※帰宅しますた。
忌まわしい思い出。
忌まわしい思い出。
*
「元々、庵は右脳型なんですよ。しかも結構極端な。
画像や問題を早解き出来るのも、そのためらしいんだよね。
本人の弁いわく」
「それが、いわゆる超記憶の元…『ライブラリ』だというのか?」
夏彦の問いかけに、晶は静かに頷く。
「本人の解釈ではそのようです。
その反面、僕みたいな左脳型、つまり左脳で行うような事務的・論理的な思考が苦手で、計算も数式を解いていると言うよりも、答えが目に浮かぶ、っていう感じらしいんです。
2×4は2が四つだから~、とかでなくて、
2×4、っていう字を見た瞬間、イコール付きで隣に8が見えてるみたいな」
「すっげえ、それ凄い便利だな」
「そう聞こえるでしょう茜さん?…でも、それはあくまで右脳がきちんと働いている場合のみ、なんです。だから、逆に言えば…」
「右脳がきちんと動かないと、さっぱり何にも分からない?っていう事でしょうか…?」
杏奈さん正解、と晶はうやうやしく手を挙げてみせる。
「まあ、極端な話ゼロパーセント使えない、って事はないみたいです。ただ、高三のあの例の「事故」以来、庵の『ライブラリ』はすんごい調子が悪くって…今では平常時にはピーク時の10パーセントくらいしか機能してないって」
ええーっ、とのどかと敦が同じタイミングで揃って声を上げる。
「え、え、じゃあ、さっきのクイズゲームの時…あれ、クイズ王者時代の十パーセントであれだけ出来るんですか!?凄い、凄すぎる」
「そうですよ!やっぱり庵さんはクイズが…」
興奮する二人に冷や水を浴びせるかのように、晶は落ち着いた様子で首を左右に振る。
「そこなんだよ、問題は」
「え?」
「庵の超記憶・脳内図書館『ライブラリ』、これを現役時代=高校クイズ王時代の時ほどまでとはいかないまでも、日常の平凡な状態以上に、しかも一瞬で数十パーセント跳ね上げる方法が、一つある。何だと思う?
…それがクイズ。
庵の一番得意で、一番大好きだったものの形式に則って問いかければ、庵は知っている限り幾らでも、何でも答えられる。
ただし、クイズとは異なる形で問いかけても、イマイチピントがずれるみたいで、そういう時はいつも頭を抱えてるよね。
ピンとこないでしょうから、例を出すよ。
例えば、のどかさんが「こないだのレストラン、味よかったね」と、何気なく尋ねるでしょう?
それだと庵はきっと答えられない。ちょっと苦笑して「そうだね~」で、終わり。
しかし、また別の形で問いかけてみるとします。例えばこんな感じ。
「こないだのレストラン、味よかったね」でなく、
「こないだ行ったレストランのメニュー、覚えてる?日曜日に私と一緒に食べたフレンチ料理だよ?」と、できるだけ詳しく、尋ねるような感じで話しかける。
するとあら不思議、その日食べたメニューからソースの種類、添え物に漬け物のピクルスの枚数までスラスラ答えられるようになる。これが、ミソ」
ほおー、と庵と晶を除く全員の口から溜息が零れた。
「へえ~…でも、それは一体どうしてです?」
「クイズ脳だからさ」
「へ?」
敦のみならず、再び二人を除いて全員がぽかんと首を傾げる。
「俺、クイズ形式でしか右脳使えてないってさ」
明後日の方向を向いたまま、ムダにアンニュイな面持ちで庵がぼそりと答える。
二の句が期待できそうにない庵に代わり、晶が再び代弁に回る。
「…高三の時の件の『事故』…あの忌まわしい『放送事故』のせいで、庵の『ライブラリ』は精神的ショックと恥辱プレー、更にマスコミによる容赦ない追跡によってボロボロになって、今ではどんだけ頑張っても最盛期の20%が限度なんだって。まあ、事故の以前にも、一度ストレスで機能停止してた事もあったぐらいで…とにかく、精神的な好不調に左右されやすい、不安定な能力なんです」
「放送事故、ですか」
「やはり、あれが原因だったか…」
夏彦がアゴの無精ヒゲを撫でる隣で、敦だけでなく他の者も神妙な面持ちで庵と晶の両人を二の句を待つ。
件の『放送事故』。
それは、その場に座っていた誰もが、いやそのファミレス内にいた客でも二言三言キーワードを与えれば「あああれか」と思い出せるような、有名な事件。
今から二年前、庵と晶が高三、最後のアカデミッククイズ。
三連覇を賭けた大会での事であった。
【続く】
