お願いついでに日が暮れて。
*
「悪い安佐、やりすぎたか?そんな本気でやった覚えねえけど」
「すみません、鍛えてないもんですけぇ( ; ´ω`)」
「そんな感じだよなー…しっかし、どうしたよ人間図書館?虫干し忘れてカビでも生えてんじゃねえのかよ」
「相済みませぬ。今はこれでもフル稼働でしたけえど」
「…本当に噂通りなのか?例のプロレス彼女のせいでライブラリが機能しなくなったって」
「全くもってその通りでございますが」
うってかわって意気消沈の庵を、大輔は「情けねえぞ!」と笑い飛ばした。
「まあ、そのくらいションボリしててくれた方が、こっちとしても勝ちやすそうだけどな」
「え、じゃあ…」
敦が答える前に、至極当然と言いたげに大輔が「やる気だけど?」と、答える。
「勿論、あの時の借りをクイズでリベンジしに来たに決まってるだろうがよ。どんだけ悔しかった事か…まあ、その後で昔話の一つでもしたいとこだが…今晩この後大丈夫か?届け出すの、どのくらいかかりそうだ?」
「割と執念深いね穴輪さん」
「負けず嫌いと言えよ安佐。じゃあ、やっぱやめとくか?」
「まさか!」と庵は途端にシャキーンと立ち上がる。
「…俺も、お前の早押しスタイル嫌いじゃなかったぜ。あの年の長崎代表のアケボノ子といい、お前といい、九州の奴は早押しで競ってきたから気持ち良かったんだ。やっぱり、早押しクイズは即押し即答、だよな」
「分かってるな。流石、元早押し帝王。…勝負するなら、何か罰ゲームでも作るか?俺が負けたら飯おごってやるよ」
「マジで!?」
「本気で言ってるの?穴輪さん食費が…」
「呼び捨てでいい」と晶に返す、大輔の口元には既に余裕すら伺える。
「(…相当やりこんでるのかな…随分、強気に出てるけど…)」
経験的な余裕だな、と見て取って、晶は対戦予定の庵に一抹の不安を覚えた。
「こいつがどんだけ食うか、俺は見て知ってるし。ホテルのバイキングを根こそぎカラに出来るのなんて、こいつくらいだろ?」
「そ、そんな事をされたんですか庵先輩」
「うん、やったよ。んまかった( ´ω`*)ところで敦君敦君、お願いがあるんだけど」
「あ、はい。なんでしょう」
「これ、ヒゲ先輩とこ持って行っといてくんない?」
「へ」と、敦が間の抜けた返答を返す前に、庵は手に持っていた入部届けを敦の手にねじ込み、大輔の方へ一旦向き直ると「行こうぜ!」一声掛け、くるりと踵を返すと校門の外へ駆け出していってしまった。
「…あーあ、スイッチ入っちゃった」
もはや達観した感のある口ぶりで、晶は「ああもぉ」と天を仰ぐと大輔をキッと睨み付ける。
「どうしてくれるんですか、折角自重出来るようになってたのに火に油を注ぐような事して」
「ん?何だ?…あいつクイズ自重してたのか?どうりで今まで噂にならなかったと思ってたんだ」
意外だな、と呟く大輔に、晶の口からは、はあぁーー…と長い溜息が注ぎ出された。
「ああそうか、こないだファミレスにいなかったんだっけこの人…仕方ないな、僕も付き添っていいですか?暴走しないように見張っておきます」
「構わないっつーか、後でお前も店内対戦しないか?お前も良い線いきそうだしさ」
「え?ええまあ、そりゃ構わないですけど…ていうか、ゴメン敦、僕のも頼んでいい?早く追いつかないと、庵、目を離した隙に今月の食費全部ゲーセンに突っ込みかねないから…(そうなったら僕んちのエンゲル係数が大変な事になるっ…!)研究棟なら、行き方分かるよね?安藤先輩とは仲良いみたいだし」
「えっえっえっ、そ、そんな僕だってそのあの」
反論しようとした敦であったが、晶の真剣な眼差し…もとい、庵が何かまたやらかすのではないかという杞憂とそれを止められるのは自分しかいないというはち切れんばかりの使命感でギラギラした(そして庵の胃袋から己の食費を死守するべく決意を新たにした)視線を目の当たりにして言葉を飲み込んだ瞬間、握りしめられた両手から、晶の分の届け出がソフトリーにそっと包み込むかのように、…掌にねじ込まれていた。
「埋め合わせはするから!ゴメン、お願いしたよ!」
「あーーーっ!!晶さーーん!行かないでください待って下さい僕はー!」
「そっか、じゃあ頼んだぞ線目」
慌てて駆け出していった晶を、軽いフットワークで追いかける大輔の背中も見送って、敦は一人校門前でぽつねんと取り残された。
…反論の余地も無く、他二人の届け出を握りしめたまま。
…
……新潟の姉さん、元気ですか…。
…僕的に、今大事件が発生中です。
………今一人きりで校門前に取り残されています。
…どうしたらいいのでしょう。
「ど、どうしよう…どうしよう、行けるかな…七時前までに、研究棟まで…」
対策本は熟読しました。熟読した。が。
…今現在、大学構内のマップすら先輩方についていってやっとの自分です。
どう考えても、無理です本当に(ry
しかも、庵先輩の試合見損ねかけてるし…今日、もしかして僕、厄日?
