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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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麻美母の正体。
*

「お見事でした」
庵と敦の傍らで、インゼント=陰善青年も軽い微笑を浮かべている。
その表情に敗者の苦渋はみじんもなく、むしろ清々しくさえあった。

「あ、えっと、…有り難うございました」
敦が慌てて陰善に会釈を返すと、彼は「いえこちらこそ」と照れ笑いを浮かべて頭を掻く。

「ちょおっと待て」
非常にまったり和んだ空気をぶちこわす、憤怒の焼きおにぎりが群衆の中から歩み出て陰善を睨み付ける。

「勝つんじゃなかったべさ」
眉間にシワを幾重にも畳んで、幼児や童女なら即行で泣き出しそうな強面にピリピリと全身に殺気を漲らせた大男を前に、陰善は涼しい顔である。
「勝負は水物ですから。これが、今の実力ということでしょうね」
やはり悔しくはありますけども、と付け加えて、陰善は微笑を口元にたたえたまま立ち上がる。

「さて、契約は契約です。代理勝負を引き受けたら、勝とうが負けようが返してくださるのでしたよね」
「む…」
差し出された掌に、権太は口角にぷつぷつと泡を浮かせる。

「僕の友人のカードを返却していただけますか?あれは貴方が持つべき代物ではない」

「うぐぐ…断る!負けておいて、しかもホテルの料金も踏み倒していくだか!」
「あれはそちらが勝手に申し出てきたんじゃないですか?」
「うっるっさい!!うるせえだ!!俺はっ、俺はよう!!」

「だまらっしゃいな荒巻さん」

場の空気が一瞬にして静まりかえる。
声の主がこの場へ直に来ているのに気付いて、権太が目を剥いたのが遠目にも判別出来た。
しずしずと観衆の輪から歩み出てきた黒衣の和装美女に、おろおろと落ちつきなく視線を泳がせ、うへへ、と力ない笑みを浮かべる。

「お…おばさん!麻美、わざわざ連れてきてくれたのか…!」
動向を見守っていた茜に、麻美が小さく手を振る。隣では、にやりと庵がチェシャスマイルを浮かべている。

「おお、お、こ、これはこれは、朝比奈さん…いいいいつもオヤジがお世話になってるっす…」
「ええどうも。相変わらずお元気そうで…ところで、こんな所で油売っていてよろしいのかしら」
至極落ち着いた様子で微笑を浮かべている麻美の母=朝比奈女史の名に、周囲がにわかにざわつき始める。

「朝比奈…朝比奈陽子か!テレビで見たことあるぞ!」
「朝比奈陽子って…ちょ!おまっ、アサヒデビールの女社長じゃねーかよっ!!なんだよこっちも有名人じゃん!」
「すっげー!ってなんでゲーセンにいるの?イベント?アンアンのイベント企画?」
「知らねえよっそんなの!うわっうわ、あの毒舌マダム生で見ちゃったぜ…本当にいっつも黒い和服着てるんだ…」

「あらまあ、ママも結構まだ名前が知れてるわねえ」
「北海道じゃあ未だに現役みたいじゃない。昨日ホテルのテレビでCM見たよ麻美さん」
めざとい庵のチェックに、麻美も「よくご存じで」と、ぺろりと舌を見せる。

数年前、現在のクイズブームが巻き起こる前にテレビを席巻していた「お悩み相談バラエティ」で、一躍北海道内から飛び出した有名人。
容姿に違わぬ知性と歯に衣着せぬキレの良い物言い、そして何よりブラウン管を透かしても色褪せない熟した色香を放つ、妖艶なる和装美女。

それこそが麻美の母の正体=アサヒデビール三代目社長・朝比奈陽子、その人である。

年齢不詳な若々しい容姿と竹を割ったような的確な見解が受け、数年前まで民放の全国区テレビ番組に頻繁に出演していたのだが、近年は会社の業績悪化に伴い事業に専念するため出演を差し控えていたのだが、その人物が随分と場違いな場所に意外な人物を伴って出現した事で、周囲は困惑と好奇に包まれていた。

ちなみに、アサヒデビールは全国シェア4位の中堅企業である。
堅実過ぎて高齢層のサラリーマンばかりに受ける通なビールというイメージが濃かったが、近年は女性向け発泡酒「アサひな♪もえびーる」等、成人したての若年層向け萌え路線で人気を回復中である。
CM起用され「ひなはもえもえ、もえびーるぅ☆」でブレイクした、秋葉発人気超ロリっ子アイドル「雛野ヒナノ」のデビューCMと言えば、大抵の人には通じるのではないだろうかと思われる。

