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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

ソフモヒ受難。
*

【大学町駅前:深夜】

大学町駅前筋のバス乗り場前。
周辺一帯のバスが起点として周回しているだけあって、規模もそこそこに大きい。
二年前に舗装し直されたばかりの、真新しいアスファルトの乗り場は六カ所二十八路線になる。
巡回用ロータリーの一番奥が高速バス乗り場になっており、一から三まである乗り場のうち、三番の表示灯前、ガラス張りの休憩所の外に立ちまばらな人混みを避けるようにして携帯片手に立ち話をしている男がいた。

*

「…小野田先輩?…ああはい、俺ですけど。大輔です」
ケータイを耳に当てたまま、先日刈り上げたばかりの逆立った毛先をなでる。

「…はい、それでこれからバス乗って帰りますんで。
…いや、倹約して新幹線じゃなくて高速バス。

…鉄道好きには酷っすよ?マジでマジで。
それで、帰省前に連絡だけ入れておこうかなと。…いや礼儀ですって、人として。

……ああ、オカンがまた…いえ大丈夫ですよ。
その日は休ませてもらいますから。…熊本の大会楽しみっすね。皆、来るんです?

…え?きもい?何がですか。
…あーあー、喋り。いやだってその…正直こっちで九州なまり出してっと時々すっげえ顔されるんすよ。
博多弁はともかく、薩摩の方言なんか『はあ?』って顔されっし…
えー、まあ。そういう事ですけん。

…はいすんません。すっかり東京に染まってしまいましたっと。
…あはは、そりゃまあー、戦中暗号に使われとったとか言いますけえどね。
…はあ、はい、んじゃまあ、帰った時でも。んじゃ」

着信を切ると、おもむろに尻ポケットからタバコを取り出し一本火を点ける。
…くわえて人心地つく。
少し前までパーラメントを加えていたが、最近は健康を気遣ってメンソール系のライトに変えた。
まあ、一日一本吸うのも最近じゃ珍しい。一ヶ月で一箱消耗するかしないかのペース。
半年前には考えられない、超ローペースマイペースな吸い方。
まあ、一日2箱消耗してたあの頃の日常が異常と言えば異常だったんだが。
最近じゃどこもかしこも禁煙だし、今年からタスポも導入されていよいよ買うのが億劫になったしで、これならゆるやかに完全禁煙出来るかも。
ニコチンパッチなんか子供だましだよなあ、と、紫煙が立ち上るのをぼんやり眺めながら、大輔が思っていたその時。

口元からタバコが消えた。
あ、と思う間も無く、タバコは何者かによって地面に叩き落とされ、にっしにっし力一杯踏まれた後すぐ脇のタバコ屑入れにシュートインされた。
怒るよりも、想像の右斜め上四十五度の行為に、唖然とした。

相手は屑入れに投下されたタバコを食い入るように見つめたまま、ふるふると肩を震わせている。
赤地に黒袖Tシャツジーパン姿、ツンツン逆立った黒髪の青年は大輔を血走った目で睨み付け詰め寄る。
その形相に、ねこぢるを思い出したのは内緒だ。

「タバコダメ絶対」
「は」
「脳みそがススだらけになるよ。ダメ絶対」
「は、はあ…って、何で今唐突にお前に説教されてるんだ俺は?つかお前どっから湧い…」
言い終わらぬ間に、ツン毛の青年の脳天にハリセンが振り下ろされた。

乾いた炸裂音に、周囲の驚きと困惑が混じった視線が突き刺さる。
「あ、あれ」「天才と連れのハリセンだ」
「懐かしー」「何やってんだありゃ」

周囲の視線が痛い。

大輔は思う。
何故、俺までしげしげと好奇の目にさらされているのかと。

理由もとんとさっぱりである。
そして貴重なタバコ一本損した事に気付いて顔をしかめる。
相当な力で叩かれたようで、ツン毛の青年=庵はその場にうずくまったまま動けずにいる。

「庵君いきなり自重」
ポロシャツの青年=晶が鬼の形相で庵を見下ろすと庵は「ひっ」とうずくまったままこそこそと大輔の背中側に避難する。
晶はハリセンを手早く背中に収納すると、ちょっとこちらへ、と大輔の腕を掴んで(庵は首根っこを掴まれ)物影に連れて行く。

