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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

夕食のお時間。
*
その日の夕方。
少し早い夕飯を阿南一家と並んで食べる事になった押しかけ三人は、「ホントにこんなものでごめんなさいね」と苦笑いな敦の姉の手料理を有難く頂戴していた。山菜と小芋の煮物、すまし汁とシンプルな食卓だが、どれも手作りならではの素朴で優しい味わいがある。
唐突な訪問であったにも関わらず、阿南家の人々は三人を快く迎え入れてくれたようだ。

特に、家の当主であり酒蔵の主人でもある敦の父、繁(しげる)はいたく三人の訪問がお気に召したようである。
たまたま出荷の帰りに駅前に寄ったら、ウチの社名を掲げてる連中がいたもんだから、つい嬉しくなって連れて帰ったと、こういう次第である。

しかも、

「若い頃ってのは、そのくらい冒険心がなくっちゃなあ」

などとのたまい、しかも彼らが敦の所属しているクイズ研究サークルの先輩(+関係者)と知ると、俄然別の「やる気」がムクムクと湧いてきたようで。

「…どっかで見た顔だなあ、とは思ったんだよ。まっさか、あの早押し小僧だったとはなあ」
既に食卓の膳も済み、自前の蔵製純米酒をお冷やでグイ、と飲み始めている敦のパパさんだが、白髪交じりな大人しい小男の外見に反し随分と饒舌な様子である。

「お父さん、流石に庵のことも知ってますね」
「そりゃそうだ!お前さんだって知ってるぞ、ハリセンいっつも背中に仕込んでるからハリセン安住だろ?…俺はなあ、一昔前のクイズブーム時代には色んな大会に出た、地元じゃちょっとした有名アンサーだったんだぜ。今はおかげさんで仕事が忙しいもんだから、そっちはテレビでしか見てないが…そうだ庵君よお、お前さんの昔の映像とか、後でコレクションの中から探して見せてやろうか?」
「俺のはいいっすよ、おじさん(A;´ω`)恥ずかしいし、多分実家に埃まみれのがありますけぇ…」
埃まみれじゃ駄目だろうっ、と繁が呵々大笑する隣では、敦の姉と妹の吾子(あこ・小学三年生)が苦笑いを浮かべている。
後で聞いたのだが、先程の弟・ネム少年の双子の妹らしい。お姉さん、アコとネム、そして敦、皆見事な線目だ。遺伝子が一発で把握できる。
母親は既に他界し、店を取り仕切っている従兄弟夫婦も明日まで福井で青年会の集会に出ているらしいので、今晩の食卓はこれで勢揃い。

このお父さん、きっと普段もこんなんなんだろうなあ、と晶がぼんやり思っていると、視界の端に先程の少年がブスッとむくれッ面で食事をかきこんでいるのが見えた。

あからさまに、苛立っているのが分かる。
自分たちが家に上がってからずっと、あの少年=敦の弟・ネムは不機嫌の塊になってそっぽを向いている。
まあ、当然の反応だろうな。
いきなり兄弟しか知らない、見知らぬ誰かが家に上がり込んできたら、そりゃ不審者扱いしてもおかしくはない。
それに加え、多感な小学生時代だ。愛想も出来なくてもそれは不思議ではなかった。

「ちょっとお父さん、声が大きいですよぅ」
いつも以上に舌が滑らかな父親に、敦も「もうっ」と眉をひそめる。
「…ごめんなさい、先輩。お父さん、クイズの話になるといつもああなもんで」
「ああそんな、僕たちの方こそゴメンね。むしろ、僕等の事拾ってくれたり、泊めてくれたりで、しかもクイズの話が分かるいいお父さんじゃないのさ」

