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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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苛立ちの羽音。
*
その日の夜は、日中のカンカン照りとは対照的に、四月頃を思わせる涼しい風が吹く、過ごしやすい夜となった。
とはいえ、夏の夜は多少なりともまつわりつくような熱気で知らず汗が噴き出す。
山から吹き下ろす風が幾分和らげてくれるとはいえ、日本の高温多湿の鬱陶しさは全国各地で差はあれ変わりはないようだ。

夕食の後。

「………はあ」
親戚の家から出たっきり、ネムの行方が分からないとオロオロする姉をよそに、敦は一人自室でぼんやりとしていた。

正直、弟はどうでもいい。
ぶっちゃけ、今帰ってこられても困る。そんな事を考えている自分を理性が叱りつつも、素直な本心は別の事ばかり考えていた。

茜さん、何してるかな。
さっき、お父さんの部屋に行って何事か報告してたみたいだし、そろそろ帰る支度するのかな。
帰るといえば、先輩たちも。
明日、庵先輩が帰ってきたら、首根っこ掴んで東京の下宿先に連れ帰ろうかと思っていると聞いた。
そもそもの荷物も少ないし、身支度も済ませている風で、こちらも明日お父さんに挨拶して行くそうだ。

また寂しくなる。
また、去年と同じ夏が来る。
店番と配達と、後は弟と妹の相手。
家の主人になるための修行。


ここから出て行く茜と先輩達のこの先を思い描く。
茜は、一旦家に戻ったら、今年の夏は家業を手伝い、もしも余裕が出来たら近場にツーリングに行くつもりだという。
毎年夏冬の大きな休みはバイクで遠出するのが趣味で、秋田へも修理し終わった愛車でそのまま帰るとか。

庵先輩たちはどうするのだろう。
晶先輩と大輔さんは東京へ連れ帰ると言ってたけど、庵先輩は何か思う所があるように言ってたような。
どちらにしろ、自分とは違い、遊ぶのも勉強するのも自由、か。


……

つまらない。
つまらない夏だ。

そんなことを、ぽつりと思った。


やるせなくなり、気分転換に縁側から庭へ出る。
そこで見覚えのある人影を見つけ、胸がどきりと高鳴った。

茜はこちらに気付いていないようで、ノースリーブのTシャツ姿で、土蔵の物影に隠れて電話をしているようだった。

*

「もしもし」

「ああ、ボクだ。…どうだ、調子」

「それは…お前に任せるよ」

「…分かった。親戚縁者だし、どうかと思ってたけどボクも腹を決める。あそこの家とは縁を切るよ」

「済まないな」

「分かってるって。ボクもそこいらは空気読むし、掃除出来ない奴はお断り」

「あいよ。じゃあな」


ふう、と人心地ついて携帯を畳む茜の横顔に、敦はドキリ、となる。
それは胸の内にいつしか住み着いていた心地よい痛みではなく、むしろ不安。

電話の向こうの相手を思っているのだろう、その茜の横顔が、酷く不安を誘う。
ほんのり紅潮した頬。潤んだ唇。すらっとした白いうなじ。
全てが、普段よりも艶めいて見えるのは何故。

「あ…何だ、敦か」
「は、はい」
物影に居るのを気付かれて、敦はひょっこりと歩み出ると、茜も土蔵の陰から駆け寄ってきた。
並んで、涼しい縁側へと向かって平らな砂利道を歩く。
ケータイを握った掌を見る。肩の丸く柔らかな曲線を見る。落ち着かない。

「どなたと、話を…」
「ん?ああ、安佐と。あっちも上手くいったみたいでさ。これで大丈夫だと思う」
「そ、そうですか」
「あいつマジですっげーな。ちょっとどころか、見直した」
「先輩を、ですか?」
「そうそう。あいつ、普通に天才なんだな。
…ああでも、天才は普通じゃないか。何言ってるんだろボク」
茜はてへへと、柄にもなく照れ笑いを浮かべて舌を出す。

ざわざわざわざわ。 胸が騒ぐ。

「正直、後輩ののどかがあそこまで何で騒ぐんだろうなって思ってたんだ。でも、ちょっと分かった気がした」
「ええ?」
「惜しいなあ。
もう少し、会うのが早いか、のどかと会ってなかったら、ボクちょっとくらっときたかも~、なんつってな」
恥ずかしそうに、敦から目線を逸らし星空を見上げて茜はうん、と背伸びをする。

