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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

研究室 in ヒゲと糸目。
*
「…ほお、それじゃあ、経営の勉強をするために上京したのか」
「まあ、それもあるって事です」

数時間後。

新入生の糸目くん・阿南敦と、白衣のヒゲ院生・安藤夏彦は、安藤の研究室…もとい、半仮眠用・半根城状態と化した研究棟の一室に居た。
手狭な室内には研究資料の束と山、ビーカー・フラスコ・メスシリンダーに顕微鏡など、研究器具と一緒くたになって雑誌、お菓子の山、インスタントコーヒーの徳用パックが山積みのまま無造作に積み上げられており、微妙なバランスで支えられた器具棚の脇で、先程攪拌中だと言っていたピンクの溶液がぽこぽことアルコールランプに熱されて泡だっていた。
並列されたカセットコンロ上にはステンのヤカンが置かれ、今し方沸いたばかりで注ぎ口から湯気が細く立ち上って揺れている。

研究室と言う割に埃っぽくカビくさい室内で、敦は左右上下を今にも倒れて降ってきそうな書類とレポートの束に囲まれて、身を小さくしてコーヒーをすすっていた。
この部屋の主は非常に危ういバランスの室内を気に留めるそぶりも無く、システムチェアをきしらせて、蒸発痕の残るビーカーを手づかみして普通にコーヒーをぐびぐび飲んでいる。

手慣れきった感じが、もはや突っ込むよりも清々しささえ感じてしまうから困る。

「僕の実家、地元では有名な酒蔵なんです。
今はいとこのお兄さん夫婦が切り盛りしてくださってますが、いずれは僕が跡を継がないといけません。だけど、いつまでも昔ながらの商売だけではやっていけないだろうと思うんです。で、一念発起して、一番最先端の経営学とマネジメントを学ぶためにここへ来たんです。
この大学、開校してまだ十年も経ってないけど評判はすこぶるいいですねよ。
学科だけでなくて、最先端の設備、講師陣も選りすぐりの人材揃いで、次世代型教育システムだと…」
「ああ、まあ触れ込みはそんなだったな。
学生寮完備、学内ネットワーク完備…講師も授業も内容は充実してるが、提出期間も講義内容もまったりしててキャンキャン言われんし、確かに、ハンパな私大よりかはずっと居心地良いぞ。結果さえ出してれば、学校側も研究資金を融通してくれる。
俺のような苦学生には、有難い話だ」
「安藤先輩は、特待生なんですか?」

このアーサー国際大学でも特待生制度を設けており、学長の認可した生徒には学費免除や研究資金・施設の提供が為されると、敦は聞いていた。

「ああ、学費や研究費の一部援助程度だがな。学費全額免除っていうような、俺より凄いのも居ると聞いているが」
「それが噂の!!」
やたらと食い付きのいい敦に、一瞬夏彦のヒゲ面が曇る。

「…まさか、お前さん、それ目当てで来たのか?」
「あ、えっと…いやあ…その」
興奮がスッと引いて、敦は照れくさそうにぽりぽりと頭を掻く。

「…じゃあ、やっぱりおられるんですか?一時話題だった…」
「『日本一のクイズ王』…だとか言ったな。確か、小学生時分からあらゆるクイズ番組を荒らしてた小僧だったか?名前は…」

「イオリ。安佐庵、です」
断言する敦に対し、至極冷静な面持ちで夏彦は首を左右に振った。

「そうそれだ。…悪い事は言わん。アイツに用があるなら新潟帰れ。
今のあれにクイズの話題はタブーだそうだしな」
「ええっ!でも、いきなり何でですか?だってあの人は…」

「お前、随分詳しそうな口ぶりだな。だったら分かるだろ?二年前の「事故」を…」

「…あっ、あー…だけど、あれはイオリさんのせいじゃないんじゃ…」
「いや、結局はあいつの不徳の致したところだろうさ。それを恥じ入って、今は気楽な大学生生活をしている、そうだ」
「ご存じなんですか?イオリさんの事」

問われて、一瞬逡巡した後に夏彦は「面識は」とだけ答えた。

「へぇー、凄ーい!どんな縁で?あのあの、普段どちらにおられるかとか、ご存じ無いですか?」
「大体噂で把握しているが、教えん。というか、学内で道に迷ってるような方向オンチのお前さんに危なっかしくて教えられるか!」
「え~……」

