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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

「宣告者」のはじまり。
*

始まりは、ちっぽけなものだった。

新たなパトロンを得て、シャドウと平行してペルソナの研究も進めていた日向と研究者達は、施設にやってきた子供達に「君たちは選ばれたプレアデスの戦士なんだ」と煽り、ペルソナ使いとして正義の味方となるべく訓練させるようにし向け洗脳すると、最初こそ子供達を大事に扱っていたが、次第に自制の利かない子供の不満やわがままに嫌気が差し始めていた。
フタバは頭数を揃えるために入院先の病院から半ば強引に連れ出されたが、他の子供達と比べてもやはりペルソナ能力が低かった事から、日向の憎しみもあってか子供達へのみせしめとして、一番可愛がられるはずの我が子でありながら施設で一番過酷な立場に置かれた。

例えば、ペルソナをより安全に召喚させるためのヘッドギアやら、ペルソナ能力を一時的に強化する薬品が出来た、などと言うときには、フタバは一番に研究者に連れて行かれ、その実験台にされた。
開発したもの全てが正常に作動するはずもなく、不良品が身体に食い込む度に、薬物が全身を駆け回り幻覚や恐怖を覚える度に、フタバは実験室をのたうちまわり、苦痛とうめきの中でモルモット役として白い部屋の中で観察された。

日向は、そんなフタバの様子を見ては、ポテチ片手ににやにや笑っていた。
時には実験において優秀な成績を収める子供達を招き、わざとフタバに不良品を身につけさせ痛めつけて見せた。
ほれ、あれをごらん。
あれはできそこないの駄目な戦士なんだ。だから、ああやって強くしてあげようというのに、やっぱり失敗した。
君たちは、ああなってはいけないよ。

自分たちを「特別な存在」だと信じていた子供達は、次第にフタバを見下し、イジメ始めた。
だが、日向も研究員も、遠巻きにそれを薄ら笑いながら見つめるだけで、止めはしなかった。フタバが他の子供らにペルソナ攻撃の実験台にされてボロボロになっても、むしろそれを奨励するかのようにふるまった。

ああ、君たちは優しいねえ。
あのできそこないを鍛えてくれているのか。
本当、あれは皆をイライラさせているようだね。面汚しもいいところだ。
だが、見捨てないでやってくれたまえよ。あれは皆の安全を守るための大事な実験体だからね。

研究者にとっては、子供達の不満を逸らすための都合良いはけ口でしかなかったフタバは、友達も出来ず、孤独に耐え一人辛い日々を過ごした。

普段は、実験器具による傷やショックでの疲労・消耗、精神に作用する薬物の過剰投与で、いつも医務室かあてがわれた狭く小さな自分の部屋で青い顔をして横になっているばかりだったが、それでも父親に対し一度も不満は口にしなかった。
「ぼくが弱いから、いけないんだ」
「きっと、ぼくのペルソナが強くなったら、おとうさんも褒めてくれる」
本館にいた間、フタバは日記にそう綴っていた。ボロボロのノートの端々は、いつもにじんだ跡が残っていた。

そんな中、フタバは一人の女の子と初めての恋を体験する。
彼女の名前は「白石 雪」。「恋愛」のアルカナを持つペルソナ使いだった。
いじめられてボロボロの少年を癒すのは、いつも彼女の役目だった。
彼女は誰にでも優しく、分け隔て無く接し、自分の苦しみよりも他者をいたわる事を大切にする子供で、施設内の子供達にも非常に愛されていたらしい。ただ、ペルソナ能力は高レベルであったが少女は生まれつき身体が弱く、ひがな一日横になっているのも珍しくなかった。
フタバとユキは、いつも医務室では二人並んだベッドで寝ていたという。

「私たち、ペルソナ同士も結婚してたって昨日本で読んだの。だから大きくなってここを出たら、結婚しようね」
「うん、いいよユキちゃん。僕も、ユキちゃん大好き。僕のペルソナも、ユキちゃんのペルソナと、一緒にいるのが好きみたい。頭がくらくらしてても、ユキちゃんのペルソナが歌を歌ってくれるととても気分が良くなるんだ。オルフェウスもそう言ってたよ」
「本当?とっても嬉しい!…ねえフタバちゃん、やくそくよ。結婚の約束。絶対、忘れちゃダメだからね…」

しかし、ほどなく約束は永久に叶わなくなる。
少女は持病が悪化し、周囲の衛生状況の悪化も手伝って亡くなってしまったからだ。
だが、少女は最期の時を前に、大好きだった少年に最初で最後の贈り物をした。

自分のペルソナ=「エウリュディケ」を、フタバに譲り渡したのだ。

ペルソナは、原則1人に1体。
だが、無垢な愛の力が奇跡を呼んだのである。

一つの身体に二つのペルソナを宿し、フタバのペルソナ能力は格段に向上した。
以前の宿主が病弱だったこともあってか、元の宿主よりも数段上手に「エウリュディケ」を使いこなし、遂には他人に為しえない芸当までやってのけた。

ペルソナの二体同時召喚。
研究者達はこれを「ミックスレイド」と仮に呼んでいた。
日に日に過酷になっていく疑似戦闘訓練やペルソナの召喚訓練で疲弊していた他の子供達を驚かすため、又は見返す意味もあったのだろう。
彼は精神を集中させ、頭上に詩人と美しい歌い手を発現させては幻想の演奏会を開いた。

フタバは嬉しかったのだろう。
これで、きっと父親に認めてもらえる。きっと優しくしてもらえる。頭を撫でて良い子だと、褒めてもらえる…。
大好きだった女の子にもらった力で、やっと父親にも喜んでもらえるような能力を得た、と…。
だから、きっと疑いなどこれっぽっちもしなかったのだろう。
実の父親である日向が、フタバの能力に嫉妬し、忌むべき悪魔の囁きに魅入られ狂気の実験の餌食にしようとしているなどと…。

その日、いつものように「新しい実験のテスト」のため、フタバは別館のラボに連れて行かれた。
その日は、普段と違いとても誇らしげに笑いながら、研究員に手を引かれて行ったという。それが、生存者の見たフタバの最後の姿だった。












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