一勝負済んで。
*
小一時間の対戦後、6人は典生行きつけの定食屋へと昼食へ。
対戦の結果、典生の2勝2敗一分けとなったため「間を取って、名古屋名物が何でも一通り食べられる穴場へ」連れていってもらったのである。
ワリカンだが、総額÷人数の端数は典生が持ってくれる事となった。これも大人の甲斐性、という奴であろうか。
「食い物が旨いトコへ出張するのはいいよな!」とは典生の弁。
激しく同意しながら、目の前の料理にがっつく大学生四人組。
「本場の天むす初めて食べます~」
旅行経験が少ない敦は、何もかもが感動的なようである。
「何でも本場で直に食うのが一番だぜ少年よ。ほれ、エビフライ一本食べていいぞ~」
「いいんですか?…すみません、有り難うございます!」
典生は自分の頼んだ特盛りエビフライ定食から一本そろそろとエビフライを箸でつまみ上げると、惜しげもなく敦の皿に載せてやる。
さっきまでメニュー表と睨めっこしながら「何食べたら一番得だろう…」とウンウン唸っていたのを見れば、大人としては何となく気遣ってやりたくなるものである。それでなくても、見かけがまだ中高生にしか見えない敦だ。何となく、構ってやりたくなるオーラを出している…と言うと、本人が気にしているようなので面と向かっては言わないが。
「ひつまぶし美味しいです」
「良かったわね庵君、本当に美味しそうに食べるね~」
食べさせがいがあるわぁ、と微笑む麻美に満面の笑みで答える大学生。
「帰りにういろう食べたいですー」
「あの大きな羊羹みたいなのが?夏なのに、重いしかさばるわよ?どっかの無精ヒゲさんじゃあるまいし♪」
「だがそれがいいんです。ヒゲ先輩はそこを把握しておるとですよ!」
「庵、それって単に甘味ならなんでもいいんじゃ…」
「ン?何、晶?甘味…ああそうそう、小倉トーストも今朝食べたです。美味しかったです(*´ω`)」
「(食べてる時だけは周りの音が聞こえてないんだから…)」
顔一杯に幸せオーラを放出させてウナギを頬張る庵の隣で、晶は少々恥ずかしそうに味噌カツ定食を食べている。
「晶君晶君、お新香上げるから味噌カツ一口頂戴」
「口の中に奈良漬けねじ込むよ」
「・・・(くそっ、俺がメロンと食感似てるから敬遠している漬け物をっ!)断念いたします。無念です」
「はいよろし(貴重な体力源を取られてなるものかっ…!)」
牽制しあう二人をよそに大輔はと言えば、大盛り冷やしきしめんセットを黙々とずるずるしていた。
「ところで俺は気付きました晶君」
「はいはい何かな庵君?アゴに米粒」
「おっとミステイク、…いや、大輔さんってさ」
「うん」
「いつもいつでも食事は麺類選ぶよね」
「(そういえば…!)」
小さな気づきに目を細める二人に、目の合った大輔は「?」と何事も無かったかのように、見るからに太く平たい丈夫な釜揚げきしめんをタライから慣れた手つきで掬い上げて、ダシつゆに浸すとつるつると一息に啜り上げた。
*
「食ったかお前等?」
「食べました!」「ゴチでした!」
「ごちそうさまでした!」「きしめん美味かったです!」
「いよっし!じゃあ帰るぞ!」
ほぼ、典生5:他メンバー5の割合での大人なワリカン精算を済ませ、典生に一礼した後来た道を戻って名古屋城へ。
掛け声一番、典生の鶴の一声で名古屋城下のパーキングから、神戸へ向け出発である。
「おじさん、この車土足禁止?」
乗り込む前に、あんまりにも金金した見るからに高級そうな車体に怯む庵達に、「これ、レンタカーだから別にいいぞー」と運転席からサラリと一言。
「ねえおじさん、俺等のため…っていうよりも麻美さんのため?にわざわざレンタカー借りたの?」
「いーやちげーよ。これ、地元の系列店、レンタカーショップへ修理済んだから持って帰るとこなんだわ。で、その前にだな…」
典生は指先でコツコツと、フロント部分に据え置かれた小さな液晶画面を突く。
「カーナビ?」
「そうそう。これが先月若いのに貸した後から調子おかしくってさ、クレーム来まくりだったんだが…今日はこいつのテスト走行も含めて最短距離ナビ、イコール高速使って帰るからなー!」
「うわーっ!ってちょっとおじさん、高速料金…」
乗り込んだ車内で話すのもナンだが、貧乏学生旅行にとって旅費は重要な問題である。が、これも典生思い出したかのような「あー!」の一言で済ます。
「それも大丈夫。経費で落とすから(笑)」
「いいんですか!?」
「いいってことよ。つか、地道で帰ったら七時間以上かかるぞ?」
「うぼあーー…」
「な?いっぺんケチって試した俺が言うんだから、大人しく乗っておきな。もう会社にはそう言ってあるし、お前さん達にはバイト手伝って貰う予定だし。交通費で落としとくからへいちゃらよ」
「そういえば、庵から聞きましたけど、何か急ぎでバイトの手伝いが要るって」
