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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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初夏の思い出と苺とワイン。
*
五歳の誕生日の事。

母は僕が生まれる前からずっと営んでいた小料理屋を畳んで、今日から岡山のお父さんの所に行くのよ、と言った。
僕はよそ行きの上等なシャツとズボンを着せられ、上品な小袖を着た母と一緒に、児島の駅から電車に揺られた。
その間、ずっと母は僕の手を握っていた。
細くて白い指が食い込みそうなほどに、ぎゅっ、と握りしめてられていたの覚えている。

天気はバカみたいに晴れていた。
その年最初の、真夏日。
だけど、何故か汗をかいたような覚えはなく、母の手の感触だけが生々しかった。

駅に着くと、やたら黒々と磨かれた大きな車が僕らを待っていた。後で、あれがリムジンというのだと知った時の驚きと言ったら。
車に乗せられ、来たことのなかった市街地や市電を初めて見ながら、僕は母と一緒に小高い山の上に立つお屋敷に連れて行かれた。
振り向けば、市街地を広々と見渡せる高台にそびえる古めかしい邸宅。
広々とした古風な和風建築のお屋敷の中に通され、そこで僕は初めて自分の事を教えられた。

参議院議員、そして地元の名家である安住家の当主、安住虎太郎の次男。
そして。…元妾腹の息子。

父の最初の妻=聡文兄さんの母親=は、家柄だけが立派な悪妻だったという。
家事はもとより政治家の妻としての自覚も薄く、度々酒や借金でトラブルを起こして遂に離縁させられたのだとか。
男遊びも酷く、そのせいで兄は未だに人間不信が強く、父も随分マスコミにあれやこれやと言われたそうだ。

僕の母さんはといえば、ごく平凡な小料理屋の娘だった。

父が若い頃に児島の別宅に夏遊びに出かけた際に知り合って、それからずっと相思相愛だったんだよと、父は鼻の下を伸ばしてよく言っていた。ただ、当初は家の格があんまり違うからと泣く泣く別れ、前妻と別れる前後、悩んでいた頃に再会して再燃して僕を密かに設けた。父は僕が産まれた事もあってすぐに再婚したかったそうなのだが、病床の祖父には死ぬまで反対され、死後も親戚縁者から猛反対されと、やっと説き伏せてここまでこじつけたのだそうだ。

そのため、僕は五歳まで父がいなかった。

だが、父が出来た後も、出来る前からも、遠目から人が僕を指差してひそひそ何か言ってるのは変わりなかった。

「愛人の子よ」「妾が金目当てに産んだ子だ」とかまあ、そんな内容。

人様から見れば複雑な出生を持つ僕だが、その事を赤の他人が汚げに罵るように、恥と思った事は一度も無い。
高校生クイズの時も、あんなに目立つような事態になるとは予想してなかったから後々まで苦労した。迷惑もかけたと思う。
父を恨んだ事もなかった。
あの人が尽力してくれた事、愛してくれている事は身に染みて分かっているから。
何も悪い事しちゃあいないんだし、ワシの不徳の致すところだからお前は堂々としてればいいよ、といつもの飄々とした口調でほほほ、と笑ってくれる。

今現在、母は後妻として慎ましく暮らしているが、そうなる前に一悶着あったのは言うまでもないだろう。
周囲の目や度重なる心労で度々倒れていたし、今も持病のシャクが思わしくなく、岡山で自宅療養していると聞く。

