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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

彼女のプロファイル。
*
名古屋市内が窓の外を流れていく。昼過ぎの真夏日。人や建物の影が色濃い。
車窓に流れる街並みが冷房の効いた車内から見ても暑苦しさを増してくる。
日差しが目に眩しいくらいだが、沿道を歩くまばらな人影のけだるさとは無縁な快適な車内に全員ご満悦である。

カーナビのアナウンスが聞こえる。
車はゆっくりと大通りを左折し、バイパス沿いを駆けていく。

「高級車は、やっぱ乗り心地いいんだな~」
一般小市民代表の庵がそう呟くと、そらそうよ、と運転席からゴキゲンな返事が返ってくる。

「でも、普段は全く持って土足禁止な限定高級仕様車なんだなこいつが。ハイブリッドな上に七人乗り、しかも塗装には実際に金粉とプラチナ仕込んでる無駄に高級な一台!全国限定100台の記念エディションよ。一台二千五百万だけど、買うか?今ならこれと同じカーナビつけてやんよ」
「全く持ってお金が足りませんおじさん!」
「今なら身内サービスで十年ローン組んでやるぞ!」
「ひでえ!」
「冗談だって。パンフは助手席のシートバックに積んであるだろ?眺めるだけならタダだから、社会人になったらごひいき頼むぜ!」
そうこうしている間に、車はカーナビ案内でずんずん西へ、西へ。

「典生おじさんの奥さんって、麻美さんのお姉さんなんですよね」
敦に問われて、典生は機嫌良くハンドルを回しながら「そーだぞー」と嬉しそうに答える。
「一体どういう馴れ初めなんですか?」
「ええ?聞きたい?チョー長くなるけどいいの?」
「ゲップが出ちゃうくらい、のろけ満載よ敦君。覚悟完了してるのかしら?」
「ええっ!?」
「でも正直出会いが想像つかないんですけど」
麻美の意地悪い聞き返しで言葉に窮した敦に、それとなく大輔が割って入る。
「だって麻美さん、大企業の令嬢なんでしょう?」
「ああそこ?とは言っても、ウチは学校出たらすぐに事業と関係ない会社で実社会の経験積まされるから。私もその予定」
「俺の会社に、派遣社員として来たのがカミサンでさ!もう一目で俺は惚れちまった訳よ!でだな~」
「えー!?派遣社員って、麻美さんもお姉さんもご令嬢…」
「おっと天才、それはここからの話だぜ!俺もそうと知った時はたまげたもんさ…」
「さー長いわよーここから~」
「うっへえ…」

*
それから数十分。車は相変わらず街を流して走る。
高速道路へのインターチェンジ乗り入れはまだ先のようだ。

「それじゃあ、高校卒業してすぐに、麻美さんのお姉さんは社会人になって、典生さんの会社へ事務員として派遣された、と」
「まあ、そういうこったな。でもって、俺と一目でフォーリンラブな訳さ。相思相愛ってのはあるもんだなあと、俺はしみじみ思った訳さ」
先程から、カーナビ任せのハンドル操作で典生はデレデレと機嫌良く舌滑らかにマシンガントーク全開である。しかも頬は緩みっぱなしで「しかもまた娘が可愛いんだぜ~」と今度は娘バカに話がシフト進化している。既に麻美以外の搭乗員はノロケ話にお腹満杯でげんなり気味だが気付いているのかいないのか。
「お姉さんは、派遣の仕事で神戸へ?」
「ああ、それは元々。私が中学一年の頃、父が神戸支社長に任命されたから便乗して典子姉さんと一緒に兵庫県へ移り住んだの。父は仕事が出来る人だったけど、生活能力ゼロだったから。心配だーって無理矢理ついていっちゃった訳」
へえ、と後部座席の男性陣から驚きのどよめきが上がる。
「中学で新天地へ転校って、度胸あるなあ麻美さん」
「そう?庵君って割と保守的なのね。私も姉さんも道内から出てみたいっていう思いが強かったから、そういう不安はなかったのよ。逆に神戸って、オシャレな異国情緒の街、っていうイメージあったからとっても楽しみだったわ。しばらくは北海道の海産物が恋しかったけど、それ以外は楽しかったわね」
「どうりでしっかりしてる訳だ…」
「えーっとじゃあ、もしかして麻美さんのお父さんと同居中なんですか?典生さんご夫婦は」

敦の素朴な疑問に、麻美は「ああ」とさらっと答える。

「父はもう亡くなったわ。当時もマンション借りてたけど、姉が就職して会社の近所へ引っ越した時に私も高校の寮へ入って引き払ったから、今は典生さんが借りてるマンションに居候中、かな」

車内に微妙な沈黙が走るも、「そうなると思ったのよねぇ」と麻美は苦笑混じりに冷や汗を隠さない。

「…でも、家に着いたらいないのは分かるし、それなら今言っておいた方がいいとは思ってたんだけど言い出せなくって。ごめんね」
「あ、いえ、僕こそすみません」
「いえいえ、気を遣わせてごめんね。父は数年前にポックリ死んじゃって。年でもなかったんだけど、色々大変だったみたい。その後に北海道へ帰る選択肢もあったんだけど、結局そのままこっちで暮らしてたの。友達も大勢出来てたし、何だか名残惜しくて」
「そうだったんですか…」
言葉に詰まる敦に、麻美は逆に「敦君、兵庫は初めて?」と穏やかに問いかける。

「は、はい。行った事ないです」
「なら、来たら分かると思うよ。北海道でも毎日函館の海を見て過ごしてたけど、私は神戸の響灘も大好きよ。見たらきっと、分かってもらえるわ」
私がここにいる理由がね、と麻美は小さく微笑んだ。

【7月25日午後・現在順調に南下中・そろそろ高速へ】












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