水底での再会。
*
初めは曖昧に。
徐々に輪郭を取り戻し、僕は泥の中を垣間見る。
黒い液状のスライムに穿たれた無数の孔、孔、孔。
視線の正体は、その孔だった。
ヘドロから吹き出す排気口のような、腐った臭気を放つ孔は、目にも、鼻にも、耳の穴にも見え、それらは幾千もの人間の表情に絶えず変わり続けた。
たった一つ共通している点は、全て悲しげな顔をしているという事だろうか。
その孔と黒いスライムとヘドロの世界に在って、僕一人だけが、死んだ世界を眺める鳥のようにそれを上から見下ろしていた。
確かに、僕はあのスライムとヘドロの中に沈んだはずなのに。
そう思っていると、僕の隣でしましまパジャマの坊やがふわりふわりと並んで浮かんでいた。
その顔を見て僕がぽかんとしていると、大人びた横顔に苦笑が浮かんだ。
「フタバ、僕が誰だか分かる?」
坊やの問いかけに、僕はにこりと笑ってみせた。
「分かるよ。…僕の、はじめての、おともだち」
だよね、と問いかけると、坊やは力一杯僕の胸に飛び込んできた。
ずしり、とした重みで少しよろけて、慌てて空中で身体を支える(ようにイメージする)と、僕はしっかりと坊や=僕の内に居る、懐かしい友達を抱きしめる。その腕の中で、坊やは猫の如く身体全体でころころと甘えて胸元に顔を埋める。
「やっと思い出してくれた!!フタバ、フタバ、フタバ…ああ、そんな風に言われるの、僕はずっと待ってた。嬉しい、嬉しい!!」
「そうなの?」
「そりゃ勿論!!その言葉だけで、僕、全てが報われた気分!ああもう、死んでもいいや」
「こらこら」
おどけてなだめながら、擦り寄ってくる坊やの姿を見て、僕はかつて義父にたっぷりと甘えていた幼い日の事を思い、鼻の奥がツンとするのを感じた。
「ずっと昔、初めて会った時から思ってた。君は、一体誰?」
「分からない?…そっか、君が分からないなら、僕も分からない。僕が覚えているのは、目が醒めた時、君が側に居てくれた事と、君を守らなきゃならない事、それだけなんだ」
「そう…」
はぐらかしたり、嘘を吐いている風では無いのを悟り、双葉は追求するのを止める。
少なくとも、実父の研究施設や孤児院で見た覚えは無い。港区にいた頃の、学校の同級生でも覚えが無い。
あの実験の副産物…いうなれば、「計算外の存在」だったのかも知れない。
…「死神」。頭の奥で、そう誰かが呟く。
どこかで聞いたような、頭を揺さぶる痛みを呼び起こす、不吉な響き。
だけど、僕はこの子をそんな名前で呼んだ覚えは一度も無い。
ずっと、「ともだち」だと思っていた。
バケモノでも、幽霊でも、プレアデスの戦士が戦うべき敵・シャドウでもなく。
僕は知っていた。理由など無い。この子は、僕にとって、義父と同じくらい、大切な存在だと…。
目元に小さな泣きぼくろを見つけて、訳も無く胸が痛む。
やっぱり、この坊やは謎だらけのままだ。
初めは曖昧に。
徐々に輪郭を取り戻し、僕は泥の中を垣間見る。
黒い液状のスライムに穿たれた無数の孔、孔、孔。
視線の正体は、その孔だった。
ヘドロから吹き出す排気口のような、腐った臭気を放つ孔は、目にも、鼻にも、耳の穴にも見え、それらは幾千もの人間の表情に絶えず変わり続けた。
たった一つ共通している点は、全て悲しげな顔をしているという事だろうか。
その孔と黒いスライムとヘドロの世界に在って、僕一人だけが、死んだ世界を眺める鳥のようにそれを上から見下ろしていた。
確かに、僕はあのスライムとヘドロの中に沈んだはずなのに。
そう思っていると、僕の隣でしましまパジャマの坊やがふわりふわりと並んで浮かんでいた。
その顔を見て僕がぽかんとしていると、大人びた横顔に苦笑が浮かんだ。
「フタバ、僕が誰だか分かる?」
坊やの問いかけに、僕はにこりと笑ってみせた。
「分かるよ。…僕の、はじめての、おともだち」
だよね、と問いかけると、坊やは力一杯僕の胸に飛び込んできた。
ずしり、とした重みで少しよろけて、慌てて空中で身体を支える(ようにイメージする)と、僕はしっかりと坊や=僕の内に居る、懐かしい友達を抱きしめる。その腕の中で、坊やは猫の如く身体全体でころころと甘えて胸元に顔を埋める。
「やっと思い出してくれた!!フタバ、フタバ、フタバ…ああ、そんな風に言われるの、僕はずっと待ってた。嬉しい、嬉しい!!」
「そうなの?」
「そりゃ勿論!!その言葉だけで、僕、全てが報われた気分!ああもう、死んでもいいや」
「こらこら」
おどけてなだめながら、擦り寄ってくる坊やの姿を見て、僕はかつて義父にたっぷりと甘えていた幼い日の事を思い、鼻の奥がツンとするのを感じた。
「ずっと昔、初めて会った時から思ってた。君は、一体誰?」
「分からない?…そっか、君が分からないなら、僕も分からない。僕が覚えているのは、目が醒めた時、君が側に居てくれた事と、君を守らなきゃならない事、それだけなんだ」
「そう…」
はぐらかしたり、嘘を吐いている風では無いのを悟り、双葉は追求するのを止める。
少なくとも、実父の研究施設や孤児院で見た覚えは無い。港区にいた頃の、学校の同級生でも覚えが無い。
あの実験の副産物…いうなれば、「計算外の存在」だったのかも知れない。
…「死神」。頭の奥で、そう誰かが呟く。
どこかで聞いたような、頭を揺さぶる痛みを呼び起こす、不吉な響き。
だけど、僕はこの子をそんな名前で呼んだ覚えは一度も無い。
ずっと、「ともだち」だと思っていた。
バケモノでも、幽霊でも、プレアデスの戦士が戦うべき敵・シャドウでもなく。
僕は知っていた。理由など無い。この子は、僕にとって、義父と同じくらい、大切な存在だと…。
目元に小さな泣きぼくろを見つけて、訳も無く胸が痛む。
やっぱり、この坊やは謎だらけのままだ。
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