心を裂く思い。
*
「坊や」
双葉が囁くと、死神はフルメタルの仮面の奥で、薄ら笑ったような気がした。
もはやボロぞうきんの如く朽ち果てた日向に、二度、三度、四度、五度と、ためらいもせず剣の切っ先を突き立てる。
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく…。
規則正しい金属音だけが、辺りへ静かに染み渡る。
「 やめ やめ もお やめて くえ ぐへ ぐへぐ へっ 」
もはや、ズタボロのぞうきん以下となった、日向の薄っぺらい切れ切れのシャドウが、しゃがれた声で助けを請う。
「坊や」
『はい、ママ』
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく…。
金属音は、鳴りやまない。
「ふ、ふたば、くん…」
『安心して榎本のおじさん。こいつ、黄昏の羽と同化してた時間が長いから、そう簡単に死んだりしないよ』
棒立ちの双葉に代わり、手元を休める事無く死神が答える。
その声色は、嬉々としたものさえ感じさせた。
「 ぎゃ ぎゃっ ぎゃ ぎえ ぎあ ぷげ ごひう 」
「坊や」
『分かってるよママ。こいつは二度と悪さ出来ないようにするから。シャドウとしての存在も消してしまえば、安心だよね。
どうせ、黄昏の羽と同化した時点で人としての死を放棄したも同然だから、消えても自業自得だし。
心配ないよ。僕はママの嫌いなモノ、みんな消してあげるから』
「うん、ありがと。…これで、おとーさんもおとーさんのともだちも、安心だね」
「 ふた うた ふた ば たす たずけ 」
「さよなら、パパ。僕、あんたが大嫌いだったよ」
そう言って双葉は無表情のまま口元を曲げ、本当に嬉しそうに、微笑んだ。
一際大きい金属音が、周囲に激しい残響音を残し、日向の短い呻き声が短く地の底から聞こえ、すぐに消えた。
死神は勝利の宣告の代わりに、冥府の底より出でるような腹に響く咆吼を轟かせ、血塗りの剣を手に天を仰いだ。
風が吹いた。
日向であったものの破片も全て費え、残存していたであろう切れ端も、全て塵に飛ばされ、消えた。
死神の巨大な影は双葉の前にぬかずくと、手にしていた塊をそっと眼前の小さな主に手渡す。
無貌の白い仮面。
それを手にし、双葉は大切に胸元へ抱き抱えると、血の筋を洗い流すように、はらはらと透明な美しい涙を幾重にもこぼした。
「お帰り、オルフェウス…ほんとうの、ぼく…」
儚い乳白色の閃光が一瞬双葉の胸元で弾け、すぐに消えた。
長い時をかけ、吟遊詩人のペルソナは悪夢から解放され、満足げな死神の幻影と共に本来の主たる少年の心の海へと帰っていった。
「坊や」
双葉が囁くと、死神はフルメタルの仮面の奥で、薄ら笑ったような気がした。
もはやボロぞうきんの如く朽ち果てた日向に、二度、三度、四度、五度と、ためらいもせず剣の切っ先を突き立てる。
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく…。
規則正しい金属音だけが、辺りへ静かに染み渡る。
「 やめ やめ もお やめて くえ ぐへ ぐへぐ へっ 」
もはや、ズタボロのぞうきん以下となった、日向の薄っぺらい切れ切れのシャドウが、しゃがれた声で助けを請う。
「坊や」
『はい、ママ』
ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく、ざく…。
金属音は、鳴りやまない。
「ふ、ふたば、くん…」
『安心して榎本のおじさん。こいつ、黄昏の羽と同化してた時間が長いから、そう簡単に死んだりしないよ』
棒立ちの双葉に代わり、手元を休める事無く死神が答える。
その声色は、嬉々としたものさえ感じさせた。
「 ぎゃ ぎゃっ ぎゃ ぎえ ぎあ ぷげ ごひう 」
「坊や」
『分かってるよママ。こいつは二度と悪さ出来ないようにするから。シャドウとしての存在も消してしまえば、安心だよね。
どうせ、黄昏の羽と同化した時点で人としての死を放棄したも同然だから、消えても自業自得だし。
心配ないよ。僕はママの嫌いなモノ、みんな消してあげるから』
「うん、ありがと。…これで、おとーさんもおとーさんのともだちも、安心だね」
「 ふた うた ふた ば たす たずけ 」
「さよなら、パパ。僕、あんたが大嫌いだったよ」
そう言って双葉は無表情のまま口元を曲げ、本当に嬉しそうに、微笑んだ。
一際大きい金属音が、周囲に激しい残響音を残し、日向の短い呻き声が短く地の底から聞こえ、すぐに消えた。
死神は勝利の宣告の代わりに、冥府の底より出でるような腹に響く咆吼を轟かせ、血塗りの剣を手に天を仰いだ。
風が吹いた。
日向であったものの破片も全て費え、残存していたであろう切れ端も、全て塵に飛ばされ、消えた。
死神の巨大な影は双葉の前にぬかずくと、手にしていた塊をそっと眼前の小さな主に手渡す。
無貌の白い仮面。
それを手にし、双葉は大切に胸元へ抱き抱えると、血の筋を洗い流すように、はらはらと透明な美しい涙を幾重にもこぼした。
「お帰り、オルフェウス…ほんとうの、ぼく…」
儚い乳白色の閃光が一瞬双葉の胸元で弾け、すぐに消えた。
長い時をかけ、吟遊詩人のペルソナは悪夢から解放され、満足げな死神の幻影と共に本来の主たる少年の心の海へと帰っていった。
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