※明日から週末まで東京に行ってきます。
クイズ脳。
クイズ脳。
*
「クイズ脳?」
最寄りの商店街にほど近い、夜のファミレスの一角。
一番奥の座席を占拠し顔を付き合わせる男女合計七名の姿があった。
中央やや右寄りの席に座るロン毛の青年=安住晶は、首を傾げる一同を前に「そうです」と、ごく当たり前のようにさらりと答えた。
「庵はクイズ脳。こう形容するのが一番手っ取り早いんだけど…やっぱり、もっと細かく説明した方がいいかな?」
「そりゃ勿論だ!そんな意味不明な説明じゃあ、さっぱり納得がいかん!」
思わず、ヒゲ白衣=夏彦の拳が卓を力強く叩き派手な音を立てる。
「おいヒゲ!興奮すんなよ、コーヒー零れるだろうが」
「む、すまん…」
ショート先輩茜坂に注意され、夏彦が首をすくめると代わりに糸目の青年=敦が口を開いた。
「そうですよ、僕も安藤先輩も、そこの理由をキッパリすっぱり問い正しに来てるのに!」
「だよね。だけど、細かく説明しようと思うと面倒くさいんだよね…だけど」
ちら、と晶の視線が右隣の青年へと向けられる。
卓上の三分の一を占める空の皿。
メニューのオーダーを列挙してみよう。
まずスパゲティナポリタン。
ついでデミグラスハンバーグ特盛。
次にツナたまサラダ、キャロットジュースラージサイズ。
キーマカレーにフルーツホットパイと来て、
今は一口カツ&ステーキ膳を食っている奴が約一名、いる。
上記のメニューを全部一人でたいらげ、現在「シメは甘い物」とジャンボチョコパフェまで頼んでいる。
ちなみに、他のメンバーはとっくに食事を済ませている。
何か追加でメニューを頼めば良いのだろうが、目の前を埋め尽くさんばかりの皿の山にタイミングを逸した感は否めない。
初対面の相手を前に緊張していたのもあるが、あの豪快でフリーダムな彼のオーダーを見ては我もと続けられない空気があった。
食事を続けている本人は「おごるよ」と一言断っていたのだが、逆にこれがいけなかったのかも知れない。
で、当の本人は食うのに夢中である。
隣で可憐な美女二人=のどかと杏奈が、尋常でない食事量を見て額に冷や汗を浮かべている事すら気付いていない風である。
「庵」
「ん」
「食べ終わった?」
「デザートがまだ」
「ここに来てから何分経ってる?」
「今丁度一時間」
………晶の手が背中に伸び、乾いた音がファミレス全体に響き渡った。
何事かと振り返った他の客は、端正な顔をした青年の手には似つかわしくない大坂芸能ツッコミ道具・紅白のハリセンを見つけぎょっと目を剥いた。
「………!……」
後頭部を押さえたままぐうの音も出せないでいる大食ツンツン頭青年=庵を、他六名の意志代弁をするかのように晶は冷ややかな視線で睨め付けた。
「庵君KY。とってもKY。空気読んでくれるかな」
「晶君日本語崩壊格好悪いです」
「じゃあとってもストレートに行くよ。早くメシ食って説明して、終わらせるように。他人の時間を潰してるんだから、手短にかつ的確にね」
「じゃあみんなも何かデザートを頼めばいいと思います!」
「君の食べ終わったお皿がテーブルを占拠してるのに?」
「大変申し訳ございませんでした」
「分かればよろしい」
口答えで勝とうなんて百年早いね、と晶は得意げに髪を掻き上げるとハリセンを背中に収納した。
「 グリコーゲン足りました」
バツが悪そうに口周りをナプキンで拭うと、庵は水を一息で飲み干してトン、と卓に置いた。
「で、どこまで話したっけ?晶」
「クイズ脳って事まで。他には、杏奈さんやのどかさんたちと雑談してたけど」
「……雑談してるなら、晶が説明してくれればいいじゃん…」
「何かいった?」
「無駄口など叩いておりません。はい」
「よろしい。…では、順次庵君に聞きたい事を尋ねてみてね。いっつもこうやって人任せにしようとするから、たまには自分でさせないとね」
