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ロン毛二人の食卓。

*

本日の夕飯メニュー　
・オクラと焼きナスの崩し豆腐和え
・ささみと夏野菜の炒め物・かきたま汁

「相変わらず、お前は野菜を使った料理が美味いね」
「お褒めにあずかり嬉しいでーす」
「ん。メシのお代わり頼む」
「はいはい」
ほどほどに家族の会話とやらを楽しみながら、それとなく話を聞きたくない話へと降る。
本当の用事がゼリーを冷蔵庫にみっしり詰め込んで帰ることじゃない事くらい、僕でも分かる。嫌な話はさっさと済ませたい。

「今日は、どうしてわざわざ」
「お前、今年も岡山帰らないのか。夏休みも年末年始も去年みたく挨拶状一枚きりで済まそうと思ってないか」
「………」
「タヌキは放っておけよ。あいつの事はあいつの家の事情だ。お前まで付き合う事はない。勝手に干涸らびさせておけ」
「それは別に…」
「他にも帰りたくない事情あるとでも？分からんでもないが…まあ、年末年始に親戚と顔合わせるのは俺も嫌だがな。揃いも揃って人間の顔した奴がいない。あれは百鬼夜行も真っ青だな。全員どこかの社長か議員先生らしいが、日本の行政や経済を動かしてるのは狐狸魍魎の類らしいぞ晶」
父は父でイケメンぬらりひょんみたいなもんだがな、と異母兄はカラカラと飯粒をアゴにつけたまま口を開けて笑う。

普段人前では絶対に見せない、いわゆる「御下品」な表情。
外面の兄は、まさしく品行方正・成績優秀・非の打ち所のない冷徹な政治家二世。
椅子に腰掛けて頬杖をつき、溜息一つ零すだけで周囲の女性全てを魅了する端正な横顔。曰く、昔の父そっくりらしいが定かではない。
某有名高校に某海外の有名一流大学を主席卒業しており、現閣僚の父の後継者にふさわしい、文字通りのエリート。
…一皮むいたら割と非常識なんだが、兄の被っている猫はチャックどころか継ぎ目すら見えない超一級品である。
真面目にやっているのに、お世辞や美辞麗句が下手な故に損してばかりな自分としては、その猫の爪一欠片でも分けてほしいところだ。

「…僕が、いない方がいいんじゃないですか？」
ぽつりと本音を漏らすと、兄は途端に表情を曇らせる。

「…やっぱりな。それか」
「…すみません」
「気に病む必要はないと何度言ったら分かる。お前はウチの子だよ。親戚連中は無視しろ。あいつらはやっかんでるだけだ」
「ですが」
「敬語はキモい。止めてくれよ。それに、お義母さんが心配してたぞ」
ぐっ、と言葉に詰まる。気にしてなかった訳じゃない。だけど。

「タヌキの母ちゃんからよく電話あるんだって？
いつもウチのが世話になってるからって。
…あれな、実はウチのお義母さんがお前の様子をそれとなく聞いてくるからなんだぞ。未だにお義母さん、あの人以外腹割って話せる友達いないみたいだし、父さんも俺も仕事で今は東京だ。お前が出て行ってから体調もすぐれないみたいだし、一人岡山のお屋敷でぽつねんとしてるんだぞお義母さん。寂しいだろうなとは思わんか」
「………」
「まあいい。つまりはそういう事だ。夏にくらい、一度顔見せに帰れ。後、時々は東京の事務所にも来いよ。父はいるかどうか分からんが、俺はお前が来るなら三日前から予定空けて待っててやるよ」
「それは結構です」
「………」
その後、七時前に大変名残惜しそうに兄が帰っていった後、あらかた食後の片付けを済ますとぐったりと疲れて、クッションに顔を埋めて横になる。
すんごい疲れた。精神的に。
気怠さに目を閉じると、五歳の自分の背中が瞼の裏に浮かんで消えた。

【続く】