれば、再び心の海に戻るものだと思ってたのに…』
いぶかしがる榎本とデスの眼前に、『愚者』は長く薄っぺらい手を細長い胴と腹部の付け根に食い込ませ、中から大人の親指大の煌めく塊を取り出し天上へと掲げた。
その塊が何なのか、先に感づいたのはデスだった。
『…!…そうか、ロンギヌス・コピーの…!!』
「ええ?!何で今更その名前が…」
『間違いない、あの塊に触った事があるんだ!…あれはロンギヌス・コピーのコア、人間が「黄昏の羽」と呼んでいたものだ!』
「な、何だって!?そんなものが埋め込まれてたのか!?」
あの島内での事件で使用されたロンギヌス・コピーは、その後ラボの奥で発見され、その場で二度と使用できないように廃棄されたと、他の隊員から報告を受けていた。その後火まで放って、研究資料と共に資材・材料全てを燃やし尽くしたはずだったのに。
黄昏の羽。
滅びの母、シャドウの母なる存在の一部。
シャドウの融合実験の際に多数用いられ、ガラティアたちのコアにもなった、神秘の魔力を秘めた物質…。
『 ままがね くれたの わたしたちに くれたの
これで からだ つくりなさい って
くだいた だけじゃ きえないの もえても こわしても きえないわ
だって まま は しなないもの だって ままは し だから 』
『ママ…天上の母が、君たちに命じたというのか…』
『 そうだよ フタバちゃんで さいご
フタバちゃん いっしょに なったら ままのおうち いらっしゃい って
あなたも いっしょに くる? まま の おうち
ままの おうちは おともだちも いっぱい いたよー 』
『へえ…行くなら僕とフタバだけで行くよ。それどこ?』
デスの言葉に、白磁の仮面は不愉快そうに細長い全身を揺すった。
『 やっぱり ひとりじめ するんだ おしえない ぜったい おしえない 』
空気が揺れる。公園の木立がざわめき、さざ波のように枯れ葉が周囲を舞い、細切れになり散っていく。
「…どうしよう、ぼくの、ぼくの力のせいで、こんなことに…」
『悪い方へ思考を巡らせないで。こういう時にネガティブな考えに陥ると、相手の思う壺だよ』
思考は前向きだが、デスの声色は暗く強張っている。
剣を構える目線の先で、『愚者』が怒気をはらんで膨らみ、表面張力一杯までに巨大化した全身を震わせた。
『 おまえは じゃま きえろ きえろ きえろおおおお ! 』
『愚者』の頭上にどす黒い暗褐色の球体が出現し、次の瞬間それは怒号と共に大爆発を起こした。
榎本は身構える間もなく、紙くずのように吹き飛ばされる。
爆風で錆びたジャングルジムが根元から折れ、鉄くずとなって地面を転がり、ブランコは引きちぎられ彼方へと吹き飛び、墜落した残響音だけが辺りに虚しく響いた。
『…そうか、やっと分かった…こいつの、正体が…』
「デス…僕も何となく、察しがついた気がする…。さっき君は聞いたね?シャドウとペルソナは同一のものだと。それは確かにその通り、シャドウとペルソナは表裏一体、己の暗い心に対し戦う強い意志がペルソナ、逆に呑まれ精神の魔物として具象化し、本人の身体を抜け出せばたちまち闇の存在と化す、それがシャドウ…。
それなら、もしペルソナ使いの心が闇に囚われて、死を思う程に深い絶望に支配されたなら、そのペルソナは…」
榎本の問いに、デスは小さく頷く。
『間違いなく、シャドウに変じるだろうね…』
榎本は『愚者』の核を為すシャドウたちの「生前の姿」を思い、あまりの悲惨な現実に肩を落とす。
「…そうか。じゃあ、やっぱりそうなんだ…やっと分かった、なんで僕が、今、この場にいなければならなかったのか…」
自然と、目から涙がこぼれ落ちる。
かつて、自分が行った行為が、今こうして最悪の現実となって姿を現している。
しかも、自分にとって一番辛い結果として。
その事実が、榎本には何よりも辛かった。
「…かつて、僕は双葉君の記憶を改ざんし、そのほとんどを消去した。その際に…彼の身に宿っていた、いや、移植されていたペルソナを、成瀬さんの力を借りて取り出し、島内で全て消去した。記憶を消すのと同様に、タロットカードの状態になるまでに魔力を封じて消去し続けた。
