悪魔の甘い囁き。
*
翌日夜。
バイトを終えた庵は気分転換にゲーセンへと足を運んでいた。
その名も「ピンポンDASH」。
店舗の規模は小さいが、二階建ての建物内には最新ゲームがずらりと並んでいる。
ついこの間まで金物屋だった場所に突如出来た最新設備のゲーセンは、アン大向かい側のコンビニ隣という好立地条件からアン大生の新しい憩いスポットとなっていた。
自動ドアを入り、一階にひしめく格闘ゲーム・クレーンゲームを一瞥し、通り過ぎると二階へ向かう。
勝ち気そうな見た目に反し、昔から庵は格闘ゲームもクレーンゲームも苦手中の苦手だった。思いとは裏腹に身体がついていかないのである。
二階に上がると、そこはその他様々なジャンルのゲームがひしめいている。
QMA、バイオ、タイピングゲー…。
「ああ、庵先輩」
中でモップ掛けと筐体の画面清掃をしていた店員の青年が、周囲をキョロキョロ見回している庵を見つけると、にこやかに話しかける。
「オッス、アメゾウ!遊びに来たぞ~」
「どおもっす」
アメゾウ、と呼ばれた青年は、一礼するとにっこり笑い返す。
庵のモツ鍋屋のバイト仲間で、名前は雨宮慶三という。
十九歳だが、大学には通っていない。
高校を中退して、それからずっとバイトしながら生計を建てている。
掛け持ちでゲーセンとモツ鍋屋のバイトをこなしているため、今日は祖父の経営しているゲーセン手伝いなのである。
「バイト帰りっすか?」
「うんそう」
庵の満足そうな笑顔に、アメゾウもつられて笑みがこぼれる。
ナンというか、子供が力一杯歯を見せて笑いかけてきているような気分になる。
大方バイト先の賄いをたらふく食って帰ったのだろう。まあ、頭の回転が人の何倍も利く人だから、店長も何も言わないし自分も世話になってるし。
「お前のじいさんがやってた金物屋、本当にゲーセンになったんだな…」
「そうなんすよ。何か、SIGAの営業さんにそそのかされたみたいで。
SIGAって分かりますよね?
ヴァー●ャファイ●ーとか、ドリ●ャスとか出してたゲーム会社なんすけど。
そことコインランドリーと迷って、こっちにしたんですけどお陰様で先輩たちアン大の学生さんや瀬賀大からもお客さんが来てくれてるみたいで、今のとこ順調みたいっす」
「そんならいいけどさ。お前が去年の年末に真っ青な顔して、
『じいちゃんが騙されかかってる!』…とか相談に来るから一時マジで心配してたんだ」
「あはは、サーセンwでもまあ、ぶっちゃけ金物屋よりかはこっちのが店番も楽しいっす」
「だよなー」
顔を見合わせて笑うと、「ああそうだ」とアメゾウが店の奥の筐体を指差す。
「先輩、なんなら遊んでいきません?昨日稼働したばっかの新台があるんすけど、先輩かなり向いてるかもしんない」
「何?俺、格ゲーは無理だぜ」
「いや、ある意味近いですけど違います。
全国の猛者と別のものでオンライン対決するゲームなんですけどね…」
「別のものって?麻雀とかか?俺ギャンブルものもダメだぞ」
ノンノン、とアメゾウは指を振って見せる。
「クイズですよ、クイズ。
…アバターを介した、ネットワーク対戦型クイズゲーム。
しかもオンラインバトルだから顔も見えないし。思いっきり早押しボタンも叩けますよ」
後々まで、庵はふと思い出す事がある。
思えば、これこそが、悪魔の囁きであった、と。
そこで頑として止めておけばよかったものを、と。
「へ~…でも、俺、もうクイズは卒業したから…」
そう、クイズは卒業した。
そう親友の晶にも明言してクイズから身を引いた自分だ。
それなのに、遊びとはいえクイズに触れるのは、まずい。
冷や汗混じりにお断りしようとした庵を、アメゾウは悪びれもせず「まあそう言わずに」と引き留める。
「ならテストですよ、可動テスト!
…先輩、「本物の」早押しボタンのレスポンスも熟知してるんでしょう?
ちょっと試してみて下さいって!