そうなのである。
敦の父、繁はクイズバカであった。

しかも、相当年季の入ったクイズバカである。いつだったか、敦が「父はクイズ番組をいつも録画して、全部大事に保管している」と言っていたが、これは取りっぱなしでなく、キッチリ閲覧して内容も覚えているようである。無駄に勉強家な酒蔵の主人だ。
偶然、繁の社用車に拾われ、庵たちがかくかくしかじかで自分たちの事と目的を告げると、途端に繁は上機嫌であれこれと話し始め、その知識と含蓄は三人いっしょくたにしても付いていくのやっとな量であった。
何しろ、自分たちが生まれる前のクイズ番組…例えばヒントで●ンと、ウルトラ●イズの初期時代、クイズ●ービー、ステッ●アップクイズ等、昔話と動画サイトの古い映像でしか見たことのない番組ですら、詳細にああだったこうだったと縦横無尽に話を振ってくるのだ。
これには、流石の人間図書館・安佐庵もタジタジである。
で、三人が苦笑混じりに「…わかんないんですけど…」と答えると、ちょっと得意げに眉をひそめ、息子と瓜二つな糸目の目尻に細かい皺を畳んで「研究不足だなあ」と静かに微笑む。
その笑みをたたえた横顔に、三人とも「クイズバカ」と書いてあるのが、はっきりと見えたに相違ない。それは、知識の上下で快感を覚えるクイズ好きならではの相なのだから。

行きの自動車の中だけでさえ蘊蓄問答だらけであったのだから、酒の肴にクイズ話など想像に難くない。
父親の止めどないマシンガントークに、敦が、何故にクイズ好きとなったか、はっきりと良く分かったくらいである。

あの、好きな話をしゃべり出したら嬉々として止まらない感じ。

遺伝としか思えないよなあ、と、無言で黙々と、皿の上を滑る小芋と格闘しつつ大輔は思った。

「…でだな、明後日は仕事も一段落するから、ワシのビデオコレクションちょっと見ていかんかね?おまえさんたちが生まれる前のクイズ番組も結構残ってるから、画質はそこそこだが結構面白いと思うぞ」
「ええ、いいんですかそんな?!」
「勿論だ!そのために呼んだようなもんだわいな!ウチじゃあ敦以外話の分かるのがおらんくてなあ…ああそうそう、良ければ庵君。また明日の晩でもちょっと勝負してみるかね?敦から聞いたぞ、何だかんだ言ってまだライブラリは健在だって?」
「ああそれはもう誇大されてますね!俺もう駄目ですから!おじさんに話し聞いてるだけで勝てそうな気がしないし~」
へらへらと場酔いした風でテンションが高い庵の隣で、晶はもそもそとご飯を食べるネムが気になっていた。

「…ねえ庵。何か、あの子ずっと黙ってるよね」
「だよな。…緊張してるんじゃね?」

そうぼんやりと思う晶と庵の思いを知ってか知らずか、ネムは「ごちそさま」と短く呟いてお愛想程度に手を合わせると、逃げるようにその場から出て行ってしまった。
可愛げがなくってすまないねえ、と頭を掻く繁の声を上の空で聞きながら、晶は内気だった昔の自分を思い出していた。

*
風呂の後、敦に奥座敷まで案内してもらい、寝床を拝見し三人とも「おー」と感嘆をもらす。
予想通り、いやそれ以上の広々とした畳敷きの広々とした座敷。
隅っこに、うずたかく積まれた布団と座布団。
い草の香りが鼻をくすぐる。畳替えしたばかりのようだ。
この部屋だけで十畳以上もあるのに、豪儀だなあと庵はぼんやりと思う。

使い込んだ風な、磨かれた金具の下がった桐の箪笥。
光沢が映える手彫り細工の欄間に、部屋の角には閉じられた三面鏡。
どれも古めかしい。
そして、どれも木目の表面に黒々とした艶を持ち、この場所で大切に使い込まれた年月を感じさせる。

