勝負決して。
*
「あ、敦…キミ、道よく分からないの?そうだったらそうだって言ってくれればいいのに…」
やっと脳天の痛みから解放された晶が顔をしかめつつ立ち上がると、敦はいよいよ小さくなって肩をすくめる。
「あああ、すみません先輩…もっと前に見栄張らずにきちんと説明してたらよかったんですけど…その、言い出せなくて…」
「それ以前の問題だ!」
笑顔一転、再び鬼の形相でキッと睨み付ける夏彦に晶もヒッ、と思わず情けない声を出してしまう。
「まったく、お人好しが損する世界はいかんぞ!俺の目が黒いうちは、部内外でのパシリもパワハラも禁止だからな」
「さ、さっそく厳しい…」
二人掛け用の長座席に頭を抱えて突っ伏したままウンウンうめく庵に、夏彦は「当たり前だ!!」と、ぴしゃりと判ずる。
「…まあ、部創設に協力してもらったのは有難いが、それとこれとは別だ。俺はこういう上下関係の軋轢が一番嫌いなんだよ」
「顔に似合わず潔癖なんですね先輩」
「何か言ったか安佐」
夏彦がそろりと顔を上げた庵の眼前に開いた掌を突きつけて脅かすと、庵はびくっと身を震わせる。
それを見て得心したのか、夏彦は「反省したならいいさ」とニヤリと微笑んだ。
「まあ、とりあえず本棟と研究棟往復して届け出は提出しておいたぞ。五月の休み明けまでには正式に受理させるそうだ。…全く、明日は一旦寮に帰らないとならんのに研究資料が…」
夏彦が頭をかきむしって何事か愚痴をこぼしかけた時、庵と大輔の背後のモニタ画面から鐘の音が響いた。
「ん?なんだあ?」
「あーーーーーっ!!!」
夏彦が目を丸くしたのと同時に、庵と大輔が同時に大声を出した。
「ちょっ、勝負途中だったのに!」
「…あー、どっちにしろ俺が負けてたけどさ」
画面に表示された勝敗の結果を一瞥して、焦る庵に大輔は淡々と答える。
【第3試合 早押しクイズ】
庵 20pt(30ptリーチの際に夏彦が来て回答できなかったため)
大輔 10pt
最終結果
庵 2勝 × 大輔 1勝
庵勝利!!
画面上で泣いている自分のソフモヒアバターを横目に、「悪かったな」と庵の方へ向き直って大輔が呟く。
「え?どして?」
「いやその、忙しい時におしかけた俺が悪かったし」
「あー、気にしなくていいって。俺も行きたかったし、お前とも会いたかったし。なあ、これ無効試合にしてもいい?」
「え?」と大輔は眉をひそめる。
「勝ってたのにか?」
「俺、勝つならスッキリ勝ちたいし。こないだもそんなだったし、邪魔入りそうにない時にでもさ」
「そりゃ、まあ、いいけどさ…」
言い淀んで、大輔は「あーっ!」と苛立ち紛れに頭を掻いて仰け反る。
「あーもうなんか、それ、俺がモヤモヤする!見下されてるんじゃないって分かってても、何かスッキリしねえな…よし、やっぱメシは約束通りおごってやるよ。どこがいい?」
「晩ご飯?それでもいいけど…」
庵の困惑気味だった表情が→(*´ω`)となった所で、再度最大ボリュームの着信音が鳴り響く。
チャカチャーン チャラッタチャッチャー チャーン チャーラッタッタッター チャタッタッタン ッタッタン♪
「おい安佐、電話」
大輔に言われる前にケータイを開いて耳に当てるも、庵は当てたまま眉をひそめる。
「あれ?いや俺んじゃないや。しかも和音がなんだか古くさ…」
「おおっと、スマン俺だ」
「ヒゲ先輩っすか!」
使い込んだ風情のある、細かいキズが目立つシルバーステンのケータイを開くと、「はい安藤…」とその場からくるりと踵を返して自販機横の隅へ移動する。何故か、ケータイ片手に「ああどうも」とか「へ?」とか「あー…」とか言う度に、頭に手を乗せたりお辞儀をしたりペコペコと謝ったり。
「…ヒゲ先輩、誰と話ししてるんだろ」
「目上の人なのは確かっぽいけど?」
晶もやっとこさ万力ハンドから立ち直ったらしい。
涙目でこめかみをさすってはいるが。