…実は、昨日から何でかボタン反応とネット接続状況が鈍くって…客からクレーム来るんで朝からずっと調整し続けてたんですよ。
で、さっき済んだとこでして。試しにワンプレイ、おごりますよ?」
「おごり?…あっ、いややっぱり…」
「ね?どうです?…この通り、お願いしまっす!」
手と手を合わせて頭を下げるアメゾウの姿に、庵は心の導火線が緩んだのに気付くも、時既に遅し。
彼の口は、素直な欲求に抗えずポロリと本音をこぼしてしまった。
「やる」
悪魔の誘いに、見事にかかった瞬間だった。
翌日夜。
バイトを終えた庵は気分転換にゲーセンへと足を運んでいた。
その名も「ピンポンDASH」。
店舗の規模は小さいが、二階建ての建物内には最新ゲームがずらりと並んでいる。
ついこの間まで金物屋だった場所に突如出来た最新設備のゲーセンは、アン大向かい側のコンビニ隣という好立地条件からアン大生の新しい憩いスポットとなっていた。
自動ドアを入り、一階にひしめく格闘ゲーム・クレーンゲームを一瞥し、通り過ぎると二階へ向かう。
勝ち気そうな見た目に反し、昔から庵は格闘ゲームもクレーンゲームも苦手中の苦手だった。思いとは裏腹に身体がついていかないのである。
二階に上がると、そこはその他様々なジャンルのゲームがひしめいている。
QMA、バイオ、タイピングゲー…。
「ああ、庵先輩」
中でモップ掛けと筐体の画面清掃をしていた店員の青年が、周囲をキョロキョロ見回している庵を見つけると、にこやかに話しかける。
「オッス、アメゾウ!遊びに来たぞ~」
「どおもっす」
アメゾウ、と呼ばれた青年は、一礼するとにっこり笑い返す。
庵のモツ鍋屋のバイト仲間で、名前は雨宮慶三という。
十九歳だが、大学には通っていない。
高校を中退して、それからずっとバイトしながら生計を建てている。
掛け持ちでゲーセンとモツ鍋屋のバイトをこなしているため、今日は祖父の経営しているゲーセン手伝いなのである。
「バイト帰りっすか?」
「うんそう」
庵の満足そうな笑顔に、アメゾウもつられて笑みがこぼれる。
ナンというか、子供が力一杯歯を見せて笑いかけてきているような気分になる。
大方バイト先の賄いをたらふく食って帰ったのだろう。まあ、頭の回転が人の何倍も利く人だから、店長も何も言わないし自分も世話になってるし。
「お前のじいさんがやってた金物屋、本当にゲーセンになったんだな…」
「そうなんすよ。何か、SIGAの営業さんにそそのかされたみたいで。
SIGAって分かりますよね?
ヴァー●ャファイ●ーとか、ドリ●ャスとか出してたゲーム会社なんすけど。
そことコインランドリーと迷って、こっちにしたんですけどお陰様で先輩たちアン大の学生さんや瀬賀大からもお客さんが来てくれてるみたいで、今のとこ順調みたいっす」
「そんならいいけどさ。お前が去年の年末に真っ青な顔して、
『じいちゃんが騙されかかってる!』…とか相談に来るから一時マジで心配してたんだ」
「あはは、サーセンwでもまあ、ぶっちゃけ金物屋よりかはこっちのが店番も楽しいっす」
「だよなー」
顔を見合わせて笑うと、「ああそうだ」とアメゾウが店の奥の筐体を指差す。
「先輩、なんなら遊んでいきません?昨日稼働したばっかの新台があるんすけど、先輩かなり向いてるかもしんない」
「何?俺、格ゲーは無理だぜ」
「いや、ある意味近いですけど違います。
全国の猛者と別のものでオンライン対決するゲームなんですけどね…」
「別のものって?麻雀とかか?俺ギャンブルものもダメだぞ」
ノンノン、とアメゾウは指を振って見せる。
「クイズですよ、クイズ。
…アバターを介した、ネットワーク対戦型クイズゲーム。
しかもオンラインバトルだから顔も見えないし。思いっきり早押しボタンも叩けますよ」
後々まで、庵はふと思い出す事がある。
思えば、これこそが、悪魔の囁きであった、と。
そこで頑として止めておけばよかったものを、と。
「へ~…でも、俺、もうクイズは卒業したから…」
そう、クイズは卒業した。
そう親友の晶にも明言してクイズから身を引いた自分だ。
それなのに、遊びとはいえクイズに触れるのは、まずい。
冷や汗混じりにお断りしようとした庵を、アメゾウは悪びれもせず「まあそう言わずに」と引き留める。
「ならテストですよ、可動テスト!
…先輩、「本物の」早押しボタンのレスポンスも熟知してるんでしょう?
ちょっと試してみて下さいって!
…実は、昨日から何でかボタン反応とネット接続状況が鈍くって…客からクレーム来るんで朝からずっと調整し続けてたんですよ。
で、さっき済んだとこでして。試しにワンプレイ、おごりますよ?」
「おごり?…あっ、いややっぱり…」
「ね?どうです?…この通り、お願いしまっす!」
手と手を合わせて頭を下げるアメゾウの姿に、庵は心の導火線が緩んだのに気付くも、時既に遅し。
彼の口は、素直な欲求に抗えずポロリと本音をこぼしてしまった。
「やる」
悪魔の誘いに、見事にかかった瞬間だった。
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