さて、冷や汗を全身に滝のように流しながら、今自分が置かれている状況を今一番必死に考えているのは、荒巻権太その人であろう。

まず一番に、権太はこの女社長が苦手であった。
言動一つで、底の浅さを全て見透かされているような気がする。実際、後先考えずにノリで発言し、手痛いイヤミや反語でしれっと痛烈に批判された経験は数知れない。
それは父=新巻酒造の社長も同じであるらしく、今回のそもそもの茜への強引なにじり寄りも父にごり押しされた事が起因している。
元々、権太は茜が大好きであったものの、東京に進学すると聞いてそろそろ諦めようかとさえ思っていた。
そうして三年が経ち、未だ思い切れず(いやむしろ募るばかりにアイウォンチューだった訳だが)にいたところ、「荒巻ブランドのダーティさが気に入らない」「もし提携するなら、何か払拭するような企業努力と新たなブランド確立を」提携条件としてアサヒデビールから提示され、頭を抱えていた父が白羽の矢を立てたのが、自分だった。
今までスネばかりかじって生きてきたツケか、父はブランドイメージと新たな製品開発の一挙両得のために、何としてもこの縁談を決めるよう自分にきつく言いつけ、出来なければ荒巻家を出て行けとさえ言われた。「図体ばかりでかい、穀潰しが」と、脂っこいつるっぱげの小太りな父親に罵られて。

確かに、その通りだから実際何も言えない訳だが。だがだが!!

茜が一言「結婚します☆」と言ってくれてれば良かったんだ。ああなのにそれなのに。
なして、自分は今、この超苦手な女社長と、自分一人(取り巻きは既に後方に逃亡)で立ち会わされているのか。

茜の父親は(超力技で)丸め込めたのに、当のフィアンセは東京で見つけた(らしい)童顔な線目の家に逃げ隠れてしまい、
昨日は昨日で、その線目の弟を使って狂言誘拐を目論むも失敗し、ホテルでは飲み食いで無駄金を使われ、
そして今現在、勝負の代わりを頼んだプロアンサーが、その線目に接戦で負けた。
プロのクセに段位に負けてるとか。

俺、どんだけツキがないのかと。
問いたい、問いつめたい。小一時間運命の女神を問いつめたい。
…自業自得とか言うなよ。自力で出来ないなら他人をこきつかえ。これ、ウチの鉄の家訓。

言われている意味が分からず、権太はへへ、と薄ら愛想笑いを浮かべながら首を傾げる。

「ええっと、何の事ですかね…」
「いいご身分だねえ、大学生ってそんなにお暇なのかしら」
ふう、と細く紫煙を吐き出し己を見上げる熟女の挑戦的な視線が、ぐさぐさと全身に刺さるようで、正直正対するのがきつい。
体格的には下から見上げられているのに、完全に見下されているような気がしてくるのは何故だろう。
「ええと、だから何でしょうか?俺、今フィアンセとられそうで大変なんすけど…」
「おやまあ、ゲームの後は女の尻を追っかけ回すって?呆れて物も言いたくなくなるねえ…実家は今頃危急存亡の危機にさらされてるだろうに」
「き…キキュウ、ソンボウ?」
「これだよ」
つ、とすかさず手渡された洋角2の白い紙袋を受け取ると、慌てて中身の分厚い書類を取り出し閲覧する…も、内容が複雑そうな上に、文字が小さすぎて頭がガンガンしてきそうな、ともかく細かい文面の資料だ。途端、眉間にシワを寄せているのが分かったのか、あからさまなしかめっ面で朝比奈社長が「鈍いねえ」と首を振った。

「あんたとことの提携話、全部白紙にさせてもらうよ。いや、撤回と言い切った方がいいかも知れないね。この話、無かった事にしてもらうよ」
「なっ…なしてだ!!九分九厘、父ちゃんは決まったようなもんだって…!」
色をなす権太に、涼しい顔で朝比奈社長は「そのお父上に尋ねてみるんだね」と冷たく言い放つ。

「ブランド力強化と言えば、他人様の乗っ取りしか思いつかない。
企業イメージ向上と言えば、他社の培ってきたものを横取り、挙げ句息子は女一人モノに出来ない愚図とはね。
役員の口添えとはいえ、会社のためにとんでもない粗悪品掴まされるとこだったよ。

そんな浅ましいドブネズミみたいな会社と、今後一切付き合う気はない!
そこのお嬢さんにきっちり詫び入れて、とっとと秋田に帰りな坊や!」

疑問はおろか、朝比奈社長の間髪入れぬ一喝に、途端権太の青息吐息であった顔色が一気に真っ赤に染まった。

「い、いってえいきなり現れたかと思ったらなしていきなり人様の前で愚図だの何だの言われねえとならねんだ!!意味わかんねーだよっ!!」
「そのために、今資料を渡しただろ?
さらっと、一枚目だけでも読んでごらんなさいな。
お前のオヤジがどんだけクズか、きっちり書いてあるさ」
再び権太の視線が手渡された資料に移る。権太の食い入るような視線が紙の上を上下するも、数分の後「…意味わかんね」と、叱られる直前の子供のように肩をすくめてしょんぼりとうなだれた。