天を仰ぎ、ああーーーーっ…と敦は嘆息し、肩を落とす。
おろおろと涙目の敦の横顔を、春の夕暮れが無情に照らし、直に沈んでいった。
【続く】
「悪い安佐、やりすぎたか?そんな本気でやった覚えねえけど」
「すみません、鍛えてないもんですけぇ( ; ´ω`)」
「そんな感じだよなー…しっかし、どうしたよ人間図書館?虫干し忘れてカビでも生えてんじゃねえのかよ」
「相済みませぬ。今はこれでもフル稼働でしたけえど」
「…本当に噂通りなのか?例のプロレス彼女のせいでライブラリが機能しなくなったって」
「全くもってその通りでございますが」
うってかわって意気消沈の庵を、大輔は「情けねえぞ!」と笑い飛ばした。
「まあ、そのくらいションボリしててくれた方が、こっちとしても勝ちやすそうだけどな」
「え、じゃあ…」
敦が答える前に、至極当然と言いたげに大輔が「やる気だけど?」と、答える。
「勿論、あの時の借りをクイズでリベンジしに来たに決まってるだろうがよ。どんだけ悔しかった事か…まあ、その後で昔話の一つでもしたいとこだが…今晩この後大丈夫か?届け出すの、どのくらいかかりそうだ?」
「割と執念深いね穴輪さん」
「負けず嫌いと言えよ安佐。じゃあ、やっぱやめとくか?」
「まさか!」と庵は途端にシャキーンと立ち上がる。
「…俺も、お前の早押しスタイル嫌いじゃなかったぜ。あの年の長崎代表のアケボノ子といい、お前といい、九州の奴は早押しで競ってきたから気持ち良かったんだ。やっぱり、早押しクイズは即押し即答、だよな」
「分かってるな。流石、元早押し帝王。…勝負するなら、何か罰ゲームでも作るか?俺が負けたら飯おごってやるよ」
「マジで!?」
「本気で言ってるの?穴輪さん食費が…」
「呼び捨てでいい」と晶に返す、大輔の口元には既に余裕すら伺える。
「(…相当やりこんでるのかな…随分、強気に出てるけど…)」
経験的な余裕だな、と見て取って、晶は対戦予定の庵に一抹の不安を覚えた。
「こいつがどんだけ食うか、俺は見て知ってるし。ホテルのバイキングを根こそぎカラに出来るのなんて、こいつくらいだろ?」
「そ、そんな事をされたんですか庵先輩」
「うん、やったよ。んまかった( ´ω`*)ところで敦君敦君、お願いがあるんだけど」
「あ、はい。なんでしょう」
「これ、ヒゲ先輩とこ持って行っといてくんない?」
「へ」と、敦が間の抜けた返答を返す前に、庵は手に持っていた入部届けを敦の手にねじ込み、大輔の方へ一旦向き直ると「行こうぜ!」一声掛け、くるりと踵を返すと校門の外へ駆け出していってしまった。
「…あーあ、スイッチ入っちゃった」
もはや達観した感のある口ぶりで、晶は「ああもぉ」と天を仰ぐと大輔をキッと睨み付ける。
「どうしてくれるんですか、折角自重出来るようになってたのに火に油を注ぐような事して」
「ん?何だ?…あいつクイズ自重してたのか?どうりで今まで噂にならなかったと思ってたんだ」
意外だな、と呟く大輔に、晶の口からは、はあぁーー…と長い溜息が注ぎ出された。
「ああそうか、こないだファミレスにいなかったんだっけこの人…仕方ないな、僕も付き添っていいですか?暴走しないように見張っておきます」
「構わないっつーか、後でお前も店内対戦しないか?お前も良い線いきそうだしさ」
「え?ええまあ、そりゃ構わないですけど…ていうか、ゴメン敦、僕のも頼んでいい?早く追いつかないと、庵、目を離した隙に今月の食費全部ゲーセンに突っ込みかねないから…(そうなったら僕んちのエンゲル係数が大変な事になるっ…!)研究棟なら、行き方分かるよね?安藤先輩とは仲良いみたいだし」
「えっえっえっ、そ、そんな僕だってそのあの」
反論しようとした敦であったが、晶の真剣な眼差し…もとい、庵が何かまたやらかすのではないかという杞憂とそれを止められるのは自分しかいないというはち切れんばかりの使命感でギラギラした(そして庵の胃袋から己の食費を死守するべく決意を新たにした)視線を目の当たりにして言葉を飲み込んだ瞬間、握りしめられた両手から、晶の分の届け出がソフトリーにそっと包み込むかのように、…掌にねじ込まれていた。
「埋め合わせはするから!ゴメン、お願いしたよ!」
「あーーーっ!!晶さーーん!行かないでください待って下さい僕はー!」
「そっか、じゃあ頼んだぞ線目」
慌てて駆け出していった晶を、軽いフットワークで追いかける大輔の背中も見送って、敦は一人校門前でぽつねんと取り残された。
…反論の余地も無く、他二人の届け出を握りしめたまま。
…
……新潟の姉さん、元気ですか…。
…僕的に、今大事件が発生中です。
………今一人きりで校門前に取り残されています。
…どうしたらいいのでしょう。
「ど、どうしよう…どうしよう、行けるかな…七時前までに、研究棟まで…」
対策本は熟読しました。熟読した。が。
…今現在、大学構内のマップすら先輩方についていってやっとの自分です。
どう考えても、無理です本当に(ry
しかも、庵先輩の試合見損ねかけてるし…今日、もしかして僕、厄日?
天を仰ぎ、ああーーーーっ…と敦は嘆息し、肩を落とす。
おろおろと涙目の敦の横顔を、春の夕暮れが無情に照らし、直に沈んでいった。
【続く】
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