「…あ。さっきの内緒な。のどかに誤解されるのも嫌だし、やっぱ元有名人は中身もちょっと凄いのかもなって思っただけだから」
「…はあ」

ざわざわざわざわ。 ざわざわざわざわ。 

「あ、茜さん。その、もしかして、…のどかさんがいなかったら、庵先輩の事」
「だったかもなって話!…いやあ、前にファミレスでドカ食いしてんの見てドン引きしたけど、まともにしてればあいつ…マジかっこいいな。ボクより全然細いし背も低いし、ヘラヘラしてるだけかと思ってた奴に、頼りがいを感じるなんてね~。…ああ、あくまで、ちょっといいかもな、って思っただけだぞ。でもってこれも、オフレコだかんな!」
「…はあ」
「実はさ、最初に麻美と電話で相談しあってた時に、即答で『じゃあ俺がどうにかする』って。たじろぎもしないで、北海道行くって断言したりなんかしちゃってさアイツ。

あんまり真剣な顔して真っ直ぐ見るもんだから、ちょっと、照れるっつうか。

さっきも電話口でしきりにボクやお前の事心配してるみたいで近況聞いてこられてさ…なんていうか、なんもかんも段取り良すぎてさあ、ちぇっ、かっこいいじゃんか!って感じだったぜ!」

茜の頬が桃色に染まる。
その横顔が、はち切れそうな、はにかんだ笑顔が、胸をざわざわさせる。

「……だって」
「ん?どした?」

「………ぼくだって、ボクだってやれますっ!頑張ってます!庵先輩には敵わないかもしれないけどでも、僕だって…!」
「??? いきなり何だ、大声出して?」
「…何でも機転利かないし、鈍くさいし、でもでも、僕だって、僕だってやればできるんですっ!!!だから!」

「えっ…だ、だから…  何なんだ?」
いきなり叫ばれても困るぜと困惑する茜に、敦もはたと我に帰る。

「あっ  だから…  ・・・・ だから その、 ・・・ええとその…」
返答に窮した敦を救ったのは、「大変よぉ~」と叫ぶ姉の震える声だった。

「大変よっ!ネム君が、ネム君があいつらに誘拐されたわ~!!」
「・・・・ええええっ!!」

*

「もしもし」
取る物もとりあえず、姉に黒電話の受話器を手渡される。

『えーんえーん…兄ちゃん誘拐された~』
「ネム?」
『そうだよぉ~えーんえーーん』
「・・・・」

がちゃん。
おもむろに敦が受話器を置いたのを見て、彼を囲むようにして事態を見守っていた晶たちや家族は皆ぎょっと目を剥く。

「ちょっ、敦おまっ!」
「大丈夫ですよ茜さん。…狂言です」
「え?」
「泣き声を聞いて一発で分かりました。間違いありません。
…都合が悪くなると、いつもやる手ですから」
「でも敦、お前の弟権太たちと一緒にいるんだろ?だったら何吹き込まれてるか知らないが、要求くらい…」

「放っておきましょうよ。もう何もつける薬はありません」
もはや呆れると言うよりも怒りすら滲ませている敦の静かな迫力に、皆言葉を失う。

「そりゃそうかも知れないけど敦、それならせめて迎えに行こうよ。権太さんは難癖付けてくるだろうけど、僕らがついてるから」
「クソガキはクソガキで、躾し直さないとダメだぜ」
たしなめる晶と大輔をよそに、敦は再び鳴り始めた電話を無視し、深々と苛立った溜息をこぼす。
敦が受話器に手を向けないを見て、仕方なく姉が受話器を上げる。

「はいもしもし」
『ちょっと兄ちゃん、何で切るの!?まだ話…って、姉ちゃん?』
「そうよネム君、お兄ちゃんすっっごい怒ってるわ。だからネム君も悪さしないで、さっさと帰ってきなさい」
『そんな!僕は…』

てっきりもっと心配してくれるとばかり思っていたネムの耳に背後の荒々しい声が飛び込んでくる。

「いいんです!ずっと小さい頃から、僕はずっと我慢してきたのに!
何だって我慢して、お家の事を勉強してきたのに、ネムは結局そんな僕の苦労すら考えずワガママ放題で遊んでばっかりで!
ずっと言ってやりたかった、いい加減にしろって!
そう言うといつも全身にストレスで発疹が出るから言えなかっただけで、あの子がいるってだけで遊びにも出かけられなかった僕の気持ち、先輩達に分かるんですか?!」

「あ、敦…待て、落ち着け!お前、今日ずっとおかしいぞ?何かぼーっとしてたり、かと思ったらいきなりカッカしたり」
「僕だって人間ですぅ!
同じ双子のアコちゃんは普通にしっかりしてるのに、何であの子はああなんだか…あんな弟なら、僕はいらなかったですっ!!」

