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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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「小さい頃から鍵っ子だったから、気がついたらアニメと漫画の虜になってたんだよね。それで後はズルズルっと。ウチの大学では、私が「漫アニゲー問題集」作って教えてるくらいだし。実家の事もあったから表向きは普通の女子高生してたけど、裏ではせっせと投稿作品描いて送ってたよ。かつては姉さんと一緒に『大阪イン●ックス四天王』の一つとして関西圏じゃあ有名なサークルで同人誌も作ってたりしました」
「ど、同人してたんだ…」
「ついでに言うと、やまなしおちなしいみなしも少々たしなむ程度には」
「オーウ」
「意味が分かってる時点で、庵くん結構知ってるクチ?」
「いんやあのその…俺、正直、漫画アニメゲームが一番苦手なんだよね…なんで、オタク専門の雑誌とか丸暗記して覚えてたから、それで何となく脳内検索するくらいは出来るんで」
「あ、それなら納得。庵君、ゆるキャラのくせして他のアン大メンバーに比べてお堅い印象があったんだよね。ノリの軽さを、自分で演出してるみたいな。何だか晶君や大輔君の方がまだ遊び慣れてる感じだなって」

言われて否定するでもなく、今度は庵の顔に苦笑が浮かんだ。
「良く見てらっしゃるなぁ」
「まあね。人を見る目はあると思ってるんだ。だから、君や夏彦さん見てると羨ましいなって、時々思う」
「俺やヒゲ先輩が?」
「そうだよ」

もたれかかっていたフェンスから身体を起こすと、麻美は網に指をかけ、街並の遙か向こうに視線を投げかける。
灰色のビルの色調の向こうには、陽炎がゆらめく神戸港が見えた。

「同人してた頃、典子姉さんにスカウトの話が来たんだ。
わざわざ関東から有名な出版社の方がオファーに来て、是非ウチからメジャーデビューしないかって。まずは短編でこの雑誌に読み切り48ページでどうでしょうって。名前聞いたら絶対驚くような月刊誌の季刊本」
「すごっ!相手から来たの!」
「そうそう。姉さん小躍りして喜んだけど、ママが許さなかったんだよね。まずは実社会で経験積んでからにしなさいって。多分過酷な業種だから、心配だったんだと思うけど…それでも母さん納得させようと、姉さん派遣社員しながらその雑誌で読み切り漫画描いてたけど、典生さんと出会っちゃって」
「…やめたの?」
「そう、見事な潔さで。
主婦と漫画両立出来るほど器用じゃないから、って。
でもそれ聞いて、最初私すっごい姉さんに怒ったのよ。あれだけの才能を主婦に収めるなんて犯罪だって。そしたら姉さんにグサッと言われた」
「何て?」
「それなら麻美がやりなさい、って。私はあなたの代わりにはなれなかったから、自分自身でやりなさいなって。
…姉さん分かってたんだと思うわ。私が早々に自分に見切りつけたの。同人で漫画描いてた頃から、私ずっと思ってた。姉が凄すぎたから、逆に自分の大したことのなさが分かっちゃって。同人誌ってバカにするかもしれないけど、コミケに来てくださるお客様って正直なんだよ。個人誌出したら一目瞭然な売れ行きだったもの。たとえ絵柄が似てて、話が良く出来てても『魅せる』ものじゃないと絶対に売れなかった。だから私の評価は、いつも『典子姉さんのアシスタント』レベル止まりだったわ」
「厳しいな…」
「だから、私は中庸な部分で生きてくことにしたの。平均より上で、なおかつ生きていくには困らないレベル。それで、好きな誰かの手助けが出来るような人間になろうって。語学と国際感覚を身につけておけば、将来実家が海外進出するとき役に立てるかなと思って、今の大学に進学決めて。それで好きなサークル入って、ゆるゆる暮らそうと思ったとこに、晴天の霹靂みたいな出会いが来て」