「支度を急いで済ませたもので、面白いものは何もないですけどね」
そう敦は言うが、どれも最近流行りな狭苦しい縦割り住宅出身者には、昨今中々お目にかかれない純和風の立派な内装である。
玄関先の門構えを見ても思ったが、蔵を含めた土地や家屋を外からつらつら見るに相当な大家だ。
白壁の連なる外壁、塵一つ無い掃除の行き届いた広大な庭、そしてかつては何十人も出稼ぎに来ていたという大きな木造平屋の一軒家。
ごく普通の家で育った庵と大輔は言うまでもなく、地元では名家で育った晶でさえ「どうぞどうぞ」と言われても家に上がるのを一瞬躊躇うほどだった。

お借りした夏用の羽毛布団と綿の敷き布団を三組きちんと整えると、四人は改めてその上でまったりと雑談を始める。

「こんな風に、ウチに友達が泊まりに来るのって初めてかもしれません」
「そうなのか?何か、やけに準備いいから、ちょくちょく誰か泊まりに来てるのかと思ってたが」
「いいえ大輔さん、ウチは今でも地方から蔵人の方が冬になると出稼ぎに来られますし、お父さんの仕事の都合で遠方の来客も時々ありますので、いつでもおもてなしできるよう、最低限のお支度だけはいつも整えてあるんです」
「へ~凄いなあ!しかもこんだけ家が広いのに掃除がきっれーにしてあるし!お前のウチ、凄いんな」
「それほどでも…てへへ、庵先輩に言われると、何だか嬉しいですぅ」
「ねえ敦、お家のお仕事の事とか、話聞いてもいい?」
「いいですよ~。でもその前に庵先輩、お聞きしたいんですが」
「何?」

「この旅の目的…本当に都道府県制覇アンサー目指しておられるんですか?僕には別の目的があるような気がして…」
一瞬きょとん、と胡乱な表情をした後、思い出したように、ああ、と庵は天井に視線を向けたまま間の抜けた返事を返す。

「それか。…どうしよっかなあ。まあいいや。実は実家から逃亡中であるんだが、ぶっちゃけ全都道府県プレーは無理だと思ってる」
「さっそく白旗か」
「大輔さんフライング。回答権移動しちゃうっすよ。…嘘嘘冗談です。マドハンド痛いです勘弁です。えーとあの、実はさ、俺、今年の秋に重大発表しちゃうかも。要はそのため、かな」
「重大発表?!」
庵以外三人の声がハモったのを聞いて、庵は堪えきれず「大袈裟だなあ」と吹き出す。

「うん、実はそのため。正式発表までこじつけられそうだし、きっと皆には言っても大丈夫だと思ってる。これ、結構重要な事言ったぜ俺」
「そうなんだろうけど庵。…相変わらず説明下手だね。全く何を言いたいのかわかんないよ。何のこと?」
困惑する晶に、「それは内緒です」と庵は意地悪く人差し指を口元に立ててみせる。

「…まあ、あと数ヶ月後には分かるよ。その時には、お祝いして欲しいな俺。頑張ったぞー偉いぞーって。…そういう訳だから、俺、時々ノーパソでレポート打ってるだろうけど気にしないでくれな。特別講義の必修だから」
「うん、分かった。…でも、それなら僕にくらい正直に言ってくれてもいいのに…」
「お前はきっと、ああいう言い方しないと釣り針に食い付かないと思って。ぶっちゃけ俺が出かけてる間に、隣の部屋で晶の蒸し焼きが出来るのも嫌だなーと思ってたし、隣の部屋で夏じゅう無気力カビをかもされまくっても嫌だったし~」

「うわ、人を病原菌みたいにっ!!むかつくっ!!」
「むっくそっ、やったな晶!lこなくそっ」
「わっバカ!人様の家のもんでなにやってんだお前等!!」
「うわあ、ちょっ、先輩ってば!あーもう、僕も!!」

晶の枕による凶器攻撃を皮切りに、わあわあと修学旅行の生徒のように布団と枕でリアルバウトを始める四人。
年甲斐もなくはしゃぐ四人の姿を、障子の影越しにに見つめる視線があったことを、このときは誰も気付いていなかった。

【現在地:阿南酒造奥座敷・七月十九日深夜・定番の枕投げ中】












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