嵐を呼ぶソフモヒ。
*
「うわっ!…って、お前は」
のけぞるようにして後方へ飛び退いた庵の眼前に、不機嫌そうなデニム姿の男が立っていた。
口元を一文字に結んだ気の強そうな面構えの、特徴的なソフトモヒカンの精悍な男。
…件の瀬賀大生である。
「こっちから来てやったぞ」
男は不機嫌そうに腕組みをして、モヒカン分ほど高い身長差から庵を見下ろす。
庵も流石に相手の苛立ちを察したのか、冷や汗混じりで笑顔を作る。
「あー…そうか。奇遇だな。俺もこれからサークル入部の届出したらゲーセン行こうかと思ってた」
「何だ、そうだったのか。待ってれば良かったな…何かさっきから門衛に止められるし、学生証提示させられっし、その場で待ってたらアン大の連中がこっちジロジロ見やがるし。瀬賀大生がそんなに珍しいのかってんだ」
「(いえ多分それは)」
「(あなたの髪型が珍しいからです)」
慌てて駆け寄るも、同意見を口に出せない晶と敦であった。
「まあ、学校側の通達で今警備強化してるみたいだし。つっても前より声掛けしてるだけだから、悪く思わないでくれよ」
「分かってる。あれは正直済まなかったな。全然顔も知らないような奴だったけど、一瀬賀大生として恥ずかしい限りだ」
てっきり何かの理由で怒って詰め寄りに来たのかと思いきや、見かけによらず至極まともな口ぶりのソフモヒ大生に庵も少し安堵する。
「でも、確かお前の主催してたクイズサークルに入ってたってあいつら…」
耳聡い庵に、ソフモヒは顔をしかめる。
「よく聞いてたなお前…あれはだな、ウチはサークル一覧見て届けさえ事務局に出しとけば即日受理されんの。しかも、人数制限で引っかからないように人数の少ない所ばっかり狙ってやがって…それであいつら、めったやたらに届け出して、相手の趣味に合わせて何々のサークル入ってるってふかしてただけだから。それで俺のとこも含めて8つくらいサークルが煽り喰って潰されたんだ。酷いと思わないか?」
「そりゃあきついな。ご愁傷様」
「っつう訳だから。俺の本当のダチとか、知ってるサークルの連中に報復とかしたら、ぜってえ許さねえから。覚えとけよ」
「し、しないってそんな事」
「(あれだけ大暴れした相手に)」
「(ケンカは売りたくないよね…常識的に考えて)」
冷や汗をかく最前線の庵の背後で、同じく冷や汗混じりに顔をしかめる敦と晶であった。
「で、お前何のサークルに入るんだ」
「クイズ研究。院生のヒゲ先輩に届け出して、これから学校側に申請するとこ。新規サークルは代表者が申請書を持ってかないといけないんだってさ」
「へぇ…そうか、アン大にはずっとなかったんだよな。もう一年早く作ってくれてたら良かったのにさ」
ソフモヒの表情に、若干挑戦的な気配が立ち上る。
彼が口を開きかけた時、先に庵が口火を切った。
「少し待っててくれるか?その後でなら対戦出来るけど」
「やる気だな。良いぜ、目立たないとこで待っててやるよ。だがその前に一応自己紹か…」
「いいよ、言い当てるから」
断言しきった庵に、ソフモヒの口元がかすかに「え」と口走った。
「へえ…今日は、思い出せたみたいだな?」
一応取り乱さずに平然とはしているものの、ソフモヒがフイを突かれて僅かなりとも驚いたのを見て庵の口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「連想で言い当ててやんよ。敦と晶も、途中で分かったら手を挙げてみそ」
くるりと笑顔で振り向いて、子供がイタズラする時のような得意満面の庵に、晶と敦は困惑を隠せない。
「え、何?僕たちが当てるの?」
「うんうんそうそう」
「えー、別に普通に教えてくれても…」
「…って事は、安住。お前、俺が誰か分かってないだろ?」
あからさまにギク、と身をこわばらせた晶を見て、ソフモヒの表情が明らかに引きつった。
「うっわーむかつくー♪二年三年と同じクイズ出て同じ飯食ったはずなんだけどなー。しかも俺、お前とはクイズの待ち時間に安佐よりか結構親しく話してたはずなんだけどー?まあいいけどさー…」
どう見ても、まあ良くない面持ちのソフモヒを「まあまあ」となだめて、庵はこほん、と咳払いをした。
「それは仕方ないと思うけど?あの時のお前、【髪型が角刈り】だったし、【コンタクトじゃなくて黒縁の分厚いビン底丸眼鏡】だったし」
「…よ、よく気がついたな。コンタクトだって」
素直に驚いた様子のソフモヒに、違う違う、と庵は指を振ってみせる。
「気付いた、じゃなくて『見れば分かる』だよ。自分で言ってたじゃん。【勉強のしすぎで視力0.1以下になった】から、ださいけど眼鏡してないと見えないって」
「へえ…」
「角刈りの、黒縁ビン底眼鏡…?」
「あれあれ、僕もそれなら何だか覚えが」
晶と敦の脳裏に、ぼんやりと過去のとある人物像が浮かびはじめる…。
「もっとも、俺も八割方だけどさ…ま、ものは試しだな。俺に尋ねてみそ」
「ん?クイズ形式で聞いてみろって事か?自信満々だなおい…。
いいぜ、じゃあ俺クイーズ。『俺は誰でしょう?さっさと答えろよ。』」
ローテンションなソフモヒが拳をお愛想程度に振り上げて見せると、向かい合った庵の双眸が角膜の奥で微かに伸縮して小さく固定される。
視線の先で、ソフモヒの表情がにわかに固くなる。
庵の背後には、既に晶と敦が二人の動向を静かに見守っていた。
【続く】
「うわっ!…って、お前は」