姉の背後にいるのであろう、兄の聞いた事もない罵声。

「敦、それは言い過ぎじゃあ…」
「別に」
「・・・・・」
言葉を失う晶たちにもオロオロしつつ、姉ははたと気付いて受話器の向こうに「も、もしもし?」と再び呼びかける。

「ネム君、いい?そこに居る人に代わってくれるかしら?お姉さん、そっちの人とお話したいの」
『・・・・』
「ネム君?」
『・・・・・う、   うわあああああああああん… あああああああああああああん… 兄ちゃんが、 兄ちゃんがああああ』

電話はそこで切れた。

「あ、敦ぃ、電話切れちゃった…」
「いいんじゃないですか?一時間もしない間に迎えに来てくれって電話来ますよ」
背を向けたままにこりともせず冷たく言い放つ敦に、その場に居た全員が背中に寒いものを感じた。
それは、普段温厚な彼が内に我知らず溜め込んでいた負の感情を垣間見たせいでもある。

が。
晶はそれとは別の感想を抱いてもいた。

年の離れた兄弟、という関係に、自分を重ねて見ていたのは否定出来ない。
だが、敦と自分のそれでは決定的なへだたりを感じていた。
そして、敦の発言に対する違和感も。正当な理由を突きつける敦に、胸の奥で不快な感触が一瞬揺れて消えた。
それと、もう一つ。

「(…何で、僕、今、庵のお父さんの事、思い出した…?)」

庵の寂しげな横顔が頭をよぎる。庵の父親は、自分には優しかった。
それは、普通の大人が礼儀正しい子供に接するのと同じように。
庵はやんちゃだった。突飛な行動も多かったけど、心の優しさと気遣いが人一倍だったのも自分は知っている。
なのに、何故、そんな事を今思ったのか。…それは今考えたくなかった。

代わりに、敦の固い表情を覗き込む。
怒りを表面に塗りつけたまま、石のように強張った面持ち。
それは「俺は悪くないんだ」と全力で自己主張する看板のようで、不自然さばかりが際だって見えた。

電話が鳴った。

次は姉も敦の予想外な突き放した言動でオロオロしていたため、やむなくすぐ側に居た茜が受話器を取った。

「もしもし?」
『もしもし』
「?…誰だ?権太の手下じゃなさそうだな」
声を聞いてすぐに聞き覚えがない人物だと察し、茜の声に緊張が走る。

『失礼。僕はそちらの息子さんを偽装誘拐したものです。陰善と申します』
『(ちょっとおめえ!手はずが違うだろっ!!)』『(しっ、彼に任せておきなさいって)』『(ううう… うううっ…)』


背後で権太が叫ぶ声。
やはり知らない男の声、そして幼子の啜り泣き。
この声は、マジ泣きしてやしないか?

少なからず茜が焦りを感じていると、涼しげな男の声は「ネムくんのお姉さんでしょうか?」と至極冷静に尋ねてきた。

「いや、ボクは茜坂杏子。あなたの背後にいるバカ野郎の目当ての人間さ」
『なるほど、それなら話は早い。権太さんは貴女が来てくれるなら即日解放だそうです。結婚の約束を交わされたとか』
「それか。
雇われか何か知らないけど、ボクの家の家業を潰す工作して、あまつさえ頼んでもない借金の催促と散々やっておいてそれはない。
権太はバカだが、あいつのオヤジはお金にだけは恐ろしく頭の回る汚い野郎さ。
権太もコネで大学行かせてもらったから文句言えないんで、さっさとボクを嫁にして実家に貢献しろってせっつかれて必死なんだろうさ。

…悪いが、権太に伝えておいてくれ。
お前の家とは金輪際縁を切る。
ボクも腹をくくった。ボクの亡くなった母が生涯かけて守った暖簾をお前らには渡さないってな。じきに蹴落としてやるから、オヤジと無一文から頑張れよってな!」

