男の勲章。
*
ひとまず車をコインパーキングへ収め、城下から程近い立地のゲーセンに歩いて向かう。
まだ午前中ということもあって、店内は空いていて冷房の効きもいい。
慣れた足取りでスイスイ泳ぐように進むヒゲ兄・典生の後についていくと、4×2並びの筐体が某モビルスーツゲームの白いコックピット脇に静かに並んでいた。
「愛知は設置店舗が多いからいいよな。下手に田舎へ出張行くと空いた時間にちょっと一押し、っていうのも出来やしねえ」
「結構、いろんな所へ行かれるんですか?」
「ああ。俺は主に近畿・東海方面だな。後、年に二度ほど輸出入の関係で海外に行ったりもする」
「典生おじさん、語学堪能なのよ。独学で英語は完璧にこなせるわ。今中国語も勉強中」
「すげっ!」
「何天才が驚いてんだよ?今時は営業もバイリンこなさにゃ仕事がねえのよ」
当然のスキルだな、と言いながらも典生はまんざらでない様子である。
「で?どうするよ。誰から行く?」
使い込んだ風合いのくたびれた黒皮の長財布からICカードを引き抜いて、典生は手前二番目に着座すると、
どうぞ、と言う代わりに一番端の座席へ掌を差し出した。
*
「んじゃー俺から行くよん」
「おっ、有名人からとは光栄だな。よろしく頼まぁ」
「あーいよ」
庵:CN:アンアン(男・デフォルト)
現在ステータス:十段・ヒーロー
(全ジャンルマックス+20~40pt差範囲内)
「相変わらず、回答台はデフォルトなのか。ケータイ登録してるなら、少しくらいいじればいいのに」
普段から店内対戦で見慣れている大輔の指摘に、庵は「これでいいんだよー」とすかさず反論。
携帯サイトに登録しているはずなのだが、フレームはおろか壁紙、色も変えないままな庵の無造作さが、大輔は気になるようで。
ポイントが足りないわけではない。と、思う。いや、あのプレイぶりで足りないと言う方がおかしい。
大輔の言わんとすることを察して、庵は「失敬だなあ」とむくれてみせる。
「気分によってパイロットや探偵してたりもするよ。男は黙ってデフォルトカラー!」
「気分でいじれるように調整してるのか?細かいことしてんな~」
ほお、と感心した風な典生のアバターも、間を置いて画面に表示される。
「そういうおじさんのは…ああ、ヒゲバットか~」
見慣れているアバターキャラのトップ3には必ず食い込むであろう、スポーツが得意なヒゲ=人呼んでヒゲバット。
一時期増殖しすぎなんじゃないのかと思われるほどによく見られた馴染み顔である。
典生:CN:アドウ(男:ヒゲ)
【チーム:井戸端会議】
「このチームなんなんですか?」
「んー?カミサンの作ったチーム。俺以外、主婦な方ばっかりなんだけどさ。不得意ジャンル補ってくれって頼まれて、助っ人参戦中」
「カミサンって、奥さんも一緒にやってるんですか!?」
「実はな~。だから、公認でゲーセン行って遊べる訳さ!カミサンは娘の送り迎えや買い物の時やってるらしいよ」
「このキャラと対戦しますか?」の表示下で、全身赤ヒゲバットの能力表示を見て、庵が「あっ」と短く声をもらす。
現在ステータス:336万パワー
三桁・銀プレートの上に掲げられた、見慣れないフレームの称号…。
【スポーツジャンルマスター】
「バットマスターなの、おじさん!?」
「バットじゃねーって、スポーツマスター!俺よ俺、いっつもスポーツジャンルの一番上にいるの!ちょっと凄くねえか?なんつってな!」
なっはっは、と愉快そうに笑う典生の横顔に、晶思わず「これが見せたかったんですね」と、ほんのり苦笑い。
「そりゃーそうよ!だって、同じゲームやってる奴にしか価値分かってもらえねえし!ゲーセン仲間かカミサンくらいにしか自慢できなくてさー」
「それは言えてる~。にしてもおじさん凄いなあ」
「いや、逆言えば金突っ込みすぎってことなんだがな…少ない小遣いをゲーセンに貢いでも怒らないカミサンがいてこそよ、マジでマジで」
