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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

少年回想す。
*

「…イヤアアアアアアアアアアアアア!!!」

…自分の叫び声に驚いて目を覚まし、双葉は周囲の視線が一斉にこちらに向いたのを感じて現実に引き戻された。
駅前のファーストフード。目の前にはやけ食いに買った、一番安いハンバーガーが五・六個、コーヒーと並べて積まれていた。
…ああ、そうだ。夕方、成瀬のお義父さんとケンカして、家、飛び出して…。
歩き疲れて、ごはん食べようと思って、そうしたらお店の中が暖かくてウトウトして…。
そう気付くまで、双葉はしばらく顔を上げる事も出来ずに硬直していた。
ぐっしょりと汗ばんだ掌を、そっと開く。
何ともない。
深く、長く、ため息が口元からこぼれる。
もう大丈夫。そう思ってたはずだったのに。
見つめている指先が、かすかに震えている。
いつもこの手を握って、「大丈夫だ」と言ってくれる人がいた。
でも、もうそれも出来ない。
僕は、あの人の、重荷になりたくない…。

冷たくなったハンバーガーの包みを一つ取って、おそるおそる封を破って、そろっと、一口かじる。
美味しくもない、サバサバした肉が口の中でもそもそと動くと、のどの奥が熱くなって飲み込み辛くなる。
かろうじて何とか飲み込むと、コーヒーを一口飲んで、もう少し食べようと努力してみたが、結局4分の1も食べられず、トレーの上で食べかけのハンバーガーをしげしげと眺めて途方に暮れた。

どうしよう。
これからどこへ行こう。
行くあてなんかないのに。

「おとう、さん」

噛んで含むように、そっと呟く。
自分には、成瀬のお義父さんしか、家族と呼べる人の思い出がなかった。

いや、思い出せなかった、が正解なのだろう、と、思う。
9歳以前、成瀬のお義父さんに引き取られる以前の記憶を、僕は思い出せないでいたから。

実の父親の顔を、僕は知らない。お義父さんが、写真一つ持ってなかったからだ。
でも、お母さんの顔だけは、大学時代の写真を大事そうに取り出して僕に見せてくれた事がある。
ぱっちりした目をした、とっても爽やかで賢そうな、キレイなお姉さん。その隣に、おどけた表情のお義父さんがいた。
『義父さんな。お前のかあちゃんに大学時代に恩があるんだ。同じ大学の知り合いってだけだった義父さんの借金、ぽんと払ってくれてさ。
…ん?借金したのは俺じゃねえよ。俺の、親父。お前の義理のじいさんになるけど…まあ、そいつはいいじゃねえか。で、そのおかげで、俺は大学卒業できて、こうして人並みの生活が出来てるって訳だ。だからな、良いことがあって感謝するときには、まず俺じゃなくてお前のかあちゃんにありがとうしとくんだぞ。いいな?…』

お母さんの事話す時の、お義父さんの嬉しそうな横顔。
きっと、お義父さんはお母さんのこと、好きだったんだ。
だったら、どうしてお母さんと一緒にならなかったんだろう。
幼心にそう思って、何故かひどく悲しさを覚えた。

お母さんと、お義父さんがもし結婚してて、僕がそこに産まれていて、二人の子供だったら、どれだけ幸せだったろう。
そんな夢想にふけって、寂しさをまぎらわせてばかりいた時期もあった。
だけど、心が寂しさで埋まると、悪夢は容赦なく僕を襲った。
引き取られて間がない頃、お義父さんは、泣きじゃくる僕を抱きしめて、大丈夫大丈夫とあやして夜明けまでずっと添い寝をしてくれた。曰く、爆発事故の惨状がそのまま悪夢になってるんだろう、と言ってた。PTSD、っていうのじゃないかって。
それで納得したはずなのに、心のどこかで刺さった小骨を気にするように、悪夢の内容を疑っている自分が、いる。
でも、深く考えようとすると、やはりどこかで自分がストップをかける。それで、考えるのはいつも途中止め。

僕にとって、「過去」=「悪夢」のような気がして、過去は「思い出せない」ではなく「思い出さない」に、いつしか変わっていた。
だから、今ある「現在」だけが、僕の全て。
そして「未来」…いい大学に入って、高給の一流企業に入って、義父を養い、親孝行する。そんな漠然とした未来予想図。

でも、おとうさんも、ぼくがいらなくなった。
おとうさん、ぼく、どうしたらいい…?

*

結局、双葉はハンバーガーを包み直すと、店員に袋をもらい、残りのハンバーガーも一緒に詰めて、コーヒーのクズだけ捨てて店を出た。出る間際に時間を横目で確認すると、深夜0時5分前。普段なら、眠気に耐えきれず布団に収まっている時間なのに、今日は安っぽいコーヒー1つでやけに目が冴えている。試験前ですら、幾ら濃いブラックコーヒーを飲んでもいつの間にか0時前に入眠してしまうのに、これは随分珍しい。やっぱり、仮眠をとったからかななどと、双葉は冷え切った街をぶらぶら歩きつつそう思った。後頭部が重い。でも、意識ははっきりしている。いや、どこかいつもと違う…。
普段、義父にきつく、「深夜絶対出歩くな」と言われていたせいか、やけに周囲が新鮮に映る。
ネオンも、道ばたに居座る不良も、頬をなぜる夜風も…。

「(まもなく、零時です…)」

どこからともなく、時報の音が聞こえる。

ぴ、ぴ、ぴ、ぽーん…。

「零時でーす…」
何となく呟いて、双葉はあれ?と立ち止まり、周囲を見渡す。
ネオンが一瞬にして全て消え、辺りの雑音の一切がかき消えた。
月は淀んだ暗い緑の光を地上に堕とし、ビルとネオンの立ち並ぶ街並みを縫うように、暗い月光を浴びる棺桶が至る所に立ち並んだ。
「………」
一瞬放心した後、双葉の背中に寒気が走り、身震いする。
「何、これ…」
と、言いながら、双葉はどこか冷静な自分がいることに気づき、違和感を覚えた。
何だ、この感触。
どこかで見た、感じた、ような…デジャビュ…?

おいでえ。

後頭部の奥に、ずん、と重く響く、声。
それは子供のようでもあり、子供を誘う大人の声のようでもあり、男でも、女のようでもあり…。
耳障りなノイズの混ざった、重く、頭にのしかかって潰してくるような低い声色。

おいでえ。

おいでえ。

おいでえ。

その声の主が、すぐ背後にいる。
怖い。怖いのに、脚がすくんで棒立ちのまま動けない。
鼻の奥を、つんと刺す、血なまぐさい匂い。
見れば、血だまりが出来ている。
大きな、大きな血だまりが、自分の足下から広がって、背後の陰を映す。

その姿に、双葉はおそるおそる振り返る。

そこには、巨大な異形の陰が彼を見下ろして、にたりと冷たい微笑みを浮かべていた。












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