季節が変わりゆく音。
*
火葬場には、行けなかった。
骨を拾ってあげるのが最後の供養と分かっていたけど、どうしても骨になった義父が直視出来そうになくて、僕は精進落としまでお寺の境内で待たせてもらう事になった。
周りの人は僕の様子を察して何も言わなかった。気がつくと声をかけられて励まされてばかりだった。
父の葬式の参列者は、予想以上の大人数だった。
大学時代、昔の腐れ縁、前の会社の同僚、そういえば義父と結婚する直前までいってたあの女の人もいた気がする。
中にはおじいさんまでいて、尋ねてみると義父が今の僕より小さい頃から知っていると誇らしげに答えてくれた。
泣いている人、昔話をしている人、成り行きを見守っている人…。
葬式のはずなのに、何故だろう、皆どこか優しい笑顔で溢れている。
示し合わせているはずないのに、死者の心を汲んだかのような湿っぽさのない葬儀。
その日は、ずっと優しさに包まれているような気さえしていた。
義父も、喜んでくれていただろうか。見ていてくれただろうか。
お義父さん。
貴方の築いた絆を、僕は今この目で見ています。感じています。
僕も、いつかこんな風に、死んだ時に泣いてくれる誰かが出来るでしょうか…。
随分と長いタクシーの行列を見送って、寺の境内に戻るとどこから来たのかシーサーがお座りして僕を待っていてくれた。
いいこいいこと、頭を撫でると悲しげにくうん、と鳴いた気がした。
初めて聞くシーサーの声は、どこか飼い主の榎本さんに似ていた。
しばらくシーサーと小春日和の境内でぼんやりしてると、どこかで見た人影が寺の階段を駆け上がってきた。
学校の同級生たちだった。
葬式をしたお寺の檀家の子がいたみたいで、ずっと学校に来なかった僕の様子を連れだって見に来てくれたのだ。
大丈夫か。もうタクシーがいなくなってたから会えないと思ってた。
身体平気か。あれからメール見たか。勉強は、家の事は…。
僕はその時に、やっと子供らしく大声で泣いた。
ずっと大人に挟まれていたから気を張りつめていたようで、緊張の糸がプツリと切れて、後から後から涙がこぼれて止まらなかった。
友人達とは、小一時間ほどずっと話し続けた。別れ際には「また学校来いよ!」とさえ言ってくれた。
その後、僕は一度も学校に行けなかった。既に別の学校への編入を榎本さんから勧められ、その上に金銭的な都合諸々で僕は別の学校への転校準備に追われていたからだ。
だけど、終業式の日にけじめだけをと思い足を運んだ学校で、友達は皆優しく僕の門出を祝ってくれた。
離れていても、人は結ばれている。
たとえ、死が隔たりを作ったとしても、その間には切れる事の無い「縁」が繋がれている。
義父の葬儀に駆けつけた多くの義父の友人、そしてあの時僕を労ってくれた学校の友達。
一人と一人を結びつける、縁と絆は、素晴らしい。僕は、その時強くそう思っていた。
ずっとずっと昔、義父さえいればいいと思っていた僕の心境が、少しづつ変化していったのも、この時からだった。
僕の周りで何かが変わろうとしている、そんな気がしていた。
ならば、僕も変わりたい。
義父に追いすがって、義父のために生きようとしていた自分を変えよう。
もっと強く、誰かの支えになれるような、義父さんのような優しく強い大人に。
あの人におんぶにだっこされるのは、もう終わり。
僕は自分で地面に立って、自分の意志で歩いていきます。
貴方の与えてくれた時間が、思い出が、無駄にならないように…。
火葬場には、行けなかった。
骨を拾ってあげるのが最後の供養と分かっていたけど、どうしても骨になった義父が直視出来そうになくて、僕は精進落としまでお寺の境内で待たせてもらう事になった。
周りの人は僕の様子を察して何も言わなかった。気がつくと声をかけられて励まされてばかりだった。
父の葬式の参列者は、予想以上の大人数だった。
大学時代、昔の腐れ縁、前の会社の同僚、そういえば義父と結婚する直前までいってたあの女の人もいた気がする。
中にはおじいさんまでいて、尋ねてみると義父が今の僕より小さい頃から知っていると誇らしげに答えてくれた。
泣いている人、昔話をしている人、成り行きを見守っている人…。
葬式のはずなのに、何故だろう、皆どこか優しい笑顔で溢れている。
示し合わせているはずないのに、死者の心を汲んだかのような湿っぽさのない葬儀。
その日は、ずっと優しさに包まれているような気さえしていた。
義父も、喜んでくれていただろうか。見ていてくれただろうか。
お義父さん。
貴方の築いた絆を、僕は今この目で見ています。感じています。
僕も、いつかこんな風に、死んだ時に泣いてくれる誰かが出来るでしょうか…。
随分と長いタクシーの行列を見送って、寺の境内に戻るとどこから来たのかシーサーがお座りして僕を待っていてくれた。
いいこいいこと、頭を撫でると悲しげにくうん、と鳴いた気がした。
初めて聞くシーサーの声は、どこか飼い主の榎本さんに似ていた。
しばらくシーサーと小春日和の境内でぼんやりしてると、どこかで見た人影が寺の階段を駆け上がってきた。
学校の同級生たちだった。
葬式をしたお寺の檀家の子がいたみたいで、ずっと学校に来なかった僕の様子を連れだって見に来てくれたのだ。
大丈夫か。もうタクシーがいなくなってたから会えないと思ってた。
身体平気か。あれからメール見たか。勉強は、家の事は…。
僕はその時に、やっと子供らしく大声で泣いた。
ずっと大人に挟まれていたから気を張りつめていたようで、緊張の糸がプツリと切れて、後から後から涙がこぼれて止まらなかった。
友人達とは、小一時間ほどずっと話し続けた。別れ際には「また学校来いよ!」とさえ言ってくれた。
その後、僕は一度も学校に行けなかった。既に別の学校への編入を榎本さんから勧められ、その上に金銭的な都合諸々で僕は別の学校への転校準備に追われていたからだ。
だけど、終業式の日にけじめだけをと思い足を運んだ学校で、友達は皆優しく僕の門出を祝ってくれた。
離れていても、人は結ばれている。
たとえ、死が隔たりを作ったとしても、その間には切れる事の無い「縁」が繋がれている。
義父の葬儀に駆けつけた多くの義父の友人、そしてあの時僕を労ってくれた学校の友達。
一人と一人を結びつける、縁と絆は、素晴らしい。僕は、その時強くそう思っていた。
ずっとずっと昔、義父さえいればいいと思っていた僕の心境が、少しづつ変化していったのも、この時からだった。
僕の周りで何かが変わろうとしている、そんな気がしていた。
ならば、僕も変わりたい。
義父に追いすがって、義父のために生きようとしていた自分を変えよう。
もっと強く、誰かの支えになれるような、義父さんのような優しく強い大人に。
あの人におんぶにだっこされるのは、もう終わり。
僕は自分で地面に立って、自分の意志で歩いていきます。
貴方の与えてくれた時間が、思い出が、無駄にならないように…。
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