新潟から名古屋へ南下する合間で、庵から麻美の伝言が全員に回っていたのである。
晶がそれとなく訊ねると、そうなんだよなあー、と典生はハンドル片手に頭を掻く。
「地元のサッカーサークルの大学生連中に頼んでたんだが、直前に合宿先で集団食中毒になっちまったらしくってな。当日入院中で動けそうにないと来たもんで、いきなり言われても目星がつくような奴は弟以外いねえし、バイト募集も日時ギリギリな上にこの炎天下じゃなかなか集まらなくってさ」
「それで僕たちに」
「そういうこと。いや実際、来てくれて助かったわ。で、早速なんだが」
「??…何でしょう?」
語るよりも早く、典生は助手席の下部ケースからナイロンケースに入った紙束と黒いプラの回覧板を取り出し後部座席の庵に手渡す。
「まず、一仕事頼まあよ。『長距離ドライブと乗り心地に関するアンケート』。このセダン、一番人気の型なんだが、更なる快適さを求めて絶賛研究中でだな」
「へえ」
生返事をしいしいナイロンケースから一枚アンケート用紙を取り出し、庵は思わず顔をしかめた。
「項目多!」
上から下までA4サイズ両面にスミ一色でみっしりと埋め尽くされた○×設問・乗用車に関する嗜好調査項目(複数回答可)に、庵の肩越しに覗き込んだ他のメンバーも「うわあ」と目を剥く。
「それ、適当でもいいから全部埋めといれくれるかー?それ取って経費落とすから。ああでも、最後のご意見ご要望は四百字以上書いておくように!四十字じゃないぞ、四百だからな!『よかったです』『たのしかったです』のみは不可。大学行ってんだからさ、制作部をうならせるウィットに富んだご意見を捻りだしてくれっと、おじさんとっても嬉しいぞー」
「えーっとこれいつまでに」
「神戸着くまでに」
「えええーーーーー!!ちょ、項目はともかく四百字は結構きついっすよ!」
「言うなって!思った事でいいから書いとけって!ほれ、鉛筆。ケシカス落とすなよ!三時間は車移動するんだから今から頭捻ってほぐしておきな」
バイト代は奮発するからさ、と申し訳なさそうにそれとなく後部座席に目配せする典生の愛嬌に、どこか憎めなさを感じる四人であった。
「そんじゃ出発するぞ~!」
「はーい!」
【出発地:名古屋(愛知県)→目的地:神戸(兵庫県) 予定走行時間:三時間半】
小一時間の対戦後、6人は典生行きつけの定食屋へと昼食へ。
対戦の結果、典生の2勝2敗一分けとなったため「間を取って、名古屋名物が何でも一通り食べられる穴場へ」連れていってもらったのである。
ワリカンだが、総額÷人数の端数は典生が持ってくれる事となった。これも大人の甲斐性、という奴であろうか。
「食い物が旨いトコへ出張するのはいいよな!」とは典生の弁。
激しく同意しながら、目の前の料理にがっつく大学生四人組。
「本場の天むす初めて食べます~」
旅行経験が少ない敦は、何もかもが感動的なようである。
「何でも本場で直に食うのが一番だぜ少年よ。ほれ、エビフライ一本食べていいぞ~」
「いいんですか?…すみません、有り難うございます!」
典生は自分の頼んだ特盛りエビフライ定食から一本そろそろとエビフライを箸でつまみ上げると、惜しげもなく敦の皿に載せてやる。
さっきまでメニュー表と睨めっこしながら「何食べたら一番得だろう…」とウンウン唸っていたのを見れば、大人としては何となく気遣ってやりたくなるものである。それでなくても、見かけがまだ中高生にしか見えない敦だ。何となく、構ってやりたくなるオーラを出している…と言うと、本人が気にしているようなので面と向かっては言わないが。
「ひつまぶし美味しいです」
「良かったわね庵君、本当に美味しそうに食べるね~」
食べさせがいがあるわぁ、と微笑む麻美に満面の笑みで答える大学生。
「帰りにういろう食べたいですー」
「あの大きな羊羹みたいなのが?夏なのに、重いしかさばるわよ?どっかの無精ヒゲさんじゃあるまいし♪」
「だがそれがいいんです。ヒゲ先輩はそこを把握しておるとですよ!」
「庵、それって単に甘味ならなんでもいいんじゃ…」
「ン?何、晶?甘味…ああそうそう、小倉トーストも今朝食べたです。美味しかったです(*´ω`)」
「(食べてる時だけは周りの音が聞こえてないんだから…)」
顔一杯に幸せオーラを放出させてウナギを頬張る庵の隣で、晶は少々恥ずかしそうに味噌カツ定食を食べている。
「晶君晶君、お新香上げるから味噌カツ一口頂戴」
「口の中に奈良漬けねじ込むよ」
「・・・(くそっ、俺がメロンと食感似てるから敬遠している漬け物をっ!)断念いたします。無念です」
「はいよろし(貴重な体力源を取られてなるものかっ…!)」
牽制しあう二人をよそに大輔はと言えば、大盛り冷やしきしめんセットを黙々とずるずるしていた。
