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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

金色の光、瞼の青。
*
「…がっ、くそっ…!!」
大脳を内から握りつぶされるような激痛に悶絶しながら、陽一は必死に身をよじり反撃を試みるも、シャドウの絡め取る手はいよいよ力を増すばかりで引き剥がす事すらままならなかった。
冷静な思考すら不能に陥りそうな状況下において、陽一のふらつく脳内に双葉の声が清水のように染み入ってくる。

「…僕が、何でペルソナを描けなかったか、よく分かった。
お前が、僕のペルソナを間接的に奪い、縛り付けていたから。

…ううん、僕のだけじゃない。
僕をいじめた子、僕の知らない人、
…僕の大好きだった子のペルソナも、シャドウも皆縛り付けて、苦しめている。

…オルフェウスが泣いてる。僕を呼んでる。
助けてくれ、って。
皆、解放されたくて泣いてるって…。
僕を取り込もうとしたのはそのためだったんだね。
僕を取り込めば、あんたの妄執も消えると思って…」

「ふ、ふふん。何をふざけた事を抜かす。
皆、私の支配下におかれもはや自意識など無いも同然。
本能に従い、母を求め、仲間を求め、
「ニュクスママ」の命令を聞く従順な僕でしかないわ!!」

「論理の破綻に気付かない?それとも気付きたくないだけかな?
皆、あんたが怖いんじゃない。
あんたに力を与えている、「本物のニュクス」の力が怖いだけだ!!
あんたは「本物のニュクス」に戯れに力を与えられただけの道化でしかない。
僕の身体を手に入れて、どうするつもりだったの?
僕に成り代わるつもりだったの?
…冗談。僕は生きる。
成瀬のお父さんも、榎本さんも死なせない。
お前なんかに、絶対負けたくない。
利用されてることすら分からず化け物の口約束をおいそれと信じて、不幸を撒き散らすのはもうやめろ!!」
涙で震える双葉の声に激高し、シャドウ日向は醜い容貌により一層の醜いシワを畳み渋面でわめき散らす。

「馬鹿め!!無力な貴様に何が出来る!!
口答えする前にペルソナすら使えぬくせに!!
…いいわ、貴様はぐちゃぐちゃの肉片にしてやるわ。
我は滅びぬ!!ニュクスの加護在る限り!!」

シャドウ日向の全身から無数の太いトゲが飛び出し、陽一の肩越しを抜け背後に降り注ぐ。
陽一が戦慄した瞬間、双葉の囁く声が聞こえた。

「…坊や。お願い」

刹那、背後で寒気を伴う気配の陰が満月を映す空を覆い、灰色のトゲが一瞬にして巨大な太刀の粉塵に帰した。

一瞬だった。
フルメタルの仮面を付けた喪服の大男が、片手でシャドウ日向の額を刀で貫き地に突き刺し、片手でエウリュディケの鎖を力任せに引きちぎっていた。
日向の甲高い悲鳴が辺り一帯を駆け抜け、粉砕された額の欠片…黄昏の羽は砕け散り、光の粒となり天上に向かい舞い散っていく。

「あれは…」
全身から、支配の力と指揮系統の抑止力を失ったシャドウ達が霧散し、陽一は横で身体を起こす榎本と共に天上へ舞い上がる光の粒を眺めていた。
それは光の海に溶けていく日向の内から尽きる事無く沸き上がってくる。
老人の、騎士の、美女の、獣の仮面が細かな光の砂粒に瞬く間に変化し、みるみるうちに天へと舞い上がる。
日向は対照的に、舞い上がる金粉の下でザラザラと崩れ去る、砂の城の如くあっという間に縮んで縮小されていく。
全身が伸びきったゴムをゆるめたかのようにシワで弛み、内部を満たしていたシャドウの肉体はしぼんで乾き、しわくちゃな皮と化していく…。

「凄いっすね…生命の欠片が、天へ昇っていく…魂が昇華されてるみたいだ…」
ぽかん、と口を薄く開いたまま、乾いていく日向には目もくれず、天を見上げて榎本が呟く。
陽一も、ひしひしと感じていた。
生命が、きらきらと最後の輝きを放つ瞬間を。本来の正当な道筋へと還された魂の欠片が、喜びに溢れ浄化されていく様を。
タロットにおける「13」…死神。
「死」の象徴であり、停滞と停止を意味するが、それは逆位置で死からの再生をも意味すると聞いた事がある。
かつて、歪められた命の欠片は、再び絶対的な「死」の力によって、「生」の道筋へと戻ったのか。
そう思うに至り、陽一は生死とは良く出来たシステムだと、どこかで感心している自分に気付いた。

そっと、隣に立つ気配に顔を起こす。
双葉が、月光の中をゆらめくように立っている。

「…ふた…」

満月に照らされた横顔が、露わになる。

その頬を、二筋血の涙が伝ってこぼれた筋跡がついていた。
ぎょっとして、声をかけようとした陽一は言葉が出てこなくなった。

双葉の双眸は、召喚機のグリッドを満たしていた液体と同じく狂気の蒼い光に満たされ、ぼろぼろと朽ちる日向を見下していた。
その目は、寒空の底冷えよりも冷たく、溶ける事の無い万年氷のような、いかなる光をも吸収する無情なガラス玉だった。












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