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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

物言う影。
*
シャドウ。
僕の心の海に、天上の満月に封じられたシャドウ以外で、
この世に遺された、最後の陰。

「あれ」は、これからも産まれ続ける。
「あれ」は、毎日一つに収束し続け、これからもニュクスを呼ぶ。
「あれ」は、これからも存在し続ける。僕が何をしようとも、永遠に…。

何故なら、「あれ」は、全ての人の内なるタナトス=生に反し死を望む意志。
幾千幾万の人々が毎日産み落とすタナトスを喰らい続けて生き続けなければならない、僕という罪深い存在の暗部の化身。

「あれ」は、僕ととーさんを、見つめていた。
真っ赤な赤目のみの眼球で、僕らを見ていた。
真っ黒い髪、灰色の濁った肌、灰色の制服、イヤホン、生気の無い表情の、灰色の「成瀬双葉」が無表情のまま立っていた。
黒い土塊に怨みと情念の泥をこね合わせて創られた、黒くいびつな僕の陰。

エレボス。
ニュクスは、最後に消え去り再び眠りにつく時、僕の陰をそう呼んだ。
僕が「生」を守るために「死」を選んだ瞬間、産まれたもう一つの「封印」。

大いなる封印はニュクスを満月に封じ、
僕の得た「生の答え」は死を受け入れ、地の底の無明で僕のタナトスが「生」を受けた。

エレボスは無言で僕を見つめていた。
僕は、彼に向き直る。

『行くんだ』
「そうだよ」

エレボスの地の底から呻くような低い声色に、僕は動じず答える。
恐怖すら、もう無い。あれは、僕なのだから。

『僕を置いていくんだ』
「ああ、置いていく。君は僕の罪そのものだから。幾千幾万と時が過ぎても、お前はその姿のまま、世界の死を望む意志を喰らい続けるんだ。きっと、いつか誰かが来てお前を指差して言うだろう。「こいつが世界の不幸の元凶だ」とね。そしたら、君はその人たちに倒されるんだ。それが、僕の最後の贖罪。僕は罪を洗い流して、大いなる封印と共に君を置いていくけど、天国で何をしていようと、君の存在は忘れない。いや、忘れられない。君と僕は繋がっている。僕は己の罪を忘れない。そして、お前がいなくなるその時こそ、世界がニュクスから解放される日。そして僕らもまた罪を許され、再びちっぽけな生命として生まれ変わる事を許される日だ」
『そんな日は来ない。僕は消えない。封印のお前も、この僕も、天に昇る清い魂であるお前も』
「いいや、来るよ。…こんな僕でさえ、生命の答えにたどり着けた。きっといつか、皆気づけるよ。その答えに」
『そんな日は来ない。僕は消えない。お前の罪も、この世の罪も。
お前は輪廻の輪から外れた。巡る輪から外れ、人の生のための歯車と化し永劫の時を人の導きのみに浪費する。
望めば世界の核となり、新たな世界の主となれたものを』
「………やっぱり、駄目か。君とは相容れられない。あれから一月、語り尽くしてきたはずなのに。残念だな」

『そんな日は来ない』

溜息をもらした僕に、エレボスが抑揚の薄い機械的な声色にうっすらと感情を滲ませる。

『…お前が望んでいないから』

「………」

『お前はもはや死んだ。死した者は全て等しく天へ召されなければならない。その日付を一月ずらしてまで、何故ここにいる?』
「約束のため」
『否。お前は生きていたかった。だが死んだ。愚かな仲間と、無知なる友人知人、扇動された大衆の犠牲となって。
悔しさ、虚しさ、己の生の答えを見いだしてなお、お前の胸に渦巻く生への執着を、我は感ず』
「否定しない。だけど、僕は後悔してない」
『否。その証拠こそ我。そして知恵あるが故に分かる。ニュクスは滅びぬ。我も、エレボスも滅びぬ。
お前の罪は浄化されぬ。死を育みし者。死をこの世に具現化させた大罪者』

エレボスの口調が、徐々に物々しい響きに変わっていく。
本性を剥き出しにして。
僕は臆さず、はっきりと聞こえるよう、大きな声で静かに答えた。

「たとえそうであろうと、世界はお前の好きにはならないよ。決して滅ぶものか。
僕の願いは、絆はこの世界にとどまっている。
僕と共に戦った仲間は、今もこの世界に生きている。
みんなが、僕の思いの代行者だ。
お前のように死を望む者が尽きないように、彼らのように死に抗い戦う者もまた尽きはしない!」

陰が、鼻で笑う短い声音だけが聞こえた。

『…良かろう、大罪者。天国で神と天使の加護を受け、創造主の恩寵に囲まれながら、我の所行を眺めているがいい。
お前は今日を境に何も出来なくなる。
万能の力を得ながら、凡人と同じく死を受け入れ、力をもって理に逆らおうともしない愚か者。
死して再び無力な魂となり、世界に溢れる恩寵を食い潰すアリ共の犠牲となる偉大な救世主殿か。
全くもって、阿呆の極みよ。
…良かろう、大罪者。
我の手によって、お前の遺した憎悪によってこの世が焼き裂かれる様、とくと指を咥えて見ているがいい。
幾千幾万星が巡ろうと、お前の願いは、永劫叶いはしない。それをしかと見せてやろう…』

エレボスは口元を細く耳まで切れ目を裂き入れ、至極満足そうに、微笑った。
僕はその顔を忘れないように、瞼に焼き付け、そして再び背を向けた。
抗おうと思えば、死をも超えられたかも知れない。

だが、そうすればもう僕は人でもなくなる。

父と違う命になる。そんな事までして、再び孤独となり生に執着する事はできなかった。

「行こう」
父が囁く声に、そっと頷く。
物言わぬ視線が、背中を貫く。
だが、僕はもう振り返らなかった。

いつまでも、いつまでも背中に絡みつく視線を遮るように、父の温かい手が肩にかけられる。

僕らは校門へ向かって歩き出した。
その背に、僕らとは違う、生者の声が聞こえた。
卒業式が済んだようだ。













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