指先の魔法。
「でも良かった、自力でここまで浮上してくれて。僕、もう駄目かと思ってた。
…双葉、いつの間にか随分強くなってたんだね…」
「自力で、浮上…?君が、助けてくれたんじゃ…」
いいや、と坊やは首を振る。
「覚えてる?君、ほとんどあいつらの感情に呑まれて同化しかかってたんだよ。もし完全に同化していたら、今頃僕も君も、あいつらと同じくヘドロの孔になってただろうね…ああもう、想像したくもないや…」
実に嫌そうに、坊やはコミカルに顔をしかめて見せた。
「それじゃあ…あの時聞こえた声…」
「何か聞こえてたの?…だとしたら、それは僕じゃないな。君の内に眠る、無数の可能性が呼び出した『生』への執着、もしくは生きようと『死』に抗う強い意志…それが何らかの形で別なる力を呼んだんじゃないのかな」
「別なる、力…」
ふと、胸によぎる言葉。
かつて無力だった、慰めにしかならなかった、現実に立ち向かうための、か弱い「力」。
「…フタバ。君はもう充分強くなったよ。君は自分を過小評価し過ぎるからね。
もっと大きな花丸をつけてあげたいな」
「………」
「もう少しおしゃべりしていたいけど、そろそろ潮時だね。榎本のおじさんが、最後の力で僕を君の心の海へ運んでくれたんだ。
気がついてたかな?君や僕を襲ったシャドウは、僕が倒したはずだった」
「僕らを襲った…シャドウ。
…あの、実験で、死んだ子たちの無念や苦痛が産んだ、シャドウ…?」
さっきの融合で見た過去の忌まわしい記憶。
それらの中には、自分のものでない、自分を見ている映像もあった。
打ちのめされる過去故に、双葉の脳裏にくっきりと浮かぶ。
いつか聞いた声が、嘆き、悲しみ、苦痛に震える叫びが。
「どうやら、そうらしいね。あいつら、やられたフリをして核を無傷で残し、一部を分散して君の心に侵入させてたんだ…。今頃、榎本のおじさんは、死んだみたいにかちかちに冷え切った君の身体を抱えて右往左往している事だろうし、早く目を覚ましてあのおじさんを手助けしてあげて。急がないと、またあの化け物シャドウに巨大化されて身動きが取れなくなるから」
「君は?」
「僕は影時間が明けるまでここに居るよ。もう少し、あいつらが君の心の海にちょっかいを出さないように見張ってる。僕なら平気。だから、心配せずに現実へと帰るんだ。流石にダメージも相当量与えているし、あいつに見つからないよう逃げ続けてれば、影時間も明けるかも知れない。
…希望的観測だけどね」
坊やは少し寂しげに微笑んだ後、「だけど」と付け加える。
「…もし、力が必要になったら」
坊やは右手の人差し指と親指を立て、指鉄砲を作ると人差し指の先をこめかみに当てた。
「…こうしてごらん」
BANG、と打つ真似をして見せ、坊やはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「…ロシアンルーレット?」
「違うけどそんな感じ、なのかな?その時が来れば嫌でも分かるさ。
…それじゃあ、またね、フタバ…」
意識と共に、坊やの輪郭が急速に遠のいていく。
感覚が重みを無くし、更に上へ浮上する。
闇しかなかった虚空に、一筋の光が射し込む。
深い暗雲の間に差した陽光を追って、僕は再び蝶となり、腐臭の満ちる大気を力の限り羽ばたき続けた。
…双葉、いつの間にか随分強くなってたんだね…」
「自力で、浮上…?君が、助けてくれたんじゃ…」
いいや、と坊やは首を振る。
「覚えてる?君、ほとんどあいつらの感情に呑まれて同化しかかってたんだよ。もし完全に同化していたら、今頃僕も君も、あいつらと同じくヘドロの孔になってただろうね…ああもう、想像したくもないや…」
実に嫌そうに、坊やはコミカルに顔をしかめて見せた。
「それじゃあ…あの時聞こえた声…」
「何か聞こえてたの?…だとしたら、それは僕じゃないな。君の内に眠る、無数の可能性が呼び出した『生』への執着、もしくは生きようと『死』に抗う強い意志…それが何らかの形で別なる力を呼んだんじゃないのかな」
「別なる、力…」
ふと、胸によぎる言葉。
かつて無力だった、慰めにしかならなかった、現実に立ち向かうための、か弱い「力」。
「…フタバ。君はもう充分強くなったよ。君は自分を過小評価し過ぎるからね。
もっと大きな花丸をつけてあげたいな」
「………」
「もう少しおしゃべりしていたいけど、そろそろ潮時だね。榎本のおじさんが、最後の力で僕を君の心の海へ運んでくれたんだ。
気がついてたかな?君や僕を襲ったシャドウは、僕が倒したはずだった」
「僕らを襲った…シャドウ。
…あの、実験で、死んだ子たちの無念や苦痛が産んだ、シャドウ…?」
さっきの融合で見た過去の忌まわしい記憶。
それらの中には、自分のものでない、自分を見ている映像もあった。
打ちのめされる過去故に、双葉の脳裏にくっきりと浮かぶ。
いつか聞いた声が、嘆き、悲しみ、苦痛に震える叫びが。
「どうやら、そうらしいね。あいつら、やられたフリをして核を無傷で残し、一部を分散して君の心に侵入させてたんだ…。今頃、榎本のおじさんは、死んだみたいにかちかちに冷え切った君の身体を抱えて右往左往している事だろうし、早く目を覚ましてあのおじさんを手助けしてあげて。急がないと、またあの化け物シャドウに巨大化されて身動きが取れなくなるから」
「君は?」
「僕は影時間が明けるまでここに居るよ。もう少し、あいつらが君の心の海にちょっかいを出さないように見張ってる。僕なら平気。だから、心配せずに現実へと帰るんだ。流石にダメージも相当量与えているし、あいつに見つからないよう逃げ続けてれば、影時間も明けるかも知れない。
…希望的観測だけどね」
坊やは少し寂しげに微笑んだ後、「だけど」と付け加える。
「…もし、力が必要になったら」
坊やは右手の人差し指と親指を立て、指鉄砲を作ると人差し指の先をこめかみに当てた。
「…こうしてごらん」
BANG、と打つ真似をして見せ、坊やはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「…ロシアンルーレット?」
「違うけどそんな感じ、なのかな?その時が来れば嫌でも分かるさ。
…それじゃあ、またね、フタバ…」
意識と共に、坊やの輪郭が急速に遠のいていく。
感覚が重みを無くし、更に上へ浮上する。
闇しかなかった虚空に、一筋の光が射し込む。
深い暗雲の間に差した陽光を追って、僕は再び蝶となり、腐臭の満ちる大気を力の限り羽ばたき続けた。
トラックバックURL↓
http://3373plugin.blog45.fc2.com/tb.php/109-306246b6
| ホーム |