焦りをなぞる指先。
*
第三回戦:【早押しクイズ】
ルール:単純明快!答えて爽快!ライバルよりも早くボタンを押し、回答を入力せよ!
40pt先制で勝利!
「これで」
「ケリつけるか」
画面を凝視する庵と大輔の表情がぐっと真剣味を増すと、周囲も固唾を飲んで試合の動向を見守る。
庵「これ」
→ジャンル選択:【自然科学】LV3
大輔「そう来たか」
大輔→ジャンル選択:【スポーツ】LV4
スロットル→【自然科学】×1、【スポーツ】×2装填、後発ランダムジャンル装填完了。
庵の声色が低く、短い。
暗転した画面に映る、表情の薄い顔。
見開いたままの瞳。石の如く真っ直ぐに伸びたまま微動だにしない背中。
集中状態に入り込んだ姿。晶が、幼少時から何度となく見た背中。
前回は騒ぎの終わった後に見つけたから判別出来なかったが、ここまで意識下に入り込んでいる姿は久しく見ていない。
大学での能力開発の恩恵なのか、それとも単純に能力が回復しているのかは分からない。
だが、能力が低下しきっていた昨年までのしょぼくれた背中とは、ほのかに漂わせている気配が質量感からして既に異なっていた。
それと比例するように、隣の大輔の放つ気配までもが変質しているようだ。
醒めた熱気とでも言おうか。足下からふつふつと立ち上る有無を言わせぬ静かな気迫が、周囲の無駄口を封じ込める。
庵の能面に動じている様子はない。
高校生の時にも一度見ているからかも知れないが、そんな事に興味はないとも見えるそぶり。
それはそうか。
二人とも互いの能力が問題なんじゃない。
勝負で勝つ、このことだけが今の最重要課題なのだから。
第一問 【スポーツ】
【プロ初年度225最多奪三振、1977年南海時代での19セーブ記…】
「はい!」大輔PUSH!
回答文字制限:無し
回答文字群:【え】【の】【さ】【く】
【えなつゆたか】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【プロ初年度225最多奪三振、1977年南海時代での19セーブ記録を持つ、日本シリーズ「伝説の21球」の逸話を持つ投手は誰?】
「流石、野球問題は落とさないね」
大輔の左隣席を陣取って観戦中の瀬賀大生がそう呟くと、大輔は画面に見入ったまま「常考」とだけ短く答えた。
庵は、みじんも反応しない。ただ、画面を虚ろに覗き込んでいる。
深層への深度が、深まっていく。そんな感じ…。
第二問 【自然科学】
【冥界…】
「はいっ!」庵PUSH!
「(早い!)」晶と大輔が、周囲に先んじて心中で思わずそう呟く。
回答文字制限:無し
回答文字群:【デ】【ア】【ス】【カ】
【カロン】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【冥界の川アケローンの渡し守の名を持つ、1978年アメリカの天文学者によって発見された冥王星の衛星は何?】
「はっえ…」
正答を示す効果音の中で、周囲の誰かがぽつりと全員の思いを代弁する。
第三問 【スポーツ】
【前年…】
「はいっ!」庵PUSH!
大輔「(なにっ!)」心中、舌打ちをする間もない。
回答文字制限:無し
回答文字群:【ま】【わ】【な】【か】
「…」
数秒の逡巡の後、庵の人差し指がタッチパネルを正確にタイピングしていく。
【なるせよしひさ】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【前年度、2007年に最優秀防御率投手となった、千葉ロッテマリーンズの左腕投手は誰?】
「…(よりにもよって…!)」
大輔の頬が僅かに紅潮する。これまでほぼポーカーフェイスだった顔元へ、僅かに感情が露呈した。
彼が一番得意にしている野球関連の早押し問題を押し負け…もとい押す暇さえも無かった事で軽い屈辱感を感じているとも知らず、庵はただ画面の一点だけを凝視し続けている。
自分と相手のアバターの間、問題文が流れる出題パネル部分のみを。
第四問(ランダムジャンル開始) 【エンターテイメント】
【20…】
「はいっ!」庵PUSH!
「はあ!?」と誰かが短く叫ぶ。
「これで分かるのかよ」と誰に言うでもなく呟いて目を丸くする同級生に、晶は「一度見てるなら、ね」とさりげなく答える。
回答選択群:【ELLEGARDEN】【SPITZ】【くるり】【サザンオールスターズ】
「…」
庵選択→【SPITZ】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【2007年に結成二十周年を迎えた、「ロビンソン」「チェリー」などのヒット曲を生みだしたバンドは次の内どれ?】
これは無理ゲーだろ、と誰かが呟く声が聞こえた。
大輔は我知らず顔色が変わっている。
手元は、先程からピクリとも動いていない。いや、動かせないのだ。
「(まずい)」
指先で、コツコツとボタンの頂をこする。
庵はこちらを見てもいない。気にしてもいない。見ているのは、「クイズ」だけ。
「(これじゃ、前の二の舞だ…!)」
前=高校三年生の夏。
アカデミッククイズ決勝、船上の上、今日と同じく隣の回答席で見た高二の庵の横顔を思い出す。
あの時はまだ、隙を感じていたように思っていたのに。
何だこの威圧感みたいな「重さ」は。
こいつ一人だけしか相手してないのに、何でこんなにこいつの座ってる右側だけが重たく感じるんだよ。
押せ。
次、押すしかない。
押したら選択肢で判別して答えられるだろ。
だって、俺は…!
指先でこする。こする。こする…いや、指先が力んで震えている。
…スロットルに、次ジャンルの弾丸が装填された。
【続く】
第三回戦:【早押しクイズ】
ルール:単純明快!答えて爽快!ライバルよりも早くボタンを押し、回答を入力せよ!
