君の名は。
*
すぐ隣の座席が横へ転がり、床上で派手な音を立てて転がる。
その隣に、角刈りも仰け反って転び落ちる。
予想外な彼女の行動に、庵は反動で背中から押し倒され、したたか腰を打って顔をしかめた。
「い、いたた…」
頭をさすり、上体を起こした彼の膝上で、のどかははたと自分の行動に気付いて赤面するも、偶然の出会いに目を潤ませていた。
「あ、ご、ごめんなさい…
イオリ君…安佐、庵君でしょ!?
あ、会いたかったです!…ずっと会いたかったんです!もう一度貴方に!
…私の事、覚えてないですか?って、覚えてるはずないか…」
「へ?え、まさか…俺の知ってる人…」
床にへたりこんだままポカーンとなっていた庵の表情が、にわかに引き締まる。
のどかを凝視したままの両目の奥で、彼の瞳孔が微かに伸び縮みする。
それはまるで、精巧なカメラのピントを合わせるかのように。
「スミマセン、本当にごめんなさい、いきなり…どこか痛みますか?
ああでも何だか嘘みたい!こんな偶然あるなんて…」
「へ、あ?!」
起こした上体に再びむぎゅうっ、と抱きつかれ、庵の口から素っ頓狂な声がこぼれる。
密着した上半身、…特に胸元に、胸元に生暖かい膨らみの感触がいたします。
白いサテンシャツとブラジャー越しだと分かっていながら、柔らかな二つの丸みが己の薄い胸板にも伝わって、否応無しに庵の頬は紅潮する。
脳内思考回路が興奮とアクシデントでグルグル回る。
何だこの美味しい…いや、唐突な展開は一体。
しかも何だか、今現在密着している彼女の肩越しにもの凄い勢いで睨んでる人が二人いるんですけど。
しかも、すっごいいかついんですけど。
「おい」
角刈り男の殺気満面不機嫌全開な押し殺した声色が、庵とのどかの下腹にズン、と響く。
ドスの利いた男の声に、のどかの顔面からサッと血の気が引いたのを見て、庵はのどかの肩にそっと力を込めて立ち上がった。
「何だお前」
けげんそうな男二人の顔をしっかり見据えて、庵は気丈に睨み返す。
「…アーサー国際大学二年、安佐。安佐、庵」
「アン大の奴か。…女はいいが、野郎はおよびじゃねえや。
むしろウザイんだよな。帰れよ」
「嫌だ。断る」
「何ぃ?」
凄んでみせる角刈りを、金髪が制して「おい」と庵の顔を指差す。
「お前…まさか、昔テレビに出てた」
言われて、「ああ!」と角刈りも大袈裟に反応する。
「何か聞いた事ある名前だと思ったら…クイズ王!
アカデミッククイズの高校生クイズ王だった!」
過去の栄光を指摘され、僅かに庵の口元に苦笑が浮かぶ。
「ああ、そうだ、間違いない!このタヌキみたいなダセエ顔!」
「ちょっと、何てこと言うのよ!自分だって潰れたカマドみたいな顔してるくせに!!」
「ああん!?てめえ、女だからって調子こいてんじゃねえぞ!いい加減にしねえと…」
ひるんで悔しそうに唇を噛むのどかの肩に、庵はそっと手をかけ抱き起こす。
「ああ、いいよ。……アンザイ、さん。じっとしてて」
「え?」
名乗った覚えは無い。いや、一度面識はあるが覚えているはずが…。
口パクで、庵の口元が微かに動く。
ア ウ ア イ 、オ オ ア 。 母音で、確かにそう動いた。
「( ア ン ザ イ ノ ド カ )」
続けて、音のない口元が素早く言葉を連ねる。
「( … ア ッ テ ル ? )」
あ、と彼女の目が見開かれたのを見て、庵はにっこりと笑った。
通じたと分かったのだ。
「(覚えててくれた)」
のどかの瞼が、胸の奥が熱くなる。
「(庵君、…私の事、覚えてた…)」
声に出せない喜びが全身を駆け巡って、今にも涙がこぼれそうになった。
すぐ隣の座席が横へ転がり、床上で派手な音を立てて転がる。
その隣に、角刈りも仰け反って転び落ちる。
予想外な彼女の行動に、庵は反動で背中から押し倒され、したたか腰を打って顔をしかめた。
「い、いたた…」
頭をさすり、上体を起こした彼の膝上で、のどかははたと自分の行動に気付いて赤面するも、偶然の出会いに目を潤ませていた。
「あ、ご、ごめんなさい…
イオリ君…安佐、庵君でしょ!?
