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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

夜をぶっとばせ。
*

休暇に入って一週間後。
僕は相変わらず諾々と時間を浪費し続けていた。
気晴らしに図書館で課題のためにと資料を探したりもするが、全く乗り気でない上に、行帰りの熱気がやる気を完全にゼロにさせた。
気は晴れない。
鬱陶しく、窓から差し込む陽光が暑苦しい上に眩しくてカーテンは閉めたっきり。

半ば引きこもり。
煮え切らない自分が、大分嫌になってきた頃。

夜遅くに戸を叩く音で目を覚まされた。
午後十時前。
また、夕飯食べてシャワー後にすぐ寝入っていたようだ。今週四回目。
ぐうたらな証。
蒸れる頭皮をかきむしり、へその上まで捲り上がっていたTシャツをスウェットパンツにねじ込み、はいはいと戸を開けると、なぜかこざっぱりした友人が満面笑顔で立っていた。

「おっす」
「おっす、今夜中なんだけど。一体何の用?」

言いながら、庵の格好をチェックする。

良く似合うスポーツ帽に赤地に黒袖のラグランTシャツにジーパン。
背中にはいつも背負っている、ノートPC入りの薄型バッグ。
手には機能性重視の小さなカバン一つと、動きやすそうないでたち。
…昼間ならさして気にしなかっただろうが、何かひっかかった。

「いやあ、俺これからしばらく旅に出るから、ちょっと挨拶しておこうと思ってさ」
「旅?…帰るんじゃなくて?」
「うん。ちょっとな」
ワクワクが止まらないようで、言いながら笑みをこぼしている。
よからぬ事を考えているのが丸分かりだ。

「何考えてるのさ」
「んー?聞きたい?」
「そうだね、聞いておけば速やかに制止するよう助言も出来るだろうから」
つれねえなあ、と庵は首をすくめて見せた。

「実はな、俺、四十七都道府県踏破アンサーを目指そうかと」
「 …は?」
思わず間の抜けた返事を返してしまう。
庵はしてやったりな面持ちでにっこりと歯を見せて笑う。
「いんやー、何て言うんだろ。あ、そうそうあれ。
…俺より強いアンサーに会いに行くぜ!みたいな?」
「………」
「で、手始めに新潟行ってくる」
「…へ?」
「ついでに敦んちへアポなし突撃してくるわ。この一週間でがっつり稼いだけど、正直心もとないし」
「………・・・・・」

何故だろう。
ついさっきまで悶々と悩んでいたのがバカらしくなってきた。
それより目の前のクイズバカ。
ダメだこいつ、早くなんとかしないと…!

「あのね庵」
「うんにゃ」
「そういう人として礼儀を欠く行為はどうだろう」
「えー?でもちょっとしたサプライズっていうか」
「殴るよ。本気で殴るから。グーとケツハリセンどっちがいいかな」
「ちょ!え、でももう深夜特急バスのチケット買ったし~」
へらへらと、冷や汗をかきつつ僕の部屋から早急に退散しようとする庵の肩を、ぐいと掴んで引き留める。

この態度、のらりくらりとかわして逃げようとするそぶり。
…止める気は無いようだ。
庵は一度こうと決めてしまうと意志が強固で、僕がどんだけ止めろと言っても目的を遂げるか失敗するまで意地になる。
逆に、迷っていて「やるぞ!」と言うときは、「やめようよ」と言うと「やっぱり?」と返事して本当に止めてしまう。
そういう所は潔くて嫌いじゃないけど。

「でも何でいきなりそんな事を…」
「思いつき」
「嘘つきなよ」
「………お前だって分かってるくせに」
それはいわずもがな。
庵は実家に帰りたくないだけだ。
高三の時は、あれだけ「仲直りした」と言ってたくせに。
だからと言って、人様に迷惑かける行為を込みで遊び回ろうとするのはどうだろう。
人として。
僕が顔をしかめていると、庵はふうん、と鼻を鳴らしてぽつりと呟く。

「だから、お前には一言かけてから出かけるんじゃん」
「?」
「お前も、適当に理由作って遊びに出ちゃえよ。それも、簡単に制止しづらいようなのがいいぜ。そう簡単には帰って来れないぞーみたいな。あの兄貴が渋面作って押し黙るような理由でさ」
「!?」
「夏にひきこもったってカビるだけだぞ?でなきゃ蒸し焼きだな。不健康だぞ不健康。つー訳だから。俺のオカンから連絡あったら、こうこうバカな理由で出かけましたと、丁重に伝えといてくれな。万一実家から桃届いたらお前全部食っていいから。…俺が理由も無く出かけるとでも思ったか?」
「それは…」