「そういうとき、正社員のリーマンはいいっすね」
「いやいや、もう俺カミサンの座布団みてえなもんだから!尻の下でぺったんこってなあもんよ。貴重な楽しみの積み重ねで、コツコツ積んだ訳さ」
「よーし俺頑張ってスポーツ投げちゃうぞー」
「全国なら嬉しいんだが、店内で相手がお前さんだと緊張するなあオイ!」
いい歳をしてはしゃぐ大学生とリーマンに、大輔は一瞬「落ち着きねえなあ…」と思ったものの、「しかし」と思い直す。
「(スポーツは激戦区のジャンルなんだよな…俺も昔は苦労した…)」
一回戦目の爆破クイズ、ジャンル選択で表示されたステータスを見ても、スポーツと趣味雑学がマックス以上で突出してはいるものの、
他ジャンルもレベル9に揃えられている。
唯一グルメ生活が8ではあるが、これは男には少々厳しいジャンルであるし…。
考えてステータスを上げている風に見える。単なるスポーツ馬鹿ではないらしい。
「(噂には聞いていたが、確かに良プレイヤーみたいだな)」
各ジャンルトップテンともなれば、おのずと掲示板等で噂もささやかれる。
王者時代の自分がトップを退いてから、時々ジャンルマスターであった歴地社とスポーツは動向をチェックしていたのだが、確かにこの相手ならトップでもいいかな、などと不遜な考えが頭をよぎる。
「(ああ、湿っぽい…昔の栄光なんか、クソの足しにもなんないってのに…)」
新潟で一悶着あったせいか、近頃は妙に半年前の頃の廃プレーしてた頃を思い出す。
諦めの悪い事だと、我ながら嫌になるが。
「大輔さん、僕らも他の台でプレイします?敦は観戦するみたいですけど」
「分かった。ちょっとトイレ行ってくるから先にしててくれ」
気分を変えようと、大輔はウエストポーチの中に忍ばせたシガレットケースをまさぐりつつ、店の奥へと引っ込んでいった。
【現在地・名古屋市内某所ゲーセン・典生と庵は1回戦:爆破クイズ対戦中】
ひとまず車をコインパーキングへ収め、城下から程近い立地のゲーセンに歩いて向かう。
まだ午前中ということもあって、店内は空いていて冷房の効きもいい。
慣れた足取りでスイスイ泳ぐように進むヒゲ兄・典生の後についていくと、4×2並びの筐体が某モビルスーツゲームの白いコックピット脇に静かに並んでいた。
「愛知は設置店舗が多いからいいよな。下手に田舎へ出張行くと空いた時間にちょっと一押し、っていうのも出来やしねえ」
「結構、いろんな所へ行かれるんですか?」
「ああ。俺は主に近畿・東海方面だな。後、年に二度ほど輸出入の関係で海外に行ったりもする」
「典生おじさん、語学堪能なのよ。独学で英語は完璧にこなせるわ。今中国語も勉強中」
「すげっ!」
「何天才が驚いてんだよ?今時は営業もバイリンこなさにゃ仕事がねえのよ」
当然のスキルだな、と言いながらも典生はまんざらでない様子である。
「で?どうするよ。誰から行く?」
使い込んだ風合いのくたびれた黒皮の長財布からICカードを引き抜いて、典生は手前二番目に着座すると、
どうぞ、と言う代わりに一番端の座席へ掌を差し出した。
*
「んじゃー俺から行くよん」
「おっ、有名人からとは光栄だな。よろしく頼まぁ」
「あーいよ」
庵:CN:アンアン(男・デフォルト)
現在ステータス:十段・ヒーロー
(全ジャンルマックス+20~40pt差範囲内)
「相変わらず、回答台はデフォルトなのか。ケータイ登録してるなら、少しくらいいじればいいのに」
普段から店内対戦で見慣れている大輔の指摘に、庵は「これでいいんだよー」とすかさず反論。
携帯サイトに登録しているはずなのだが、フレームはおろか壁紙、色も変えないままな庵の無造作さが、大輔は気になるようで。
ポイントが足りないわけではない。と、思う。いや、あのプレイぶりで足りないと言う方がおかしい。
大輔の言わんとすることを察して、庵は「失敬だなあ」とむくれてみせる。
「気分によってパイロットや探偵してたりもするよ。男は黙ってデフォルトカラー!」