通話を済ませるボタン確認音が聞こえると、夏彦は深々と長い溜息をもらし、大股で庵達の元へ駆け寄りながらケータイを白衣のポケットに放り込んだ。
「あースマン。俺はこれからすぐ研究棟に戻るぞ」
「誰だったんですか?ヒゲ先輩」
「…あー、アン女の知り合いからだ」
夏彦の口から、予想だにしない意外な返答がきたため、アン大・瀬賀大両生徒が一斉に「ええ!」「マジで!」と色めき立つ。
「先輩、その無精ヒゲでどうやってアン女の方とご縁が…」
庵の素朴な疑問に、夏彦は渋面で「身内の知り合いだ」と鬱陶しげに答える。
「…ったく、何でこう言うと同じ反応しかしないのかねお前さん方は。まあ構わんけどさ…」
あからさまにゲンナリした様子の夏彦だが、庵と晶の顔を交互に見比べて、敦の肩を叩くと「お前等もツラ貸せ」と指でチョイチョイと引き寄せる。
「え?何かあったんですか?」
「それなんだが…そうだな安佐、ちょっとこっち来い」
首を傾げる晶をよそに、庵が「はいなんでしょう」と近寄る前に首根っこを掴んでズルズルと先程のゲーセン隅へと引っ張り込む。
「ななな」と万力マドハンドを警戒する庵の首を引き寄せ、しゃがみ込ませると夏彦は庵に二言三言耳打ちする。
「……って……ことなんだが……俺にはちょっとなあ…でだ…」
「………ああ、なるほどそういう…確かに先輩じゃあ……あっ、それならいいのが一人」
内緒の相談は終了したらしい。並んで立ち上がると、庵は「大輔さん、ちょっといい?」と声を掛ける。
「え、俺?」
困惑する大輔に、庵だけでなく夏彦も「うむ」と力強く頷く。
「晩飯は無しでいいや。その代わり、ちょっと付き合ってほしい事あるんだけど。とりあえず、明日暇?」
意図が読めずいよいよ困惑する大輔に、「まあ、ちょっとコーヒーでも飲みに来い」と夏彦もニッコリと有無を言わせぬ微笑みを投げかけた。
【特別編に続く】
「あ、敦…キミ、道よく分からないの?そうだったらそうだって言ってくれればいいのに…」
やっと脳天の痛みから解放された晶が顔をしかめつつ立ち上がると、敦はいよいよ小さくなって肩をすくめる。
「あああ、すみません先輩…もっと前に見栄張らずにきちんと説明してたらよかったんですけど…その、言い出せなくて…」
「それ以前の問題だ!」
笑顔一転、再び鬼の形相でキッと睨み付ける夏彦に晶もヒッ、と思わず情けない声を出してしまう。
「まったく、お人好しが損する世界はいかんぞ!俺の目が黒いうちは、部内外でのパシリもパワハラも禁止だからな」
「さ、さっそく厳しい…」
二人掛け用の長座席に頭を抱えて突っ伏したままウンウンうめく庵に、夏彦は「当たり前だ!!」と、ぴしゃりと判ずる。
「…まあ、部創設に協力してもらったのは有難いが、それとこれとは別だ。俺はこういう上下関係の軋轢が一番嫌いなんだよ」
「顔に似合わず潔癖なんですね先輩」
「何か言ったか安佐」
夏彦がそろりと顔を上げた庵の眼前に開いた掌を突きつけて脅かすと、庵はびくっと身を震わせる。
それを見て得心したのか、夏彦は「反省したならいいさ」とニヤリと微笑んだ。
「まあ、とりあえず本棟と研究棟往復して届け出は提出しておいたぞ。五月の休み明けまでには正式に受理させるそうだ。…全く、明日は一旦寮に帰らないとならんのに研究資料が…」
夏彦が頭をかきむしって何事か愚痴をこぼしかけた時、庵と大輔の背後のモニタ画面から鐘の音が響いた。
「ん?なんだあ?」
「あーーーーーっ!!!」
夏彦が目を丸くしたのと同時に、庵と大輔が同時に大声を出した。
「ちょっ、勝負途中だったのに!」
「…あー、どっちにしろ俺が負けてたけどさ」
画面に表示された勝敗の結果を一瞥して、焦る庵に大輔は淡々と答える。
【第3試合 早押しクイズ】
庵 20pt(30ptリーチの際に夏彦が来て回答できなかったため)
大輔 10pt
最終結果
庵 2勝 × 大輔 1勝
庵勝利!!