口元をもごもごさせてると、庵はしてやったりな面持ちでふふんと胸を張ってみせる。
カチンときたが、それで僕もちょっと思いついた。

そうか、そんなのもアリだよね。
…有り難う庵。君の友情に大感謝だ。

「それいつ出発?もう席の空きは無いの?」
「えーと今日の十一時半。駅前。結構ガラガラだったと思うけど?多分現地でも運転手から買えると思う」
「ふ~ん…」

庵を玄関に引き入れると、ちょっと待っててと一言かけて部屋の奥に引っ込む。
クローゼットの中に入れておいた、一番大きく手頃なサイズのショルダーバッグを引き出すと、その中に適当に衣類と下着を放り込み、ついでにものぐさ生活のために買い込んでおいたカロリーブロックも味違いに二・三箱と、ぬるくなった未開封ミネラルウォーターのペットボトルも二本無造作に突っ込む。最後に着衣を着替え、こないだ買ったばかりの白いポロシャツの襟を正し財布の中にクレジットカードを確認すると、ジーパンの尻ポケットにねじ込み、一気に重みを増した鞄を担いで再び出入り口へ向かう。

それを見て悟ったか、庵はぎょっと目を剥いた。

「ちょっ、晶まさか」
「ついていく」
「えええ!?…っちょ、待て待て。あくまで俺は俺一人の予定で…」
「君一人だと、色んな意味で心配だもの。それに」
「…それに?」
「これで僕も、兄さんが渋面作るような理由っていうのが出来るし、ね?」

丁度いいやとにっこり笑って見せると、「マジか」と庵もぷっと吹き出す。
二人してひとしきりあっはっはと笑うと、一気に身体から気怠さが抜け落ちる。
寝転がってばかりいたから筋肉がきしむ。心地よい感触。
全身がいきいきしてくる感じ。ああこれだ。ずっと忘れてたような気がする。

「いいのか?ぜってえ怒られるぞお前。去年だって俺が心配だって年末年始こっちにいたのに」
「君の内面に関してはもう心配してないよ。むしろここんとこ元気が余ってきたみたいでホッとしてる」
「ん、まあな」
ほんの少し、俯く庵の横顔が切ない。
高三の時、とんでもないトラブルから一ヶ月間姿を消す直前、僕の家の前へ決意表明に来たあの日を思い出す。
あれから、もう二年経つ。なのに、それでも、時折あの頃の翳りが顔を覗かせる。

「でも、君を理由にしらばっくれるのは、これで最後にする。何なら旅の途中で別れて、別々に旅してもいい。…僕も、そろそろ決めなきゃならないだろうな。政治家になるのか、それとも別の道。どこにいても兄と比べられるなら、もう少し自分が何したいか、環境を変えて考えるのも悪くないよね」
「晶…」
「だから、今回だけ、ダシに使わせてもらっていい?…聡文兄さんも、何だかんだ言って君が一緒ならそう怒らないし」
「本当かよ?」
本当本当と答えると、うっそだあ、とあからさまにうえーっと顔をしかめて見せる。

「お前の兄ちゃん、超苦手。電話かかってきたらどうしよ」
「そしたら、僕に代わってくれたらいいよ。兄さんはきっとそれが狙いだから」
「ブラコン兄貴だなあ」
「ハハッ、言わないであげてよ。…一応、戸締まり確認してくるから待ってて。それと、晩ご飯食べた?カロリーブロックは一応持ったけど、まだなら何かコンビニで買っていこうよ。気分いいからおにぎりくらいおごったげるよ」
「やった、ラッキー!ありがとな晶!こりゃ、幸先いいや」
「調子乗らないの。…いい?帰省拒否の口実なんだから、敦の家には連絡してから行くよ。もし都合悪かったら、ぶらぶら観光して適当に遊んだら帰ろう。それでいい?」
「えー」
「えーって何」
「アポ無しだから面白いのにー」
「よしオッケイ、ハリセン予約入れといてあげる」
「怖!…あ、でも俺、一人でも日本一周すんよ」
「…それは…いや、やっぱり止めておくよ一応。新潟アポ無し旅からして、不安を感じるし。人様にどんな迷惑かけたもんか…」
「大丈夫だってば!!新潟ぶらぶら観光も悪くないだろうけど、これは今年の春先から決めてたんだ。ガチだかんな。都道府県全部はダメでも、色々見て回りたいし。ついでに色んなゲーセン荒らし回ってやんぜ!止めても無駄だぞ晶君、夏休み始まったばっかだもんねー♪ …つう訳だから、ついてこれるもんなら着いてきてみなさいな~ナハハハ」
「えええ?ちょっ、こら庵!日本一周とかいい加減に…って待ちなってば!ああああもう!」
ぺろっと、舌を出し、荷物を抱えて出て行った庵を追って、晶が寮を出たのはその五分後であった。

【現在地と時刻 七月中旬某日・金曜日深夜:大学寮前スタート 現在人数:二人】












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