40pt先制で勝利!
「これで」
「ケリつけるか」
画面を凝視する庵と大輔の表情がぐっと真剣味を増すと、周囲も固唾を飲んで試合の動向を見守る。
庵「これ」
→ジャンル選択:【自然科学】LV3
大輔「そう来たか」
大輔→ジャンル選択:【スポーツ】LV4
スロットル→【自然科学】×1、【スポーツ】×2装填、後発ランダムジャンル装填完了。
庵の声色が低く、短い。
暗転した画面に映る、表情の薄い顔。
見開いたままの瞳。石の如く真っ直ぐに伸びたまま微動だにしない背中。
集中状態に入り込んだ姿。晶が、幼少時から何度となく見た背中。
前回は騒ぎの終わった後に見つけたから判別出来なかったが、ここまで意識下に入り込んでいる姿は久しく見ていない。
大学での能力開発の恩恵なのか、それとも単純に能力が回復しているのかは分からない。
だが、能力が低下しきっていた昨年までのしょぼくれた背中とは、ほのかに漂わせている気配が質量感からして既に異なっていた。
それと比例するように、隣の大輔の放つ気配までもが変質しているようだ。
醒めた熱気とでも言おうか。足下からふつふつと立ち上る有無を言わせぬ静かな気迫が、周囲の無駄口を封じ込める。
庵の能面に動じている様子はない。
高校生の時にも一度見ているからかも知れないが、そんな事に興味はないとも見えるそぶり。
それはそうか。
二人とも互いの能力が問題なんじゃない。
勝負で勝つ、このことだけが今の最重要課題なのだから。
第一問 【スポーツ】
【プロ初年度225最多奪三振、1977年南海時代での19セーブ記…】
「はい!」大輔PUSH!
回答文字制限:無し
回答文字群:【え】【の】【さ】【く】
【えなつゆたか】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【プロ初年度225最多奪三振、1977年南海時代での19セーブ記録を持つ、日本シリーズ「伝説の21球」の逸話を持つ投手は誰?】
「流石、野球問題は落とさないね」
大輔の左隣席を陣取って観戦中の瀬賀大生がそう呟くと、大輔は画面に見入ったまま「常考」とだけ短く答えた。
庵は、みじんも反応しない。ただ、画面を虚ろに覗き込んでいる。
深層への深度が、深まっていく。そんな感じ…。
第二問 【自然科学】
【冥界…】
「はいっ!」庵PUSH!
「(早い!)」晶と大輔が、周囲に先んじて心中で思わずそう呟く。
回答文字制限:無し
回答文字群:【デ】【ア】【ス】【カ】
【カロン】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【冥界の川アケローンの渡し守の名を持つ、1978年アメリカの天文学者によって発見された冥王星の衛星は何?】
「はっえ…」
正答を示す効果音の中で、周囲の誰かがぽつりと全員の思いを代弁する。
第三問 【スポーツ】
【前年…】
「はいっ!」庵PUSH!
大輔「(なにっ!)」心中、舌打ちをする間もない。
回答文字制限:無し
回答文字群:【ま】【わ】【な】【か】
「…」
数秒の逡巡の後、庵の人差し指がタッチパネルを正確にタイピングしていく。
【なるせよしひさ】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【前年度、2007年に最優秀防御率投手となった、千葉ロッテマリーンズの左腕投手は誰?】
「…(よりにもよって…!)」
大輔の頬が僅かに紅潮する。これまでほぼポーカーフェイスだった顔元へ、僅かに感情が露呈した。
彼が一番得意にしている野球関連の早押し問題を押し負け…もとい押す暇さえも無かった事で軽い屈辱感を感じているとも知らず、庵はただ画面の一点だけを凝視し続けている。
自分と相手のアバターの間、問題文が流れる出題パネル部分のみを。
第四問(ランダムジャンル開始) 【エンターテイメント】
【20…】
「はいっ!」庵PUSH!
「はあ!?」と誰かが短く叫ぶ。
「これで分かるのかよ」と誰に言うでもなく呟いて目を丸くする同級生に、晶は「一度見てるなら、ね」とさりげなく答える。
回答選択群:【ELLEGARDEN】【SPITZ】【くるり】【サザンオールスターズ】
「…」
庵選択→【SPITZ】 ○ 正解!+10pt
問題全文表示→
【2007年に結成二十周年を迎えた、「ロビンソン」「チェリー」などのヒット曲を生みだしたバンドは次の内どれ?】
これは無理ゲーだろ、と誰かが呟く声が聞こえた。
大輔は我知らず顔色が変わっている。
手元は、先程からピクリとも動いていない。いや、動かせないのだ。
「(まずい)」
指先で、コツコツとボタンの頂をこする。
庵はこちらを見てもいない。気にしてもいない。見ているのは、「クイズ」だけ。
「(これじゃ、前の二の舞だ…!)」
前=高校三年生の夏。
アカデミッククイズ決勝、船上の上、今日と同じく隣の回答席で見た高二の庵の横顔を思い出す。
あの時はまだ、隙を感じていたように思っていたのに。
何だこの威圧感みたいな「重さ」は。
こいつ一人だけしか相手してないのに、何でこんなにこいつの座ってる右側だけが重たく感じるんだよ。
押せ。
次、押すしかない。
押したら選択肢で判別して答えられるだろ。
だって、俺は…!
指先でこする。こする。こする…いや、指先が力んで震えている。
…スロットルに、次ジャンルの弾丸が装填された。
【続く】
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