「俺、説明とかすっげえ苦手だから嫌なのに…」
ふてくされる庵のほっぺたを、晶はにこやかにコンロのつまみを回すかのように自然な動作でねじって黙らせる。
「じゃあ、僕が質問します!」敦がおずおずと沈黙を破った。
Q:質問者・敦_『クイズ脳って、ナンですか?』
A:回答者・庵_『クイズでしか働かない頭です』
…
……
………
「え、それで終わりですか?」
「そうだけど?」
「…………」
無意味に、沈黙と時だけが流れる。
「………何じゃそりゃああああああああああ!!」
最初にぶちキレたのは、夏彦であった。
今にも卓をひっくり返しそうな勢いで立ち上がると、やおら興奮気味に庵に指先を突き出し語調も荒く詰め寄る。
「意味が分からんわ!このバカちん!きっさま、俺等をバカにしてるのか!?」
「あ、いやそうじゃなくって……えーとえーと、何て説明したらいいんだよ!?」
開始数分で既に涙目な庵に嘆息を漏らすと、晶は「やっぱりダメか…」と困惑気味に額を掻いた。
「安藤先輩、怒らないでください。そして着席してください。…庵は常時こんなんです。今後も付き合う気なら慣れてやってください。自分は分かってても説明が苦手みたいでして…いや、分かってるから説明しづらいのかな?」
「だから晶が説明してくれって言ったのに…」
「そういう事を小学校の頃からずーーーーーっと続けてるから君はいつまでたっても言葉足らずなんだろうが!!いっつもいっつも面倒は僕に押しつけてばっかりのくせにこんのこのこの」
「痛い痛いほっぺた千切れる!千切れる!千切れば千切れる時いたいちちち!」
「…どっちでもいいから、さっさと説明してくんないかな…」
茜の諦めがかった溜息に、やむなく晶は庵の腫れ上がったほっぺたから手を離すと、こほん、と咳払いをした。
【続く】
「クイズ脳?」
最寄りの商店街にほど近い、夜のファミレスの一角。
一番奥の座席を占拠し顔を付き合わせる男女合計七名の姿があった。
中央やや右寄りの席に座るロン毛の青年=安住晶は、首を傾げる一同を前に「そうです」と、ごく当たり前のようにさらりと答えた。
「庵はクイズ脳。こう形容するのが一番手っ取り早いんだけど…やっぱり、もっと細かく説明した方がいいかな?」
「そりゃ勿論だ!そんな意味不明な説明じゃあ、さっぱり納得がいかん!」
思わず、ヒゲ白衣=夏彦の拳が卓を力強く叩き派手な音を立てる。
「おいヒゲ!興奮すんなよ、コーヒー零れるだろうが」
「む、すまん…」
ショート先輩茜坂に注意され、夏彦が首をすくめると代わりに糸目の青年=敦が口を開いた。
「そうですよ、僕も安藤先輩も、そこの理由をキッパリすっぱり問い正しに来てるのに!」
「だよね。だけど、細かく説明しようと思うと面倒くさいんだよね…だけど」
ちら、と晶の視線が右隣の青年へと向けられる。
卓上の三分の一を占める空の皿。
メニューのオーダーを列挙してみよう。
まずスパゲティナポリタン。
ついでデミグラスハンバーグ特盛。
次にツナたまサラダ、キャロットジュースラージサイズ。
キーマカレーにフルーツホットパイと来て、
今は一口カツ&ステーキ膳を食っている奴が約一名、いる。
上記のメニューを全部一人でたいらげ、現在「シメは甘い物」とジャンボチョコパフェまで頼んでいる。
ちなみに、他のメンバーはとっくに食事を済ませている。
何か追加でメニューを頼めば良いのだろうが、目の前を埋め尽くさんばかりの皿の山にタイミングを逸した感は否めない。
初対面の相手を前に緊張していたのもあるが、あの豪快でフリーダムな彼のオーダーを見ては我もと続けられない空気があった。
食事を続けている本人は「おごるよ」と一言断っていたのだが、逆にこれがいけなかったのかも知れない。
