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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

ヒゲ、買い物帰り。
*

数時間後。
ゲーセン「ピンポンDASH」前は異様な人だかりが出来ていた。
大半はアン大生らしき若い人影の輪。
それに紛れてリーマンや主婦、小学生が遠巻きに店内を覗き込んでいる。

「何だありゃあ?」
「さあ…」
後輩の敦を伴って、研究資材と駄菓子を買い込んで大学へ戻る途中だったヒゲ白衣・夏彦は二重三重の人混みをけげんそうに窺う。
「あのぅ、これ何のイベントですか?」
敦が、それとなく側にいたリーマンの男に尋ねると、彼は大きな窓張りの2階部分を指差す。
「ん?
ああ、何かね、さっきから有名人がゲームで瀬賀大学の学生さんと対戦してるって。
あそこの生徒さん、結構優秀だって聞いてたけどもう一時間以上負け続けてるらしいよ。ボロボロに」
「ゲームって何の?」
「クイズのゲームだってさ」

あ、と敦の頭の中で豆電球が閃く。
クイズで、有名人で、この近所に居るって言うなら…。

「そう大した問題じゃないそうなんだけど、出る問題出る問題全部先に答えられて、ボタン押す隙も無いって。中は異様な雰囲気に包まれてるよ。
何時の間にやらギャラリーが2階に集まって観戦してる。
中には対戦希望者も出てるみたいで…」
「すみません、その有名人って、誰ですか!?」
敦の強い語調に、リーマンは一瞬眉をひそめるも、困惑気味に「名前は忘れたなあ」と答えた。
「…だけど、確か二・三年前に高校生のクイズ番組に出てた子だよ。
三人組で『トリプルA』とか名乗ってたグループのリーダーだった…」
「…やっぱり!それ、イオリさんだ!!」
「あっ、待て敦!荷物が、ビスコが人混みで潰れるだろうが!!」
大量の紙袋を提げたまま、矢の如く人混みへ駆け込んでいった敦を追って、夏彦も押し合いへし合い店内へ押し入る。

彼は気付いていなかったが、夏彦の大柄な身体が人混みを押しのける背後を縫って、更に別の男も店内へと割って入ってきていた。

別のアーケードゲームの筐体座席、さらには階段の下から上までギャラリーが列を連ねて上を見ている。
順番待ちらしいゲーマーたちの列に割り入り、ムッとした視線を背中に浴びながらもみくちゃにされて、どうにか2階へと昇った敦の目に飛び込んできたのは、ギャラリーの中心にぽっかりと切り取られたような、ピンと空気の張りつめた戦いの空間だった。

「アンサー×アンサー」の筐体前に四人。
二人一組で二つの筐体を占拠して店内対戦を行っているようだ。
片方は見るからにムサイ男二人。
角刈りと金髪の額には、いずれも脂汗と苦渋がありありと浮かんでいる。

もう片方は男女のペア。といっても、女性の方は早押しボタンに手をかけていない。
隣で黙々とゲームに興じる青年の動向をまじまじと見守っているようだった。
青年の表情は硬い。
むしろ、無表情と言った方が良いかもしれない。
しかし、見開かれたままの目の奥には、確かな勝利への強い意志が誰にも見て取れた。

『第二試合、早押しクイーーズ!!』

筐体から、ノリの良い男性アナウンサー風の掛け声が店内に響き渡る。
皆無言だ。
他の筐体から聞こえるデモ画面の音も霞むほどに、全員が彼らクイズゲーム対決の動向に注目していた。

リザルトされた問題ジャンルの円マークが弾丸のようにくるりと回って装填される。
『第一問!Jリーグで九しゅ…』

ピンポーン!!
『自信あり!』と男女ペア側のデフォルトの男性アバターが自信満々にボタンを強打する。

正答文字数、五文字。
選択肢【ア】【サ】【ベ】【フ】。

青年は一瞬の逡巡の後、タッチパネルに手早く答えを入力する。

【サガンとす】

『正解!!』正解のピンポン音が小気味よく鳴り響く。

おーっ、と観客からどよめきが起こる。
「なあ見たか?さっきからずっとああなんだぜ。隣の瀬賀大生、ちっとも押せてねえし」
「つーか、押す暇無いだろ。押す以前に相手に押されてるし」
「あいつに勝ったら五万円てマジなの?無理無理。俺絶対無理だわ」

確かに、遠目に見ていても問題を視認した瞬間に押しているようなスピードである。
最初から答えが分かってるんじゃないかと思うような高速早押し。
敦は、込み上げてくる情熱に全身が震えた。

やっぱり、安佐さんだ!…クイズの腕前、全然衰えてなかったんだ!!

