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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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訪問者は静かに微笑む。
*
翌日。
双葉に鍵を借りて、榎本は成瀬の家を訪ねた。
少し古びたマンションの一室。周囲は閑静な住宅街。夕方の日差しの向こうで、階下からは子供が道草しながら帰る声が聞こえた。
部屋を開けると、むっ、と傷んだナマ物の匂いが鼻をつき、慌てて窓を開き換気扇を回す。電気を点けて部屋を見渡すと、その腐敗臭の元が何だったのかすぐに分かった。
食卓に放置されたままの、ハンバーグとサラダ、何かのスープ。一週間以上経ってさすがに腐ってはいるが、あれこれと手間を掛けていたのが分かる二人分の盛りつけに、親子の生活をかいま見て榎本は身につまされる思いがした。彼は、どんな事を思いながら料理を作っていたのだろう。きっと楽しみにしてたんだろうな。片付けをしながら、榎本は親子の為しえなかった会話を想像しては暗い気持ちになった。
親子二人分の洗濯物と着替えをナイロンバッグに詰めると、榎本は陽一の部屋に向かい、クローゼットの奥をごそごそと物色する。
「…あった」
目当ての物を見つけると、榎本は携帯を取り出し昨晩の相手にリダイヤルをかける。
「…はい、もしもし僕です。…はい、ありました。桐の箱。中身確認しました。なんていうか、らしいですね、このパッケー…はい、すみません。私語慎みます。で、これを持ち帰ればいいんですね?…はい、了解です。では、また」

*

身体が重い。
昨日今日と、異常に重い…もとい、しんどくてかなわない。
本当に俺、死ぬのかな。
まあ、人様に自慢できるような人生じゃ、なかったけどさ。

右腕に刺さった点滴が憎い。つか、かゆむ。こんなもの身体に入れてないと、くたばっちまうようになるとはな。
陽一は、自嘲気味に鼻で笑った。

コンコン、とノック音がしたので「はいよー」と適当に返事を返す。
現れた人影は、全く予想もしていなかった人物だった。

「お久しぶりですね、成瀬主任」

ブラウン主体のスーツ、軽くウェーブのかかった焦げ茶の長髪を後ろで一括りにした、眼鏡の男。
そいつはあごにうっすら残したヒゲを指先でさすりながら、にこやかに俺の枕元に立っていた。
いつ見ても思う、笑えない笑顔。

「…榎本かと思ったら」
「ああ、そういえば来月からここにお勤めだそうですね、榎本さん。彼はチーム外部の人間だったのに、随分貴方や堂島さんに気に入られてましたね。僕は新入り時代、ずっと羨ましかったんですよ」
「そうかい、それでそのまま新人研修期間に俺らに見切りつけてシャドウ研究の本山へと転属してった勝ち組が、今更俺に何の用だ」
苛立ちをそのままぶつけると、そいつはあの頃と同じようにしゅん、と目を伏せて怒られた犬のような顔をして見せる。
「…相変わらず、つれないなあ。まるでこの手に刺さってるものみたいに、僕を睨まないでくださいよ」
「点滴なだけに天敵、ってか?…よく分かってるじゃねえか、幾月」

幾月修司。
現、月光館学院理事長。そして、ペルソナを使える子供達を組織・支援する、タルタロス調査及びシャドウ討伐部隊「特別課外活動部」顧問。
実質、今現在の桐条内部で一番熱心にシャドウに携わっている人物と言える。上層部にしてみれば、厄介事を一手に引き受ける便利な面倒係だとでも思って重宝しているのだろう。こいつが、どんだけ腹黒いか知ってか知らずか…。

「おおっと、一本取られましたね。変わらず察しの良い事で」
「前口上はいい。…俺はだるいんだ、用件を言えよ」
上司口調が勘に触ったのか、幾月の表情から笑みが消えると、芝居がかった渋い面持ちで深々とため息をもらした。

「…そんな喧嘩腰だから、いつまでたっても貧乏な不遇の生活を送ってきたんじゃないんですか?呆れて物も言えない」
「そうかい、なら帰れよ。言う事ないなら聞く耳もねえな」
「ほらそれだ。こちらがわざわざ見舞いに出向いてきたというのに、それでは折角の特効薬をフイにしても良いのですかな?」
「特効薬?」
話に食い付いたと思い、幾月の能面に嫌な笑みが張り付く。
世間の全てを嘲笑したような、見下した笑み。得意満面にこいつが自分の話を長々と話す姿は、昔から嫌いだった。
「ええ、聞けば悪性の腫瘍で随分身体の調子が良くないとお聞きしたもので…どうです?僕が今『偶然』手にしている、腫瘍に良く効くクスリ、よろしければ少しお分けして差し上げようかな、と…」
「…どうせ、何か対価が要るんだろう?」
聞かなくても分かっているが、聞いてやらねばなるまい。幾月は、そういう男だ。
「はい、でもそう大したものではないですよ…」
幾月は、横になっている陽一の耳元に、そっと顔を近づける。幾月の微笑が眼前に迫って、陽一は思わず顔をしかめた。

