青春の延長戦。
*
「カズミに振られて以降良いこと無しで、学校じゃ笑い物、マスコミにはあることないこと言われて半端無くバッシングされるは誹謗中傷されるは散々な目に遭ったせいで、ストレスからいよいよ機能が低下して、今じゃクイズ形式でしか右脳が上手いこと機能しなくなったとです」
怪しい方言混じりで悲しげにぼそぼそと小声で呟く庵の頭をなでなでしつつ、晶が言葉を続ける。
「だけど、庵みたいな超絶記憶能力はかなり珍しいらしいから、能力開発しないと勿体ないってウチの学長に誘われて、ここの大学で彼専用に組まれたテストを不定期に受ける条件で特別に通わせてもらってるんだ。ウチの学長、脳科学の権威なんだって。
…ああ、勿論クイズ以外の形式で、記憶力と演算能力を有益な方向に使えるような学習方法の習得実践と定期的な知能テストや脳波検査を用いてね」
「成る程、だからクイズはダメだ、と言って断ってきたんだな」
「そうです安藤先輩。
このままクイズさせ続けたら庵は正真正銘のクイズでしか脳みそを使えないクイズ脳のクイズバカになります。
折角、人が羨むような脳みそを持って生まれてるのにクイズでしか使えないなんて…宝の持ち腐れですよ、まんま」
「全くだな…」
当初は強気だった夏彦の表情も、事情が事情だけに険しくなる。
「っつう訳だから、俺はクイズを自重してた、って話。
そんな面白いもんじゃないだろ?
昔の天才なんて、大人になったらこんなもんだよ」
卑下、と言うにはあまりにもあっけらかんと笑いながらフォークを指先で回して遊ぶ庵に、周囲は何と尋ねてよいものかと言葉を無くす。
その中で、おそるおそる敦が口を開く。
「あ、あのそれじゃあ、クイズ研究サークルは…」
「ダメに決まってるだろう?敦君にも安藤先輩にも悪いけど…」
きっぱり断言しかけた晶に、届いたばかりのジャンボパフェを突きながら庵がさらりと口を挟む。
「学長が良いよって言ったらだなあ。脳科学の研究に差し障りないなら許可は降りると思うし」
「ちょっと、庵!クイズから離れてちゃんと勉強するんだろ?!それ以前に学校側に知れたらお遊びでも絶対まずい…」
「分かってるよ晶。…俺だって、『ライブラリ』が有効活用出来なきゃ他に何の取り柄もないヘタレだって事ぐらい、自覚してるよ。
でもさ、少しくらい好きな事したいな、って思うんだよね」
「だーかーら、それが君はまずいって言ってるの。どうせタガが外れたらまたクイズ漬けな生活になるの、目に見えてるし」
「多分な。でも、あのゲームってキャラは匿名だし、どうせゲーセンの片隅にあるようなマイナージャンルだし、今日みたいな騒ぎにならない限りは話題にもなんないよ。
俺が一番嫌なのは、周囲に祭り上げられて騒がれる事。
俺は普通にクイズでも何でも楽しみたいだけなのに、気がついたら見たこともないような他人に嫉妬されて、中傷されて、ありもしない事書かれた記事が雑誌に載せられて。
でも一番嫌なのは、自分よりも、お前や、周りの大事な人が中傷される事。
他人の視線ばっかり毎日気になって、そんなすさんだ生活が嫌で、地元から逃げて今の大学に進学したようなもんだったし」
「う…」
晶だけでなく、皆が言葉を飲み込む。
一人、庵がパフェグラスを鳴らす音だけがテーブル上に響いた。
「晶がそれだけ心配してくれるのは分かってるし、凄く有難いなって思うよ。
だけど、ほんの少しだけ息抜きが欲しいなって。
ずっと目立たないようにひっそりと二年間過ごして、世間はやっと落ち着いて、正直すげえ安心してる。
でも、もう少しだけ青春の延長戦したってバチ当たらないかなって、俺はあのゲームやりながらほんの少し思ってた。
