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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

温い膜の奥で。
*

最初に肉の裂ける音がした。
次に、ゴムが引き縮れるように『愚者』の表皮が縮れて破裂し、掌から瞬間的に胴体へ向かって業火の槍が『愚者』を貫く。

『 ぎぃぃぃぃぃやああああぁぁぁっぁっぁああああ !! 』

『愚者』の悲鳴が、血と腐臭で充満した冬の大気を揺らしたのと同時に、『愚者』の背中から、業火にまみれたねばっこい黒くぎとついた肉片が飛び散り周囲を赤黒く染める。
極炎の炎に炙られ、みるみるうちにぬるぬるしていた表皮は乾ききり、『愚者』の表皮が貫かれた胸元から縦一文字に裂けていく。
脱皮の如く喉元を、鎖骨の中央を、胸骨の間を、腹部を、そして顔面の白磁の仮面をも裂いて、剥がれ落ちた漆黒の表皮は乾いた残滓と変わり果て、大気に砂となりかき消えていく。
全ての乾いた表皮が剥がれ落ちていく様を、陽一は微動だにせず凝視し続けていた。

「あっ…ああ…」
榎本の微かな嗚咽が陽一の耳に届いていたのかは分からない。
独り言のように、陽一は口を開いた。
「幽霊の正体見たり、枯れ尾花、か。…これがこいつの化けの皮。剥がれた本性のおでましだ」

喘ぐ女の吐息が聞こえる。
巨大な女は、仮面を無くし頭部の上半分を失っていた。
目も無く頭髪も無いが、艶やかに潤んだ蒼い唇が悩ましい。
女は細く青白い生気の抜けきった肢体を、肩を揺すってふうふうと息を継いでいる。
女の下腹部で、子供の泣き声が聞こえる。
幾重にも幾重にも重なって、子供達が泣いている。

女の弛みきった、ぶよぶよに膨らんだ下腹部で、泣いている。
半透明の蒼い液体に満たされた、いびつに膨らんだ腹部に、数え切れない程の嘆く仮面だけが、柔軟に伸縮する女の胎内…子宮内で押し合いへし合いしながら、伸びたり縮んだり、顔を歪めて泣き声を上げていた。
男の顔、女の顔、老人の顔、勇ましい騎士の顔、妖艶な女魔の顔、獰猛な獣の顔…。
皆、泣いていた。
おおお、おおおお、と、一様に助けを請うて泣いていた。

『 ど どぉして どぉして  う うまく いかない かない の 』
「さあて、どうしてだろうな。お前の腹の奥にいる奴に聞きたいね」
陽一は以前の癖でコートのポケットをまさぐりタバコを引き抜こうとして、無いのに気付くとバツが悪そうに後ろ頭を掻いた。
その手先に、イヤホンがかすめる。
そっと握ると、冬の寒さですっかり冷たくなったスチールの感触が指を冷やす。
不思議と心地よい冷たさだった。

『せ、先輩…腹の奥に居る奴って…?まさか、あの、シャドウの母…』
「いや、ニュクスではない。もっと気合い入れてアナライズしてみろ…俺の微弱なアナライズでも分かったんだ。お前ならすぐに納得出来るだろうさ。表面に惑わされてはっきり分からなかったが、こいつは生み出す力を持っていない。
いや。「あるはずがない」んだ」

『え?あ、じゃあ…ちょっと、アナライズしてみます…


………
…………!!?

えっ………ええええええ!…なっ…そ、んな…ばか、な…』

言葉を失って沈黙した代わりに、榎本は精神の動揺を隠せなかった。
陽一も察したらしい。「そういうことだ」とだけ答えた。

『 どぉして どぉして どぉして ぇぇぇぇぇぇ 』
「…愚者。お前が何者なのか、やっと俺にも分かった。
……可哀想に。死んでなお、あんな奴の妄想と執念に縛られていたなんて。
待ってろ。少しだけ、良い子にしていてくれよ…」

伸び縮みする、半透明な下腹部。薄い蒼色に濁った羊水内で呻き、嘆き続ける仮面達を見て、陽一は必死に涙を堪える。

「先に言っておかなければならない事がある。
お前達が慕っていた『ママ』は、幻想でしかない。
…正確に伝えるなら、お前達の願望を『あいつ』が利用して、自分の都合の良い姿で創り出した妄想の産物でしかない。
どこにもいないんだ。お前達の『ママ』は、もうとうに天国に行っている。早く行ってやんな」

『 ををを をををををおっをおを!!! 』

陽一の言葉を声量でだけでも否定したいのか、『愚者』の口元から地を揺るがすような大声が響く。
振動を堪えながら、陽一は『愚者』を怒気も露わに睨み、叫んだ。

「うるせえ!往生際が悪いんだよ!これ以上てめえの妄想で犠牲者を増やす気か?
ふざけるな!!
あれだけ自分勝手に他人の不幸に追いやっておきながら勝手すぎるぞ!
死を認めず、シャドウになり果て、挙げ句まだ研究者気取りか!?
鴻悦は死んだ!シャドウ研究は既に幕引きされた!
もはや俺達の時代は終わったんだ!観念しろ!!」

イヤホンを握りしめたまま、陽一はトリガーに指をかける。
こめかみに、小さな炸裂音と開放感が押し寄せ、己の感情そのままにペルソナは宙を舞い大気を駆け上った。

「………日向双次郎!!」












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