本当は、植え付けられた素養も取り払いたかったけど、それをしようとすれば精神を完全に崩壊させて、赤ん坊以下の状態にしなければならなくて…」
腕の中で横たわる、苦しげな双葉の顔を眺めながら、榎本は涙を堪えきれなくなっていた。
短い嗚咽が、喉を締め上げ、頬を紅潮させる。
胸を覆う罪悪感が、容赦なく榎本の脆い善心を震わせた。
『…知ってる。でも、正直僕は感謝してるんだよ。僕らに必要の無かったもの、全部取り出してくれたんだから』
「…でも…本当は、本当はもっといい方法…あったのかも、知れない…堂島さんに頼めば、もっと楽に、出来たかも…しれなかった…だけど…それはできなくて…。
それにまさか、まさか、心の海に帰したはずの、ペルソナが、融合して、こんなシャドウになるなんて…思いも、しなくって…。
でも、なんでこんなにペルソナが融合して、巨大シャドウと化したんだ…?」
『僕も、正直そう思うよ。シャドウと違ってペルソナは決意の力だ。一旦決心が消えれば、再び心の海に戻るものだと思ってたのに…』
いぶかしがる榎本とデスの眼前に、『愚者』は長く薄っぺらい手を細長い胴と腹部の付け根に食い込ませ、中から大人の親指大の煌めく塊を取り出し天上へと掲げた。
その塊が何なのか、先に感づいたのはデスだった。
『…!…そうか、ロンギヌス・コピーの…!!』
「ええ?!何で今更その名前が…」
『間違いない、あの塊に触った事があるんだ!…あれはロンギヌス・コピーのコア、人間が「黄昏の羽」と呼んでいたものだ!』
「な、何だって!?そんなものが埋め込まれてたのか!?」
あの島内での事件で使用されたロンギヌス・コピーは、その後ラボの奥で発見され、その場で二度と使用できないように廃棄されたと、他の隊員から報告を受けていた。その後火まで放って、研究資料と共に資材・材料全てを燃やし尽くしたはずだったのに。
黄昏の羽。
滅びの母、シャドウの母なる存在の一部。
シャドウの融合実験の際に多数用いられ、ガラティアたちのコアにもなった、神秘の魔力を秘めた物質…。
『 ままがね くれたの わたしたちに くれたの
これで からだ つくりなさい って
くだいた だけじゃ きえないの もえても こわしても きえないわ
だって まま は しなないもの だって ままは し だから 』
『ママ…天上の母が、君たちに命じたというのか…』
『 そうだよ フタバちゃんで さいご
フタバちゃん いっしょに なったら ままのおうち いらっしゃい って
あなたも いっしょに くる? まま の おうち
ままの おうちは おともだちも いっぱい いたよー 』
『へえ…行くなら僕とフタバだけで行くよ。それどこ?』
デスの言葉に、白磁の仮面は不愉快そうに細長い全身を揺すった。
『 やっぱり ひとりじめ するんだ おしえない ぜったい おしえない 』
空気が揺れる。公園の木立がざわめき、さざ波のように枯れ葉が周囲を舞い、細切れになり散っていく。
「…どうしよう、ぼくの、ぼくの力のせいで、こんなことに…」
『悪い方へ思考を巡らせないで。こういう時にネガティブな考えに陥ると、相手の思う壺だよ』
思考は前向きだが、デスの声色は暗く強張っている。
剣を構える目線の先で、『愚者』が怒気をはらんで膨らみ、表面張力一杯までに巨大化した全身を震わせた。
『 おまえは じゃま きえろ きえろ きえろおおおお ! 』
『愚者』の頭上にどす黒い暗褐色の球体が出現し、次の瞬間それは怒号と共に大爆発を起こした。
榎本は身構える間もなく、紙くずのように吹き飛ばされる。
爆風で錆びたジャングルジムが根元から折れ、鉄くずとなって地面を転がり、ブランコは引きちぎられ彼方へと吹き飛び、墜落した残響音だけが辺りに虚しく響いた。
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