「あのね、荒巻酒造の荒巻権太さん」
見かねて、庵が観衆の間から歩み出て朝比奈社長と並び立つ。

「なんだオメエ…って、アンサー庵だか?!」
「イエスアイドゥー。正解。
で、それなんだけどさ、今アサヒデビールさんとのブルワリー事業提携解消通知と一緒に荒巻酒造の本社に熨斗つけてPDFで送付したから今頃大変な事になってると思うんだ。まあ、平たく言うと一晩で会社潰れるくらいの大激震が今お家に走ってると予想出来る訳さ」
「んなななな!おっ、おっ、俺んちがどんだけでかい企業か知ってて…」
「うん知ってる。でも、地盤は随分脆かったみたいだよ。ここ数年の資金繰りからして、相当な綱渡りをしてる。実家に居て気付かなかったか?それとも関与してなかったのかな。
…帳簿をいじるなら、もっと賢くやらないとさ」
「ななななっ…なんてこと言いやがるっ!!おまっ、有名人のくせに、訴えてやるぞ!!」
動揺する権太に、庵は悪びれもせずにそっと近寄って肩をぐっと引き寄せ、耳元に囁く。

「権太さん、お父さんに伝えておいてくれるか?
セキュリティがガタガタのダダモレだよ。
もっと危ない資料はきちんと管理しておかないと、怖いハッカーさんに根こそぎ持って行かれて強請られるとこだったかもよ?って」
閲覧したのが俺で良かったね♪と囁く口元に笑みを浮かべる庵に、権太は何と行って良いか分からず目を白黒させる。
途端、庵の口元から笑みが消え、代わりに研いだ刃のような鋭利な声色が鼓膜を揺さぶった。

「…お前の父親、裏で帳簿改ざんより酷い事してるぞ。

三ヶ月猶予をやるよ。
その間にきっちり調べて、ちゃんと世間に公表しろ。

三ヶ月内に正式な謝罪があったら、それ以上何もしないさ。
だけど…隠蔽するようなら、明日にでもマスコミにリークしてやる。
そうすれば、上場どころじゃなく廃業だ。

分かったか?ちゃんともう一度、お前のオヤジにお前の口から伝えておけ。後最後に、男女鹿酒造から手を引け。これが、もう一つの条件だとな」

「・・・」
鈍い権太にも、今自分の置かれている状況が急激に悪化している事だけが肌でひしひしと感じられていた。
背中を嫌な寒気が伝う。冷や汗で背中はぐっしょりだ。

なして。なして俺がこんな目に。
だが、だが、一つだけどうしても諦めがつかないことが。

「そ、それは、俺に…茜を諦めろって、ことか」
「そゆこと。力尽く、もとい、力技で無理くり彼女にするのも、違うと思うしね俺」
「いいいいやっだああああ!!それだけはっ、それだけは俺は出来ねえ!!ウチのオヤジがどうなろうと、俺は、俺はよおおお」
猛る恋心でうおおおおおおん、とゲーセン中にこだまする雄叫びを上げて身をよじる権太に、庵も「あらまあ」と顔に縦線を入れて顔をしかめる。

「マジしつけえなこいつ…」
「くねくねしてると、余計に暑苦しいね。この季節には近寄りたくない感じ」
「晶君今さらっときっつい事言ったね」
「いや、俺もそう思うぞ庵。むしろ冬でもいらん。部屋に上げたら、汗の蒸気で室内がねばっこくなりそうだ」
「いえてるー」
「あの、皆さん手厳し過ぎませんか…?」
文句の一言でも言ってやろうと思っていた敦だったが、周囲の自重しない物言いに流石にためらいを感じ冷や汗をかく。

「くそー!くそー!こうなったら理由なんてどうでもええだ!おいそこの線目!お前をぶちのめして茜連れて帰るでな!」
「ええええっ!!」
唐突に猛牛の餌食に指名され動揺する敦を守るように、晶と大輔がすす、と一歩前へ歩み出る。

「へー」
「それって」
「もしかして」
「俺等二人とケンカ上等って話?」

「待て!それはボクが相手になるっ!」

「ええっ!?(茜さん、むしろそれボクのセリf…いえなんでもないです…)」
もう既にやる気満々な二人に加えて、今まで自重していた茜までもが、目を吊り上げてファイティングポーズを見せている。
元々他人任せが嫌いな性分の彼女だ、我慢の限界だったのだろう。
喧嘩上等の男二人と低体脂肪率のマッスル婦女子一人に守られ、敦はどこかカッコつかずにおろおろとしている。

「おお?ええだか茜?実家のオヤジさんが泣くだぞ?ええんだか?」
「むむむっ…」
今現在、状況からして権太の実家・荒巻酒造がピンチになっているのは把握出来るが、だからと言って今の現状を覆す事態にまでなっていない。
特に茜は、実家の酒造業も絡んでくるため迂闊に手を出せない。

しかし…自分のせいで、これ以上周囲が振り回されるのを黙って見ているのも限界であった。とその時。

「きょうこおおおおおおお!!」

【叫び声の主と共に20後編へとつづく】












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