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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

再勝負。
*

翌日。
予想通りの夏空。日を追う毎に蒸し暑さの増す夏の朝。
起きたくないのに、起きろ起きろと朝日が六時前から差し込む朝。

目を覚ます。憂鬱な朝。でも。
いつでも勝手にやってくる、投げやりな朝をタオルケットごと蹴り上げて、僕は身体を起こした。

指定時間は昼前11時。
それまでには身支度も準備も全てとどこおりなく済むだろう。
僕は顔を上げて、久しく向かい合っていない勉強デスクの向こう、うっすらホコリを被った本棚の向こうから差し込む朝日を見上げた。

*

「来たな」
「来ましたよ」

十一時十分前、【シガユニバース新潟】。

昨日訪れたばかりのゲーセン前にて、今日も睨み合う事になろうとは。
図体のでかい片方は、相変わらず黒袢纏。
かたや、もう一方の小柄な青年はカラシ色のカジュアルなTシャツ姿である。
このくそ蒸し暑し時分に袢纏、というだけで見た目からして鬱陶しい。
視界に入っただけで暑苦しくていけないのだが、権太はそれすらも己の気合いの現れと察して欲しいらしい。額に玉粒の汗を浮かべて、ひたすら店の前でじっと待っていたようである。
律儀を通り越して、暑さを我慢しているせいで殺気ダラダラ=立派な業務妨害です本当に(略)。

「んじゃ、ちゃっちゃとやるっぺあ。俺だったバカバカ言われたら沽券に関わるが、そこはそれ、不得意は得意な奴にやってもらやあええっちゅうオヤジの文句を思いだした訳よ」
「それはつまり自力での対決を諦めたt」
「うっせえ!うっせえうっせえうっせ!!おめえらみてえなクイズ漬けの連中に勝てる訳ねえっぺ!でもな!お嬢を思う気持ちだけは負けね!だから俺は最後の希望が断たれるまで諦める訳にはいかねんだ!」
そうわめきちらし、肩をいからせて店内に入っていく権太の背中に冷や汗をかく敦達三人、そして茜。

「くどい。無駄に暑い…」
「そしてアロンαのごとくしつこく粘っこい。
…だが、あいつもせっぱ詰まってるはずだ。
今ボクを連れて帰れなかったら契約はご破算、親に何言われるかわかんないだろうしね」
「あいつも必死、背水の陣って訳か」

「それでも」
ぽつり、と敦が呟く。

「それでも、僕は負けません」
いっそ清々しい、潔い一言。
そんな敦の背中にそっと茜は「行ってこい」と呟いた。

*

アンサー×アンサー筐体前。センモニ前にその男はいた。

「こんにちわ。というよりも初めまして、かな」
さらりとした長髪をうなじでひとくくりにした、縦にひょろ長い黒縁眼鏡の青年。
七分袖のサテンシャツにスラックス姿。
見た感じはオタクやゲーマーとは違うインテリ系な印象を受ける清潔感漂う容姿。

昨日「イケメン」と大輔が言っていた理由もなんとなく分かる。
ただ、やや堅めで内向的に見えるせいか女っ気は感じない。

パッと見、お金にも女性にも縁遠そうな学生、という見た目。
一日バイト感覚で勝負の申し出を受け入れたのだろうか。

「悪そうには見えないなあ」と敦は漠然と思う。
やはり、彼の中にはいまだにゲーセン=不良の構図が根強いようである。
そんなひょろ長青年の足下では、ネムが涙目で怖々と敦達の様子を窺っていた。

「に、にいちゃん…」
昨晩泣き腫らしたのか、目の周りがあからさまに腫れ上がっている。
こちらへ飛び出そうかどうしようか迷っている風のネムに、青年は「ちょっと下がっててね」と優しく語りかける。

「ようこそ逃げずによく来てくださいました。と言えばいいのかなあ、こんなとき」
ネムを奥の休憩用座席に座らせて、青年はおどけて肩をすくめて見せる。

「とりあえず、弟さんはこの通りです。で、勝負なんですが」
「おう!!兄ちゃん期待してるぞっ!昨日のリーマンのオッサンは講釈ばっかりで全然腕前見せてくんなかったし、そのまま帰っちまってえらい肩すかしくったが…」

「はいはいちょっと静かにしてもらえますか?」
「…!!ちょ、待ておめえ、パトロンは俺だ!俺のカード使って…」

「あなたの雑魚カードはいりません。パトロンだとも思ってません。
報酬も結構です。黙っていただけますか?」
間髪いれさせない青年の物言いに、権太の眉間にみるみる青筋が浮かぶ。

「んだどこらあああ!!昨日、一番ええホテルのスイート泊めてやったっちゅうに…!!」
「それはこの子の保護者としてです。出張途中だった彼もそのつもりでした。あなた方に任せておいては、どんな賢い愚行を行う所だったか分かりませんでしたし」
「てってっ、てんめえ…!」

「嫌ならいいですよ。警察に行きましょうか。
ゲーセンから警察だなんて、見事な逮捕用テンプレートだと思いますけど?
まあ、それ以前に勝負を札びらで頬引っぱたいてやらせようと言う魂胆が気に入りませんね。僕がお嫌なら、他のどなたかスカウトしてください。もう後二分で時間ですけど、それでよろしいです?」
権太の顔元が憤怒の赤から焦燥の青へと上下アップダウンを繰り返し、中間色の土気色でストップ安と相成る。
どうやら、相当精神的に堪えたらしい。ぐったりした面持ちで「そんだら」と呟く。

「絶対勝ってくれるか?」
「勝負はあなたがいようといまいとします。それが何か意味を成すものであっても。勝つか負けるかは神のみぞ知る、ってところでしょうか」
口をへの字に曲げて二の句を探す権太に、青年は「でも」と言葉を返す。

「勝負という以上、負ける気はないですよ」
そのきっぱりとした断言に、権太の顔にわずかながら血色が戻った。
「そ、そか。頼むで」
「ええ。こうご期待」
へへ、と力無く笑う権太に、青年は満足げに頷いた。

「あいつ、簡単に権太を丸め込みやがった…」すっげえ、と茜の口から感嘆が零れる。
「物怖じしないからなあ…(なんだろうな、俺の知ってる線目の奴ってみんな目から何か出てるのかな…気がつくと有無を言えなくなってる気が)」
訳知り顔な大輔に、茜がすかさず口を挟む。

「ん?知ってるのか?」
「へ?あっ…ああ、まあ、有名な、相手だから、うん」
「へえ~」
茜の疑惑の眼を回避しつつ、大戦前の二人を見やる。
まだ開店して一時間程度なため、客も少ない。アンアンの筐体も有難い?ことにがら空き。

どうせ一対一の勝負なら三十分とかからない。
すぐに、決着はつく。

「では、そろそろお時間ですね。勝負は一回きり。
三戦内二戦を取った方が勝ち。店内対戦と同様でよろしいでしょうか?」
「構いません。…僕は、阿南敦と申します。何だかさっきのやりとり見てて思ったんですが、昨日は弟が迷惑かけたようで」
「いえいえ、弟さんは良い子にしてましたよ。ご心配なく。
…僕は陰善孝志と申します。それでは、着席しましょうかね」

双方隣同士の筐体に座り、カードを財布から取り出すとボタン脇に置き、慣れた手つきで、ほぼ同時に百円玉を台に投入した。

【7月23日昼前・対戦開始】












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