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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

巣立ちの朝。
*

2009年4月6日早朝。
既に朝靄は日の光に消えて、窓からは眩しいほどに陽光が射し込んでくる。
空っぽになった部屋の中央に佇み、双葉は今朝袖を通してみたばかりの新しい制服の具合を確かめる。
今まで通っていた高校の硬派な詰め襟とはまたひと味違うブレザーの感触に、くすぐったさを感じながら僅かな手荷物を持ち上げて、小さな玄関に向かう。
一ヶ月前に新調したばかりのエンジニアブーツを履き、静かに振り返る。

荷物の全てを片付けて、必要なものは全て昨日までに宅急便で送っておいたから、部屋の中には、もう何も無い。
だけど、ここにあの人は居たのだ。
僕は、あの人とここで暮らしていたんだ。

思い出の詰まったままの部屋。
持ち出せない、思いの残された部屋。

首に提げた、イヤホンに手をやる。

数日前、榎本さんが唐突に会いに来て、父からの言付かりだと、いきなり紙袋を渡された。
父はあの日、倒れる前に大型電器店に予約していたこの品を受け取りに向かう途中だったのだ。
僕が倒れていた時に電器店から連絡があったのをずっと忘れていたのだそうで、榎本さんは相当慌てた様子だった。
父の代わりに「おめでとう」の言葉を添えられて、父からの最後の誕生日プレゼントを受け取る。

最新式の、携帯式音楽プレイヤー。

ずっと気にしてたんだ。
お古でいいよ、って言ったのに。
最後の最後まで、父の愛情を感じずにはおれず、僕は何も無くなった部屋の片隅でノートパソコンを立ち上げ、音楽データをコピーし、新品の方へと移し替えた。
何時の間にか踏んづけたらしく壊してしまったipodのと同じ、父と揃いの楽曲データ。
自分の好きな曲も入れとけ、と言われ「無い」と答えたら、ものぐさだなあ、と笑っていた日の事を思い出す。
だから、MP3のストラップはおととい自分のものに交換したけど、中身のデータはipodと変わらずそのままだ。

だけど、いまだに新しいイヤホンのビニールは破っていない。
もう少ししたら開けようかとも思ってるけど、今は大事にとっておいてある。
今、首から提げているのは、父が使っていたイヤホンの方だ。

今際の時までおとーさんの側にあった、大切な遺品。
去年の八月の誕生日、初めてのバイト給料で贈ったちっぽけなプレイヤーを、父は最期まで大切にしてくれた。

僕の宝物。

絆と記憶は永遠だ。
そうだよね、おとーさん…。

込み上げる熱いものを飲み込み、静かに部屋の方へと一礼すると、僕は玄関から静かに出て行った。












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