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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

彼と「王者」の関係。

*

実は、この後またゲーセンへ戻る段取りになっている。
先程の人だかりの多くが、「インゼントと“とある有名プレイヤー”が復活する」という噂を聞きつけたアンアンプレイヤーだったため、急遽トーナメントを組む事になったためである。

総勢三十二名。ここにいるメンバーもネムを除いて全員エントリーしている。

その場でやたらと声をかけられ「対戦お願いします!」と、庵がもみくちゃにされている最中、同じくらい見ず知らずのプレイヤーに対戦を申し込まれていたのが、この陰善と…大輔であった。
不思議に思った晶が何気なく周囲に訊ねた事で初めて陰善の正体が分かり、直接対戦した敦は「ええっ?」と少なからず驚きに見舞われた。

半年前、今年の一月まで自然科学GPerの尊敬を集め、全国でも有数の良プレイヤーとして名を知られていた、元自然科学マスター。
かつて理系問題では敵無しと言われていた、即答早押系・数式の鬼アンサー、「インゼント」であった。
敦は上京してからアンアンを始めたため知らなかったのだが、地元新潟では有名なプレイヤーだったのだ。

「やっぱり、最初の選択かなあ」
イーブンで最終に早押しクイズがくるんだったら、虫食いで自然科学を温存しておけば良かったなあ、と呟く陰善に「ブランクもあるんじゃね?」と大輔が答える。
「かも知れない。でも、言い訳には出来ないよそれは」
「相変わらず、お堅いな」
「君だって」

店を出て、むんとした空気が全身を包み込む。
ただ、アスファルトの人工的な香りを打ち消すように、むせるような稲田の草の匂いが風に乗って鼻先をくすぐる。
道路向こうに広がる青田脇の歩道をてくてく汗ばみ歩きながら、彼=陰善は語る。

大輔と陰善が知り合ったのは、去年のこと。
そこに介在したのが、陰善を回答席に再び座らせるきっかけとなったICカードの主=「元王者」【サツマハヤト】と名乗るプレイヤーである。
今回、ゲーセンが一騒ぎとなった間接的な発端の主について、陰善は語る。

「彼のブログは知ってる?」
「知ってる!こないだ見に行ったけど、面白かったぜ!」
意を得たり、とばかりに満面の笑みで答える茜に対し、庵と晶は全くの初耳である。
「それってどんなのなんだ?」
「彼…サツマ君が普通のゲームプレイ日記+αを週五日ペースくらいで更新してるブログです。今は工事中かな?一部に知り合いしか知らないパスコード認証制の日記もありますが、ほとんどが全体公開で、QMAとアンアンのプレイ日記、後は雑記かな」
「どんなのなんだ?」
俺、ネットはレポート書くときくらいしか使わないからなあ、と庵が苦笑いを浮かべると、茜がぱこぱことケータイを操作して「これだ」とフルブラウザ画面を二人に見せる。

【サクラジマ通信:九州のアンサーがプレイ日記を付けてみるブログ。】
メタリックブルーフレーム主体の3カラム。いかにも男性的なデザインのシンプルなブログ。

「へー」
「へー、普通」
「すげー、カウンター六桁行ってる!」
「へえ~」
初見の二人に混じって、麻美や敦も立ち止まって画面を食い入るように見つめる。

「・・・」
大輔、さっきより話題から離れ、一人先頭を歩きつつ無言。
耳がダンボになっているが、誰も気付いてはいない。

「携帯だと字ちっちゃいなあ、後でパソコンから見るよ。アドレス教えてショート先輩」
「ああ、いいぜ。ケータイにメールでアド転送しておく」

「(しばらくブログ全面工事中に変更しておくか…読まれて特定されそうな記事、一旦下げておかないと…)」
ひやひやしっぱなしの大輔であった。

「このゲームの王者経験者で、特に有名なのは三人。

初代王者の「連想女王」【ナンナル】さん、
現在の王者「早押し魔王」【QuO】さん、
それで、彼、サツマ君。

彼は九州出身だったから「九州王者」とネットで呼ばれてるんだ。僕や…大輔君と同い年の大学生だよ」
若干すっきりしない言葉尻が気にかかるも、普段ネット掲示板を見ない庵や晶はこれまた初耳の情報である。特に庵は興味ありありで鼻を膨らませている。

「僕、母が東京の叔父の勤めてる病院に入院しててね。週に一度、バスで東京に見舞いに行ってるんだ。その帰りのバス待ちで、ほんの少し息抜き程度にやってて。その時に、彼…元王者と、大輔君とも知り合ったんだ」
「へえ、じゃあ、大輔さんも知り合いなんだ王者」
「知り合いというか、彼とは元同級生?と表現していいのかな?」
「へえ!」と庵が驚きの声を上げる。

「大輔さん、そんな凄い人と同じ学校だったんだ!何で教えてくれなかったんですか!?」

「いや、だって…そんなの、別にいいだろ?」
「有名校だしね」
ぎくり、と不用意なほどに背中を強張らせる大輔に、さりげなく陰善フォローを入れる。

「チーム桜島って知ってる?ほぼ毎月チームランキング上位にいると思うけど」
「大輔さんも入ってるチームだよね。そこにいたの?」
「いやその前に…って違う。えーと、そこはラムサール高のOBで作ったチームなんだ。小野田先輩がエースだな」
「小野田先輩って?瀬賀大学の先輩か?」
「違う。全国ランカーの“オレゴン”さん。今7位くらいだっけ?金髪のヒゲ。スポーツ投げたら即死するぞ」
「へえ、トップテンがいるのか…成程納得」
「そりゃまた紹介してほしい」
対戦マニアな庵の期待満々な顔に、大輔は「顔知ってるはずなんだけどな」とつれなく答える。
「そうなん?」
「うん、まあ…俺の事思い出すのにもしばらくかかってたようだし、今度会う機会があったら教えてやるよ。先輩社会人だし、都合があえばな。あの人も店対好きだから、話も合うだろう」
ちらちらと庵に目を合わせない大輔の隣で、陰善はふう、と深い溜息をもらす。

「チームって携帯サイト連動でしょう?もしサツマ君がその頃までプレーしてたら断然エースだっただろうに、僕のせいで悪い事してしまって…」
「お前は悪くないだろう。悪いのは…その、王者の方がだろ?」
表情を曇らせる陰善に、すかさず大輔が強い語調で反論する。

「何があったんですか?」
おそるおそる訊ねる敦に、陰善はこっくり頷く。
「今年の一月にね…」

【続く】












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