画面上で泣いている自分のソフモヒアバターを横目に、「悪かったな」と庵の方へ向き直って大輔が呟く。
「え?どして?」
「いやその、忙しい時におしかけた俺が悪かったし」
「あー、気にしなくていいって。俺も行きたかったし、お前とも会いたかったし。なあ、これ無効試合にしてもいい?」
「え?」と大輔は眉をひそめる。
「勝ってたのにか?」
「俺、勝つならスッキリ勝ちたいし。こないだもそんなだったし、邪魔入りそうにない時にでもさ」
「そりゃ、まあ、いいけどさ…」
言い淀んで、大輔は「あーっ!」と苛立ち紛れに頭を掻いて仰け反る。
「あーもうなんか、それ、俺がモヤモヤする!見下されてるんじゃないって分かってても、何かスッキリしねえな…よし、やっぱメシは約束通りおごってやるよ。どこがいい?」
「晩ご飯?それでもいいけど…」
庵の困惑気味だった表情が→(*´ω`)となった所で、再度最大ボリュームの着信音が鳴り響く。
チャカチャーン チャラッタチャッチャー チャーン チャーラッタッタッター チャタッタッタン ッタッタン♪
「おい安佐、電話」
大輔に言われる前にケータイを開いて耳に当てるも、庵は当てたまま眉をひそめる。
「あれ?いや俺んじゃないや。しかも和音がなんだか古くさ…」
「おおっと、スマン俺だ」
「ヒゲ先輩っすか!」
使い込んだ風情のある、細かいキズが目立つシルバーステンのケータイを開くと、「はい安藤…」とその場からくるりと踵を返して自販機横の隅へ移動する。何故か、ケータイ片手に「ああどうも」とか「へ?」とか「あー…」とか言う度に、頭に手を乗せたりお辞儀をしたりペコペコと謝ったり。
「…ヒゲ先輩、誰と話ししてるんだろ」
「目上の人なのは確かっぽいけど?」
晶もやっとこさ万力ハンドから立ち直ったらしい。
涙目でこめかみをさすってはいるが。
通話を済ませるボタン確認音が聞こえると、夏彦は深々と長い溜息をもらし、大股で庵達の元へ駆け寄りながらケータイを白衣のポケットに放り込んだ。
「あースマン。俺はこれからすぐ研究棟に戻るぞ」
「誰だったんですか?ヒゲ先輩」
「…あー、アン女の知り合いからだ」
夏彦の口から、予想だにしない意外な返答がきたため、アン大・瀬賀大両生徒が一斉に「ええ!」「マジで!」と色めき立つ。
「先輩、その無精ヒゲでどうやってアン女の方とご縁が…」
庵の素朴な疑問に、夏彦は渋面で「身内の知り合いだ」と鬱陶しげに答える。
「…ったく、何でこう言うと同じ反応しかしないのかねお前さん方は。まあ構わんけどさ…」
あからさまにゲンナリした様子の夏彦だが、庵と晶の顔を交互に見比べて、敦の肩を叩くと「お前等もツラ貸せ」と指でチョイチョイと引き寄せる。
「え?何かあったんですか?」
「それなんだが…そうだな安佐、ちょっとこっち来い」
首を傾げる晶をよそに、庵が「はいなんでしょう」と近寄る前に首根っこを掴んでズルズルと先程のゲーセン隅へと引っ張り込む。
「ななな」と万力マドハンドを警戒する庵の首を引き寄せ、しゃがみ込ませると夏彦は庵に二言三言耳打ちする。
「……って……ことなんだが……俺にはちょっとなあ…でだ…」
「………ああ、なるほどそういう…確かに先輩じゃあ……あっ、それならいいのが一人」
内緒の相談は終了したらしい。並んで立ち上がると、庵は「大輔さん、ちょっといい?」と声を掛ける。
「え、俺?」
困惑する大輔に、庵だけでなく夏彦も「うむ」と力強く頷く。
「晩飯は無しでいいや。その代わり、ちょっと付き合ってほしい事あるんだけど。とりあえず、明日暇?」
意図が読めずいよいよ困惑する大輔に、「まあ、ちょっとコーヒーでも飲みに来い」と夏彦もニッコリと有無を言わせぬ微笑みを投げかけた。
【特別編に続く】
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