※女性向けです
やっぱり長くて(´・ω・`)ですが、お楽しみ頂ければ幸いです…。
今回のコラボ企画で、普段書けないタイプの小説が書けて良かったとです。
しかも、沢村さんのステキ小説も拝読させていただいて!まったり続き楽しみにしてます|ω`)ノ
沢村様、改めまして有り難うございました!
*
幾度となく無理矢理寝入って、また目が覚めて。
枕元の時計を見る。
夕方四時過ぎ。
彼が帰った気配は、ない。
手元でケータイを転がす。
彼のメールアドレスを開く。
どうでもいい言葉を、液晶の小さな画面に二言三言連ねて。
…やめた。
「送信できませんでした」のメッセージを見終わらぬ間にケータイを閉じ枕元に放って、また目を閉じた。
*
「庵くーん、次どこ行く?」
「うーん、ゲーセン行ったし、買い物も済んだし…」
「でも庵君って本当にクイズ強いね!プレーオフなんか毎回だし、一位ばっかりのグラフは圧巻!って感じだったな」
「てへへ、それはどーもでーす、なんつって」
先日知り合いになった(もとい、昔に一度会って、最近偶然再会した)同い年の女子大生、のどかと並んで歩く街並み。
街の喧噪。足下をかすめる新聞紙。日曜日はカップルも多いな。
…人が流れるのを見るだけでも楽しい。彼女が隣に居てくれるなら。
ふいに、尻ポケットのケータイが震えた。
「うおっち」
慌てて尻ポケットから引き抜くと、メールの着信相手を確認する。
「庵君、着うた黒電話ってだあれ?クラシカルだね」
「いや、これにしてるとすぐに気付くからさ。っと、あー…」
顔もとがくすんだのが分かったのだろう。女の子は、こういう時めざとい。
「何かあった?」と問う彼女に「ちょっとね」とだけ答える。
「…何か、食べない?それから考えよ」
「うん、いいよ」
にっこりと微笑む彼女の顔が、何故かケータイメールの向こうに居る相手を思い起こさせた。
まっすぐな笑顔。心からの、笑顔。
*
うっすらと意識が目を覚ます。
物音。キッチンで冷蔵庫の開閉音。流水音…。
部屋の中が暗い。もう夜か。
けだるい。
眠りすぎて、頭が重い。もう一度、布団に顔を埋める。
丸めていた背中越しに、誰かの視線。
分かってる。
でも。起きない。
起きるな。
起きるな。起きるな。起きないでいろ。
…呪文のように心の中で繰り返す。
「…寝てる、のか…」
耳元。随分近い。ふう、と鼻から息が抜ける音。
気配がすう、と引いていく感触。
「かえる、か…」
落胆したような、僅かな囁き。
それを聞いて、ずっと張りつめていた何かが、ぷつりと切れて。
背を向けて立ち去ろうとしていた彼の背中に、しがみついていた。
力任せに引き寄せて、ベッド脇にそのまま引き倒して、彼の背中に両手を回し、肩にアゴをのせ、声を殺して涙をこぼした。
首筋の匂い。
着衣の下の筋肉の感触。頬に当たる、硬い髪先。
愛おしい。最愛の形。
でも、君は離れていく。
大学を修めるまでは、ずっと一緒にいられると思っていたけれど。
君は本当に好きな人を見つけた。
僕でない、普通の女の子。
社会に出れば必然的に、進む道は分かたれる。
君は知性を武器に、自立の道。僕は父や兄と同じ、政治の道。
だからそれまで、せめて一緒にいたかった。
「お前の気持ちには答えられないけど…俺、お前とはずっと親友でいたいんだよ」
庵の出した答えに、僕は応えた。
気持ちを知られても、彼は僕を避けなかった。
むしろ、理解してくれようとさえした。
無論誤解もあったし、ケンカもした。
だけど、きっと家族以上に今僕の全てを理解してくれてるのが肌で感じられる。
僕が彼にしたいこと、してほしいことを察して、線引きを決めて「友人」として接する日々。
それだけでも、もう満足だった。満足する他なかった。
引き離されるのも、離れていくのも、身を八つに裂かれるより辛かったから。
交友関係の狭く深い彼の、「一番の親友」という肩書き。
他の誰よりも、彼に近いという証明。僕だけの称号。
これだけが僕の慰めであり、同時に重い重い重石であり。
だって、親友は恋人になれない。
庵の定義では、そうらしいから。
「泣くなよ」
そっと僕の腕を振りほどいて、庵は泣き顔の僕に振り返る。
暗がりに浮かぶ、困惑の色がうっすらと差した不安げな顔。
ごめん、心配ばっかりさせて。ごめん、気を遣わせて…。
「…何しにきたの」
ふてくされたような捨て台詞。裏腹な言葉。
彼のためだ、と建前で思いつつも本当は別の言葉を言いたくて言えなくて。
「空メール入ってたぞ」
「いつ」
「四時頃」
「…ああ」
寝癖がついたままの髪をかきあげて、彼を見つめて。
心配している彼の顔には、僕の身を案じる美辞麗句がたくさん張り付いてるみたいに見える。
だけど、本当はそんな言葉が欲しくて、君の側にいるんじゃないんだよ…。
そっと、顔を彼の唇に近づける。
無言のまま、彼の掌が、彼の唇と僕の唇の間に挟まれ、口元に柔らかい指の付け根が当たる。
「…だめだ」
小声で、でもはっきりと僕を制し首を振る庵に、「それなら来なきゃいいのに」と頭を垂れて唇を震わせる。