これなら、俺だと気付かれないから思い切り遊べるし、相手も気後れしないし、純粋に楽しめるなって」
「青春の延長戦なあ」
青臭いが悪くない、と呟く夏彦の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「それじゃあ何だ、お前さん、学長の許可有りで自分の存在が目立たなければ入ってもいいって事か?」
「要約するとそんな感じ。つか、今時クイズ研究サークルなんて流行らないと思うな俺。九分九厘、賭けてもいいよ先輩?」
「流行り廃りなんざ俺はどうでもいいんだよ!俺はただ、同じ趣味の人間同士で交流深めたいだけなんだからな。そうだろ?敦」
はいっ、と敦もにっこりと笑って力強く頷く。
「りょーかい。じゃあ、聞くだけ聞いてみるよ。で、晶はどうするんだ?」
「えっ、僕も!?庵だけじゃなくて?」
庵の一言にふいを突かれて目を丸くする晶に、夏彦と敦が畳みかける。
「そりゃ勿論だろうが。早押しはそこの連れのが有名だが、お前さんは筆記問題とペーパーテストに定評があったと聞いてるぞ」
「しかも字がとってもキレイなんですよね?しっかり者で有名な、トリプルAの名参謀が入ってくださるなら僕も嬉しいですぅ!」
「あ、そうなの?アハハ…照れるな」
冷や汗混じりに苦笑を浮かべるも、まんざらでもない表情の晶に、目尻を光らせ内心ニヤリと微笑む夏彦と敦。
「(なんだかんだ言って…)」
「(間違いない…晶さんも、絶対クイズバカだ…)」
アイコンタクトで確認し合うと、夏彦と敦は互いに頷き、確認し合う。
「で、どうでしょう晶さん」
「う~ん…そうだな。もしも庵に許可が降りたなら、僕も入るよ。それでいい?」
「よっし、決まりだな!」
豪快に膝をパン、と叩くと、夏彦は既に決定したかのようなはしゃぎようで満面の笑みを浮かべた。
「まだ本決まりでもないのに、ぬか喜びしても知りませんよ僕は」
渋面を作る晶の隣で、「心配しすぎだよ」と、庵がパフェ底のフレークをほぐしながらぼそりと呟く。
「だーいじょうぶだって晶、きっと学長も反対しやしないって。ゲームくらい許してくれるよ」
「庵、またそんな適当な事言って…」
「本当はやりたかったんだろ?俺に気使いすぎだよ」
「あ…」
言葉に窮して、晶はバツが悪そうに己のうなじを撫でた。
【続く】
「カズミに振られて以降良いこと無しで、学校じゃ笑い物、マスコミにはあることないこと言われて半端無くバッシングされるは誹謗中傷されるは散々な目に遭ったせいで、ストレスからいよいよ機能が低下して、今じゃクイズ形式でしか右脳が上手いこと機能しなくなったとです」
怪しい方言混じりで悲しげにぼそぼそと小声で呟く庵の頭をなでなでしつつ、晶が言葉を続ける。
「だけど、庵みたいな超絶記憶能力はかなり珍しいらしいから、能力開発しないと勿体ないってウチの学長に誘われて、ここの大学で彼専用に組まれたテストを不定期に受ける条件で特別に通わせてもらってるんだ。ウチの学長、脳科学の権威なんだって。
…ああ、勿論クイズ以外の形式で、記憶力と演算能力を有益な方向に使えるような学習方法の習得実践と定期的な知能テストや脳波検査を用いてね」
「成る程、だからクイズはダメだ、と言って断ってきたんだな」
「そうです安藤先輩。
このままクイズさせ続けたら庵は正真正銘のクイズでしか脳みそを使えないクイズ脳のクイズバカになります。
折角、人が羨むような脳みそを持って生まれてるのにクイズでしか使えないなんて…宝の持ち腐れですよ、まんま」
「全くだな…」
当初は強気だった夏彦の表情も、事情が事情だけに険しくなる。
「っつう訳だから、俺はクイズを自重してた、って話。
そんな面白いもんじゃないだろ?