「…日向双次郎の遺産をお譲り頂けますか?できるなら、全て」
「………」

俺の沈黙を、幾月は固唾を飲んで見守っている。やはり、口元に笑みをたたえながら。
あいつは俺が望んだ答えを出すと思って来たのだろう。出来うる限りの最終手段を施して。
いつも通り、お前は用意周到な奴だよ。でもな。その、死人を前にした余裕が気に入らないんだよ。

「日向の研究資料は全て廃棄した。他には何も残っちゃいない。これが、真実だ」
「…なかなか強情な人だな。こんなになっても、まだバケモノのなれの果てをかばうおつもりで?」
幾月は身体を起こし、ツバでも吐きたそうな横顔を窓の向こうに向けると、陽一から視線を逸らす。
「あいつは、双葉は人間だ。ちゃんと生きてる。お前らの望むような怪物じゃない」
「いいや、それは貴方がそう思いたいだけだ…よおく思い出して見てください。あの当時報告された資料によれば、残されていたVTR画像データを調べただけでも、あの少年はたった一人で、半年も飲まず食わずのまま地下の実験室で過ごしている。勿論精神は破綻していたが、映像にはちゃんと彼が何一つ摂取せず生存していた記録が残っていたと聞いています。あり得ませんよ?普通の子供なら、とっくに餓死してる」
「それは誇張された噂に過ぎん。あいつはあそこに居た。だが生きていた。それだけだ」
「本当に可愛がっておいでなのですね。堂島さんもおっしゃってましたよ、貴方は死神に魅入られたのだと」
「………」
こいつに言われると腹が立つだけだが、確かにそう思わない事も無かった。
側に立って、抱きしめて、話をして、その手に声に触れれば分かる。
双葉は、ごく普通の子供だと。
だが、頭の冷えた片隅で俺はずっと別の事を考えてもいた。
こいつは、本当はもう俺のセンパイの息子じゃないんじゃないかと。
日も差さない地下で非業の死を遂げた可哀想な子供の皮をかぶった、凶悪なシャドウの結晶じゃあないのか、と…。
影時間に現れる死神の化身、ファルロス。奴こそが、双葉少年の身体を乗っ取っている本体じゃないか、と…。

何度も何度もふいに迷っては、俺は「否」と判断してきた。
そうした時はいつも、俺は、双葉をかけがえのない息子として、愛している自分を再認識していた。
愛した女性の血を持つ子供。可愛く、スマートで、素直な秀才。

俺が、彼女との間に本当に欲しかった、家族。 理想の子供。

「…あいつは、前にもそう言ってたよ。心配性なんだよ、お前と違って」
「おやそうですか。こうして顔までお見せしたのに」
「お前は自分の心配だけだろ?」

窓の側に立ち背を向けていたため、幾月がどんな顔をしていたのかは分からなかった。ただ、笑っていようが失望していようが、そこに浮かんだ表情はきっと奴の内にある本意とは裏腹な建前であっただろう。見えなくて逆に良かったと、陽一は思った。

「これ、置いていきますね」
ため息一つ洩らして、幾月はベッド脇の食事用テーブルにアルミ封のされた錠剤を数粒転がし、その下に自分の名刺をそっと刺し入れる。
「だからいらねえっつってんだろうが」
「試供品、ですよ。効果が確認していただければ、きっと僕の好意も理解していただけると信じていますから」
「そうかい。さっさと帰れよ。二度と来んな」
「あっはは、では、今日の所は帰るとしますかね。必ず、貴方はそのクスリを必要とする日が来ますよ。必ずね」

幾月の、最後の一言がやけに気になった。
錠剤は、捨てようと思ったが、それもあって踏みとどまった。どちらにしろ、飲む気はないが。
それより、双葉の事が気がかりでならなくなった。幾月が、今度は何をしようとしているのか読めなかったからだ。

陽一は携帯を卓の引き出しから取り出すと、逡巡の後、一つの番号に発信した。
電話はすぐに繋がった。
「…堂島。俺だ。成瀬だ。…俺の身体の事、榎本から聞いてるんだろう?…最後のわがままだ。頼まれてくれるか…」












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