「えーとお前等二人何やってんだ」
とりあえず、現状が把握出来てない大輔に、晶が顔に縦線を入れたまま「あのですね」と簡単な説明をする。

「…と、実はかくかくしかじかで今に至る訳です」
「成る程な。で、何で俺はいきなりタバコ消されたんだ?」
「偶然見かけたから近寄ろうと思ったのに、タバコ臭かったから」
憮然とそう吐き捨てる庵に、大輔は呆れて頭を振る。

「…意味が分からん」
「大方、これからバス乗るのにタバコの匂い嗅いだら酔うからじゃないかな?」
「何だ、タバコの匂いで酔うのこいつ?」
指差され、庵は苦虫をかみ潰したような顔を作る。
「割と現代っ子な上にもやしっこなんですよね庵って。
フェリーも電車も自家用車も平気なのに、バスだけは乗り物酔いするみたいなんです。毎回人目を盗んでバス乗るときは酔い止め飲んでましたから。まあ、それ以前にタバコの匂いは嫌いだってよく言ってましたけど」
「ああ、いるよな嫌煙家。これでも結構気を遣ってたつもりだったんだが。お前んとこの部室じゃ吸わなかっただろ?…にしても、ガキみたいなやり口だなオイこら」
むう、と反論しかけた庵を晶が無言で威圧する。

「庵君、ごめんなさい言えるかな?」
「うっ…ごめんさーい」
「はいよろし。これで勘弁してあげてね」
「ああ、まあ」
いいけどさ、と大輔は呟いて二人の顔をしげしげと見つめる。

「で、大輔さんは?」
「実家に帰省する…んだけど、お前、大丈夫なのか、これ…」
庵がバスの所在を確認しにその場から離れたのを見て、大輔はそっと晶を引き寄せて耳打ちする。
「安佐の奴、なんかテンションおかしくねえか?」
まあ、ガキっぽいのはいつもだけどと言うと、晶は苦笑をこぼした。
「あ、はい。ちょっと…というかだいぶん…」
「今のウチに止めておいた方が身のためだと思うがな」
「うーん…」
旅に行くのは賛成だけど、何だか様子がおかしくてと、晶は俯いて眉をひそめる。

「こういう行事の前後はいつもあんなのなんですけど、その、まあ」
「?」
「やっぱり、まだ実家の事ひきずってるのかな、って」
大輔も察したらしく、声を更に低く押し殺す。

「…あいつの父親の事か?」
「…多分」

きょろきょろと停留所前の路面でせわしなく左右を見渡している庵の背中を、二人は見つめる。

「まあ、ぶっちゃけ僕らは実家帰りたくないだけなんで、すんなり帰れる大輔さんが羨ましいですね」
「つうか、ウチは帰らないと人手足りなくてさ。もたついて遅れたらぶっ殺されるし」
「マジですか」
「マジマジ。ウチのおふくろこえーんだよな…って、何してるんだお前」

いつの間にか、大輔はしっかり晶に二の腕を掴まれている。

指をつまんでそっと外そうとするも、晶の目が何かを強く訴えかけている。
大輔の背中を、非常に嫌な汗が伝う。

「…いんやー、何て言ったらいいんでしょう。すっごい偶然だなーって」
「だから何だ」
「………」
「正直に言え」
「すみません、安直に着いてきたけど正直さっきの所業を見て、全力で庵を止めておけば良かったかなとか思いました」
「そうだな、それが正しかったようだな。で、離せ」
「本当に暇ないですか」
「悪い。無い。一分一秒も無駄に出来ない感じなんだが」
「新潟一泊二日だけでもダメですか…」
「・・・・・」
「さっきからずっとああなんですよ。コンビニでも落ち着きないし、おにぎり一個でハイテンションだし、ずっと変な鼻歌歌ってるし…」

大輔の目に、蒼白な晶の横顔が映る。

やばい、晶の奴涙目になっている。
見るな自分、見たら負けだ自分。

「高校のクイズ大会の時でも、あんなにひどくなかったんです。成人したし落ち着くかなとか思ってたんですけど、今回ばっかりは僕も割と余裕無いし正直僕一人で自重させ続けられるか心配になってきて…」
声音がどんどんボリューム低下している。

ああもう。
言うな言うな自分と思いながらも、大輔は結局禁断の一言「仕方ねえなあ」を発し、後日それを延々と後悔するのであった。

【現在地と時刻 七月中旬某日・金曜日深夜:駅前にて一人追加 現在人数:三人】












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