昔の天才なんて、大人になったらこんなもんだよ」
卑下、と言うにはあまりにもあっけらかんと笑いながらフォークを指先で回して遊ぶ庵に、周囲は何と尋ねてよいものかと言葉を無くす。
その中で、おそるおそる敦が口を開く。
「あ、あのそれじゃあ、クイズ研究サークルは…」
「ダメに決まってるだろう?敦君にも安藤先輩にも悪いけど…」
きっぱり断言しかけた晶に、届いたばかりのジャンボパフェを突きながら庵がさらりと口を挟む。
「学長が良いよって言ったらだなあ。脳科学の研究に差し障りないなら許可は降りると思うし」
「ちょっと、庵!クイズから離れてちゃんと勉強するんだろ?!それ以前に学校側に知れたらお遊びでも絶対まずい…」
「分かってるよ晶。…俺だって、『ライブラリ』が有効活用出来なきゃ他に何の取り柄もないヘタレだって事ぐらい、自覚してるよ。
でもさ、少しくらい好きな事したいな、って思うんだよね」
「だーかーら、それが君はまずいって言ってるの。どうせタガが外れたらまたクイズ漬けな生活になるの、目に見えてるし」
「多分な。でも、あのゲームってキャラは匿名だし、どうせゲーセンの片隅にあるようなマイナージャンルだし、今日みたいな騒ぎにならない限りは話題にもなんないよ。
俺が一番嫌なのは、周囲に祭り上げられて騒がれる事。
俺は普通にクイズでも何でも楽しみたいだけなのに、気がついたら見たこともないような他人に嫉妬されて、中傷されて、ありもしない事書かれた記事が雑誌に載せられて。
でも一番嫌なのは、自分よりも、お前や、周りの大事な人が中傷される事。
他人の視線ばっかり毎日気になって、そんなすさんだ生活が嫌で、地元から逃げて今の大学に進学したようなもんだったし」
「う…」
晶だけでなく、皆が言葉を飲み込む。
一人、庵がパフェグラスを鳴らす音だけがテーブル上に響いた。
「晶がそれだけ心配してくれるのは分かってるし、凄く有難いなって思うよ。
だけど、ほんの少しだけ息抜きが欲しいなって。
ずっと目立たないようにひっそりと二年間過ごして、世間はやっと落ち着いて、正直すげえ安心してる。
でも、もう少しだけ青春の延長戦したってバチ当たらないかなって、俺はあのゲームやりながらほんの少し思ってた。
これなら、俺だと気付かれないから思い切り遊べるし、相手も気後れしないし、純粋に楽しめるなって」
「青春の延長戦なあ」
青臭いが悪くない、と呟く夏彦の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「それじゃあ何だ、お前さん、学長の許可有りで自分の存在が目立たなければ入ってもいいって事か?」
「要約するとそんな感じ。つか、今時クイズ研究サークルなんて流行らないと思うな俺。九分九厘、賭けてもいいよ先輩?」
「流行り廃りなんざ俺はどうでもいいんだよ!俺はただ、同じ趣味の人間同士で交流深めたいだけなんだからな。そうだろ?敦」
はいっ、と敦もにっこりと笑って力強く頷く。
「りょーかい。じゃあ、聞くだけ聞いてみるよ。で、晶はどうするんだ?」
「えっ、僕も!?庵だけじゃなくて?」
庵の一言にふいを突かれて目を丸くする晶に、夏彦と敦が畳みかける。
「そりゃ勿論だろうが。早押しはそこの連れのが有名だが、お前さんは筆記問題とペーパーテストに定評があったと聞いてるぞ」
「しかも字がとってもキレイなんですよね?しっかり者で有名な、トリプルAの名参謀が入ってくださるなら僕も嬉しいですぅ!」
「あ、そうなの?アハハ…照れるな」
冷や汗混じりに苦笑を浮かべるも、まんざらでもない表情の晶に、目尻を光らせ内心ニヤリと微笑む夏彦と敦。
「(なんだかんだ言って…)」
「(間違いない…晶さんも、絶対クイズバカだ…)」
アイコンタクトで確認し合うと、夏彦と敦は互いに頷き、確認し合う。
「で、どうでしょう晶さん」
「う~ん…そうだな。もしも庵に許可が降りたなら、僕も入るよ。それでいい?」
「よっし、決まりだな!」
豪快に膝をパン、と叩くと、夏彦は既に決定したかのようなはしゃぎようで満面の笑みを浮かべた。
「まだ本決まりでもないのに、ぬか喜びしても知りませんよ僕は」
渋面を作る晶の隣で、「心配しすぎだよ」と、庵がパフェ底のフレークをほぐしながらぼそりと呟く。
「だーいじょうぶだって晶、きっと学長も反対しやしないって。ゲームくらい許してくれるよ」
「庵、またそんな適当な事言って…」
「本当はやりたかったんだろ?俺に気使いすぎだよ」
「あ…」
言葉に窮して、晶はバツが悪そうに己のうなじを撫でた。
【続く】
トラックバックURL↓
http://3373plugin.blog45.fc2.com/tb.php/250-7df545c1
| ホーム |