「本当に、来ない方が良かったか?」
真剣な口調で、彼は優しく問いかける。
「お前のために、俺は、来ない方が良かったか?」
そう、僕のため。いつも僕のために無心で優しくしてくれるから、離れられない。
だけど庵。君らしくもない。
そんな分かり切った事、聞かないでほしい…。
「………そんなわけ、ないじゃん…」
絞り出した言葉に、庵が息を飲んだのが分かった。
「ほれな」
そう言って、ぎゅっと肩を抱かれて。温かな体温。
染みてくる優しさ。それが「愛」でなく「友愛」でも良い。
君が居る。それでいい…。
台所で、笛吹ケトルが派手に音を鳴らす。
空気を読まない生活音。
「あっと、火止めてくる。後、電気点けて良いか?」
「…うん、いいけど。庵、何でお湯沸かしてるの?」
「ん?これ」
そう言って、彼は手に持っていたコンビニ袋の中身を取り出す。
「新発売のカップ麺出てたから一緒に食べようと思って。『とっても!クラムチャウダー味』だってさ」
「しかもまた無駄にビッグサイズ買ってきて…」
そこではたと気付く。袋の中には、カップ麺の膨らみが、二つ分。
「今何時?」
「九時前」
「…夕飯は?」
「女の子の入る喫茶で、がっつりメシ食えると思ったか?…珈琲飲んで帰ってきた」
「うわ、むかつく言い方」
「自分こそ、寝過ぎて顔むくんでるぞ。寝癖酷いし。目やにが見えるし。起きて顔、洗えよ」
「…はーい」
キッチンへ引っ込む彼の足音に、やっと笑みがこぼれて、涙もこぼれて。
みっともない顔を洗って、折りたたんでいたテーブルを引っ張り出して狭い部屋の中央に据え置く。
割り箸を取り出し、彼が持ってきたカップ麺にケトルから温かいお湯を注いで、二人して向かい合う。
優しい沈黙。
「お湯入れてから五分って長いなこれ」
「いいよ、別に。良い匂いだし、お腹空いた」
「そっか、良かった」
「庵」
「うん?」
「ありがと」
「いーえーどういたまして」
焦れて割り箸をフライングで二つに割る彼のせっかちさに、心が和む。
いつもの庵。いつもの僕。いつもの僕ら。
問題のない、君と僕。
「庵、明日の朝、肉と魚どっち食べたい?」
「どっちでもいいけど、そういうと困るんだろ?…魚、食べたいかも」
「そう、じゃあそうする。アジの開きでも焼こうかな」
「ありがと」
そして、また明日。
明日も、その次の日も、ずっとずっと。
隣の部屋から君が。
「くればいいのに」
〈了〉
※反転にて感想もろきゅう。
スピッツファンだったことから、ボーカルの草野氏が関わったコラボ曲を検索していて引っかかったのがこの「くればいいのに」。珍しく、草食動物系な草野氏が大人の色気むんむんで歌っているのが印象的&KREVA氏のサウンドに「(*´д`*)」となり、勢いで生まれたのが上記のカップリングだった訳です。
女性向けカップリングに関しては「武士道的(衆道的意味合い含む)ストイックさ」に萌えるんだと最近気づき、「肉体的には何もなくても、繋がりを感じられる関係」を目指して書いた…つもりなんです…すみませんすみません…。
or2
若干ヤンデレ風味なロン毛が書けただけでも個人的には満足なんですが、他の方にも1ミクロンでも楽しんでいただけてたら嬉しいです。ここまでお読みいただき、有り難うございました。
今回の2作品は、企画立案等、お世話になりました沢村脩様にご進呈させていただきます。
拙い限りですが、いつもの感謝を込めてお送りいたしたく思います。
有り難うございました!
こんばんは。
コラボ企画の小説読んじゃいました…てへっ☆
相変わらずの素晴らしい文章の数々に楽しませていただきました。
私もこれぐらいの文章力&構成力があればアンサーでショートストーリーを書いてみたい、と思ったりもするのですが…。
晶君…切ないですねぇ。
ウチのバンドの歌で心の痛みをやわらげてあげたい…と思ったけれど、2人は一緒にいるだけで大丈夫…ですよね。
こういう企画が発展していく事を期待しつつ今日はこの辺りで失礼します。
2009.02.06 23:02 URL | てもちん #- [ 編集 ]
>てもちんさん
こんばんちわです!大阪の人気スターさんのお越しとは!
うわ、有り難うございます…女性向けですけどね!
てへへっ☆
自分正直まだまだですけん…でも、温かいコメント有り難うございます。励みになりますです!
てもちんさんもあれだけ設定充実されてるので、ショートでお話やったら面白いのにな…と思ったりしていたのですが。
今のブログだけでも充分内容多彩でいいなあと思っていたりする一読者がここにw!
ああそんな、有名バンドに歌っていただくなんて…恐縮してしまいます(*・ω・)お気持ちだけでもとても嬉しいです!あの二人は大丈夫ですよ~。
自分としても、よりよい発展が進んでいったらいいなと願っております。お越しいただき有り難うございました!
2009.02.07 00:39 URL | ハチヤ #MJWiGxv6 [ 編集 ]
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