一瞬の間を置いて、受話器の向こうで「ふむ」と息の抜ける音がした。

『・・・了解しました。で、それでは、こちらの条件には耳を貸す気も無いと』
「ああそうだ。来るなら、また明日直接ボクのとこに来いってな。ボクは阿南酒造にいる。だけど、明日にはきっとお前がボクに土下座してるだろうさ。ボクにも、そして阿南酒造のお父さんにもな。分かったら、ちゃんとここの息子さん、連れて来いよ。絶対に。さもないと、甲信越東北一帯、いやむしろ日本のどこにいっても商売出来ないようにしてやるってな!」
『大きく出ましたね。まあいいでしょう…後悔しないように、今から祈って差し上げますよ』
「そっちこそ、ふんぞり返ってられるのも、今のうちだからな」
『承知しました。で、弟さんの件なんですが』
「まだ何かあるのか」
『大ありです。こっちもちょっと事情が事情なんでね…そちらに穴輪大輔さんって方がおられませんかね。彼と、ちょっと話をさせていただきたいのですが』
「ええ?それ…はなわヘアーの事か?」
『そうです。彼もね、新潟ではちょっとした有名人なんですよ。貴女は少々興奮し過ぎですしね。頭の回る中立な方を仲介にしたいので、噂でそちらに来られてるという彼に交渉役になっていただきたく』
「何でそんな噂が…まあいい、おいチクワ、お前に代われって」

「えっ、俺?」
「ああ。お前、新潟では有名なのか?何か知らないけど名指しでご指名だ」
「???…有名っつったって、ゲーム以外では別に…」

渋々電話を代わった大輔の表情が、にわかに曇る。

声を押し殺し、しばし相手と聞き取れないほどの小声で応対をする事数分。
受話器を置くと、大輔は眉間にシワを畳んだまま「まっじい事になった」と口元を引きつらせた。

「どうした穴輪?あいつら何て?」
不安げに聞き返す茜に小さく頷くと、大輔は重い口を開く。

「・・・敦、弟は返すってよ。だが、ちょっと問題が生じた」

「何でしょうか」
苛立った声で問い返す敦に、言い出しづらそうに大輔は二の句を告げる。

「お前の弟な、ひっじょうに面倒なことになってる」
複雑な面持ちの大輔に敦の表情がけげんそうに歪む。
「どういう事です?」
「つまり、お前の弟は権太に誘拐されてるが、それに協力してる輩がいる。
そいつらがまずい。
権太って奴は真性のバカなのか?
どうもアンアンの腕が異様に強かったからって、明日リベンジを申し入れるつもりで助っ人を雇ったようだがちょっと分が悪いぞ。…さっきの電話相手がそうだ」
「知ってるんですか?大輔さん」
晶に問われて、大輔の顔に暗い影が沈む。

「ちょいと因縁がある。…だが、相手は俺じゃなくてお前をご指名だそうだ、敦」
「僕を、ですか」
「そうだ。…お前の弟な、権太の狂言誘拐の案に軽々しく乗っかっただけでなくて、誘拐役なのをいいことに高級ホテルで飲み食いして至れり尽くせりされて随分金を使ったそうだ。しかもウン十万円」
「はあああああああああああああ!?」
「俺も正直耳を疑った。だが、本当らしい。
でだな、明日それを賭けて勝負しないかってさ。
一応オッケー出したのは、明日指定場所のゲーセンに子供を必ず連れてくると約束したからだ。交渉するためにも、まずはお前の弟の身柄確保が最優先だと判断した。それに、こんな形でも借金作ったら相手につけ込まれる隙を作りかねん。相手が勝てば代金はこっちが支払い、それを礼金代わりに助っ人の相手が受け取る手はずになってるそうだ。まあ、勝てばチャラだし弟も引き取り決定だから問題ないが…あいつら随分根に持ってたっぽくて」

「そうですか。それなら払えば早いですね。安いものです」
大輔の言葉を遮り、しれっとそう言い切った敦に、その場にいた全員が凍りついた。

「そっ…そういう問題かよ敦!」
「大輔さん、そういう問題ですよ。ネムはもっと思い知った方がいい。それに、明日には先輩が戻ってきます。そうすれば、きっと茜さんの事件も含めて事態は好転するはず。それなら、わざわざ無駄なお金を突っ込む必要もなくなるかも知れません」

「勝負、どうするんだよ!」
「受けません。
その場でホテルの飲食代だけお支払いして、引き取って帰ります。
金銭で迷惑かけたなら、金銭できちんとお詫びすればいいんです。
父を説得します。
ネムは放っておいてもいいかもね。
謝りもせずに開き直るくらいなら、好きにすればいい。
これは茜さんの件とは別物だ。
権太さんがまだ何かおっしゃると言うなら、気が済むまで僕がお相手しますよ。
ゲームでも話し合いでも何でも」
「そうかもしんないけど…でも、お前の弟、受話器の向こうで泣いてたぜ?
あれ、嘘とは思えなかったぞ」