で、当の本人は食うのに夢中である。
隣で可憐な美女二人=のどかと杏奈が、尋常でない食事量を見て額に冷や汗を浮かべている事すら気付いていない風である。
「庵」
「ん」
「食べ終わった?」
「デザートがまだ」
「ここに来てから何分経ってる?」
「今丁度一時間」
………晶の手が背中に伸び、乾いた音がファミレス全体に響き渡った。
何事かと振り返った他の客は、端正な顔をした青年の手には似つかわしくない大坂芸能ツッコミ道具・紅白のハリセンを見つけぎょっと目を剥いた。
「………!……」
後頭部を押さえたままぐうの音も出せないでいる大食ツンツン頭青年=庵を、他六名の意志代弁をするかのように晶は冷ややかな視線で睨め付けた。
「庵君KY。とってもKY。空気読んでくれるかな」
「晶君日本語崩壊格好悪いです」
「じゃあとってもストレートに行くよ。早くメシ食って説明して、終わらせるように。他人の時間を潰してるんだから、手短にかつ的確にね」
「じゃあみんなも何かデザートを頼めばいいと思います!」
「君の食べ終わったお皿がテーブルを占拠してるのに?」
「大変申し訳ございませんでした」
「分かればよろしい」
口答えで勝とうなんて百年早いね、と晶は得意げに髪を掻き上げるとハリセンを背中に収納した。
「 グリコーゲン足りました」
バツが悪そうに口周りをナプキンで拭うと、庵は水を一息で飲み干してトン、と卓に置いた。
「で、どこまで話したっけ?晶」
「クイズ脳って事まで。他には、杏奈さんやのどかさんたちと雑談してたけど」
「……雑談してるなら、晶が説明してくれればいいじゃん…」
「何かいった?」
「無駄口など叩いておりません。はい」
「よろしい。…では、順次庵君に聞きたい事を尋ねてみてね。いっつもこうやって人任せにしようとするから、たまには自分でさせないとね」
「俺、説明とかすっげえ苦手だから嫌なのに…」
ふてくされる庵のほっぺたを、晶はにこやかにコンロのつまみを回すかのように自然な動作でねじって黙らせる。
「じゃあ、僕が質問します!」敦がおずおずと沈黙を破った。
Q:質問者・敦_『クイズ脳って、ナンですか?』
A:回答者・庵_『クイズでしか働かない頭です』
…
……
………
「え、それで終わりですか?」
「そうだけど?」
「…………」
無意味に、沈黙と時だけが流れる。
「………何じゃそりゃああああああああああ!!」
最初にぶちキレたのは、夏彦であった。
今にも卓をひっくり返しそうな勢いで立ち上がると、やおら興奮気味に庵に指先を突き出し語調も荒く詰め寄る。
「意味が分からんわ!このバカちん!きっさま、俺等をバカにしてるのか!?」
「あ、いやそうじゃなくって……えーとえーと、何て説明したらいいんだよ!?」
開始数分で既に涙目な庵に嘆息を漏らすと、晶は「やっぱりダメか…」と困惑気味に額を掻いた。
「安藤先輩、怒らないでください。そして着席してください。…庵は常時こんなんです。今後も付き合う気なら慣れてやってください。自分は分かってても説明が苦手みたいでして…いや、分かってるから説明しづらいのかな?」
「だから晶が説明してくれって言ったのに…」
「そういう事を小学校の頃からずーーーーーっと続けてるから君はいつまでたっても言葉足らずなんだろうが!!いっつもいっつも面倒は僕に押しつけてばっかりのくせにこんのこのこの」
「痛い痛いほっぺた千切れる!千切れる!千切れば千切れる時いたいちちち!」
「…どっちでもいいから、さっさと説明してくんないかな…」
茜の諦めがかった溜息に、やむなく晶は庵の腫れ上がったほっぺたから手を離すと、こほん、と咳払いをした。
【続く】
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