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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

※モヒの兄さんは実家の母親に電話中のようです。
*

拝啓おふくろさま。
すみません、またしても帰れなくなりました。
思えば、昨年の今頃もこんな事を言って貴女を悲しませたかと存じます。
不実な息子ですええ、ええ。
あの時も「抜き差しならない事態」と申し上げましたが、ぶっちゃけ、あれは自分のためでした。
しかし。
今回は何と言いますか、友人のため、人助けなのでお目こぼしいただければと思うのですg…

「二度と帰ってこんでよか。」

ガチャン ツー ツー

「ですよねー」

*

「で、どうだったんですか?」
乗って早々に座席に深々と顔を埋めて寝入ろうとしている大輔は、臨席の晶に問われて「ああ」と気怠げに答える。
「もう二度と帰ってくるなってよ」
ああやっぱりと言う代わりに、晶は「あー…」と頭を抱える。

「…すみません」
「いや、気にしなくていい。勘当なんて今に始まった事じゃねえし。
毎日勘当されまくってた時期もあったしな」
「ええっ、いや、そんなバカな」
「マジでマジで。人生通算したら、絶対百は下らんぐらい追い出されてるしな。
大体、身内使って金ケチろうとすんのが悪いっつうの。
いてもいなくても、バイトでどうにかなるだろ」
でもこれで、正式に帰省は先送りだなあ、とぼやく。
「…明日、先輩にも電話入れておかないとな」
「先輩、ですか?」
「ああ、高校時代の先輩で、小野田さん。
クイズ研究部の元部長で今は地元企業に就職してる一個上の先輩でな。
連休とかにちょくちょく色んなクイズ大会主催してる人がいるんだ。今週末に、マジアカとアンアンの大会に誘われてたんだけど、オカン怒らせたままで行く訳にもいかねえし、見送るって伝えておかないと」
本当にすみません、と晶は頭を抱えたまま深く頭を下げる。

巻き込んじゃったなぁ。
悪いことした、と晶は申し訳なく感じていたが、同時に少し安堵もしていた。
大輔の口調や態度に怒りはなく、むしろ保護者然とした安心感をどこか覚えた。

「だからいいっつの。どうせ出場条件も気乗りしなかったし…」
「条件?費用か何かのです?」
「うんまあ…そんなとこだ。それより」
シートにもたれたままの大輔の視線が、バス最後方の右隅_庵の方へと向けられる。
結局、大輔の分のチケット払い戻しや座席の都合で、庵は買い足したハンパな座席の方へ行き、そのまま着席するなり野球帽を目深にずらしたまま眠りこけてしまったようだ。

人もまばらな深夜高速バス(新潟行き)の中、周囲は寝息とバスの空調音だけが微かに聞こえるだけだ。

「あいつ、ぐっすりだな」
人の気も知らず、と大輔。
「ええ。…酔い止めとバイト疲れのせいでしょう。起きてたらまだそわそわしてたでしょうし」
だろうな、と答えると、大輔は晶にほんの少し顔をにじり寄らせ、声色を落とす。

「少し、話聞かせてもらってもいいか?」
「…いいですよ。僕も、乗る前に飲んだコーヒーがまだ抜けきらないようですし」

きっと、いつか部長や敦にも尋ねられる日が来る。
そして、いつか彼にも話さなければならないだろうと思っていた。
漠然とした予感。もっと親しくなるための、前段階。
皆、漠然と知っていながら、避けている話題…。

庵と僕の過去。
彼には話してもいいだろう。晶は、少し前からそんな気がしていた。


大輔は、二年前まで親友だった男を、どこか想起させた。

阿古屋海人。
アカデミッククイズ三連覇チーム「トリプルA」三人目のメンバーだった男。
庵と僕の、かつての相棒であり、親友であったはずの人物。
そして…アカデミッククイズ最後の試練、…庵の空白の一ヶ月事件。
その裏で引き金を引いた張本人。

阿古屋は良い奴だった。
少なくとも、二年のある時までは。それ故に、未だに信じられなくもある。

そう、「友人だった頃の」まだきさくで親しかった頃の、阿古屋海人と少しだけ、失礼ながら似てるなと思っていた。
大輔本人には、「あんなくそったれの根性無しと一緒にするな!」…と、一喝されるだろうから、言わないが。

阿古屋は面倒見のいい奴だった。
きさくだし、明るくもあり。
ただ、彼は自分にも他人にも、嘘を吐き続けた。
小狡く、力に迎合する。
弱い自分を守るために。自分の弱さを認めたくなかったがために。

そこが決定的に大輔と違う。
半年も付き合いがある訳じゃないのに、それだけは会った時からはっきりと感じていた。

この人は潔癖なのだ。
勝負にも、自分にも、そして人と接する時も。
その潔さが、不器用ながらも人を惹き付けた。
そういう人柄が、晶は好きだった。

阿古屋は、自分の肩書き…いや、親が大病院の院長という富裕な肩書きと抜群な人心を掴むセンスだけで、人を引き寄せる事に毎日尽力し、人の目を気にし続け、終いには周囲の注目を苦もなく集める庵に嫉妬した。

庵は、そこにいるだけで、人の視線を集めることが出来るから。
平凡な空間において、庵はいつも異質な鉱物のように存在が際だった。
何か、特殊なエネルギーでも出してるんじゃないかと思うほどに。
だがその異質さは独特の魅力でもあり、じきに他者の目を引き寄せずにはおかなくなる。
それが、何より阿古屋を嫉妬に苦悶させた。

ああそうか。
大輔さんは、庵とも似てるんだ。
庵の持つ輝きとも似た、存在感とでも言うべき魅力と、阿古屋の持っていた警戒心をほどく包容力。
二人のいいとこだけを抽出して、ほどよい不器用さでくるんだような。
瀬賀大の友人と並んで歩いているのを見るだけでも、彼は阿古屋のように無理矢理上に立とうとせず、皆と対等に話そうとしているのが分かった。
彼のおかげで、幾分(本当に少しだけだが)瀬賀大生と交流が出来て分かったのだが、彼は随分と友人が多い。そして、もれなく慕われている。
普通に接しているだけで好かれる人なんて、わりと計算しながら動いている自分には羨ましい限りだ。
ああいうのはカリスマ性という奴だろうか。
…阿古屋にも、そして…自分にも無い、生まれつきのスキル。

つらつらと分析するに、晶はつくづく自分の中庸さと没個性ぶりを心中ひっそりと嘆いた。
本当、二人ともいいなあ。

「何、顔を白黒させてるんだ?」
「…ああ、すみません。ちょっとぼやんとしてました」
「眠いなら、寝ていいぞ。また今度で」
「いえ、構いません」

ちら、と後方の庵を窺う。
口を開けたまま、帽子をアイガード代わりにすっかりご就寝の様子だ。
周囲もすっかり寝静まっている。

「大丈夫そうです」
無言で、大輔はこっくり頷く。
「そうか。いや、興味本位でなくて、ずっと気になってたんだが…安佐、いや庵の事なんだけどさ」
「分かってます。…僕も、そろそろ呼び捨てで構いませんので」
僕は、これからもさん付けで呼びますけどね、と言うと、大輔は固いなぁと苦笑いをこぼした。

【七月中旬深夜・現在地:特急バス車内】












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