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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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*

「敦」
茜は教えられていた二階の敦の部屋の前にいた。障子越しに声をかけるも、返事はない。
どうしたものかと言葉に困ったが、つ、とそのまま腰を静かに沈め片膝をついてそのまま語りかける。

「お前を責めに来た訳じゃない。ただ、晶の言う事も、お前の言ってる事も道理だと思う。ボクが白黒はっきり言えた話題じゃないけどさ…」
「………」
「もし、お前が迎えに行きたくないなら、ボクがひとっ走り行って連れて帰ってくるよ。お前にも、随分迷惑かけたし。そのくらいは、させてくれよな」
「………」
「でもこれだけは言っておく。…さっき言ってた、お前が弟に募らせてた感情はきちんと弟にぶつけてやれ。相手が傷つくなと思ってもだ。それも愛だと、ボクは思うぞ」

「…・・・愛、か」

重苦しい声。聞き取れなくなりそうな声。その暗い囁きに飲まれないよう、深く息を吸い込んで、「そうだ」と答えてやる。

「………茜さん」
「なんだ?」
「茜さんにとって、愛ってなんですか」
「えっえっ??!や、藪から棒になんだ?」
唐突な質問に、一瞬だじろぐも、敦の重い声色に茜も真剣に思案を巡らせる。
そうしている間に障子の向こうから、声が聞こえた。

「今の僕は混乱しているのかも知れない。だから、優しさと愛情の区別がよく分かりません。だから茜さん、貴女の愛って何ですか」
「ボクにとっての愛、なあ」
ううん、と考えに考え、茜は言葉を紡ぐ。

「誠実な事、対等であること、それと…正直な事、かな」
「正直…」
「そうさ。だって、幾ら優しくされたって、こっちに合わせてるばかりで相手が楽しくなかったら嫌だろう?だから、ボクは対等で、なおかつ一緒にいても正直でいられる相手がいいかな」
「………そう、ですか」

再びの沈黙。

「僕は…正直じゃないかも知れません」
「?…どうしてだ?」
「だって、僕は、目の前の人に合わせていつも動いています。その人が不快にならないよう、つまらない顔をしないように。そうしてきたから、誰も僕に文句は言わないし、波風が立つこともなかった。だけど僕は、果たして誠実であったかと言われたら、それは疑問が残ります。…いつもそう。弟にだけではなく、僕はいつも遠慮して生きてきた。自分が多少つまらなくても、周囲が平和でいればそれで良かった。平凡な生だと言われても、ドラマチックな人生はテレビの向こう側だけで良かったんです」
「………」
「だから、東京に出たいと言って、父が許してくれた時、とても嬉しかった。憧れていた人と同じ大学に行けて、なおかつすごく間近で話もしてもらえるようになった。同じ趣味の先輩に可愛がって貰えて…僕は世界が変わった気さえしていた」
「安佐や安住の事だな」
「はい。だけど、それは思い違いです。ただ、ちょっと有名な人と交友が広がっただけで、僕自身の環境は何ら変わりがない。ずっと平凡で、ずっと友達を相手にしてきたように大人になったらお客さんを相手にするようになるだけ。それだけです。僕は僕の満足のために生きてこなかった。だから…」

先輩の言葉は、とてもショックでした。と、そこだけ、消え入りそうな声で敦は呟いて、はあ、と小さな吐息をもらした。

「弟の事は、そろそろ覚悟決めないとなとは思ってました。良い機会ですし、これからは厳しくします。それが愛なら、そうしなきゃいけない…」
「それは、お前自身の考えか?」
「はい」と、短くはっきりと、敦は答えた。

沈黙。
茜はその間、様々に思いを巡らせる。
自分は、特に自分の進路に迷ったりはしなかった。付き合いも、友人も。
いつか母の遺した店を建て直すんだと、大学では発酵食品の二次利用や別分野への研究に没頭しながら、クイズサークルも作って。
自分が大学入り立ての頃、道を指し示してくれる優秀な先輩に出会えたのも幸運だった。
その先輩が為しえなかった、サークルの道を打ち立てる事が出来て、麻美と一緒に手を取って喜んだ。

そうか。
敦は、まだ自分にとっての「先輩」や「麻美」のような存在がいないのか。
てっきり、あのヒゲとは親しくしてると思っていただけに意外でもあった。
いや、ヒゲも気付いているのかもしれないが…。

敦は、無意識に他人と外面だけで付き合っている。
しかし、自分ではそれに気付いていない。

自分がないのだ。常に他人の横顔を見つつ、自分を打ち消しているような生き方。

他者と本気でぶつかってこなかったため、免疫も少ない。
だから、晶の言葉を真摯に受け止めこそすれ消化しきれずにいる。

人生、正論だけじゃないのにな。
自己分析でしかないが、そう思うと敦の幼さが危うく見えて茜は胸苦しさを覚えた。
大人になりかけの、幼い大人。
ここ数日の挙動を思い出して、茜は余計に心配を胸に募らせる。

今障子の向こうで、その幼い大人はぐるぐると小さなショックに打ちのめされて酔っているようだ。
だが、それもいつか心地よい痛みに変わる。茜は、その痛みを漠然と知っていた。
現実を見据えるとは、そういう痛みを全て自分で引き受けるという事なのだから。

「茜さん」
「なんだ」
「今日は…お見苦しい所を見せてすみませんでした」
「ううん、そんな事ないって。権太を前にしてたお前、ちょっと、格好良かったぞ」
「ちょっとだけ、でしょうか」
「いいや、…もっと、とっても、かな?」
「…ありがとうございます」
「ふふっ」

