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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

ツインテールは振り向かない。
*

「とはいえ…流石に持って行くのがこれだけ、というのはまずいかな」
背負ったバッグの中で先程からちゃぷんちゃぷん、と音を立てている一升瓶を気にしながら、大輔は駅前商店街アーケードの端、「瀬賀酒店」の前に足を止める。
と言っても、中には入らない。
お目当ては、隣接する自販機のベンダーのようである。

「ポカリとオレンジジュースでも買っていくかな…」
独り言混じりに尻ポケットの財布に手を入れていると、隣で見知らぬ少女がもぞもぞと自販機の下を覗き込んでいる。

有名ティーンズブランドの水玉パーカーに、パステルカラーのミニスカート。
新品の愛らしいピンクスニーカー。

カジュアルにまとまったツインテールの少女は、顔をしかめる大輔をよそに、ポカリの自販機隣、コカコーラの赤い自販機の前で、立ったり座ったり左右の隙間を覗いたり…。

「…何やってるんだ、お前」
思わず声をかけると、ツインテールの少女は「ごひゃくえ~ん」とだけ答えて涙目で顔をくしゃくしゃにしかめた。
「五百円?」
「そうなんだよぉ~五百円玉!落っことしちゃってジュースが買えないよぉ~」
ここ、ここ、と自販機の底を指差す。挙げ底のブロックも見あたらない。
手が入るような隙間もなさそうだ。

「酒屋の店主に言えばいいんじゃね?」
「ヤダよぉ!ここの店長ブッチャーみたいでおっかないんだもん」
「ブッチャーって…(まあ、確かにそうなんだが…)」
大輔が店に入らなかったのも、それが遠因ではある。
何であんな見るからにヒール顔の筋肉男が店長なのか、小一時間ほど問いただしたくなるほどに。

「で、お前はそこで何やってんの」
「五百円をいかにして取り戻すか思案してるんだよぉ~!見てわかんないかな~…」
「別に後でもいいだろう?ちょっと買わせてくれないかな」
「むー…ダメ!最後の一本かも知れないも~ん!コーラとカルピスはお花見に死守するんだよ~」
今時珍しい大型ボトルジュース専用の自販機前で大の字になって頑張る少女に、多少げんなりしつつも大輔はふと聞き返す。

「お前も花見なのか?」
「そうだよ~!今日は、大学入って初めてお友達とお花見行くんだよ~そのために、仕事マッハのど根性で終わらせてきたもんね~」
「(…大学生に見えん…)」
自分の鎖骨あたりぐらいまでしか背丈の無い少女に、大学生と言われても説得力が無い。
どう甘く見ても、中学生レベルだ。
姿形も衣服も、そして落ち着きのない舌っ足らずな言動も。

・見る→ツインテの視線の先→自販機の下 
【自販機の下は、やはり僅かな隙間しかない。手を入れるのは難しそうだ】

「…諦めて、店長に言えば」
半分呆れ気味の大輔に、少女は途端目を吊り上げて食って掛かる。
「え~…やだよぉ!だって未来のトップアイドルだってばれたら、きっと店の裏口に連行されてあんなことやこんな事されちゃうよぅ!!」
「アイドルって?お前のどこが?」

見るからに童女体型・色気ゼロ・グラビアにも需要がなさそうな洗濯板スタイル小学生フェイスのこいつがアイドルとか、どうみても局地的な属性限定の固定ファンしか付きそうにない。

…こいつ、もしかして頭がお花畑なんじゃなかろうか…。

大輔が、少女に対しにわかに警戒心を抱き始めたのが分かったのか、少女の表情も更に不満度を増していく。

「…その目・・・疑ってるでしょ?失礼だよ~!!未来の国民的アイドル(予定)のアイアイに失礼だよ~!!」
「アイアイ…?おさるさん?」
「ちっがうよう!!アイアイは藍子の事!わたしの事に決まってるよ~!!」
「そんな、自己紹介されてもないのに知るかよ…」
はああー、と言い返す代わりの、大輔の深い深い溜息にツインテ少女藍子も流石に意気消沈したか、眉をひそめて肩を落とす。

「…う~ん、やっぱり深夜番組に数分出ただけじゃ、名前ちっとも覚えてもらえないか…」
「出たの?お前が?」
話題が良かったのか、途端に暗かった表情が後光が差したかのような明るい笑顔に変わる。
「うん、そうだよ~♪【ミッドナイトパレード25】って知ってる?東京TOKIOテレビの音楽番組なんだけど~、新進気鋭の実力派シンガーって紹介してもらってインタビューもされたよ~」
「へえ…」
まあ、番組自体は知っている。口ぶりからして嘘じゃなさそうだが…正直、東京TOKIOテレビは他のキー局に比べてあまり有名でない。
しかも、かなりマイナーな番組だ。
…本当に駆け出しなんだろうが、どこまで信じたものやら。

「でねでね、今度滋賀だか瀬賀だかっていう会社のゲームキャンペーンガールにもなったんだよ~それでシングルも出させてもらえる事になったんだ~」
「はあ」
大輔の中に、ふと疑問が沸いて出る。
で、何で俺はこんなお花畑とお話してるんだ?

いかん。

こないだ安佐と偶然会ってから、また何か俺の人生変な方向、もしくは変わり者ばっかり引き寄せてないか?

…勘弁して欲しい。
そんなのはこちとらもう三ヶ月前に卒業したんだ。
あんまり関わりたくないが…。

「あ、そうだ~。タマネギさんも買ってよぉ~アイアイの新曲~『恋のアンサー教えて』っていうんだけど~」
「あーそう。俺急いでるから…ってタマネギってなんだこら」
「だってタマネギみたいな髪型してるから」
「おまえな、初対面の人間にタマネギって…」
「じゃあはなわ~」
「余計ダメだろ」
「むー…いいもん、いいもん、今日アイアイはアンアンと遊ぶから怒らないもん。あーあ、カルピス持って行きたかったよう…」
「アンアン?」
自己完結して恨めしげに自販機を小突くツインテール=藍子の言葉尻に、大輔が耳聡く反応する。

「…安佐庵?」
「ん?アンアンの事?そうだけど~?」
「…まさか、お前、あの女子大最高峰アナマリアの学生?」
「うん!そうだよー!一日十二時間勉強して頑張って入ったんだからね~これちょっと自慢なんだよ~」
非常に嬉しそうにはしゃいでみせる藍子の姿と対照的に、大輔の表情はみるみるうちに愕然と崩れていく。

待て待て待て。
アナマリアって超のつくお嬢様学校だろう?
それは優雅で知性豊かな美人の生徒ばっかだって聞いてたのに。
…なんでこんなロリの言動崩壊した宇宙人が入学してるんだよ…。
しかも、行き先が一緒とかありえんだろ…常識的に考えて…。

「…まじかよおい、聞いてないぞこんなパープリンが来るなんて…」
「パ…プリン?プリンがどしたの~?」
その場で頭を抱えてしゃがみ込む大輔を、藍子は怪訝そうに覗き込む。

彼女は気付くはずもない。
今まさに、一人の男の中にあった「お嬢様学校」というイメージが脆くも崩れ去っていったのを…。

「あ、そうそう!アイアイこの辺りよくわかんないんだよね~地元の人かなぁ?アン大までどう行ったらいいかな~」
「………ついてこい」
「案内してくれるの~?やった、ありがと~☆」
「いや、俺も同席する」
「え?でも今日はお友達とアンアンのお友達だけしか…」
「俺も呼ばれてる」
「………ふ~んそうなんだ~ってええええ!!?
今度は藍子が驚く番であった。

【続く】












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