「気分でいじれるように調整してるのか?細かいことしてんな~」
ほお、と感心した風な典生のアバターも、間を置いて画面に表示される。
「そういうおじさんのは…ああ、ヒゲバットか~」
見慣れているアバターキャラのトップ3には必ず食い込むであろう、スポーツが得意なヒゲ=人呼んでヒゲバット。
一時期増殖しすぎなんじゃないのかと思われるほどによく見られた馴染み顔である。
典生:CN:アドウ(男:ヒゲ)
【チーム:井戸端会議】
「このチームなんなんですか?」
「んー?カミサンの作ったチーム。俺以外、主婦な方ばっかりなんだけどさ。不得意ジャンル補ってくれって頼まれて、助っ人参戦中」
「カミサンって、奥さんも一緒にやってるんですか!?」
「実はな~。だから、公認でゲーセン行って遊べる訳さ!カミサンは娘の送り迎えや買い物の時やってるらしいよ」
「このキャラと対戦しますか?」の表示下で、全身赤ヒゲバットの能力表示を見て、庵が「あっ」と短く声をもらす。
現在ステータス:336万パワー
三桁・銀プレートの上に掲げられた、見慣れないフレームの称号…。
【スポーツジャンルマスター】
「バットマスターなの、おじさん!?」
「バットじゃねーって、スポーツマスター!俺よ俺、いっつもスポーツジャンルの一番上にいるの!ちょっと凄くねえか?なんつってな!」
なっはっは、と愉快そうに笑う典生の横顔に、晶思わず「これが見せたかったんですね」と、ほんのり苦笑い。
「そりゃーそうよ!だって、同じゲームやってる奴にしか価値分かってもらえねえし!ゲーセン仲間かカミサンくらいにしか自慢できなくてさー」
「それは言えてる~。にしてもおじさん凄いなあ」
「いや、逆言えば金突っ込みすぎってことなんだがな…少ない小遣いをゲーセンに貢いでも怒らないカミサンがいてこそよ、マジでマジで」
「そういうとき、正社員のリーマンはいいっすね」
「いやいや、もう俺カミサンの座布団みてえなもんだから!尻の下でぺったんこってなあもんよ。貴重な楽しみの積み重ねで、コツコツ積んだ訳さ」
「よーし俺頑張ってスポーツ投げちゃうぞー」
「全国なら嬉しいんだが、店内で相手がお前さんだと緊張するなあオイ!」
いい歳をしてはしゃぐ大学生とリーマンに、大輔は一瞬「落ち着きねえなあ…」と思ったものの、「しかし」と思い直す。
「(スポーツは激戦区のジャンルなんだよな…俺も昔は苦労した…)」
一回戦目の爆破クイズ、ジャンル選択で表示されたステータスを見ても、スポーツと趣味雑学がマックス以上で突出してはいるものの、
他ジャンルもレベル9に揃えられている。
唯一グルメ生活が8ではあるが、これは男には少々厳しいジャンルであるし…。
考えてステータスを上げている風に見える。単なるスポーツ馬鹿ではないらしい。
「(噂には聞いていたが、確かに良プレイヤーみたいだな)」
各ジャンルトップテンともなれば、おのずと掲示板等で噂もささやかれる。
王者時代の自分がトップを退いてから、時々ジャンルマスターであった歴地社とスポーツは動向をチェックしていたのだが、確かにこの相手ならトップでもいいかな、などと不遜な考えが頭をよぎる。
「(ああ、湿っぽい…昔の栄光なんか、クソの足しにもなんないってのに…)」
新潟で一悶着あったせいか、近頃は妙に半年前の頃の廃プレーしてた頃を思い出す。
諦めの悪い事だと、我ながら嫌になるが。
「大輔さん、僕らも他の台でプレイします?敦は観戦するみたいですけど」
「分かった。ちょっとトイレ行ってくるから先にしててくれ」
気分を変えようと、大輔はウエストポーチの中に忍ばせたシガレットケースをまさぐりつつ、店の奥へと引っ込んでいった。
【現在地・名古屋市内某所ゲーセン・典生と庵は1回戦:爆破クイズ対戦中】
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