あ、会いたかったです!…ずっと会いたかったんです!もう一度貴方に!
…私の事、覚えてないですか?って、覚えてるはずないか…」
「へ?え、まさか…俺の知ってる人…」
床にへたりこんだままポカーンとなっていた庵の表情が、にわかに引き締まる。
のどかを凝視したままの両目の奥で、彼の瞳孔が微かに伸び縮みする。
それはまるで、精巧なカメラのピントを合わせるかのように。
「スミマセン、本当にごめんなさい、いきなり…どこか痛みますか?
ああでも何だか嘘みたい!こんな偶然あるなんて…」
「へ、あ?!」
起こした上体に再びむぎゅうっ、と抱きつかれ、庵の口から素っ頓狂な声がこぼれる。
密着した上半身、…特に胸元に、胸元に生暖かい膨らみの感触がいたします。
白いサテンシャツとブラジャー越しだと分かっていながら、柔らかな二つの丸みが己の薄い胸板にも伝わって、否応無しに庵の頬は紅潮する。
脳内思考回路が興奮とアクシデントでグルグル回る。
何だこの美味しい…いや、唐突な展開は一体。
しかも何だか、今現在密着している彼女の肩越しにもの凄い勢いで睨んでる人が二人いるんですけど。
しかも、すっごいいかついんですけど。
「おい」
角刈り男の殺気満面不機嫌全開な押し殺した声色が、庵とのどかの下腹にズン、と響く。
ドスの利いた男の声に、のどかの顔面からサッと血の気が引いたのを見て、庵はのどかの肩にそっと力を込めて立ち上がった。
「何だお前」
けげんそうな男二人の顔をしっかり見据えて、庵は気丈に睨み返す。
「…アーサー国際大学二年、安佐。安佐、庵」
「アン大の奴か。…女はいいが、野郎はおよびじゃねえや。
むしろウザイんだよな。帰れよ」
「嫌だ。断る」
「何ぃ?」
凄んでみせる角刈りを、金髪が制して「おい」と庵の顔を指差す。
「お前…まさか、昔テレビに出てた」
言われて、「ああ!」と角刈りも大袈裟に反応する。
「何か聞いた事ある名前だと思ったら…クイズ王!
アカデミッククイズの高校生クイズ王だった!」
過去の栄光を指摘され、僅かに庵の口元に苦笑が浮かぶ。
「ああ、そうだ、間違いない!このタヌキみたいなダセエ顔!」
「ちょっと、何てこと言うのよ!自分だって潰れたカマドみたいな顔してるくせに!!」
「ああん!?てめえ、女だからって調子こいてんじゃねえぞ!いい加減にしねえと…」
ひるんで悔しそうに唇を噛むのどかの肩に、庵はそっと手をかけ抱き起こす。
「ああ、いいよ。……アンザイ、さん。じっとしてて」
「え?」
名乗った覚えは無い。いや、一度面識はあるが覚えているはずが…。
口パクで、庵の口元が微かに動く。
ア ウ ア イ 、オ オ ア 。 母音で、確かにそう動いた。
「( ア ン ザ イ ノ ド カ )」
続けて、音のない口元が素早く言葉を連ねる。
「( … ア ッ テ ル ? )」
あ、と彼女の目が見開かれたのを見て、庵はにっこりと笑った。
通じたと分かったのだ。
「(覚えててくれた)」
のどかの瞼が、胸の奥が熱くなる。
「(庵君、…私の事、覚えてた…)」
声に出せない喜びが全身を駆け巡って、今にも涙がこぼれそうになった。
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