のけぞるようにして後方へ飛び退いた庵の眼前に、不機嫌そうなデニム姿の男が立っていた。
口元を一文字に結んだ気の強そうな面構えの、特徴的なソフトモヒカンの精悍な男。
…件の瀬賀大生である。
「こっちから来てやったぞ」
男は不機嫌そうに腕組みをして、モヒカン分ほど高い身長差から庵を見下ろす。
庵も流石に相手の苛立ちを察したのか、冷や汗混じりで笑顔を作る。
「あー…そうか。奇遇だな。俺もこれからサークル入部の届出したらゲーセン行こうかと思ってた」
「何だ、そうだったのか。待ってれば良かったな…何かさっきから門衛に止められるし、学生証提示させられっし、その場で待ってたらアン大の連中がこっちジロジロ見やがるし。瀬賀大生がそんなに珍しいのかってんだ」
「(いえ多分それは)」
「(あなたの髪型が珍しいからです)」
慌てて駆け寄るも、同意見を口に出せない晶と敦であった。
「まあ、学校側の通達で今警備強化してるみたいだし。つっても前より声掛けしてるだけだから、悪く思わないでくれよ」
「分かってる。あれは正直済まなかったな。全然顔も知らないような奴だったけど、一瀬賀大生として恥ずかしい限りだ」
てっきり何かの理由で怒って詰め寄りに来たのかと思いきや、見かけによらず至極まともな口ぶりのソフモヒ大生に庵も少し安堵する。
「でも、確かお前の主催してたクイズサークルに入ってたってあいつら…」
耳聡い庵に、ソフモヒは顔をしかめる。
「よく聞いてたなお前…あれはだな、ウチはサークル一覧見て届けさえ事務局に出しとけば即日受理されんの。しかも、人数制限で引っかからないように人数の少ない所ばっかり狙ってやがって…それであいつら、めったやたらに届け出して、相手の趣味に合わせて何々のサークル入ってるってふかしてただけだから。それで俺のとこも含めて8つくらいサークルが煽り喰って潰されたんだ。酷いと思わないか?」
「そりゃあきついな。ご愁傷様」
「っつう訳だから。俺の本当のダチとか、知ってるサークルの連中に報復とかしたら、ぜってえ許さねえから。覚えとけよ」
「し、しないってそんな事」
「(あれだけ大暴れした相手に)」
「(ケンカは売りたくないよね…常識的に考えて)」
冷や汗をかく最前線の庵の背後で、同じく冷や汗混じりに顔をしかめる敦と晶であった。
「で、お前何のサークルに入るんだ」
「クイズ研究。院生のヒゲ先輩に届け出して、これから学校側に申請するとこ。新規サークルは代表者が申請書を持ってかないといけないんだってさ」
「へぇ…そうか、アン大にはずっとなかったんだよな。もう一年早く作ってくれてたら良かったのにさ」
ソフモヒの表情に、若干挑戦的な気配が立ち上る。
彼が口を開きかけた時、先に庵が口火を切った。
「少し待っててくれるか?その後でなら対戦出来るけど」
「やる気だな。良いぜ、目立たないとこで待っててやるよ。だがその前に一応自己紹か…」
「いいよ、言い当てるから」
断言しきった庵に、ソフモヒの口元がかすかに「え」と口走った。
「へえ…今日は、思い出せたみたいだな?」
一応取り乱さずに平然とはしているものの、ソフモヒがフイを突かれて僅かなりとも驚いたのを見て庵の口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「連想で言い当ててやんよ。敦と晶も、途中で分かったら手を挙げてみそ」
くるりと笑顔で振り向いて、子供がイタズラする時のような得意満面の庵に、晶と敦は困惑を隠せない。
「え、何?僕たちが当てるの?」
「うんうんそうそう」
「えー、別に普通に教えてくれても…」
「…って事は、安住。お前、俺が誰か分かってないだろ?」
あからさまにギク、と身をこわばらせた晶を見て、ソフモヒの表情が明らかに引きつった。
「うっわーむかつくー♪二年三年と同じクイズ出て同じ飯食ったはずなんだけどなー。しかも俺、お前とはクイズの待ち時間に安佐よりか結構親しく話してたはずなんだけどー?まあいいけどさー…」
どう見ても、まあ良くない面持ちのソフモヒを「まあまあ」となだめて、庵はこほん、と咳払いをした。
「それは仕方ないと思うけど?あの時のお前、【髪型が角刈り】だったし、【コンタクトじゃなくて黒縁の分厚いビン底丸眼鏡】だったし」
「…よ、よく気がついたな。コンタクトだって」
素直に驚いた様子のソフモヒに、違う違う、と庵は指を振ってみせる。
「気付いた、じゃなくて『見れば分かる』だよ。自分で言ってたじゃん。【勉強のしすぎで視力0.1以下になった】から、ださいけど眼鏡してないと見えないって」
「へえ…」
「角刈りの、黒縁ビン底眼鏡…?」
「あれあれ、僕もそれなら何だか覚えが」
晶と敦の脳裏に、ぼんやりと過去のとある人物像が浮かびはじめる…。
「もっとも、俺も八割方だけどさ…ま、ものは試しだな。俺に尋ねてみそ」
「ん?クイズ形式で聞いてみろって事か?自信満々だなおい…。
いいぜ、じゃあ俺クイーズ。『俺は誰でしょう?さっさと答えろよ。』」
ローテンションなソフモヒが拳をお愛想程度に振り上げて見せると、向かい合った庵の双眸が角膜の奥で微かに伸縮して小さく固定される。
視線の先で、ソフモヒの表情がにわかに固くなる。
庵の背後には、既に晶と敦が二人の動向を静かに見守っていた。
【続く】
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