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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

一歩、前へ踏み出す。
*

翌日、普段通学するぐらいの時間に起きてダイニングルームに出ると、榎本は既に支度を済ませて出て行こうとしていた。
「おはよう、双葉君。気分どう?」
「おはようございます。もう、平気…だと思います」
「そう、良かった」
双葉の目元に腫れぼったさが残っているのを見つけて、榎本は少し微笑んだ。
「あの、昨日は、すみませんでした…」
「気にしなくていいよ。むしろ、元気出てきた証拠だと思うし。今日もゆっくりしてたらいいからね」
「はい、すみません…」
「いいよ別に。今日は人と会ってくるから、多分遅くなると思うんだ。冷蔵庫の中身は勝手に食べていいから」
「有難うございます。…あの、榎本、さん」
「うん?」

「また…明日、お義父さんのところ、行くなら一緒に…行っても、いいですか…」

俯く双葉の肩に、榎本は抱えていた荷物を床に置いてそっと手を置く。
「もう平気?外出も出来そう?」
「はい、自信ないですけど…でも、やっぱり会いたい。会って、話がしたいです」
「そう、分かった。明日は予定を空けておくよ。それじゃ、行ってきます」
「…はい、行ってらっしゃい」
重量感を感じさせるクラフトの紙袋を提げて、急ぎ足で出て行く榎本を見送ると、双葉はいつの間にか足下に座っていたシーサーの頭を撫でて、部屋に戻った。

*

幾月の来訪以降、陽一は何度も床の中で対シャドウ戦闘員チーム時代最後の仕事を思い出していた。
連絡は、例によって上層部からのミッション通達だった。

発端は、桐条のサーバに紛れ込んだ一通の電子メールだった。
地図上にも記されていない、東京湾から東へ進んだ、太平洋上の小さな孤島からのSOSメール。
その差し出し人への対面と保護という名目で、対シャドウ戦闘員チーム12名は、桐条本社調達のクルーザーに乗って目的の島へと乗り込んだ。
無論、わざわざ対シャドウ能力を持った人間が出向くのだから、それだけで済むはずはない。
だが、桐条からの通達は、何故かそれ以上の情報公開をしなかった。
思えば、そこからして怪しく感じてはいたが…。

「今度は無人島かあ」
「なんだか、ミステリ小説みたいですねえ」

船内で、榎本とそんな会話をした事だけ、何故か良く覚えている。
深夜、機材を満載した桐条印のクルーザーで孤島に到着すると、俺達を待ち受けていたのは朽ち果てかかった洋館だった。
まだ建設されて日が浅く思えたが、壁のいたる所にヒビや隙間、割れ目が生じており、周囲を囲むうっそうとした雑草の草原と壁一面の蔦は皆一様に枯れていた。まるで、バブル全盛期に建築がストップしたホテルかリゾート施設の残骸のような、以前の華々しさを虚しく留めた廃墟だった。

島内に上陸すると、指定場所であった洋館のエントランスへ出向き、メールの差出人と名乗る少年達数名と合流した。
全員極度の疲労と食糧不足でやせ細っており、薄汚れた白衣姿、皆手に空のガラス瓶を握りしめていた。
やつれて落ちくぼんだ目はぎらぎらとしており、救助に出向いたこちらに、まるで悪意を示すかのような敵意ばかりを剥き出しにしていたのに、俺達は当初戸惑いを隠せなかった。
精神的にも肉体的にも質問できるような状態ではなかったため、救護担当のスタッフと共に少年達を先にクルーザーに乗せ本島へ帰還させると、携帯電話とパソコンのメールを通じ本社へ指示を仰ぐ。
奴らはやっぱり事前に調査済みだったようで、今度は実際のミッション内容を俺達に突きつけてきた。

『島内で行われた実験の全てを調査し、持ち帰る』

「実験」の内容について追求すると、「ペルソナ」と「シャドウ」に関わるものだった、としか返事は無かった。
どうやら、この孤島での実験に関わって逃げだした者から内部告発があったようだが、その人物が変死を遂げ、詳しい資料も見つからなかったためらしい。

だが、その実験は、間違いなく桐条鴻悦の目指した「世界の浄化」と同じく、シャドウを悪用した内容であったのは間違いなく、さらに「シャドウ」と「ペルソナ」能力を結びつけ、とんでもないものを生み出そうとしていたと予測されると、本社側は伝えてきた。
最後に、本社側は、孤島での研究に関わったとされる、桐条の爆発事故で「生死不明」となっていた研究者達の氏名リスト、並びに孤島へと送り込まれた少年少女50名余りの氏名と顔写真をファックスしてきた。

名前を一瞥し、最後の一行、総責任者の氏名を見て、俺は愕然とした。

日向双次郎。

…見つけた。

リストを見て口々に意見を並べるスタッフの反応を横目に、俺は獲物を捉えた感触を覚え、一人頭の中が昏く冷えていくのを感じていた。












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