心配ではあったけど、でも。…正直、父も兄もいない実家は、息苦しくて。

無駄に広くて格式だの血筋だのと重苦しい空気が、広々とした畳敷きの座敷に詰まっているようで、一人で座っているのも苦手だった。

今でこそ仲のいい兄だが、当初、自分はいじめられていると思っていた。
朝起きたら布団に入ってこられて無表情で横に寝そべっていられたり、かと思えば登校直前にランドセルを開けてみたら、いつの間にか教科書ノートを全部卓に出されてみっしりと饅頭とミカンを敷き詰められていたり。
兄はどうやら僕が困惑している姿を見るのが好きだったらしく、そのために兄が尽くしたイタズラやホラや嘘八百で僕はどれだけ苦労したか知れない。
家に友達を呼んだら小舅のようにチクチクちょっかいを出して僕の友人を遠ざけ、僕が不満を訴えると「お前を独占したいからだ!」と一喝される。
しかも、それが本気だったりする。異常だ。

そのせいで、しばらく僕はまともな友達が出来なかった。
「あいつの家、すげーいづらい」とか言われて。

兄にしてみれば、趣向を凝らしたイタズラにも嫌がらせにも屈しなかった庵は相当な目の上のたんこぶだっただろう。
ただ、父はそれに関して「ワシのせいだろうね」とポツリと洩らした。
兄は賢かったが、モノと命の区別が出来ん子だと父は言った。母親が苛烈過ぎたからなあと、遠い目をして呟いていた。
兄にとっては、父は「父」という何かであって、自分と同じ生命体でない。他の誰かも、虫にしても、無機物有機物の別なく、自分以外の「モノ」でしかないのだと。
ただ、お前だけは何故か自分と同格の「命」として見えてるらしい、とも。
それを理解するまで随分かかったが、今では何となく分かる。庵も多分、察しているのだろう。
犬猿の仲ではあるが、端から見ていると天才同士ならではのシンパシーというか、牽制し合っているようにも見えるのだ。

そんな訳で、周囲の目は冷たかったが、家族は優しかった。
でも、格式高いお屋敷の生活は僕をますます内気にさせた。
狭い家の中ですら自由になれず、友達のいない幼稚園から帰っても勉強するか兄と話すだけの毎日。
両親はそんな僕を私立の附属小に入れたかったらしい。優秀な子だとアピールして、周囲を見返したかったのだと思う。

しかし…僕は受験に落ちた。表だっては何も言わなかったが、両親が落胆しているのを肌で感じて幼心に随分傷ついた。
それからずっと、人生の節目ごとに、僕はこの「お受験」に悩まされる事になる。
唯一、小学校の受験に落ちて良かったと思えたのは、公立小で庵と会えた事だった。

*

がさ、と玄関で物音がした気がして目を覚ます。
午後九時前。少し寝入っていたらしい。
あーあ折角の誕生日無駄遣いしちゃったよと、重い瞼を擦って立ち上がるとドアの覗き穴からそっと外を窺う。
外には誰もいない。
気のせいかなとドアをそっと開けると、ノブに妙な重たさがひっかかった。
「ん?」
ドアを全開し、外をぐるりと見渡す。誰もいない。

代わりに、ドアノブのところに小さなケーキ箱が引っかけられていた。
ビリジアンの紙袋に入れられた、有名店の白いケーキ箱。

中を覗き込むと、小さな錦糸のリボンが付いたミニボトルのワインが箱の脇にねじ込んであった。
無理矢理突っ込んだのだろう、箱の角が歪んでいるのが何だか可笑しくて笑ってしまった。
ちら、と箱の中を開けてみる。

一人様用、ミニサイズの苺ショートワンホール。
スタンダードなのが、らしいチョイス。

全く、金欠だったんじゃなかったのかと、小一時間問いつめたい。
それとも、ハラヘリ口実にコレ持ってきてくれるつもりだったのかな?なんて。
もし僕が寝入ってたらどうするつもりだったんだろう。
今の時期は傷みやすいんだぞ、と一人呟く。

とりあえず、この後することは決まったようなものだ。そうでしょう?
僕はケーキの紙袋を提げたまま、隣の部屋をノックした。
「庵?いるんでしょ?…誰かさんがケーキ持ってきてくれたから、僕の部屋で一緒に食べない?…」

【夏編本編に多分続く】












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