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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

道化に冠を、愚者に言葉を。
*

それは、六本の角を模したトゲを持つ、象牙色の冠だった。
シャドウ日向は研究者としての洋装に似つかわしくない、古風な冠を頭に据え不気味な笑みを絶やさずにいる。

ふひ、とシャドウ日向の口元が醜くくの字に歪んだ。

ふいに足下から掬い上げられ、陽一は転倒しかけるも、その後頭部を、背中を、腕を、全身を突如足下から生えてきた黒いスライム状の腕に掴まれ、為されるがまま背後へ引き倒される。

「(…何?!気付かなかっただと!?)」
仮にも、かつてはシャドウと対等に渡り歩いていた陽一と、人の数倍気配に敏感な榎本をもってして、足下からの気配にほんの数秒前まで気がつかなかった事に二人は動揺を隠せなかった。
疲労云々の問題では無い。

素早いのだ。
周囲から新たにシャドウを収束させ、なおかつすぐさま支配化に置き、手足の如く動かしている。あれだけの被ダメージを被ってなお、シャドウ日向は余裕を二人に見せつけせせら笑う。
全身に絡みつくシャドウを引き剥がそうともがくも、強靱なゴムで二重三重に押さえつけられるように地に這いつくばらされ、全身が潰れるぎりぎりの匙加減で重力を与え続ける。

ペルソナを喚ぼうと、親玉の位置を確認すべく陽一は顔を上げた。

そこに見えたのは、黒い日向の陰にそびえ立つ、異様な存在感を放つ異形のオブジェだった。
全身を二重三重の鎖で絡め取られ拘束された木目の肌を持つ女性の幻影、
そして、顔面に底の見えぬ暗闇の穴をたたえた、相貌を失った吟遊詩人の幻影が、
機械仕掛けの手足をあさっての方向へねじ曲げて拘束している。
その上で、更に恋人同士のペルソナが、シャドウの黒く伸びた腕に絡め取られ、
SMプレイの緊縛の如く互いの身体を不自然な方向へと絡め合うようにして浮かび上がっている。
吟遊詩人は機械の腕を九の字に曲げたまま日向の頭上に逆さまに頭部を乗せ、
木目の肌の女性は細く薄い肌と生なりのワンピースに鎖を無数に絡みつけられ、
服の下で内出血し赤黒く血が滲んでいるのが見て取れた。

神話で語られていた悲劇の恋人たちが、男の妄執の鎖にがんじがらめにされている。

怒りとか悲しみとかを超えて、陽一も榎本も目の前の異様な光景が信じられずにいた。

蜘蛛の巣に、羽の破れた蝶を見た時のような凄惨さと悲しみが胸をよぎる。
悲しみの後に、表情すらもはや伺い知れぬペルソナの幻影を絡みつける愚かな研究者の陰に、胸の奥でやり切れなさと憤怒がめらめらと沸いた。

「 …ふはは!!どうかね私のエウリュディケは!!
  彼女は生前から優秀なペルソナ使いだった!
  この子は可哀想な子でね。そこのお前の息子のせいで死んだのだよ。
  お前の息子のペルソナが、この子の死を呼んだのだ。
  だが、代わりにお前の愚かな息子が残したペルソナが役にもたったがな。
  こいつだよ、オルフェウス。
  お前の息子は馬鹿でね。こいつの持つ可能性に気付かず、結局壊してしまった。
  これを修復し、こいつを制御することでやっと彼女も私の言う事を聞くようになったよ。
  …エウリュディケの歌声は万能だ。
  悲しみも苦しみも、全て制御できる。これを用いれば洗脳など簡単な事。
  シャドウも人間も、全てゆくゆくは私の支配下に落ちるのよ!!」

「………違う」

陽一の背後で、微かな声がした。
双葉だ。

もはや身を捻って背後を確認することすら出来ないが、双葉もまた、シャドウ日向の魔手に絡め取られているようだ。
苦痛の入り交じった、悲しげな声が聞こえる。

「…違う。違う…雪ちゃんも、オルフェウスも、皆もお前に従ってるんじゃない…。
お前の額に埋まってる、その欠片。その欠片が発する力で狂ってしまっているだけ。
そして、その力の源は…お前じゃない。
もっと、邪悪な力。
その力が、お前の狂った、頭の中身を…電波を増幅させて、皆を狂わせてる…」

微かに声色が震えている。
今にも消え入りそうな双葉の声を、「黙れ!!」と日向は一喝する。

「貴様に何が分かる。
シャドウ研究の何たるかを少しも理解せず、私の邪魔ばかりしたくせに。
養ってやっていた恩すら忘れた不義理なガキよ。
ああ忌々しい…その葉子にそっくりの容貌に隠して今も私をせせら笑うか…」

「誰もあんたなんか笑ってないよ。あんたの顔なんか、見たくもなかった」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!…ガキが、つけあがりおって!!」
陽一の時以上に、金切り声を上げて奇声を張り上げる日向に、双葉はひるむことも無く訥々と語り続ける。

「それはあんただ…僕には見える。
聞こえる…皆の悲しみ、苦しみ…。
お前の狂気に狂わされて、縛り付けられて成仏出来なくて、
なおかつ正義の味方にもなれなくてシャドウに変えられて!!
分かる?
皆泣いているよ。
あんたの作った醜くて汚らしい、出来損ないの「ママ」でも信じていなければ、
信じたくない現実に潰されてしまうほどに苦しんでいる皆の心が、
叫びが貴方には通じないの!?聞こえないの!?

…そっか。そうだよね。
あんたはずっとそうだったよね。

僕のおかあさんの言い分も、
僕の言い分も聞いてくれた試しなんかいっぺんも無かった。
ずっと自分の欲望の中でしか生きられなかったんだものね。
他人の痛みなんか、分かるはずもない」

「黙れ 黙れ 黙れ 黙れ ぇえええええええええええ!!!」

「嫌だ。黙らない。
あんたが何で、僕を理解してくれなかったのかもよく分かったよ。
あんたは無いモノねだりばっかり。
他人のモノばっかり欲しがって何一つ満足しようとしてない。
そのくせ自分の欠点を指摘されると怒るんだ。
オルフェウスは僕のペルソナ、僕の心の一部だ。
それだけじゃない。
エウリュディケだって、
全身にガチガチに固めたシャドウの鎧だって、皆他の人のペルソナじゃないか!!
あんたの中には自分しかない。
自分の心だけで、他人を受け入れない。そのくせ、妬んで、奪い、嘲笑う。
欲しがって奪うだけで、あんたは何も生み出せない。与えようともしない。
ただ、力尽くで奪い取って、自分の手柄にして自分だけが喜ぶだけ。最低だ」

日向の顔面が太いシワを刻み憤怒に歪む。
パキン、と割れるような残響音を皮切りに、がんじがらめのエウリュディケが奇声を放ち、途端、陽一と榎本の脳内は激しく揺さぶられ激痛に全身が歪んだ。
エウリュディケがわめく。泣き叫ぶ。もはや悲劇の歌姫でなく、腐ったバンシーの如く顔面を醜く苦痛に歪め叫びをあげるのみだったが、それは陽一を榎本を混乱させ、集中力をかき乱すには十分のヘビーなノイズサウンドと化した。












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