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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

※ようやっとここまで来ました…遅すぎるだろ自分orz
四月編最終部。ゆるく楽しんでいただけたら幸いです。


春薫る窓辺で。
*

四月某日、土曜日。

【10時半:第一学生寮2階206号室・安藤自室】

「まあ、相変わらず!」
彼女が俺の部屋に入っての開口一番はそれだった。

当たり前か。普段研究室に籠もりっきりで、こっちは彼女が来るとき以外開けないものな。
一ヶ月もしないと、中の空気もすっかり滞留しているのが分かる。
彼女に続いて土間を上がり、靴を足先で揃えていると、築浅物件独特のかすかな木材の匂いが鼻を刺す。
木の匂いは嫌いじゃないがあまり好きでない。昔を思い出すからだ。

いつも通りの、代わり映えがしない殺風景な1DKの部屋。
あるのは湿気を吸ってすっかりぺちゃんこになったパイプ式のベッドと片付いたシステムデスクのみ。
机の上には、研究用のサイエンス雑誌、エコを題材としたハードカバー数冊、今年の野球年鑑が積まれていた。
置いた当人でさえすっかり忘れている。買った覚えの無い野球年鑑は、兄が送りつけたモノだったか。
うっすら卓上に積もった粉っぽいホコリを指先でなぞり、「こっちはホント、物置ね」と彼女は苦笑してみせる。

「じゃあ、衣替えの前に掃除機かけましょうかね」
手を払い、彼女は淡いモスグリーンのカットソーの袖をつまんでまくると、慣れた手つきで掃除機をクローゼットの奥から引っ張り出す。
「いや、そんくらい俺がしますから」
「ダメですよ、夏彦さんが掃除機かけると絶対隅に残るんだもの。私、ああいうの見つけたらイライラしちゃう」
「す、すんません」
「それに、夏彦さんのお兄さんには、うちの姉もお世話になってますし。こういうのは得意分野で分担すればいいんですよ」
「あー…なんつうか、それお互い様つうかむしろ俺の兄貴の方が…」
「後で、たっぷり大荷物持っていただく予定ですから♪」
「むむ…そう言われると言い返せんですよ麻美さん。でも、俺みたいなおおざっぱなのには、本当に有難いこってす。いつもすんませんな」

しどろもどろで頭を下げると、目の前の義妹=兄の嫁さんの妹・朝宮麻美_アナマリア女学院大学三年生、超のつく美女才女優等生にして、まさかのクイズ研究部メンバーであったりしたり=は、前日軽く梳いてもらったのであろう、ゆるく弧を描くセミロングの髪をかき上げて微笑む。

兄の典生(のりお)が結婚してから五年。それからというものの、この才色兼備な義妹が時折「生存確認」に来るのが、夏彦は内心…実は苦手であった。
いや、相手が嫌いなのでは無い。間違いなく。ただ…いつも三手先まで見透かされているようで、掌で自分を転がすお釈迦様のように見えてくるのが何ともなあ…と思うのだ。
単に女性に対する免疫が低いのは、大いに自覚するところではある。美女と野獣そのままだしなと、心の内で苦笑する。
この美人で賢い妹さんそっくりなお姉さんを、自分とほぼウリ二つな五歳違いの兄が、熱烈な恋愛結婚でゲットしたというのが未だに信じられないくらいである。しかもちゃっかり嫁さんそっくりな娘までいる。兄貴と唯一自分が違うところは、こういうそつのなさなのかも知れない。
この不器用で薬品臭い弟は、大の男であるにもかかわらず女性に下心をみじんも警戒されず、今、鼻歌交じりに自室の隅々まで掃除機がけしてもらっている。
他の寮に住む男共が聞いたら鼻の下を一斉に伸ばしそうな展開であるのだろう。
…自分にとっては、自室なのに所在なく、変に肩へ力が入るばかりであるが。

「…はい、掃除機終わり。次はお布団干して、ちゃっちゃと衣替え済ましますからね。その後は、お洗濯をしかけておいて、お花見弁当用の食材買い出しに行きますから、今から食べたいものあったら、考えておいて下さいね夏彦さん」
「あ、は、はいっ」
手に持っていた、昨日神戸の実家から届いた古着の袋を台所の隅に置くと、掛け布団を抱える彼女の脇を抜けてベランダの窓を開ける。

「良い匂い」
彼女の言う通り、窓からは階下に花咲く土手沿いの桜並木と萌える木々の若芽が放つ、爽やかな春の香気が身体中を通り抜けていく。

「楽しみですな」
「そうねえ」
良い風だ。何もないのに、何かが生まれてくるのが分かる。

春の芽吹き。新しい喜び。

春は良い季節だ。
しみじみと、夏彦は彼女の隣でそう思った。

【続く】












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