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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

重苦しい目覚めと不安と。

*
まさか、自分が病院の世話になる日が来ようとは。
今まで五体満足で丈夫さだけが取り柄だったのに。

ぼやけた視点が定まると、くすんだグレーの天井に付いたシミと、消毒液の匂いで居場所を知った。
「…起こしちゃいました?」
痛みは無い。多分、薬で抑えているのだろう。全身の感覚が鈍い。
けだるい、というより鉛のように全身が重苦しくてならない。
首だけ動かすと、横で心配そうに榎本が顔元を覗き込んでいた。
「ここは…」
「病院です。しかも僕が勤務する予定の。タイミングが良いんだか悪いんだか…」
「そっか、そりゃ悪かったな」
言いながら、陽一はカーテンの開いた窓を眺める。陰鬱な曇天模様の冬の空が、どこまでも続いている。窓を開けてえなあ、と思ったが、身体を動かすのが非常に億劫でそのまましばらく外を眺めた。

「…どのくらい寝てた」
「三日三晩ずっとです。一時危なかったそうですよ」
「そっか。…で、医者の見解では、俺は何が悪いって?」
榎本はバツが悪そうに黙りこくっている。相当悪いのか、特殊な病なのか分かりかねるが、良い事でないのは確かだ。
「良いから言え。言ってくれ。でないと仕事にも差し障る」
「担当医でもないのに、僕の口からはとても」
「担当医なんか信じられるかよ。お前だから聞くんだ」

「…悪性の腫瘍、だそうです。しかも、肺から、全身に…」

「…あとどのくらいだと?手術で間に合いそうか?」

「三ヶ月。手術は、するだけ、無駄だろうって…」

「………」

互いに、言葉を無くしていた。
無言のまま、曇天の向こうで日が陰っていく様を見る。雲が、徐々に灰色を深めてくすんで、夕闇に溶けて…。

「…申し訳ないと思ったんですが、ピルケースの錠剤、全部調べさせていただきました」
「…」
「安定剤と思って飲まれていたのは、間違いなく、高濃度のペルソナ制御剤です。しかもかなりの粗悪品だったみたいで残留毒物が…」
「もういい。お前のせいじゃない」
「でも、その…すみません」
榎本は今にも泣きそうに俯いている。いちいち気にしすぎだと、陽一はじんわりしびれた頭の片隅で思った。
「僕…もっと早くに気付いてたら…メール送って確認してたら…」
「いや、俺もおかしいなとは思ってた。ここ数年用件のみ打ったパソコン出力の紙しか添付されてなかったからさ。お前も堂島も手紙は手書きしかよこさないって分かってたはずなのに」
「いえでも…それがなかったらこんな酷い事には…」
「いいって。それより、双葉はどうしてるか知らないか」
「今、僕の借りたマンションに連れてきてます。暗証番号付きオートロックに防犯カメラもあるとこなんで大丈夫かなと」
「そうか。なら一安心だな」

「彼が…あの時の子供、なんですよね」
「ああ、そうだ。俺らの最後の仕事で連れ帰った『宣告者』の実験体…」
とてもそうには見えないだろう?と陽一はむくんで凝り固まった顔面に力無い笑みを浮かべる。

「ええ、びっくりしましたよ」
「あれでもう少し自分に自信がつけばなあ。絶対もてるぞ。俺と違って女に困らんタイプになるのに」
「ぞっとするぐらいキレイな顔してますね。もっと冷たい感じなのかと思ってたんで、ちょっと意外でした」
「だろ?で、あいつちゃんと学校行ってるか?飯食ってるか?」
「それなんですけど…ここ数日色々あって疲れたみたいなんで、少し休ませてます。食事諸々は僕がきちんと面倒みますんで、心配せずに自分の身体の治療に専念して下さい」
「へえ、お前にしてはやけにソツがないな。しばらく見ない間にしっかりしてきたか?」
「僕も少しは進歩したんですよ。それに、今の身体じゃ満足に動けないでしょう?僕がその分手足になって動きますから」
「頼もしいな。じゃあ、任せるよ」
以前には思いもしなかった後輩の力強い後押しに、安堵すると共に眠気とだるさが陽一の全身にまとわりつく。
彼に当面の間の息子の世話と、仕事場への連絡事項等を伝えると、陽一は再び眠りについた。












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