「ところで俺は気付きました晶君」
「はいはい何かな庵君?アゴに米粒」
「おっとミステイク、…いや、大輔さんってさ」
「うん」
「いつもいつでも食事は麺類選ぶよね」
「(そういえば…!)」
小さな気づきに目を細める二人に、目の合った大輔は「?」と何事も無かったかのように、見るからに太く平たい丈夫な釜揚げきしめんをタライから慣れた手つきで掬い上げて、ダシつゆに浸すとつるつると一息に啜り上げた。
*
「食ったかお前等?」
「食べました!」「ゴチでした!」
「ごちそうさまでした!」「きしめん美味かったです!」
「いよっし!じゃあ帰るぞ!」
ほぼ、典生5:他メンバー5の割合での大人なワリカン精算を済ませ、典生に一礼した後来た道を戻って名古屋城へ。
掛け声一番、典生の鶴の一声で名古屋城下のパーキングから、神戸へ向け出発である。
「おじさん、この車土足禁止?」
乗り込む前に、あんまりにも金金した見るからに高級そうな車体に怯む庵達に、「これ、レンタカーだから別にいいぞー」と運転席からサラリと一言。
「ねえおじさん、俺等のため…っていうよりも麻美さんのため?にわざわざレンタカー借りたの?」
「いーやちげーよ。これ、地元の系列店、レンタカーショップへ修理済んだから持って帰るとこなんだわ。で、その前にだな…」
典生は指先でコツコツと、フロント部分に据え置かれた小さな液晶画面を突く。
「カーナビ?」
「そうそう。これが先月若いのに貸した後から調子おかしくってさ、クレーム来まくりだったんだが…今日はこいつのテスト走行も含めて最短距離ナビ、イコール高速使って帰るからなー!」
「うわーっ!ってちょっとおじさん、高速料金…」
乗り込んだ車内で話すのもナンだが、貧乏学生旅行にとって旅費は重要な問題である。が、これも典生思い出したかのような「あー!」の一言で済ます。
「それも大丈夫。経費で落とすから(笑)」
「いいんですか!?」
「いいってことよ。つか、地道で帰ったら七時間以上かかるぞ?」
「うぼあーー…」
「な?いっぺんケチって試した俺が言うんだから、大人しく乗っておきな。もう会社にはそう言ってあるし、お前さん達にはバイト手伝って貰う予定だし。交通費で落としとくからへいちゃらよ」
「そういえば、庵から聞きましたけど、何か急ぎでバイトの手伝いが要るって」
新潟から名古屋へ南下する合間で、庵から麻美の伝言が全員に回っていたのである。
晶がそれとなく訊ねると、そうなんだよなあー、と典生はハンドル片手に頭を掻く。
「地元のサッカーサークルの大学生連中に頼んでたんだが、直前に合宿先で集団食中毒になっちまったらしくってな。当日入院中で動けそうにないと来たもんで、いきなり言われても目星がつくような奴は弟以外いねえし、バイト募集も日時ギリギリな上にこの炎天下じゃなかなか集まらなくってさ」
「それで僕たちに」
「そういうこと。いや実際、来てくれて助かったわ。で、早速なんだが」
「??…何でしょう?」
語るよりも早く、典生は助手席の下部ケースからナイロンケースに入った紙束と黒いプラの回覧板を取り出し後部座席の庵に手渡す。
「まず、一仕事頼まあよ。『長距離ドライブと乗り心地に関するアンケート』。このセダン、一番人気の型なんだが、更なる快適さを求めて絶賛研究中でだな」
「へえ」
生返事をしいしいナイロンケースから一枚アンケート用紙を取り出し、庵は思わず顔をしかめた。
「項目多!」
上から下までA4サイズ両面にスミ一色でみっしりと埋め尽くされた○×設問・乗用車に関する嗜好調査項目(複数回答可)に、庵の肩越しに覗き込んだ他のメンバーも「うわあ」と目を剥く。
「それ、適当でもいいから全部埋めといれくれるかー?それ取って経費落とすから。ああでも、最後のご意見ご要望は四百字以上書いておくように!四十字じゃないぞ、四百だからな!『よかったです』『たのしかったです』のみは不可。大学行ってんだからさ、制作部をうならせるウィットに富んだご意見を捻りだしてくれっと、おじさんとっても嬉しいぞー」
「えーっとこれいつまでに」
「神戸着くまでに」
「えええーーーーー!!ちょ、項目はともかく四百字は結構きついっすよ!」
「言うなって!思った事でいいから書いとけって!ほれ、鉛筆。ケシカス落とすなよ!三時間は車移動するんだから今から頭捻ってほぐしておきな」
バイト代は奮発するからさ、と申し訳なさそうにそれとなく後部座席に目配せする典生の愛嬌に、どこか憎めなさを感じる四人であった。
「そんじゃ出発するぞ~!」
「はーい!」
【出発地:名古屋(愛知県)→目的地:神戸(兵庫県) 予定走行時間:三時間半】
トラックバックURL↓
http://3373plugin.blog45.fc2.com/tb.php/402-632de1f2
| ホーム |