予測と現実の隔たり。
確かに、双葉がペルソナを使えれば戦局は有利に傾くかも知れない。
だが、それは賭けだ。
今、双葉の言葉のままに召喚機を渡し、その使い方を教えペルソナを喚び出したとしたら。
召喚されるのは十中八九…デス、だ。
彼の力を得て具象化したデスが、『愚者』を仮に倒したとすれば、力を得るのは間違いない。
だが、それはデスにとってプラスメリットはあっても、母体の双葉にどんな影響を与えるか知れない。
そして、榎本にはその影響が「悪」影響となって双葉に負担をかける結果になるとしか考えられなかった。
もし、「好」影響を期待するなら…双葉のペルソナが「オルフェウス」である場合だろうか。
しかし、オルフェウスは攻撃能力も防御にも優れていない、文字通り吟遊詩人のペルソナであった。
それなら、具象化したところでたかが知れている。踏みつぶされて取り殺されて、ジ・エンドだ。
双葉は、確かにペルソナの事を思い出している。
だが、異能の力があるからと言って、目の前の敵に100パーセント勝てる訳ではない。
ほんの少しだけ、小さな一握りの希望があるだけ。
それに。
「双葉君、正直に言うけど、僕は君がペルソナを使う事は反対だ。…君が、ペルソナ能力を持っていた事でどれだけ酷い暴力にさらされて傷ついたのか、僕はよく知っている。僕は医者だ。お義父さんの事であれだけ心を痛めた君に、これ以上精神に負荷をかけるような真似をしてほしくない」
「だ、だけど…!」
「双葉君、気持ちは分かるけどもう少しだけ待って。君ははっきり覚えていないだろうけど、君はあの時、記憶を全て手放さなければならない程に苦しみぬいた。僕は人の死など見たくない。だけど、それ以上に精神がズタズタになって死ぬ以上の苦痛を味わっていた君に、もう二度と戻って欲しくない。…言ってる事、分かるよね?」
「………」
「…大丈夫。きっと、何か手があるはず。何とか現実に帰ろう。そして…」
もう一度、記憶を操作するしかない。
誰に、何と言われようが。
罪を背負うべきだったのは、僕も同じなのだから…。
ペルソナは、この子に不幸と戦いしか運んでこない。
影時間、ペルソナ、シャドウ。全て忘れればいい。
普通の高校生に戻って、普通の生活に戻すんだ。
決心し、榎本はごくりと生唾を飲み込んだ。
「…それからの事は、後から考えよう。今は…」
刹那の瞬間。
黒い何かが目の前を遮り、血飛沫が、飛んだ。
「……!!榎本さん!!」
とっさに突き飛ばされ、仰け反りバランスを崩して転倒した双葉は、急いで身体を起こす。
榎本はうつ伏せとなり、真っ赤に染まった顔面を押さえ、地面の上でじっと痛みに耐えていた。
今度は両者を遮るように、黒い巨大な塊が二人の頭上からチャペルへ向かって濃い影を落とした。
『 つーかーまーえーたー 』
肥大した黒いコールタールのスライム。その頭上に女の頭部を持つ鎌首が、長く首を伸ばして双葉を見下ろしていた。
頭部の形状をまじまじと見つめて、双葉は巨大シャドウ=『愚者』を呼んだ。
「…お、かあ、さん…」
女の頭部は、整った顔の造形を崩して口元を三日月型に曲げ、にたりと嬉しそうに微笑んだ。
だが、それは賭けだ。
今、双葉の言葉のままに召喚機を渡し、その使い方を教えペルソナを喚び出したとしたら。
召喚されるのは十中八九…デス、だ。
彼の力を得て具象化したデスが、『愚者』を仮に倒したとすれば、力を得るのは間違いない。
だが、それはデスにとってプラスメリットはあっても、母体の双葉にどんな影響を与えるか知れない。
そして、榎本にはその影響が「悪」影響となって双葉に負担をかける結果になるとしか考えられなかった。
もし、「好」影響を期待するなら…双葉のペルソナが「オルフェウス」である場合だろうか。
しかし、オルフェウスは攻撃能力も防御にも優れていない、文字通り吟遊詩人のペルソナであった。
それなら、具象化したところでたかが知れている。踏みつぶされて取り殺されて、ジ・エンドだ。
双葉は、確かにペルソナの事を思い出している。
だが、異能の力があるからと言って、目の前の敵に100パーセント勝てる訳ではない。
ほんの少しだけ、小さな一握りの希望があるだけ。
それに。
「双葉君、正直に言うけど、僕は君がペルソナを使う事は反対だ。…君が、ペルソナ能力を持っていた事でどれだけ酷い暴力にさらされて傷ついたのか、僕はよく知っている。僕は医者だ。お義父さんの事であれだけ心を痛めた君に、これ以上精神に負荷をかけるような真似をしてほしくない」
「だ、だけど…!」
「双葉君、気持ちは分かるけどもう少しだけ待って。君ははっきり覚えていないだろうけど、君はあの時、記憶を全て手放さなければならない程に苦しみぬいた。僕は人の死など見たくない。だけど、それ以上に精神がズタズタになって死ぬ以上の苦痛を味わっていた君に、もう二度と戻って欲しくない。…言ってる事、分かるよね?」
「………」
「…大丈夫。きっと、何か手があるはず。何とか現実に帰ろう。そして…」
もう一度、記憶を操作するしかない。
誰に、何と言われようが。
罪を背負うべきだったのは、僕も同じなのだから…。
ペルソナは、この子に不幸と戦いしか運んでこない。
影時間、ペルソナ、シャドウ。全て忘れればいい。
普通の高校生に戻って、普通の生活に戻すんだ。
決心し、榎本はごくりと生唾を飲み込んだ。
「…それからの事は、後から考えよう。今は…」
刹那の瞬間。
黒い何かが目の前を遮り、血飛沫が、飛んだ。
「……!!榎本さん!!」
とっさに突き飛ばされ、仰け反りバランスを崩して転倒した双葉は、急いで身体を起こす。
榎本はうつ伏せとなり、真っ赤に染まった顔面を押さえ、地面の上でじっと痛みに耐えていた。
今度は両者を遮るように、黒い巨大な塊が二人の頭上からチャペルへ向かって濃い影を落とした。
『 つーかーまーえーたー 』
肥大した黒いコールタールのスライム。その頭上に女の頭部を持つ鎌首が、長く首を伸ばして双葉を見下ろしていた。
頭部の形状をまじまじと見つめて、双葉は巨大シャドウ=『愚者』を呼んだ。
「…お、かあ、さん…」
女の頭部は、整った顔の造形を崩して口元を三日月型に曲げ、にたりと嬉しそうに微笑んだ。
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