あからさまにがっかりしたのが分かって、夏彦は渋い面で白衣のポケットをまさぐるとビスコを取り出し「食え」と無理矢理握らせる。

「あ、あの、有難うございます」
「まあ、甘いものでも食って落ち着け。そして、あいつには関わらんでよろしい。…お前さん、そんなにクイズ好きなのか?」
「はい!大好きです!!小さい頃からテレビでいっつもクイズ番組見て育ちましたから!」
敦の大人しい外見に反したテンションの上下の激しさに閉口しつつ、やたらと食い付きの良い後輩に夏彦は僅かに苦笑を漏らす。

「ほー、例えば?」
「えーと…まず高校生アカデミッククイズは外せないですよね。
あれは僕らクイズ好きの甲子園、登竜門みたいなものですし…。
他にはウルト●クイズでしょう、平成●育委員会でしょう、マジ●ル頭脳パワー、クイズ●人に聞きました、ヒン●でピント、クイズ●ービーに、ア●ック25、世界まる●とHOWマッチ、クイズ●白ゼミナール、最近ならサル●エとか、ネ●リーグとか、IQサ●リにヘキ●ゴンとか。でも僕、ヘ●サゴンの今の形式好きじゃなくてもっと…」
「…お前さん、本当に二十歳前か?なにげに、俺の世代でも厳しいラインナップだぞ?(今の若い子にクイ●ダービーやヒントで●ント分かるのか?)」
「えっへへ、ウチの父さんクイズ好きで、結構古いクイズ番組のビデオ持ってたんです」
ちょっとテレながらも得意げな敦を見て、ふーむ、と短く唸った後、夏彦の顔がにわかに引き締まる。

「その知識、本当かどうか尋ねて良いか?クイズダービーの司会は」
「大橋巨泉さんです」
「ヒントでピントのおっかさんと言えば?」
「小林千登勢さんです」
「楠田絵里子と愛川欽也…」
「なるほど・ザ・ワールド!」
「…はらたいらさんに」
「五千点!!」

知っていれば簡単な問題ばかりぶつけてみたとはいえ、この嬉々とした表情、そして答えきった満足げな笑顔。
夏彦の中に、一つの確信が芽生えた。

間違いない。こいつ、クイズバカだ。
…自分と同じく。

「…よし」

「?」

「お前さんとは何か縁を感じる。
いや、今非常に感じた。

どうだお前、クイズ研究サークル 作 ら な い か ?」

「へ?」
何を言われているのか分からずきょとんとしている敦の肩を、夏彦の大きな肉厚の掌ががっちり掴んでもみしだく。
「あい、いた、いったたた」
とても理系とは思えない、ぐりぐり骨の関節まで響くような腕力に敦は顔をしかめるも、対照的に夏彦は満面笑顔である。
「…待った、待ち侘びたぞこの瞬間を。苦節五年、遂にサークルを立ち上げられる日が来ようとは!」
「いたいたいった、痛いですよう!ちょっと、ちょっとちょっと待って下さいよ!」
「おおっとスマン、嬉しくてつい興奮しちまった」
慌てて掴んだ肩を離すと、夏彦の両手が再び白衣のポケットに突っ込まれ、中からアーモンドもなかと抹茶ビスコが出てきた。
「まあ食え。おごりだ」
おそるおそるアーモンドもなかと抹茶ビスコを受け取り、敦がそれを開封していると、既に夏彦の手にはイチゴビスコとレーズンウィッチが。
「(一体この人、どんだけポッケにお菓子詰めてるんだろう…)
あ、有難うございます…サークル、まだなかったんですか?意外ですね」
「ああ、そうなんだ…本当なら、一年前には立ち上げられたはずだったんだ…あいつらさえ入ってりゃあなあ…」
ビスコを噛み砕く夏彦の遠い目線がどこに向けられているのかを察し、敦は「もしかして」と呟く。

「…そうだ、安佐とあいつの連れの安住 晶(あずみ あきら)!…あの、高校生アカデミッククイズに燦然と輝く偉業を成し遂げた三人組のウチ二人が同じ大学に来たらそりゃ期待くらいするだろう?!…だのに、ああ、勿体ない!」
口の中にモノを詰めたまま、まくし立てる夏彦から飛んでくるビスコのカスを避けつつ、敦は災難の後の幸運な偶然に興奮しつつも感謝していた。

これで関東に上京したもう一つの目的、自分たち高校生クイズファンの憧れだった人物に生で会えるかも知れない!

「先輩、面識があるって言われてましたけど、何か、あったんですね?
教えて下さい、安藤先輩の好きなクイズも知りたいですけど、まずはイオリさんと安住さんの事を!」













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