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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

原初、現実、そして未来。
*
『…かつて、人はもっと強靱な精神を持っていた。
それこそ、死の恐怖を間近に見ようと抵抗を試みるほどに。
その中に、仲介者たる我等の力を得る事無く、ニュクスの波動を受けながらもそれに抗し、強い意志を持って反発する心の仮面…盾と言っても良いかも知れん。そうした自然発露のペルソナを得る者たちが居た。
なれど、時が過ぎ、人が生死を軽んじる世代に下るとそうした者たちはほとんど姿を消し、代わりに戦争、疫病、災害が彼らを襲い、死が世界を包み始めた。
原初の代よりも人の精神の器は小さくなり、人は簡単に死を畏れ、時によっては死を望みさえした。ニュクスの思惑通り、世界に死が蔓延し始めた頃、我等は心ある人々の願いにより産まれたのだ。
…「死」に対抗し、「生きる」為の戦う力を与え、悪しきシャドウに対抗する力を、集合的無意識…心の海より導き出す存在として。ただ、我と時同じくして、やはり人の願いにより這い寄る混沌と同じく、悪しき仮面の力を介する存在も出現したが、彼らも又私と私と志を同じくする精神体の監視によって対立しながらも世界に干渉し続け…そして、今に至る。
我と同様に志を持つ者にペルソナを介する精神体は数多存在する。
彼らは私と同じく日々君らの動向を見守っているのだよ…』

はあ、と誰かの溜息がこぼれ落ちた。
予想だにしなかった壮大な話に、四人とも身体に変な力が入ったらしい。
フィレモンの話が一旦落ち着くと、皆一様に全身の力みが抜け落ちる。

「…僕の」
ぽつりと、双葉が口を開く。

「…僕の、オルフェウス、どこが変なんですか…?」

不安そうな双葉の面持ちを察してか、フィレモンは「変なのではない」と柔和に語りかける。

『君は、あの天に輝く月、そして集合的無意識そのものと近い性質を得ているのだよ』
「え?」
『九…いや、もうすぐ十年前になるか…不幸な偶然が重なり、その身にニュクスの欠片を得た君は、オルフェウスの力以外に、原初のペルソナと同様の「死に抗う」ペルソナをも発露させた。
一人の身体に二つのペルソナが同時に成立する…
私たち仲介者の助力もなく、ベルベッドルームも介さず、しかも精神を破綻させる事なく、今またこうして二つのペルソナを何の苦もなくその身に収めている…。
長い時をかけ、君を見守り、そして分かった事。
それは、君がペルソナを所有したままニュクスの一部に触れた事で起こった奇跡。
集合的無意識の持つ、精神の器の相…あらゆる精神生命体をも己の精神に封じ、その手足とする機能と能力を君は得ているのだよ』

「え、えーとそれってつまりどういう事ですか堂島さん」
「尋ねる前に考えろワン公。お前の頭は飾りか?医大出てるくせに何でそんなにオツムがゆるいんだか…あらゆる精神生命体…ペルソナと、シャドウの事か?それを手足のように自由自在って事は…」

「なっ……それは、つまりどんなペルソナやシャドウも支配出来る力って事じゃないのか!?」
陽一の叫ぶような声色にフィレモンも沈痛そうに表情を曇らせる。
フィレモンの言葉の重みよりも、陽一の動揺に双葉はおののきながら、おそるおそるフィレモンに問いかける。

「それって…凄い事、なんですか?」
『一つのペルソナが進化し、新たな姿を得る事は在る。だが、君の場合はそうではない。死の欠片をその身に宿しながら、その波動に支配される事も無く、非常に安定した調和を呈している。
まるで、子宮…死をも育む万物のゆりかごだ…しかし…』
「しかし?」
『…君は近い将来、選ばなければならなくなるだろう。
人は己自身だけの器、個々の精神の形を選ばなければならない。
たとえ、全てを受け入れ育む雛形を君が所有していたとしても、いずれ君の心はどちらかの仮面に思考の天秤を傾ける日が訪れる。
愛した者の死に抵抗し「生」を望んだオルフェウスとして生きるか…
それとも、人々の破滅願望を具現化し、滅亡の大なたを振るう「死神」の化身と変わるか、を…。

そして、それは世界の選択へと成り代わる。

世界が変革を無意識に望む時、君のように世界に望まれて天秤の中央に立つ者が現れる。
君は望まずして、強大な力を得てしまった。人の身に過ぎるほどの、恐ろしい力をな。
奇しくも、それは静かな崩壊に進む世界を憂える我等が、久遠の時を経て望んだ万能の力、その欠片とも呼べる希望だった。
何者でもなく、何者にも染まらず、ただ「存在」し、全てを受け入れる。
君という無垢なる切り札に、我等は揺らぐ未来の鍵を見つけたのだ。

愚者…はじまりのペルソナ。それもまた、暗示であったのかも知れないな…。

君が「生」を望めば、ゆるやかな滅びを刻みながらも現代世界は継続するだろう。
しかし、「死」を望めば世界は一切の活動を一瞬にして収束させ、世界は滅亡する。
だが、それはまた新たな生の刻みを始める一歩になるだろう…。

そして、どちらにしろ、その選択と共に君は死ぬ。
世界の贖罪と罰を一身に受け、人類の罪の一切を内なる精神のゆりかごに収めて、永遠の眠りにつく。
それが、君の役目。課せられた、運命の命題。

決めるのは、君だ。…まだ時間はある、頭の隅に覚えておきたまえ』

世界の選択。
死。滅亡。

十年前に流行ったような不吉な言葉のオンパレードに、双葉の表情がみるみるうちに曇っていく。

「な…何それ…何で、何でまた僕が!僕が…僕が…そんな、嘘、嘘…」

『気持ちは分かる。だが、もうその未来は変えられぬ…仲間達とも散々語り尽くし、得た結論だ。
世界は、君を総意とし次代の結論を求めている。もう、逃げられないのだ』
足下から崩れ落ちそうになる双葉を抱き抱え、陽一は双葉をゆっくり座らせると膝を地につく。

「双葉…落ち着け、きっと何かの間違いだって」
「どうして…どうして…どうして…僕なの…?やっぱり、やっぱり僕は…僕は…」
うう、と自分を呪う言葉を飲み込み、代わりに双葉の喉元から搾り出すような心痛の嗚咽がこぼれ出す。
瞳から大粒の涙をぼろぼろこぼし俯く双葉の蒼白な横顔に、陽一は限りない悲しみを覚えた。

何度、小さい頃から言い聞かせてきたのだろう。
お前はいらない子供なんかじゃない。
お前は大切な子供。愛される子供。
いつか、立派に成人して、胸を張って世界に生きる大切な存在だ、と…。

そう言いつのらなければならないほど、双葉は自分自身を愛せずにいた子供だ。
自分が世界の滅亡の鍵だと聞かされて、逃げ出したいと思う事になんの不思議があるだろう。
陽一は、親としてこれほど残酷な事はないと思った。
愛して育てた息子が、その身一つに抱えきれない苦悩を背負わされているのに、もう自分には側にいてやれる時間が無い。
肩代わりすら、してやれないのか。

悔しくて情けなくて、涙が滲む。
怒りも露わにフィレモンを睨み上げると、蝶の化身は静かに二人を見下ろしていた。












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