「それがヒゲ先輩なんだ」
今まで動じない口ぶりだった麻美が、さりげないほどに僅かながら頬を染めて俯く。

「…最初は、姉さんの結婚にまだ納得いってなかったから、相手の身内チェックしておかないとーっていう程度だった。だけど、典生さんには呼べる親戚なんか弟くらいしかいないって聞いて、それならどんな相手かなー、と思ってたら、もう何て言うかビンゴな人が」
「ビンゴだったんだ」
「うん、それはもうビックリするほどジャストミートだった。私、体育会系みたいに暑苦しいのは苦手だけど、筋肉質で理系で、なおかつヒゲが似合う男の人ってツボなんだよね。最初見た瞬間に『やばい!』と思ったもの」
「ビビビッと」
「ホントあるんだね、あんな恋の仕方って」
くすくすと、童女のように麻美は笑う。その横顔の屈託なさが、逆に彼女の心中の複雑さで縁取られているように見えて、庵はどこか切なさを感じていた。

「それから、話せば話すほど、顔に似合わないくらい可愛げばっかりが見えてきて余計好きになった。甘党で、無精で、不器用で、でも誰より真面目で。だから彼を支えてたいんだ、今は。彼が将来有名になったら、一緒に出かけて通訳くらいしてあげられたらなって。今はそれが夢。彼が夢を叶える傍らにいる事が、私の夢。でもこれも彼に寄りかかってるだけなのかなって思ったら、迷惑なのかもなって思ったりして、ちょっと複雑」
「そんな事ないよ。それはない」
庵の即答に驚いたのか、一瞬麻美はきょとんと目を見開いた後、泣きそうな顔で「ありがとう」と小さく呟いた。
「今でも、本当はあんまり自分に自信ないんだ。それでも、こんな私でも何か出来るかな。してあげられてるのかしら」
「ヒゲ先輩、面と向かっては絶対言わないけど絶対頼ってますよ。だから安心してビスコばっかり食べてられるんだと思うな俺」
「私に栄養管理を任せっきりにしてるってこと?なら、帰ったら張り切って野菜たっぷりの健康ご飯作ってあげないと!」
ベストを手に持ったまま、麻美は天に向かってうん、と伸びをする。

「ああ、何だか話したらスッキリしちゃった。君、聞き上手だね。安心して話せるし」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
「満点な受け答えだね!…ああもう、彼みたいに鈍感な人じゃなくって君みたいな気配り名人好きになったら楽だったのに!乗り換えちゃおうかな」
「ちょっっっっ!!それ、俺困るわ、先輩にヒゲ剃り跡で攻撃されるどころじゃ済まないっすよ!!」
「冗談よ。ののちゃんに五寸釘されるようなマネすると思った?私はいつも後輩の幸せを祈ってるんだから♪」
「あーもう焦った…」
心底心臓を飛び上がらせて冷や汗かきかき胸を撫で下ろす庵に、麻美は普段と変わらぬ「頼れるお姉さん」の横顔に戻っていた。

「ちゃんと、電話してあげるんだよ。昨日、君のこと知らないかって電話かかってきてた」
「ののちゃんからですか!?で、麻美さんなんて」
「とぼけておいた♪」
「ちょっ!!」
「だから、きちんと電話しておいてねって言ったでしょ?男の甲斐性、大事な人にはきちんと伝えてあげないとね」
「はあーい…ううん、緊張するなあ」
「それじゃあ、ここから叫んでみるとか。ののちゃん、大好きじゃあーって。あっちの方へでも」
「いや、絶叫告白は勘弁でっす( ; ´ω`)」
麻美の視線の先にあるのは、市街地の先に見える、港の白波と海の青。
瀬戸海を跨いだ向こうに、彼女は確かにいるのだ。そう思うと、庵は胸の奥が熱くなるのを感じた。

「海はいいね。いつでもどこでも、見てるだけで受け入れてもらえてるような気がしてくるから」
「そうですね。俺も、海好きです」
「気が合うね」「そうですねー」

遠くから、自分たちを呼ぶ声が聞こえた。
きっと、おしどり夫婦が血相変えて探してくれていたのだろう。
庵と麻美は顔を見合わせて、クスリと目配せ一つで笑い合うと、夏空を映す水平線に別れを告げ、声のする方へと歩き出した。

【7月27日昼・今日も神戸は快晴・きっと香川も快晴】












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