「僕も…」
「ん?」
「僕も、変われるでしょうか。庵先輩みたいに、何でも自分だけで決めて、一人で立っていられるように」
「出来るさ。でもさあ、あいつをお手本にするのはどうかと思うな。お前はお前で、もっと格好いい独り立ちしちゃえよ」
「そう…ですね。もし、そうできたら…僕のこと」
「僕のこと?」
「…ええと。やっぱり何でもないです。言葉がまとまらないですから…また今度。電話来てたら、後で僕も一緒に迎えに行きます。茜さんが心配だから」
「ありがと。でさ、ちょっと思ったんだけど」
「?」
「杏子、って呼んでもらった方が、フィアンセらしいかなって」
「えっ?…って、あの下の、名前で…」
「そうそう。悪いけど、あいつをキャーンって言わせるまで、もうひと芝居。頼むぜ相棒?」
「はっ、はい………別に芝居じゃなくってもいいんだけどな…」
「ん?何だって?(聞き取れなかったな)」
「なっ、何でもないですっ!…あっあっ、後でまた下に降りますから!」
「はーいはい。分かった、待ってるよ」
すたすたと安心して階下に下がっていった茜の足音を聞き、部屋の中で敦は「危なかった…」と安堵の嘆息をもらしていた。

*

同時刻。
奥座敷で晶は敷かれた布団の上でうっすら汗ばんだまま、風呂にも入らず枕に突っ伏して猛省中であった。
人様んち押しかけておいて何で説教垂れてるんだ自分は…。

ただ、ちょっとイラっとしただけなのだ。…自分の思い出したくない、実家を想起したせいかも知れない。
最悪。僕とっても最悪。
自室で全身に繁茂させていた「自己嫌悪ムラムラカビ」のオーラを全身から鬱陶しく放出しつつ、晶は「うううん」と低く唸って干し立てふかふかの布団上で寝返りを打った。

「おい」
唐突に、寝返った瞬間に自分を見下ろす大輔と目があって思わずぎょっと身を硬くする。
大輔は「幽霊じゃねーよ」と口元を軽く引きつらせたが、すぐに「電話あったぞ」と本題を切り出してきた。

「相手はなんて」
「身代金は差し引きゼロにこじつけた。その代わり、やっぱ茜のフィアンセの座を賭けて勝負しろって。あの焼きおにぎりバカ、しつっこいな」
「そうですか…」
「だから、あいつの弟は口実として、敦を逃がさない名目でゲーセンで解放するってさ。つまり、是が非でも理由はともかくリベンジしたいだけっぽいな。まあ、簡単な交渉だった」
「お疲れ様です、先輩」
「ああ。…何か、お前に先輩って言われると痒いな」
「そうです?」
「ちょっとな」と苦笑いを浮かべつつ、大輔はどかっと座り込み胡座をかく。

「庵から、電話あったか?」
「いえ」
「そうか…あいつに聞ければいいんだが、一体何企んでるんだか」
「ですよねー」
「オヤジさんには明日の件も許可取ったし、無事に連れて帰るように約束しておいた。一宿一飯の恩義ってやつだな。で、後は敦に交渉結果を伝えるだけだが…」

「それなら、さっき父から聞きました」
「ああそう…って、敦居たのかよっ!!」
全く気配がなかったため、一様に驚き振り向く二人に敦は照れ笑いを浮かべる。
敦は細く開いていた障子を開け、音もなく閉めると静かに歩み寄る。

「さっきはすみませんでした、晶先輩」
「えっ…いや、それはむしろこっちだよ」
慌てて身体を起こすと、晶はきちんと正座している敦に姿勢を正し向き直る。

「ごめんね、偉そうに」
「いえ、そんな…それに、僕も気づきがありました。とても大事な気づきが」
「気づき?」
「はい。僕自身のために必要だった、気づきです。僕、今まで当たらず障らず生きてきましたから、自分の中にああいう感情があるのを認めたくなかったんです。だけど、もうあまり否定しないようにします。僕自身が、正直に、周りと触れあえるように」

吹っ切れた風な敦の微笑みに、大輔と晶も我知らず口元に笑みが浮かぶ。
敦の表情に、計算や、迷いや、人の顔色を窺うような打算を感じられず、むしろ心地よいほどの清々しさが漂っていたからだ。

「明日、帰ったら弟ときちんと話します。僕の思いとか、色々と」
「そうだね。君ならきっと良い方向へ持って行けるよ」
「なら、そのためにも勝てよ。相手は厄介な奴を雇ってるみたいだ。油断するな(まあ、あいつの実力じゃあ氷河期が来たって勝てんだろうしな)」
「はい、有り難うございます。…でも、その相手って、助っ人ですよね?どれほどの人なんでしょう…」
僕、地元は疎いからなあとこぼす敦と対照的に、大輔は複雑な表情を見せる。

「うーん…」
「大輔さん、そういうの詳しそうですね。知ってる人なんでしたっけ?」
「ああ…だから一言だけアドバイスしておいてやる」

一呼吸置いて、大輔はそっと二人に耳打ちする。

「おそらく相手は、長髪でQMAのカイルに激似なイケメンだと思う。で、そいつがもし焼きおにぎりの代理で来たら…」
「(カイルって誰だっけ…?)は、はい。もし来たら…?」

「自然科学だけは投げるな。 …殺されるぞ。絶対に」
その重い断言口調に、二人とも思わず息を飲む。普段大輔が見せないような焦りを感じたためかもしれない。
戦々恐々としたまま、その晩はゆっくりと暮れていった。

【続く】












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