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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

クラインの壺底。
*

「…その男は、まず手始めにシャドウの研究の中枢部に頼み込み、魔法攻撃に極めて高い耐性を持つシャドウを一体頂戴した。
話によってばらつきがあるが、運命のアルカナだったらしい。砂時計型のあれかな?」

デスクの片隅に置かれた、星砂が入った砂時計をつまみながら、あの日、堂島は話を続けた。
この砂時計は、ここに来る前に母親を連れて行った旅行先のお土産だといつぞやか聞いた。

「…まあいい。ともかく、素材は手に入った訳だし、男は研究に着手した。
そのシャドウに、他部所で生み出された魔法石の欠片、クズ石、警護兵の防具パーツの余りなんぞを与え、飼育し始め、月齢に沿ってエサを変えながらシャドウの耐性にのみ検査の重点を置き、試行錯誤を繰り返した」
「シャドウって、防具食べるのか?」
「厳密には、その防具に残された人間の思い…思念の残り香を食べてたそうだ。怪談でよくあるだろう?モノに怨念がとか、人形が動くとか。そうでなくとも、形あるものにはそれに触れた人間の思いが少なからず残る。そうしたものにもれっきとした属性があって、男はきちんと計算尽くの上でエサを与えていた。結果が見えて来始めたのは一ヶ月後だった」

砂時計をそっと机の隅に戻す。
さらさらと、上から下に、砂は流れ落ちた。

*

「マハラギダイン!」
「マハラギダイン!」
「マハラギダイン!」

「マハラギダ…飽きたな、どうするかな」

『飽きる前に気がつく事があるでしょうがあ!』
思わずもの凄い勢いで思念波突っ込みを入れてきた榎本に、陽一は力無く「悪い悪い」と応える。

『な…何でそんな無駄な攻撃を繰り返してるんですか!?もう意味不明ですよ!!』
「まあな。吸収されてるな。…で?アナライズに何か変化あったか?」
『え…あの、ちょっと待ってくださいよ…』
返事をしながら、『愚者』の攻撃を避け続けている陽一に冷や冷やしっぱなしの榎本である。
注意力も散漫なおぼつかない感覚で、『愚者』へとシーサーの意識を集中させる。
結果の変わらないアナライズを繰り返して、一体どうなるというのか?
おろおろしている隣で、双葉がポツリと「クラインの壺」と呟いた。
「…ん?どうしたの双葉君?」
「あの、榎本さん…シャドウって、大きいからって、ずっと際限なく力を吸収し続けられるもの、なんですか?」
「それは…」
分からない。というか、やった事もないので知らない…のだが、どこかでそんな話を聞いたような。
「…昔、アニメか何かであったんです。こういう無敵な敵を、ヒーローが倒す話。
何だったっけ、えっと…ともかく、昔そんな魚の化け物をアニメで見た覚えが」
「へえ…」
気もそぞろに、アナライズを開始する。
アニメはアニメ、現実は現実だ。
まさか、そんな上手い話が…。

『………ん、あれ?』
シーサーの小さな呟きに、陽一と双葉、両方ともが同じように反応した。

「…どうしたよ?」
「どうしたんですか?」
一番、その場でポカンとしていたのは、誰あろう榎本であった。

『…ヒットポイントが、増えて、る…?いや、違う、アナライズしたヒットポイントの上限を…超えてます!?』
「?……なんですか、それ?」
現代っ子の方が理解しやすいであろう表現なのだが、ゲームに疎い双葉には何の事か分からないようだ。
『え?えーとだから…たとえば、最大ヒットポイントが1000として、何故か現在値のカウンターが上限以上の1500になってる、みたいな…』
ますます困惑し、「やっぱり、僕の索敵能力にガタがきてるのかな…」と無駄に凹む榎本に、「いや、それでいい」と力強い陽一の思念が返ってきた。

「…予想通りだ」
陽一は思わず口元が緩むのを感じずにはおれなかった。

「やっぱりな。…こいつに『メギドラオン』は『まだ』使っちゃいけなかったんだ。ダメージでなく、吸収でいい。ありがとよ、これではっきりした!」
確信を糧に、陽一は更に引き金を引いた。

*

「…一月半後、男は、巨大なフラスコで飼育した己の自信作を、まずは第一チーム内に公開した。
そのシャドウは、戦闘ブースですぐさま解放され、シャドウ迎撃用試作機器との戦闘でその実力を余す所無く発揮した。
斬撃打撃貫通無効。火氷雷風無効。バステ無効。破魔、呪殺、無効。飼育役の男の言う事は聞く奴だったから、調教も仕上がっていた。
…その時点で、桐条の爺に献上していれば、随分褒めてもらえただろうに、そいつと日向は欲をかいた。
どうせなら、自給自足で体力や魔力を回復出来るようにしたら、更にお褒めの言葉と貴重な材料を頂戴出来るだろう、とな」

「ふむ…」
その日は、チームのメンバー全員が部屋の中にいたように覚えている。
皆、仕事をしながら、オセロをしながら、茶をすすりながら、堂島の話を聞いていた。
取り立てて報告のための出向も、他部所への助っ人要請も無く、一番平穏な時期だった。
一番、全員がシャドウと桐条の親玉殲滅へと向かって一丸になれていた時期でもあった。

「そこで、すっかり好意的になった第一チームのメンバーに材料を調達してきてもらい、更に男は研究と試薬の調合を重ね、遂に夢のシャドウ兵器を開発した。お披露目前の実験では、彼らの望んだ通りの結果を得る事が出来、最終確認用の実験には桐条の爺がわざわざ出張って戦闘ブースへ極秘にお目見えしたって話だ。
どれだけ期待されていたか分かるだろう?
男は有頂天だった。己の夢が、遂に実現され、世に認められる第一歩が到来したのだから。
研究成果を見せるにあたり、爺自ら第一チームのポンコツではなく、ちゃんと中心部から借り集めてきたシャドウの一部を戦闘訓練に参加させる熱の入れようだ。男は心躍った。
実験は開始され、すぐに男の養育したシャドウはその能力を公開した。
斬撃打撃貫通吸収。火氷雷風吸収。バステ無効。破魔、呪殺、無効。
あらゆる攻撃を吸収し、エネルギーに還元可能なため回復する必要も無い。
夢の自己再生型シャドウの兵器転用が為された瞬間だった。
ヒヒ爺は気を良くしただろうな。こんな事を言ったそうだ。
『こいつは、どこまでエネルギーを吸収し続けられるのか』と。
男は答えた。
『いくらでも』とな」

堂島の砂時計が、さらりと最後の一粒まで下がりきる。
砂時計の動向をしげしげと見つめている俺に目線を固定したまま、堂島は静かにそれをひっくり返した。

「…だがな。世の中そんなに都合良くはいかなかった。
男は己の慢心故に、その直後に命を落とす羽目になっちまった…」

皮肉めいた笑みが、堂島の口元から微かにこぼれた。












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