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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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3月5日。
*

早咲きの桜の花びらが空に舞っている。

いや。
これはモモの花びらなのかな。

どっちでもいいや。

最近は周囲の空気が春色に変わっていくのだけを、肌で感じていた。
だけど、何故だろう。
変わりゆく季節の風景よりも、己の身体に宿った何かが軽くなっていくのばかり気になって、愛した景色がはっきりと思い出せない。
通い慣れた道、寄り道、抜け道、大通り、噴水…。

人が流れていく。
交差点に、歩道に、車窓の中に。
あくびをしている猫。吠えている犬。
笑って駆けていく幼児。ひなたぼっこのおばあちゃんたち。
ふいに、横断歩道の向こうで同じ制服の誰かがだらだらと歩いて過ぎていった。

みんな見納め。
みんな今日まで。

有難う。

誰に呟くでもなく、そう思って微笑んだら、隣で彼女も口を一文字に結んで笑顔を作っていた。
今にも泣きそうな、悲しみを堪えた口元が、いじらしかった。

*

彼女と屋上で何を語らっただろう。
彼女は、これからの季節も、ずっとずっと僕と居たいと言ってくれた。

それ以外は、次第に曖昧になり、桃色の昼光に溶け、


僕は、僕の檻を外れていた。



僕は、僕を呼ぶ声を聞いた。



僕は、それを聞いた。
それに答えるための言葉を、声をもう持たなかったけれど、

僕は、屋上に声の主達が現れただけで、もうよかった。

おめでとう。約束は、果たされた。
優しい微笑と囁きが、遠くから聞こえた。

その声の居場所に、僕はそっと目を向ける。
屋上を囲む金網に足をかけ、蹴り上げるように空へ羽ばたく。
身体は想像通りに浮かび、ゆるやかに空中を滑空して校庭へと滑り落ちる。

僕は何にでもなれる。
望むなら、どこへでも。

そして、僕の望みは叶えられる。

体育館からは、「仰げば尊し」が聞こえる。
もう式もフィナーレが近いようだ。

人気の無い、学校正門から伸びる長い道の上。
春の陽気と日だまりの中に、あの人は立っていた。

その名前と同じ、温かな陽光。
くたびれた黒コート、ワイシャツにスラックス、擦り切れた革靴。
一年ぶりに会うあの人は、普段着のままで、やっぱり歯を見せてにかっと笑って見せてくれた。

「双葉」

「おとーさん」

迎えに来たぞ、と、父は_陽一は静かに微笑み、両腕を開く。
その胸に、迷う事なく飛び込む。
タバコと違う、優しい衣類の柔らかさに混ざる父の匂い。
込み上げてくる思いに涙ぐんだのを見られたくなくて、力一杯抱きつくと陽一は何も言わずきつく抱き返してきた。

「おとーさん…おとーさん…もう、そう呼んでもいいよね…」
「勿論。むしろ、俺のが待ってたかも知れんよ」
「じゃあいっぱいいっぱい呼んであげる…おとーさん。僕のおとーさん。大好き」
「ありがとよ。少し痩せたか?無理もねえけど」
「ううん、平気。おとーさん変わって無くてよかった…」

そこまで零れた思いを一気に吐き出すと、僕は父の胸元から顔を起こす。

背中に「あれ」が姿を現した気配を感じたからだ。

「見なくていい」
父には見えているだろう。
だったら、そういうのは当然だ。

「あれ」は、僕の汚物そのものなのだから。

僕は、振り向いた。
ためらわず、躊躇もせずに。

「あれ」は居た。












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