興奮で頬が紅潮する敦の隣では、庵の同級生らしき経済学部の生徒もいた。
彼らの口元には、もはや為す術無く座っているだけの瀬賀大生に対する失笑が込み上げていた。

「瀬賀大つったって、あんなもんか。
俺等アン大の事バカにしてる割にはウチの安佐にボコボコにされてるじゃん?」
「だよなー。名門国公立も、大したことないねぇ」
「つか、あいつら本当に瀬賀大の奴らか?あったま悪そうじゃね?」

「あれはダラダラ留年してるモラトリアムな連中だ。現役生と一緒にすんなカスが」

突然の低い声色に、声の周囲だけでなく敦までもがビクッ、と身を竦ませてしまう。
デニムジャケットに着古した風の擦り切れたジーパン。
特徴的なソフトモヒカンの、精悍な青年が声の主らしい。

「何だお前?…瀬賀大の学生?」
「ああ」
「へえー、こんなとこ居て恥ずかしくないの?」
「自信あるのか?そんなら後で俺とあのゲームで勝負するか?
…遠巻きからしか文句言えないならどけよ。邪魔だから」
「何ぃ!?」
「うざい。
そんなのだから、瀬賀大生にアン大が低く見られてるのに気がつけよ。
優秀な奴は優秀だって、あいつみたいに見せつけてみろよ」

『第二問!ゆ…』
ピンポーン!!
『正解!!』

『第三問!な…』
ピンポーン!!
『正解!!』

『第四問!が…』
ピンポーン!!
『正解!!』…

問題の掛け声が為される度に、庵の眼の奥、黒い瞳孔が角膜の中で伸び縮みし、問題が出た直後、瞬間的にピントフォーカスされているのがのどかにも分かった。
それは正確かつ狂いの無い所作。ピンと張りつめた空気を刻む、息を飲むのも躊躇われるほどの一瞬を読みこむ集中力。
大きな黒目がちの瞳の奥で、小さく絞られたままの瞳孔がきろきろと瞬く。

『タイムアップ!』

先程の青年の指差す先では、既に何度となく繰り返されたクイズ勝負の結末が表示されていた。
60点 対 0点。

筐体のモニタ前に角刈りは突っ伏し、金髪は放心状態で、何十回と繰り返した試合結果を醒めない悪夢のように眺めていた。

押せない。押せない。答えが分かる前に、既に回答権が消えている。

コンマ数秒、こちらが脳内で問題を解析している時点で、既に相手は回答を用意してボタンを押している…。
焦れば焦るほどに、質問と回答の回転スピードが上がり、気付けば相手に呑まれている。

対戦相手=安佐 庵は、背筋を伸ばし、早押しボタンから手を離すと掌で両目を包み込み、堅く強く瞼を閉じる。
次に顔を起こし目を開くと、瞳孔は普段と変わらぬ大きな黒目の奥でつぶらな光を放っていた。

「まだやる?」

財布から五万円を取り出し、目の前にひらひらさせて、庵は子供のように屈託無く笑って見せた。

初めまして!
少し前からちょこちょこ覗いています。

なんだか面白い展開になってきましたね。これからも楽しみにしてますので、更新頑張って下さい☆

2008.04.15 00:42 URL | カラン #guRgTqeo [ 編集 ]

>>カラン様

うおっ、コメ頂いた!
有難うございます!
拙い文書きですが、地道に努力しますんで、また遊びに来てくださいね~頑張ります~。

2008.04.15 01:20 URL | ハチヤ #- [ 編集 ]












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