大輔の何気ない言葉が、敦の勘に触ったのか。
敦は俯いたまま憮然と呟く。

「どうでもいいです。 …ったく、何であんなのが弟なんだか…」

「敦、それは違う」

とっさに晶の口から出た言葉に、一同はたと息を飲んだ。

「先輩?」
「敦、それは違うよ。
…君は言ってたよね。自分が弟の親代わりだったって。
自分が育てたようなもんだって。

だったら、君の弟がああなったのは…君のせいじゃないのか?」

「僕のせいだって言うんですか?それは…!」

「そうだ。君のせいだ。
君がそうなってほしい、自分に甘えてずっと自分を必要とする人間でいてほしい、そう思ったから、弟君はああなったんじゃないのか?
…子供は育てたように育つ。僕の父がいつも言っていた。
気質も生まれつきも教育者の言う耳障りの良いまやかしでしかない。
厳しくしつければ己厳しい子育つし、逆はしかりとね」

「それは…あまりに横暴です!」

「悪いが、僕はそう思わない。…君は言い訳が欲しいだけだ。
ここで不満を抱きつつも冒険しないでいる理由をね」
「!?」

「弟が好きじゃないなら、何故面と向かって言わない?何故、伝わる言葉で叱らなかった?…それは怠慢だ。そして、偽善だ。弟にいい顔しながら、裏では罵ってるのと同じだ。

君が親代わりだったんだろう?

だったら、きちんと会って思い切り頬引っぱたいてきなよっ!優しい兄なんかじゃないって、身体ででも何でも教えて自立させればいいじゃないか!」

そこまで一息に吐き出して、晶は肩を震わせてそのまま部屋を辞した。
奥座敷へ駆け込むように大股歩きでにしにしと廊下をきしませながら、何故こんなに気が昂ぶっているのかは正直自分でも釈然としなかった。
ただ、何故だか、無性に腹が立って仕方なかったのだ。

部屋では、敦が言葉を失って、顔を紅潮させたまま俯いている。

「すまないな」
茜が暗い表情で、頭を垂れる。
「ボクのせいだ。お前たちに、こんな負担かけてるせいでイライラさせちまったな」
「いえ、そんなの違いますっ!僕が…」
「いいんだ。敦、お前絶対様子がおかしいし、カッカし過ぎてる。明日、安佐が帰ってきたら」

「先輩は関係ありません!」

「???!」
叫んですぐに、敦の顔に「やっちゃった」と己の失態を恥じ入るしかめっ面が浮かび、そのまま目を伏せる。

「…こ、これは、これは僕の、僕の弟の問題、ですから…っ」
そこまで絞るように答えて、敦も部屋から出て行った。残された茜と大輔、そして姉と妹は呆然とその背中を見送った。

「負担、かけすぎてたのかもしれないわ」
敦の姉が、ぽつりと漏らす。

「ずっと家族ですらもてあましてたネム君の事、ずっとあっちゃんに押しつけてたような気がする。あの子、何でも頼めば嫌な顔しなかったから…」
「お姉さん…」
「だから、これは家族全員の責任。皆さんごめんなさいね」
「いや、そんな、元はボクが問題を…」
「抜き差しならない問題でウチを信用して来てくださったのに、恥ずかしい所をみせてしまって、重ねてお詫び申し上げます。お友達も、ちっともゆっくり出来無くって…申し訳ないわ。でも、あの子の事悪く思わないでくださいね。やっと本音が聞けて、身内としてはホッとしてます」
「ネム君ワガママ叱っても聞かなかったもんね。お父さんが普段家にいなかったから、それをいいことに」
妹も、得心した様子でウンウンと頷いている。

「あっちゃんは…弟は後で様子見ておきますから。お嬢さんも、お友達も足を伸ばしてくつろいでくださいね」
そう言われ、二人を残し出て行った家族の背中を見ながら、茜はいたたまれない気持ちになってきた。

「行って来てやれよ。仮にもアン女なら脳みそまで筋肉じゃあないだろ?」
「なっ」
そっぽを向いたまま、大輔は茜に語りかける。
「お前の顔に書いてあんぞ。…あいつに負担かけた、自分が悪かったのかなって。そう思うなら、詫び入れてこいって。電話見ておいてやるから」
図星を突かれ、むむむと唇を震わせる茜を追い立てて、大輔は一人になった小さな居間の中で冷えた畳の上にごろりと横になって電話を待った。

じきに、電話が鳴った。
おもむろに身体を起こし、大輔は電話を取り「俺だ」と無造作に答えた。

【7月22日夜・気まずい空気・大輔眼鏡生活二日目】












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