「元々、庵は右脳型なんですよ。しかも結構極端な。
画像や問題を早解き出来るのも、そのためらしいんだよね。
本人の弁いわく」
「それが、いわゆる超記憶の元…『ライブラリ』だというのか?」
夏彦の問いかけに、晶は静かに頷く。
「本人の解釈ではそのようです。
その反面、僕みたいな左脳型、つまり左脳で行うような事務的・論理的な思考が苦手で、計算も数式を解いていると言うよりも、答えが目に浮かぶ、っていう感じらしいんです。
2×4は2が四つだから~、とかでなくて、
2×4、っていう字を見た瞬間、イコール付きで隣に8が見えてるみたいな」
「すっげえ、それ凄い便利だな」
「そう聞こえるでしょう茜さん?…でも、それはあくまで右脳がきちんと働いている場合のみ、なんです。だから、逆に言えば…」
「右脳がきちんと動かないと、さっぱり何にも分からない?っていう事でしょうか…?」
杏奈さん正解、と晶はうやうやしく手を挙げてみせる。
「まあ、極端な話ゼロパーセント使えない、って事はないみたいです。ただ、高三のあの例の「事故」以来、庵の『ライブラリ』はすんごい調子が悪くって…今では平常時にはピーク時の10パーセントくらいしか機能してないって」
ええーっ、とのどかと敦が同じタイミングで揃って声を上げる。
「え、え、じゃあ、さっきのクイズゲームの時…あれ、クイズ王者時代の十パーセントであれだけ出来るんですか!?凄い、凄すぎる」
「そうですよ!やっぱり庵さんはクイズが…」
興奮する二人に冷や水を浴びせるかのように、晶は落ち着いた様子で首を左右に振る。
「そこなんだよ、問題は」
「え?」
「庵の超記憶・脳内図書館『ライブラリ』、これを現役時代=高校クイズ王時代の時ほどまでとはいかないまでも、日常の平凡な状態以上に、しかも一瞬で数十パーセント跳ね上げる方法が、一つある。何だと思う?
…それがクイズ。
庵の一番得意で、一番大好きだったものの形式に則って問いかければ、庵は知っている限り幾らでも、何でも答えられる。
ただし、クイズとは異なる形で問いかけても、イマイチピントがずれるみたいで、そういう時はいつも頭を抱えてるよね。
ピンとこないでしょうから、例を出すよ。
例えば、のどかさんが「こないだのレストラン、味よかったね」と、何気なく尋ねるでしょう?
それだと庵はきっと答えられない。ちょっと苦笑して「そうだね~」で、終わり。
しかし、また別の形で問いかけてみるとします。例えばこんな感じ。
「こないだのレストラン、味よかったね」でなく、
「こないだ行ったレストランのメニュー、覚えてる?日曜日に私と一緒に食べたフレンチ料理だよ?」と、できるだけ詳しく、尋ねるような感じで話しかける。
するとあら不思議、その日食べたメニューからソースの種類、添え物に漬け物のピクルスの枚数までスラスラ答えられるようになる。これが、ミソ」
ほおー、と庵と晶を除く全員の口から溜息が零れた。
「へえ~…でも、それは一体どうしてです?」
「クイズ脳だからさ」
「へ?」
敦のみならず、再び二人を除いて全員がぽかんと首を傾げる。
「俺、クイズ形式でしか右脳使えてないってさ」
明後日の方向を向いたまま、ムダにアンニュイな面持ちで庵がぼそりと答える。
二の句が期待できそうにない庵に代わり、晶が再び代弁に回る。
「…高三の時の件の『事故』…あの忌まわしい『放送事故』のせいで、庵の『ライブラリ』は精神的ショックと恥辱プレー、更にマスコミによる容赦ない追跡によってボロボロになって、今ではどんだけ頑張っても最盛期の20%が限度なんだって。まあ、事故の以前にも、一度ストレスで機能停止してた事もあったぐらいで…とにかく、精神的な好不調に左右されやすい、不安定な能力なんです」
「放送事故、ですか」
「やはり、あれが原因だったか…」
夏彦がアゴの無精ヒゲを撫でる隣で、敦だけでなく他の者も神妙な面持ちで庵と晶の両人を二の句を待つ。
件の『放送事故』。
それは、その場に座っていた誰もが、いやそのファミレス内にいた客でも二言三言キーワードを与えれば「あああれか」と思い出せるような、有名な事件。
今から二年前、庵と晶が高三、最後のアカデミッククイズ。
三連覇を賭けた大会での事であった。
【続く】
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