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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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春にして、君とまた出会い。
*

時刻は既に十一時を回っていた。
未だ喧噪止まない酒宴の川縁を後にし、土手沿いの桜並木を横目に、沿道を歩いて帰る。
露店の灯りも人影もまばらになった、大学方面への緩いアスファルトの坂道。
前方に男性陣五名。後方に女性陣五名。
内、一名は既に引率する院生の背中で大人しく寝息を立てていた。

「…しっかし、敦も憎めんな。割と普段は控えめにしているくせして、しっかり自己主張だけしちまいやがった」
「いつもだって、本当はもっと色々話がしたいんじゃないかな。ただ、性格の問題なのか押さえてるみたいだけど」
もっとうち解けてくれてもいいのにな、と敦の寝顔を見ながら晶が笑うと、つられて夏彦も「こいつ、語ると長そうだぞ?」と、わざと意地悪く笑ってみせる。

「うへへ」
「あ、笑ってる」
「良い夢見てるんだな。羨ましいこった」

「あー…飲み過ぎた…日本酒まで飲むんじゃなかった…」
うへえ、と後頭部を押さえて顔をしかめている大輔の背中を、庵はなでながら「明らかに飲み過ぎだよ」と口を尖らせる。
「言うなって…お前は呑まなかったのか」
「脳みそにアルコール良くないです」
「あーそこか。未成年?」
「いんや。俺ついこないだ二十歳になったよ。平成元年四月生まれ。平成ベビーだぜ俺」
「あーそうか。とすると、俺は最後の昭和世代ってな訳か…どうりでお前のユルさに時々ついていけないと」
「若くして老成しちゃってー、老けるよ?老いが早く来ちゃうぜそんなんじゃさー」

「庵君」
呼ばれて振り返ると、のどかが改まった様子で庵の隣に小走りに駆け寄り、歩調を合わせる。
「…」
それとなく、そっと、大輔が歩調を早め晶の背中を追う。
それに気付く余裕もなく、庵の隣に並び決心した様子でのどかはうん、と一人頷き、顔を上げた。

「どしたの?疲れた?」
「ううん。…これ」

あ、と庵が小さく声を漏らす。
肩を並べて歩くのどかはそっと自分の足下へと視線を落とし、独り言のように言葉を続けた。

「今日ね、これ返そうって思ってたんだ」
きちんとノリをきかせて正方形に畳まれた、白いハンカチ。
予想外だったらしい庵は、無言で差し出されたハンカチを受け取る。

「懐かしいな」
別にどっちでも良かったのに、と庵が照れ笑いを浮かべると、のどかは「そう?」と少し俯いたまま話を続ける。

「…これを庵君に返したら、もう会えないような気がしてた。それっきり、何も無かった事になりそうで…だから、海挟んだ隣の県に住んでるって分かってても、ずっと行けなかった。…ごめんね、勝手な事してずっと借りっぱなしにしって」
「ううん、いいよ別に。ハンカチくらい。ウチで洗濯するよりキレイになってるし!ありがとな」
そんな事ないよぉ、と俯くのどかの顔が、ほんのりと桜色に染まる。

「だけど、その…あの、また…また、大学に遊びに行ってもいいかな?」
「え?」
「今度は、このハンカチを始まりにしたいなって。私、これからも、庵君と話がしたい。もっと、もっと、あの時話せなかった事とかたくさんもっと…ダメかな?」

目と目がぶつかり合う。
少しもずれてない、まっすぐな視線。
ああ、分かる。
今、目の前の相手は、ただ、自分だけを見ていてくれているのが。

「もっちろん!俺で良ければいつでもいいぜ!」
思ったよりも大声で応えてしまったせいか、それとも純粋に照れなのか、庵の顔面が一瞬にして真っ赤に染まったのを見てヒューヒュー、と晶と大輔が囃し立てる。

「あらまあ、良かったね庵~」
「お前もすみにおけんな」

「うっ…うるさい!うるさいよ!!お前等二人ともニヤニヤすんな!!」
勢いよく背中から飛び蹴りを喰らわせる庵に二人が「ギャッ」と呻き、反撃がてら三人でじゃれる。

ぽかんと、小学生のような男達の背を見つめたまま緊張で固まってしまったのどかの肩を、杏奈が優しく叩く。
「よかったわね、ののちゃん」
「勝負はこれからよ。応援してあげるから」
両脇から杏奈と麻美に祝福を受け、やっと緊張で強張っていたのどかの顔にナチュラルな笑顔が戻った。

「ありがとー…みんな優しすぎるよ」
「いーえ。でも油断しちゃダメよ。恋はこれから本当に始まるんだから、きちんとすくすく育てないとね。この木みたいに」

指差した先は、アーサー大構内にある立派なソメイヨシノ。
大学をぐるりと囲う壁を軽々と越える枝振りで、勢いよく天に向かって伸び、隆々とした幹は目も眩むような花弁の紅化粧をまとう。
ここに大学ができる前からあったという、樹齢百年以上の大木。
満天の春夜を覆わんばかりに咲き誇る、薄紅色の夢。

知らぬ間に過ぎていく時間の中で、息づいてきた鼓動が、空を舞う。
命の輝き。重ねていく時間の本流に消えていく、ほんの小さなひとひら。
だけど、それを重ね続けて今また咲き誇る。桜は命の体現のようだ。
冬の寒を忍び、春の匂いを喜ぶ。夏には盛り、秋には朽ちて。

彼と、そんな何でもない、かけがえのない時を重ねて行けたらな…。

おおい、と随分前方から庵の呼ぶ声がした。

「…今日は遅いから、送っていくよ!早く行こうぜ~」
「…あ、うん!待ってて~」
坂の一番上、アーサー大学正門前から庵達男性陣が手を振っているのが見えて、のどかが手を振り返す脇を藍子が「おっさき~」とアラレちゃんのように勢いよく駆け上がっていく。

「今日は全然アンアンとしゃべれなかったから、帰りくらいお話したいよ~」
「あ、あいつ!」と慌てて茜が駆け寄ろうとするも、酔いが回っているらしく袢纏姿で思いっきり転んで鼻を打つ。

「………いってえええええ!!くっそお、情けねえ…」
「せ、先輩大丈夫ですか?」
「うわあ、ショート先輩平気?立てそう?」
「ええ、大丈夫そうよ庵君…ってちょっと藍子ちゃん?何庵君と腕組もうとしてるのかな?」
「えー?だって麻美せんぱーい、エスコートしてくれるって言ってたから~」
「空気読めよ宇宙人…」
「はなわウルサイよ!」
「んだとコラァ!」
「ケンカはやめようよ~…」
「今日は午前様になりそうですね~…」
「いおりせんぱ~い…ムニュムニャ」
「ハハ、元気が余ってるみてえで、いいなあお前等…」

こりゃ、春から景気が良さそうだなと、夏彦は誰に言うでもなく一人呟く。
心地よい予感が忍び寄ってくる。
そんな夢心地が心を躍らせる。こんな気分の高揚はいつ以来だろうか。

忙しくなりそうだ。
背負った敦を持ち上げ直すと、夏彦は口元に笑みを浮かべたまま「行くぞ!」と背後の後輩達に声をかけ、一足先に下り坂へと降りていった。

【春編終了】












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