約束の日まで、そっとさよなら。
*
「行っちゃった、か…」
次元と空間の間、無意識と現実の狭間から、春の夜空に遠ざかっていく少年の背中を見送りながら、ファルロスは溜息を洩らした。
やはり、例の「封印」は健在のようだ。
ささやかな声すら、今の彼には届かない。
それでもいい。今は、まだ。
路地の奥で揺れている蒼く重厚なゴシック風の扉。
そこに、自分を待つ者が居る。
感じる。胎動。呼び声。そして卵の割れる音。
ここから、また始まる。
真冬のあの日、勝利の後に手に入れた金色の欠片は、自分に与えられた最初のパズルのピースとなった。
『カケラ ヲ アツメヨ』
天上の母の示した答えと、己の運命が呼び寄せた場所。
彼の心をゆさぶり、傾きかけた天秤を再び自分の元へと引き寄せ、ファルロスは無意識の海から己が母胎=双葉を突き動かした。
彼は気がついていない。
いや、気付かれてはいけない。今は、まだ。
全ては、隠しきれない無垢な衝動故。
自分の存在意義を知りたい。
自分が何者か知りたい。
滅びの塔のてっぺんには、きっと自分の望んだ全てがあるはず。
そして、そこへ彼を誘い、最後には全てを手に入れよう。
今度は誰にも邪魔されないように。誰にも触れさせないように。
大切に大切に運んで、彼をあの塔の頂に据えて、ずっとずっと一緒に暮らせたら。
自然と口元に笑みがこぼれる。
それ以上の幸福、この世界のどこにあるだろう?
ママ、ママ…フタバをそう呼んで、彼も微笑んでくれるなら、僕は他には何も望まない。
「待っててね、…ママ」
誰にも聞こえない声で、ファルロスはそっと呟く。
「さあ、準備を始めよう」
ほんの少し、地面から浮いた足下を路地裏へと向ける。
寂しげに暮れゆく春の夜を仰ぐと、そこには満ちていく半月が煌々と輝いていた。
「行っちゃった、か…」
次元と空間の間、無意識と現実の狭間から、春の夜空に遠ざかっていく少年の背中を見送りながら、ファルロスは溜息を洩らした。
やはり、例の「封印」は健在のようだ。
ささやかな声すら、今の彼には届かない。
それでもいい。今は、まだ。
路地の奥で揺れている蒼く重厚なゴシック風の扉。
そこに、自分を待つ者が居る。
感じる。胎動。呼び声。そして卵の割れる音。
ここから、また始まる。
真冬のあの日、勝利の後に手に入れた金色の欠片は、自分に与えられた最初のパズルのピースとなった。
『カケラ ヲ アツメヨ』
天上の母の示した答えと、己の運命が呼び寄せた場所。
彼の心をゆさぶり、傾きかけた天秤を再び自分の元へと引き寄せ、ファルロスは無意識の海から己が母胎=双葉を突き動かした。
彼は気がついていない。
いや、気付かれてはいけない。今は、まだ。
全ては、隠しきれない無垢な衝動故。
自分の存在意義を知りたい。
自分が何者か知りたい。
滅びの塔のてっぺんには、きっと自分の望んだ全てがあるはず。
そして、そこへ彼を誘い、最後には全てを手に入れよう。
今度は誰にも邪魔されないように。誰にも触れさせないように。
大切に大切に運んで、彼をあの塔の頂に据えて、ずっとずっと一緒に暮らせたら。
自然と口元に笑みがこぼれる。
それ以上の幸福、この世界のどこにあるだろう?
ママ、ママ…フタバをそう呼んで、彼も微笑んでくれるなら、僕は他には何も望まない。
「待っててね、…ママ」
誰にも聞こえない声で、ファルロスはそっと呟く。
「さあ、準備を始めよう」
ほんの少し、地面から浮いた足下を路地裏へと向ける。
寂しげに暮れゆく春の夜を仰ぐと、そこには満ちていく半月が煌々と輝いていた。
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